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デッキの中の地獄【#noteでBL】

今回も参加させていただきます。ボツにした方は、そのうち公開します。

ジャンル
ファンタジー

あらすじ
 生粋のカードゲーマーカップルである正人と勇紀。久しぶりに休みの重なった四月二十日の深夜、二人は正人が発動したカード『急拵えの地獄インスタント・インフェルノ』の中に吸い込まれてしまう。そこで二人に待ち受けていた恐ろしい運命。そして、謎の声が呼びかけた『たっちゃん』の正体とは。
 カードゲーム初心者のナルが送る、カードゲーマーのための(?)ファンタジーBL。なお、作中のカードゲームのイメージは遊☆戯☆王ですが、実際にこんなカードはありません。吸い込まれることもありません。というわけで、みんなもやろう遊☆戯☆王。

本編(3,119字・ルビ除く)

「俺のターン! 『急拵えの地獄インスタント・インフェルノ』発動!」
 四月二十日、二十二時ちょうど。俺たちは久しぶりに休みが合ったので、一日中カードゲームをしていた。『急拵えの地獄』は俺のデッキの要となるカードで、それを発動するのは今日七度目のことだった。
 俺たちはカードゲームがきっかけで出会って恋に落ちた、生粋のカードゲームオタクカップルだ。デートはカードショップ、お家デートはデュエル。ああ、素晴らしい日々。
 俺は、そっと目を閉じた。


 瞼を開いてすぐに視界に広がったのは、業火が全てを焼き尽くした世界だった。俺と勇紀は腰掛けていたはずの椅子を失い、仰向けに転がった。
「……いってぇ」
「……何だ、ここ?」
 勇紀を起こしながら、辺りを見回す。暑い。恐ろしいほどに暑い。さっきまでいた部屋でないことだけは確かだ。
「……幻覚?」
「って言うか、正人。ここさ……『急拵えの地獄』の中じゃない?」
「は?」
 言われてみればそうだ。燃え盛る炎とあちこちで流れる溶岩。間違いない。ここは、『急拵えの地獄』のカードに描かれた風景の中だ。

「なんで……」
「あぁ……どうせなら『常夏逃避行サマー・ランデブー』とか『絢爛豪華晩餐会政治資金パーティー』の中の方が良かったなぁ……」
 勇紀の呟きに、俺の思考は一瞬で日常に戻る。
「はぁ!? お前、俺よりあの水着エルフたちの方がいいのかよ!? 露出の激しい(以下自主規制)エルフの方がいいってか!」
「違うよ! こんな地獄よりきらきらした海の方がいいなーって思っただけで……」
 勇紀の言葉が萎んでいく。彼は俺の頭上を見上げている。
「正人……」
 彼の視線を追いかけるように、頭上を見上げた。そこには口の両端から涎を垂らしている、赤黒い鱗を身に纏ったドラゴンがいた。

「正人。『急拵えの地獄』の効果ってさ……」
「……デッキのカードを上から二枚墓地に捨てて、手札から『鮮血を浴びる竜王ブラッド・ドラグーン』を召喚……」
 言い終えないうちに、竜が吠えた。俺の頭上で吠えていたのは、『鮮血を浴びる竜王』そのものだった。俺たちは全力で駆け出した。

「……正人! どうする!?」
「どうするって……『急拵えの地獄』はもう発動してるし、『鮮血を浴びる竜王』の召喚はキャンセルできねぇよ!」
 振り返ると、どうしたわけかドラゴンはその場に立ち尽くしていた。俺と勇紀を交互に見比べながら──。
「……ねぇ。『鮮血を浴びる竜王』の効果って……」
 勇紀が、血の気の引いた顔で俺に尋ねる。嫌な汗が背中を伝う。震えを抑えながら、俺は答えた。
「……このカードが『急拵えの地獄』によって特殊召喚されたとき、相手フィールドにいる最も攻撃力の低いカードを場から除外する……」
「……俺たち、どっちが『攻撃力が低い』んだ……?」
 走りながら、顔を見合わせる。すっかり息も切れてきた。このままでは逃げ切れない。どこかに身を隠さなければ、二人とも──。

 俺は立ち止まって、勇紀の背を押した。
「……勇紀。お前は逃げろ」
「正人……何言ってんだよ! 死ぬまで二人で生きるって決めただろ!」
 涙目になっている勇紀に、無理矢理に微笑む。
「俺の方が腕っぷしも弱いし、たぶん『攻撃力が低い』って言える。俺が『除外』されれば……お前はあの家に帰ることができる。きっと、そのはずだ」
 勇紀は涙を流しながら首を横に振っている。言葉さえ上手く出ないようだ。こういうときに頼りないところも、結構好きだった。
「正人……だめだよ。お前がいないと俺……上手く生きていけないよ……」
 ──馬鹿。生きろよ。俺がいなくても。
 そう思いながら振り返った、そのときだった。

