聖夜に刻む【#片想い文芸部】
片想いを拗らせたときほど、予後の悪いものはない。
ある者は世界を呪い、ある者は身を投げる。恋がある種の毒だとすれば、片想いは水銀のようなものだ。願いを託して喉に流し込めば、容易く死に至る。
そういう片想いをして、もう四年になる。
梨名さんの肩越しに見えた夕陽は、優しさと儚さを綯い交ぜにしたような色をしていた。「クリスマス前にこの町を離れる」という言葉の意味も考えず、僕はただその美しさに見惚れていた。まるで、梨名さんに初めて会った日のようだった。
「また、会えるかもね」
梨名さんがそう言いながら、向こうに見える点灯前のイルミネーションに視線をやったとき、僕はなぜだか確信した。きっともう、僕らは会うことがない。こうして話をするのも、きっと今日が最後になる。
「……会いたいです」
梨名さんに聞こえないようにそう呟くと、梨名さんは「ふふふ」と笑い
「祐介、聞こえてるよ」
と言った。沈みかけの夕陽が、一際強い光を放った。
「会いたいです。ほんとうに」
梨名さんの目を見つめて、今度はきちんとその耳に届くように、僕は言った。梨名さんは少しだけ困ったように頭を掻いて「……ほんとうに?」と微笑んだ。「ほんとうに」と僕が言うと、「そっか」と梨名さんは呟いた。
イルミネーションが音もなく灯り、梨名さんの横顔を照らした。
「片想い、してました」
呟くように、でも、世界に刻みつけるように、僕はそう言った。この恋はこの先に何も残さないのだとするなら、せめて今だけは世界に刻みつけてやろうと。梨名さんに恋をした僕を、世界に示してやろうと。
「……知ってたよ」
「です、よね」
「祐介」
「はい」
「君の気持ちには、応えられない」
「……はい」
行き交う人達の足音が、次第に大きくなる。二人きりに思えていたのは、きっと僕だけだった。恋を失った僕は、その幻想からそっと引き戻されただけ。
「好きでした」
「……うん。好きになってくれて、ありがとう」
「いいえ……好きでいさせてくれてありがとうございました」
「堅苦しいね」
「そういうもんですよ」
顔を見合わせて、二人で笑った。
きっと、今日でお別れ。それでも、僕には何の後悔もない。梨名さんを見送るまではきっと、涙を流すことはない。
「梨名さん」
「うん」
「さよなら」
「……さよなら」
梨名さんがひらひらと振った、手。その指先にさえ触れることはなかった。それはきっと、梨名さんなりの優しさだった。そういう人を好きになれたことを、誇りに思う。
遠ざかっていく背中を見ながら、一度だけ名前を呼んだ。「聞こえてるよ」って、もう一度笑ってほしかった。
もうすぐクリスマスが来る。あなたのいない、聖夜。
了
あとがき
主宰なので、二作品書いてみました。
失恋ものを書くのが結構好きなので、楽しみながら書きました。如何だったでしょう?
「梨名」は、櫻坂46の井上梨名さんよりお借りしました。
いのりちゃん。卒業おめでとう。あなたのこの先の全てが、どうかあなたの味方をしてくれますように。たくさんの幸せをありがとうね。大好きだよ。
引き続き参加者を募集しております。記事埋め込んでいただけると、探すのがとてもラクです。よろしくお願いします。
明日はエッセイ書くかな。クリスマスエッセイ。いい思い出はあんまりないけど。
それじゃ、またねー。
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