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人は、正しさだけでは動かない

まず、
私の考えの土台としてあるのは、

「人は仕事そのものに、
そこまで強い熱量を持っているわけではない」

ということだ。

だが、
昔の私はそう考えていなかった。

私は、

仕事ができる人になりたい。

誰よりも早く出世したい。

認められたい。

そういう感情を、
「やる気がある状態」だと思っていた。

逆に、

責任を負いたくない。

昇進したくない。

休みが多い方がいい。

プライベートを優先したい。

そういう考え方を、
「やる気がない」
「成長する気がない」
と捉えていた。

私は、
この価値観を基準に、
人を見ていた。

やる気がない人は嫌いだった。

見下していたと思う。

平社員の頃は、
それでも大きな問題にはならなかった。

強制する立場でも、
指導する立場でもなかったからだ。

上司になってからは、
私は部下へ
「やる気がある状態」
を求め続けた。

当時の私は、
自分の思想こそが正しく、
それが部下のためでもあると思っていた。

「業績を上げるため」
を大義名分に、
今で言う“悪い意味でのマイクロマネジメント”
もしていた。

ただ、
当時は気付いていなかったが、
そこには

「自分の仕事を全うするために、
部下を思い通りに動かしたい」


という感情も強くあったと思う。

業績を上げることは、
自分が認められることにも繋がるからだ。

だから、
意に沿わない行動には腹が立った。

仕事が終わっていないのに、
なぜ定時で帰ろうとするのか。

自分から残務を引き受けようとしない。

だから指示するが、
そうすると嫌な顔をする。

やらせても、
時間がかかったり、
結局間違えたりする。

それなら、
自分でやった方が早い。

そうやって、
残った仕事を抱え込みながら、

「なぜ毎日同じことを言われているのに、
覚えようとしないのか」

と苛立っていた。

もちろん、
会社から求められる職務を遂行するための
「言う通りに」
ではある。

それでも、
かなり横暴だったと思う。

当時の私は、

「自分が一番まともだから上司なんだ」
「部下が自分以下なのは当たり前だ」

とも思うようになっていた。

今振り返ると、
私は「部下のため」と言いながら、
本当の意味で部下の成長を願ってはいなかった。

自分が成果を出すために、
自分の思い通りに動いてほしかったのだと思う。

そんな中で、
私は少しずつ、
自分の変化に気付き始めた。

長年、
様々な部下や若手と接する中で、
私が思う
「やる気がない人」
の方が、
むしろ多数派だった。

ただ、
彼らは別に、
何事にも無気力だったわけではなかった。

趣味の話になると、
驚くほど楽しそうに話す。

ライブ。

ゲーム。

旅行。

恋人。

友人。

家族。

みんな、
仕事以外の場所に、
大切なものを持っていた。

一方で、
当時の自分には、
趣味と呼べるものがほとんど無かった。

仕事以外に、
時間も熱量も使ってこなかった。

私は、
仕事に人生を使っていた。

だから、
プライベートを優先している部下を見ると、
苛立った。

「もっと頑張れるだろ」
と思った。

でも今思えば、
そこには羨ましさもあったのだと思う。

自分には無いものを、
彼らは持っていた。

私は、
その違いを、
「やる気の差」
として処理しようとしていた。


若い頃の私は、
「自分が活躍すること」
ばかり考えていた。

誰より成果を出したい。

認められたい。

出世したい。

自分が主役だった。

気付けば、
少しずつ、
若手の成長や活躍を嬉しいと思うようになっていた。

もちろん、
自分が主役を降りたわけではない。

ただ、
若手にもまた、
その人の人生があり、
主役として輝けるようになってほしい、
と思うようになっていた。

だから以前ほど、
自分と違う価値観を、
頭ごなしに否定しなくなっていたのかもしれない。

「仕事はほどほどでいい」

と言う部下や若手へ、
以前ほど嫌悪感が湧かない。

「自分の時間を大切にしたい」
と言う人間を見ても、
昔ほど否定したくならない。

「仕事へ全力を注ぐべき」
という考えが強かった自分にしては、
驚くほど心が凪いでいた。

思い返せば、
頑張り続けることには苦しさもあった。

周囲から、
「社畜」
と馬鹿にされたり、
嘲笑や批判を受けたりすることも不愉快だった。

私は、
そんなことで折れるタイプではなかった。

だが、
「そういう目を向けられたくない」
と思う人の気持ちも、
少し理解できる気がした。

そこから、
私は人が何を考えているのかに興味を持つようになった。

なぜ昇進したくないのか。

なぜ人から認められたいと思わないのか。

なぜ、
怒られながらでも、
そこまで仕事へ感情を乗せずに働けるのか。

今までなら、
「やる気がない」
の一言で終わらせていたことを、
知りたいと思うようになった。

