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カレンダーに、彼女はいない ―1,580円の「恋愛攻略法」を、特典ごと読んだ

1,580円を払った。

今回購入したのは、わかなまるさんの有料記事「女性の性欲はいつ高まる? 生理周期から読み解く恋愛攻略法」である。

本文は一万字を超え、生理周期ごとの接し方から、前戯、避妊、行為後の過ごし方、LINE、デートの終わらせ方まで扱っている。

さらに、購入者限定の喘ぎ声音声が三種類付く。販売数に応じて価格は680円から1,580円、2,480円、2,980円、最終的には3,980円へ上がる予定で、購入者数、高評価率、有名クリエイターからの感想も販売文へ組み込まれている。

知識、実体験、恋愛指南、性教育、限定特典、社会的証明。かなりの欲張りセットである。

これまでに批評した有料記事のように、「有料部分が薄い」で終わる商品ではない。文章量はあり、具体例も多く、実際に役立つ指摘も含まれている。

だから今回は、内容の正しさだけを見ても足りない。

一人の体験が、どこで女性一般の説明へ変わったのか。真面目な本文と性的な特典が、どのように一つの商品を作っているのか。そして、販売数が増えるたび、実際には何の価値が上がったのか。

記事の主張と、商品の構造を分けて読む。

この記事は、何を約束していたか

無料部分では、男性が性生活に自信を失う原因を、テクニックや身体的特徴ではなく、女性の生理周期を知らずに「ずれた日」に接していることだと説明する。

記事を読んで実践すれば、性生活は確実に充実し、パートナーからさらに求められ、男性としての魅力が上がり、関係も長続きする。

反対に、読まないままでいれば、パートナーは何も言わないまま距離を取り、男性はその理由を知らずに関係を失う。

かなり強い約束である。

これは、「私は排卵期に性欲が高まり、生理中は触れられたくなかった」という個人的な体験談だけではない。女性の身体に関する一般的な説明を使い、男性読者の性生活と人間関係を改善すると掲げた実用商品である。

そのため、評価されるのは文章の勢いや率直さだけではない。説明はどこまで正確なのか。個人の経験は、どのような条件で一般化されているのか。提示された方法を実践することが、本当に相手を理解することにつながるのか。

販売文で大きな効用を約束した以上、そこまでが商品の審査範囲になる。

良いことは、かなり書いてある

先に書いておくと、この記事には大切な指摘がいくつもある。

相手の反応が薄いのに、自分のペースで進めない。体調が悪そうなら押さない。挿入や刺激の強さを言葉で確認する。避妊を女性だけの問題にしない。コンドームのトラブルがあれば、緊急避妊や費用について一緒に考える。行為が終わった瞬間に相手を放置せず、その後の時間まで丁寧に扱う。

性生活を自分の成果発表にせず、相手との共同作業として扱おうとしている。

特に避妊について、男性側も準備と事故後の対応を引き受けるべきだと書いた部分には意味がある。避妊法には失敗の可能性があり、緊急避妊は避妊をしなかった場合や方法が失敗した場合に妊娠の可能性を下げるための選択肢になる。

ただし、

避妊は「義務」ではなく「思いやり」

という表現には違和感が残る。

思いやりであることは間違いない。しかし、妊娠や感染のリスクを伴う行為を二人で選ぶなら、避妊は優しい男性だけが行う加点行動ではなく、共同で引き受ける責任でもある。

それでも、避妊、不調、同意、行為後の感情まで、男性が想像すべき範囲を広げたこと自体は評価できる。

この記事の価値は、生理周期の知識そのものよりも、セックスの最中にも相手は一人の人間として存在している、と繰り返した点にある。

ところが、その一番まともな主張を、記事自身の中心的な仕組みが壊している。

相手を見ろ、と言いながら、周期を見せた

記事は、生理周期を四つの時期に分ける。

生理中は「攻めない」。生理後は「じわじわ火をつける」。排卵期は「ここが本番」で、遠慮せず攻める。生理前は不安定になりやすいため、話を聞き、寄り添い、急がない。

簡潔で分かりやすい。男性読者は、相手が周期のどこにいるかを確認すれば、自分が何をすべきか判断できる。

ただ、分かりやすさと正確さは一致しない。

月経周期と性欲の関係を調べた研究には、排卵期付近で性欲が高まる傾向を示すものがある。一方で、結果は一様ではなく、周期全体で明確な変化を確認できなかった研究や、女性ごとの差が大きいとする報告もある。

