愛と友情と読書会 1 「剣客剣客商売1」
読書会 第1回 池波正太郎 「剣客商売1」
3月25日
参加者 里中慎一 (独身、バツイチ)
小野麻子 (里中の旧友、夫を亡くして一人。息子あり)
佐藤浩晃 (里中の幼なじみ、妻、息子、孫あり)
場所 里中の書斎
里中 「この間、池波正太郎は『立派な事をしなくても生きていて良いん だと思わせてくれる』と言ったのは、どういう部分?」
麻子 「一番最初に、大治郎が根深汁に大根の漬物だけで、食事をする場面 が あるでしょう。その食事は、近所の百姓の口のきけない女房が作って くれて、手真似だけで、大治郎に食事の支度 ができたこ とを知らせて、 帰って行く。もう、ここを読んだだけで、平穏で 温かい感じがする。お 金や名前がなくても、堂々と生きている感じが 清々 しい。
それからね、私はシリーズの後の方で出てくる、鰻売りの又六だった かな、あの人物が好きなの。」
里中 「ああ、又六、良い味出してる人物だな。どんどん人間として成長し て いくしね。ああいう、善人そのものという人物が君は好きなんだ。」
佐藤 「俺は、シリーズの最初の方しか読んでないから、その又六は知らな い が、大治郎は爽やかな青年だ。誰もが、この青年に好感を持つ。そし て、親の小兵衛は、清濁あわせのんだ剣の達人。この取り合わせが面 白い。」
里中 「小兵衛が、飄々とした隠居かと思うと、存外、金にも女にも行い澄 ま していないで、欲に忠実なんだな。そこが、魅力なんだ。」
麻子 「そうね、小兵衛が、作者の理想かしらね。現役を退いて、楽隠居の 風 を装いながら、社会との繋がりを切っていないで、困った人を助け、 見過ごせない悪を斬る。誰もが憧れるのでは?」
佐藤 「そうなんだよ。その上、若い女を女房にしたり、思いを寄せられた り。」
麻子 「ふふ、佐藤さんもそうなりたいんでしょう。」
里中 「家に居るのは古女房だからな。」
佐藤 「俺はかみさんを大事にしている。しかし、夢は見ても良いだろ う?」
麻子 「そうね、心の中は自由だわ。」
里中 「へえ、君がそういうことを言うとはね。心の中で、姦淫する者は、 実際姦淫したと同じだと聖書で言っているだろう。」
麻子 「心の 中でさえ、そういうことを思わないなんて、不自然じゃな い? キリスト教も仏教も、人間の自然な感情を否定する部分があるけれ ど、人 間は 生 物として生きなきゃ息苦しいこともあるわ。」
佐藤 「小野さんも心の中で姦淫する事ある?」
麻子 「姦淫ねえ……。考えようによっては、人間はみんな姦淫するんじゃ ない?動物と違って、発情期が決まっているわけではないから、想像力 で 興 奮しないと、子どもを作る行為ができないのでは?夫婦でも恋人で もそれぞれの頭の中で、興奮するようにしているのでは?淫らじゃない真 面目な生殖行為ってあるのかしら?
(ここで、里中と佐藤は顔を見合わせて、どういうことだろうと思ったが、麻子が続けたので、質問は挟まなかった。)
まあ、それはさておき、『雨の鈴鹿川』の中に男女が出てくるでし ょ う。仇討ちに出た妻 と義理の弟。小兵衛は、最後の方で、女という生き ものは、とうてい男にはできぬことをすると言っているけれど、女から し たら、ちょっと心外ね。」
里中 「どういう所が?」
麻子 「うん、女性にもいろいろあるから、あんな女ばかりもいない。
女性が、男性と肉体的接触を持つのは、かなりの覚悟がいるもの よ。そ れを情欲だけで、身を委ねると思われるのはね。男性の方が腕力も 強く、 社会の中で力を持っているのだから、女 は抗えない。そもそも、男 がそ の 気にならなければ、 女がいくら誘 っても、ダメでしょう?」
佐藤と里中は、またもや、顔を見合わせた。
そこへ、麻子の携帯が鳴ったので、
「ちょっと、ごめんなさい。」と電話に出る。
(つづく)