もちろん、
そんなことを上司から直接聞かれても、
本音で答えられるわけがない。

だから私は、
少しずつ雑談を増やした。

とはいえ、
元々の私は、
雑談が得意なタイプではなかった。

なので、
急に話しかけるようになった私を見て、
部下も少し戸惑っていたと思う。

実は、
昔の私は雑談をかなり嫌っていた。

「能力が低いんだから、
喋っている暇があるなら勉強しろ」

と本気で思っていた。

だから、
雑談なんて無意味だと思っていた。

でも私から、

「あの映画見た?」
「昨日友人と飲みに行ってさ」
「今スタバで出た新作、何だっけあれ?何とかフラペチーノ?飲んだ?」

他にも、
本当にどうでも良い様な話題の切り口から、
雑談する様になった。

すると、
相手の価値観が見えてくる。

何が好きなのか。

何を嫌がるのか。

家族を大切にしているのか。

干渉されるのが嫌いなのか。

どんな時に逃げるのか。

どんなことには立ち向かうのか。

そこから見えてくるのは、
その人の
「価値観」

「人間性」
だった。

もちろん、
受け入れ難い部分もある。

だが、
以前のような嫌悪感や、
批判的な感情は薄れていた。

「あぁ、
自分の物差しだけで人を見ていたんだな」


と、
少しずつ思えるようになっていた。

そして、
もう一つ、
自分の中で大きく変わったことがある。

私は昔、
人の価値を、
かなり「仕事」で判断していた。

成長しているか。

成果を出しているか。

会社へ貢献しているか。

そういう視点でしか、
人を見ていなかった。

だが、
人と接し続ける中で、
私は少しずつ、
仕事とは関係のない部分にも、
目が向くようになった。

仕事では目立たなくても、
驚くほど字が綺麗な人がいる。

こちらが気持ち良くなるほど、
楽しそうに笑う人がいる。

子育てへの考え方に、
こちらが学ばされる人もいる。

それは、
努力して身につけたものなのか、
元々その人が持っていたものなのか、
私には分からない。

でも、
そういう
「仕事では測れない良さ」
を、
人はそれぞれ持っていた。

そして私は、
そういう部分へ、
自然と敬意を持つようになっていた。

これは、
仕事という分野だけで人を見ていた、
昔の自分にとってかなり大きな変化だった。

そして、
ここでやっと気付いた。

別に、
みんなが仕事そのものを好きなわけではない。

私はずっと、
仕事が好きか嫌いかに関係なく、
仕事へ全力を注ぐことが当たり前だと思っていた。

社会人なら、
そうあるべきだと思っていた。

でも、
そんな価値観を持っていない人も沢山いる。

私と他人では、
仕事に対する重さそのものが違ったのだ。

「仕事にやる気がない」
のではなく、

「仕事そのものに、
そこまで強い熱量を持っていない」


だけだった。

それが分かってから、
私は人の好きなことや、
大切にしていることを尊重できるようになった。

例えば、
ライブへ行くのが好きな部下には、

「それだけ行くなら、
仕事頑張って稼がないとな」

と言ったりもする。

すると、
そこには
“仕事を頑張る理由”
が生まれる。

ここで私は、
また一つ気付いた。

結局、
人は
「仕事そのもの」
のために頑張っているわけではない。

その先にある、
自分の人生のために頑張っているのだ。


だから、
マネジメントで大切なのは、

「やる気があるか無いか」

を判断することではない。

その人が、
何を原動力にしているのかを理解することだ。

ただ、
ここで勘違いしてはいけないこともある。

理解することは、
同調することではない。

相手の価値観を知ることと、
全てを受け入れることは違う。

「なぜそう考えるのか」
を理解しなければ、
何を伝えれば響くのかも分からない。

だから私は、
相手の価値観を知ろうとする。

その上で、
仕事という組織の中で、
どうすれば同じ方向へ進めるのかを考える。

それが、
マネジメントなのだと思う。

実際、
こういうことを繰り返すようになってから、
部下の原動力が見えるようになった。

そして、
その原動力を、
仕事への動機付けにも使えるようになった。

「マネジメントとは何か」
と書物を読み漁り、
「ああでもない、こうでもない」
と悩み続けていた頃よりも、
ずっと組織が上手く回るようになった。

何が正解かは分からない。

だが、
これだけははっきり言える。

マネジメントは、
人間理解が土台に無いと上手くいかない。

そして、
人間理解があれば、
マネジメントは設計できる。

マネジメントという言葉に囚われ、
苦しんでいる人は、
騙されたと思って、
一度「人」に興味を持ってみてほしい。

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怠惰前提の上司|人間理解とマネジメント ここまで読んでいただきありがとうございます。 少しでも価値を感じていただけたら、 チップで応援いただけると嬉しいです。