平均的な傾向があったとしても、それは目の前の相手の意思表示にはならない。

生理中でも性的な接触を望む人はいるし、排卵期でも触れられたくない人はいる。仕事、睡眠、体調、関係性、不安、その日の出来事によっても状態は変わる。

排卵日や妊娠しやすい期間にも、個人差だけでなく同じ人の周期間で変動があり、規則的な周期であってもカレンダーだけで正確に予測できるとは限らない。

それにもかかわらず、記事は排卵期を「ここが本番」と呼び、「遠慮したら損」「ちゃんと攻めろ」と男性読者の背中を押す。

ここは単なる表現の強さでは済まない。

「排卵期には性欲が高まる女性がいる」という傾向の説明が、「今は積極的に進めてもよい」という行動許可へ変換されているからである。

記事は同じ箇所で、相手の反応を見ながら進め、挿入や刺激の強さを確認するようにも書いている。さらに後段では、避妊の必要性を詳しく説明する。

しかし、「ここが本番」「遠慮したら損」という言葉と、「必ず相手へ確認する」という注意は、読者を動かす方向が違う。

一方はアクセルであり、もう一方はブレーキである。

アクセルを強く踏ませたあとで、ブレーキも付いていますと説明している。

排卵期に性欲が高まる女性がいる。そこから、目の前の相手も今夜は積極的に求めている、までは届かない。

その間に必要なのは、周期表ではなく、本人の言葉である。

そして興味深いことに、本文自身も何度もそれを書いている。

相手の反応を見る。迷えば聞く。「挿れていいか」「刺激はこのままでいいか」を確認する。無理に進めない。

それでいいのである。

本人を見て、分からなければ本人に聞く。そこまでできるなら、「排卵期だから攻める」「生理前だから距離を取る」という攻略表は必要ない。

この記事の一番正しい部分は、周期別マニュアルを必要としていない。

相手を見ろと教える記事が、相手を見る前にカレンダーを渡してしまった。

「私の身体」は、いつ「女性の身体」になったのか

この記事を読み進めると、主語が少しずつ大きくなっていく。

始まりは、わかなまるさん自身の経験である。

自分は排卵期になると強い性欲を感じる。生理中は求められるとつらい。自分が関係を持った男性の多くは、相手の状態より自分のペースを優先していた。夫と結婚した理由の一つは、自分の周期を理解してくれたことだった。

一人の女性の体験談として読めば、これは価値がある。

医学的な解説よりも、本人が何をつらいと感じ、何をうれしいと感じたかのほうが、生々しく伝わる。性についてパートナーと話すきっかけにもなり得る。

しかし途中から、

私はこう感じた

が、

女性はこう感じる

へ変わり、最後には、

だから男性はこう動くべきだ

という実践マニュアルになる。

「排卵期は女性の心理的な壁が低くなる」「男性は基本的にいつも一定だが、女性は別人レベルに変わる」「女性は男性より空気を察知する能力が高い」「行為後の女性はつながっていたい」といった説明が、女性一般の特徴として置かれている。

ここには変換条件がない。

わかなまるさんが排卵期に挿入を強く望んだことは、わかなまるさんの身体についての重要な事実である。

しかし、それだけでは「排卵期の女性には、いつもより激しく攻めるとよい」という一般則にはならない。

記事は、男性が作った一方的な女性攻略法を批判している。その批判は分かる。女性の体調も感情も無視して、刺激の技術だけで相手を満足させられると考える記事は、確かに自分本位である。