 ドラゴンは標的を決めたようだ。凄まじい速さでこちらへ飛んで来ると、あっという間に俺を捕まえた。長く伸びた爪が、体に食い込む。
「……ぐあ」
「正人!」
 大きく裂けたドラゴンの口が、更に広がる。ああ、何だってこんなカードをデッキに入れていたんだ、俺。勇紀の言うように、『常夏逃避行』の中だったら──。
 その瞬間、俺は閃いた。

「勇紀! お前の手札、思い出せ! アレ、なかったか!」
「アレ……? アレって何だよ!?」
「馬鹿! お前のデッキにはアレが入ってただろ! それがあのとき手札にあったか!?」
「……え? どれのことだろ……」
 ああ、もう。どうしてこんな男と付き合ったのか。ここまで頼りなくて、情けなくて、大馬鹿野郎!

「思い出せ! お前のデッキにはあっただろ! 『MAの約そ』……」
 言い終わる前に、ドラゴンはあっという間に俺を飲み込んだ。『除外』って、こういうことかよ──

 その瞬間、世界が白く輝いた。俺と勇紀だけが立ち尽くす空間に、聞き覚えのない女の声がする。



「……ごめんね。今日、会えなくなっちゃった。デート、楽しみだったんだけど、ごめんね。たっちゃんには、もっと他にいい人がいると思うんだ。私、身を引くね」



「……誰?」
「わかんね」
「『たっちゃん』って」
「田中角栄だろ」
 顔を見合わせたその瞬間、俺たちは部屋に戻ってきていた。周囲を見回して、自分たちの安全を確認する。
「帰ってきたみたいだな……」
「正人ー!!」
 勇紀が俺に抱きつく。すぐさまその腕を掴み上げて、腕ひしぎ十字固めを極めた。勇紀の悲鳴が、二十二時一分の室内に響き渡る。
「この大馬鹿野郎! 自分のデッキ構成忘れてんじゃねぇ!」
「ごめんごめんごめんー! 咄嗟に思い出せなかったんだよぉ!」
「お前……相方が死にそうなときまで天然発揮してどうすんだよ! フル回転させろよ、そのふわふわの脳みそを!」
 絞め上げを緩めると、勇紀は泣き出した。俺はこれ以上怒るのもなんだか面倒くさくなって、勇紀を抱き寄せた。

「……それにしてもさ」
 数分の後、勇紀が涙を拭いながら言う。
「正人、よく俺のデッキ構成覚えてたね」
「当たり前だろ。何年一緒にいて、何年このカードゲームで戦ってると思ってんだよ」
「……えへへ」
 嬉しそうに笑う勇紀の頭を引っ叩いて、それからカードを確認する。『急拵えの地獄』と『鮮血を浴びる竜王』のカードを、デッキから外した。
「あーあ、デッキ組み直しだ」
「……正人も怖かった?」
「とりあえず一回食われてみろ。自分のデッキの主力に」

 勇紀の手元にあったカードを、そっと手に取る。このカードがなければ、俺はドラゴンに食われていた。
「……『MAの約束』。正人に勝ちたくて、バランス度外視で入れたんだよね。入れておいて良かったぁ……」
「なら、忘れるなよ」
 思わず笑えてくる。でも──
「ありがとうな。勇紀」
 勇紀は俺を見てから、照れたように微笑んだ。

 それから、二人で相談しながら俺の新しいデッキを作った。次にまたカードの中に吸い込まれてもいいように、『常夏逃避行』と『絢爛豪華晩餐会』は多めに入れた。ここに吸い込まれるのなら、そこまで怖い思いもしないだろう。

 あんな思いをしても、俺たちはカードゲームをやめようとは思わなかった。俺たちを出会わせてくれた、たった一つのきっかけだったから。
 『MAの約束』。新弾のブースターパックに収録されたばかりのカードだから正式名称さえよく知らないし、勇紀の持っている一枚限りしか我が家にはない。もう一度手にとって、カードの効果と説明文を再確認する。
「……見ろよ、勇紀」
「……あぁ。だからあの妙な台詞が挿入されたのね」
「『たっちゃん』も、可哀想に」
「言えてる」
 二人で大笑いした。ありがとう、たっちゃん。顔も知らないけれど。


魔法カード・『MAの約束』
相手が魔法カードによってモンスターを特殊召喚したときに使用できる。その効果を無効化し、特殊召喚されたカードを破壊する。

カード説明
MAは『マッチングアプリ』の略。
このカードの正式名称は『ドタキャン』。



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