「完璧主義」に陥りやすいあなたへ~アダム・グラントに会いに行く~#20
こんにちは!去年9月から連載をはじめた「アダム・グラントに会いに行く」。最新刊「HIDDEN POTENTIAL」のなかの興味深い知見・エピソードを紹介しています。今回のテーマは「完璧主義に陥りやすいあなたへ」です。
1.はじめに
皆さんは、自分のことを「完璧主義」だと感じたことはあるだろうか。私は自分でもあきれるほどの「完璧主義」である。長年テレビ番組の制作に関わってきたせいで、そうなってしまった。プロデューサーから放送直前まで手直しを求められ、徹夜で何回も編集をやり直し、台本を書いた。苦労の結果、「面白くなった」と褒められたこともあったが、ほとんどは疲れただけに終わった。細かいところなんて視聴者は見ていないのだ。
大学院でも、時折、みんなが「?」とフリーズする瞬間がある。「なんでそんなことにこだわるの?」と顔に書いてある。私はその瞬間、「またやってしまった」と後悔する。そして自己嫌悪に陥るのである。
2.完璧主義のどこが問題なのか
そもそも完璧主義のどこが問題なのだろうか?この言葉には「職人のこだわり」や「プライド」のような、悪くない響きがある。しかし「完璧主義」には様々な問題があるのだ。
ポール・ヒューイット(Paul L. Hewitt)とゴードン・フレット(Gordon L. Flett)は、完璧主義研究の第一人者である。彼らは、「完璧主義」を単一の性格特性ではなく、多次元的な構造として定義した。
「自己志向的完璧主義」(Self-Oriented Perfectionism)…自分自身に対して非現実的なほど高い基準を課し、達成しようと厳格に律する。
「他者志向的完璧主義」(Other-Oriented Perfectionism)…他者に対して完璧であることを要求し、厳しく評価する。
「社会規定的完璧主義」(Socially Prescribed Perfectionism)…「周囲から完璧であることを期待されている」と強く感じる。 自己批判や抑うつに直結しやすいとされる。
3.心理的な特徴と性格的な傾向
心理的な特徴
失敗への強い恐怖心…失敗を「学び」ではなく「自分の価値を損なうもの」と捉える傾向がある。
「〜すべき」という思考(義務感)… 「常にトップであるべき」「ミスは許されない」といった、自分に対する厳しいルールを持つ。
「成果を出している自分には価値があるが、そうでない自分には価値がない」という条件付きの自己肯定感を持っている場合が多い。
性格的な傾向
責任感が強く真面目 …与えられた役割を完璧に遂行しようとする。
細部へのこだわり… 全体像よりも細かな部分に目が行き、重箱の隅をつつくような修正に時間を費やしてしまう。
他人の評価に敏感 …自分がどう見られているかを過度に気にし、批判されることを極端に嫌う。
4.アダム・グラントも完璧主義だった

高校時代、アダム・グラントは飛び込みの選手だった。ジュニアオリンピックにも出場したことがある。アダムは当時自他ともに認める「完璧主義者」だった。技を完璧にできないと気が済まない。全ての失敗を修正し尽くすまで、プールを離れなかった。飛び込み競技は些細な失敗も減点対象になる。彼は着水時のわずかな水しぶきも上げないことに何時間を費やした。その結果、苦手な技の向上など、より本質的な問題をいつまでも克服できなかった。しかも悪いことに、細部にとらわれていた結果、跳躍そのものに躊躇するようになった。いざ飛び込もうとすると足がすくんでしまうのである。コーチのエリック・ベストはアダムにこう言った。「完璧な演技など存在しない」。10点の最高評価は「完璧(パーフェクト)」ではなく、「卓越した(エクセレント)」という意味であると。
アダムはここで方針を変えた。目標を自分の能力に合わせて、自分かできるギリギリに設定した。得意な「前飛び込みえび型」は6.5点。苦手な「ひねり技」は5点取れれば十分だとした。新たな技は、0点でなければまずまずの成果とした。要は「完全な失敗に終わらなければよし」としたのである。