ただ、その代わりに一人の女性の経験を「女性のリアル」として渡せば、向きが反対になっただけで、構造はそれほど変わらない。

男性が勝手に作った女性像ではなく、女性が提示した女性像を使う。

女性を一括りにするな。私が提示する一括りを使え。

そうなってしまう。

この記事が本当に男性へ伝えるべきなのは、女性は四つの状態へ分かれるという知識ではない。

目の前の相手は、記事に書かれた「女性」と同じではないという事実である。

真面目な記事に、なぜ喘ぎ声が付くのか

ここまでが本文の内容に対する評価である。

ただ、この商品を本文だけで読むことはできない。購入者限定特典として、わかなまるさん本人の喘ぎ声音声が三種類付いているからである。

記事は冒頭で、「いわゆるアダルト記事ではない」と断る。そのうえで、真面目な内容とともに、身体を張った性的な特典も楽しんでほしいと案内する。

一見すると、性教育に近い本文と、喘ぎ声音声は別々の商品に見える。

しかし、販売構造としてはよく接続されている。

顔も知らず、交流もなく、どういう人物かも分からない女性の声だけを突然渡されても、多くの人は「誰の声なのか」と思うだろう。性的な音声そのものなら、無料・有料を問わず、好みの声や作品を選べる。

この特典に固有の価値が生まれるのは、音声の前に人物がいるからである。

性について率直に語る三十八歳の主婦。自分の経験を隠さず書く人。恋愛や避妊についても真面目に考察する人。コメントを返し、購入者とDMで話していた「わかなさん」。

note上で文章と交流を積み重ねたあとに、その人の私的な音声へアクセスできる。関係のない女性の声が、「あの人の声」へ変わる。

喘ぎ声が特典なのではない。喘ぎ声に固有名が付いていることが、特典なのである。

本文の真面目さは、性的な商品を買うことへの心理的な抵抗を下げる。音声特典は、一般的な恋愛指南にはない希少性と、作者本人へ近づく感覚を本文へ加える。

真面目さとエロは、ここでは矛盾していない。

互いを買いやすくしている。

売れるたびに、何の価値が上がったのか

販売設計は強い。

数量を限定し、完売するたびに値上げする。「残り一部」「今の価格が常に最安値」と急がせ、購入者の高評価や有名クリエイターの感想を並べる。読まなければ関係を失うかもしれないという不安を置き、購入した読者には「大多数の男性とは違う」という位置を与える。

希少性、損失回避、社会的証明、恐怖、選民感、性的好奇心。使えるものは、かなり使っている。

値札を付けて売る以上、工夫すること自体は悪くない。

ただ、「より多くの人に届き、価値が上がった」という説明には、二つの話が混ざっている。

売れたことで確認されたのは需要である。本文の情報量や科学的な精度が増したわけではない。

購入者の高評価が次の売上を呼び、売上が値上げを支え、値上げが商品の価値をさらに高く見せる。

よくできた循環である。

1,580円で、何を買ったのか

この記事には、相手を見るための良い言葉がいくつもあった。

分からなければ聞く。無理に進めない。避妊を一人へ背負わせない。行為のあとまで相手を雑に扱わない。

その点には価値がある。

一方で、個人差の扱いは薄く、一人の経験が女性一般へ広がりすぎている。周期による傾向を、目の前の女性の取扱説明書へ変換した箇所も多い。

「実践すれば性生活が確実に充実する」という約束を支えるには、根拠が足りない。

本文だけで1,580円の価値があるかと聞かれれば、私は高いと感じる。

ただし、これは本文だけの商品ではない。

わかなまるさんの体験、文章、note上で築かれた関係、本人の私的な音声までが一つに束ねられている。その人物へ少し近づく感覚を求める読者には、この価格が成立するのだろう。

私が買ったつもりだったのは、女性の性欲を読み解くための地図だった。

実際に売られていたのが、一人の女性の身体と経験、その人へ近づく感覚だったなら、商品の種類を読み違えた部分は私にもある。

それでも、「恋愛攻略法」として渡されたカレンダーの中に、目の前の相手は載っていない。

カレンダーに、彼女はいない。

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セイ この構造整理やレイヤー観測が刺さったら、チップで投げてもらえるとうれしいです。