アダムは、完璧にできなかった自分を責めることをやめた。そして「進歩」した自分に焦点を絞るようにした。そして、失敗を恐れず、高難度の技にも挑戦するようにした。すると、しだいに飛び込み台で足がすくむことがなくなっていった。
5.“ベストを尽くせ”は誤り
これまで数多くの実験によって明らかになったことがある。それは、「ベストを尽くすように促された人は、明確かつ困難な目標を課された人と比べて、パフォーマンスが劣っている」ということだ。つまり、「ベストを尽くせ」は、間違ったアドバイスだともいえる。
確かに、「ベストを尽くせ」といわれても、具体的にどうしていいかわからない。それよりも「明確で高い目標」を与えられたほうが、関心がそこに集中する。自分の現在の水準に合わせて目標を定めることができる。
6.小さな進歩に目を向けよう
もう一つ、完璧主義から脱却する方法がある。それは心理学で「メンタル・タイムトラベル」と称される方法だ。
人は何かを達成するたびに、自分への要求水準があげようとする。そうすると日々の小さな進歩に気付かない。そんなとき「過去の自分が現在の自身をどうとらえるか」を想像してみよう。5年前の自分が現在の自分が達成したことを見たらどう思うか。きっと誇らしく思えることがあるがはずだ。
6.自分を責めない
完璧主義者は、しばしば一度の失敗で自分を「敗者」とみなす傾向がある。しかし、失敗した自分を打ちのめしても、強くはなれない。むしろ傷を深めるだけだ。
我々は自分の過ちや失敗を、実際よりも過大に憶測する傾向がある。これは「否定的評価の過大推測」と言われ、様々な研究で明らかになっていることなのだ。
また人は他者の能力をたった1つの結果のみで評価するわけではない。むしろ逆に、不調時ではなく絶頂時の結果を重視して人を評価することもわかっている。アダムが例にあげているのは、テニスのセリーナ・ウイリアムズだ。彼女がサーブでダブルフォルトを繰り返したからといって、彼女のエースを一度でも目にすれば、彼女が卓越したテニス選手であることはわかる。人々は絶頂期のセリーナで、彼女を評価するのである。
7.完璧を目指すより「まず終わらせる」
「完璧を目指すよりも、まず終わらせよ」。ソフトウエア開発者の世界ではモットーになっている。
シリコンバレーでは「方向転換(ピボット)」を繰り返し、市場の反応をみながら、まずはほどほどに愛される製品を作っていく。何度も改良を重ねていくことを前提になっているのだ。とりあえず最低限の機能をもつ製品を市場に出すことが大事なのである(これは、MVP<Minimum Viable Product>と呼ばれる)完璧な製品をじっくり時間をかけて追い求めても、成功しないからだ。

8.人の期待に応えることよりも、自分の基準を満たそう
完璧主義者は、他者の評価に基づいて「自分が優れているかどうか」を決める傾向が強い。しかし人の目に完璧に映るように自己を演出すると、不安やうつ、バーンアウトなどの問題をおこしやすいといわれる。
期待に応えようと無理をするのはやめよう。人の期待に応えるよりも、自分の日々の小さな進歩に目を向けよう。成功とは完璧さにどれだけ近づけたのではなく、その過程でどれだけ自分の決めた基準を達成してきたかである。アダム・グラントからの、メッセージである。
アダム・グラントとは?
ペンシルベニア大学ウォートン校教授。組織心理学者。1981年生まれ。同大学史上最年少の終身教授となる。「世界で最も影響力のある経営思想家10人」の1人と目され「フォーチュン」誌の「世界で最も優秀な40歳以下の教授40人」に選ばれるなど、受賞歴多数。彼の著作は世界で数百万部を売り上げるベストセラーとなり、TEDトークは3000万回以上再生されている。元ジュニアオリンピックの飛込選手。
この連載「アダム・グラントに会いに行く」は、そんな彼を偏愛する「とある大学院生(私)」が、ツテもコネもないのに来年の夏に彼に会いに行くまでのドキュメントである。
