Trick or ??
「お菓子よりもさ」
「ええ」
「もっと良いものを要求すべきだと思うんだ」
美羽さんが吐き出した煙草のけむりは、丁度骸骨のような形を作った。此処から先に進んではいけない。悪魔がそう告げるみたいに。
「たとえば?」
日曜の昼下がり、カフェの外は人混み。店内に流れるジョン・コルトレーン。目の前に、想い人。
僕の問いに美羽さんは何故か微笑んで、珈琲を一口。それを見て、ふと思う。
「……珈琲というのもいいですね」
「お菓子よりはお洒落かもしれない」
「いっそお酒というのは」
「子供が置き去りだね」
美羽さんはそう言うと、窓の外を見た。まだ弱い殺傷能力を有している初秋の日差しが、行き交う人達の肌を焼く。
「秋の日差しも、肌には大敵らしいですよ」
僕が思いつきでそう言うと、美羽さんはゆっくりとこちらを見た。その瞳は珈琲と同じような深さで、僕を飲み込もうとしている。愛しい。そして、少しだけ怖い。
「……ねえ」
「はい」
「君はさ、私のことが好きなんだね」
「自他共にそう認識しています」
「ふぅん……」
美羽さんは立ち上がって、僕の隣に腰掛けた。跳ねた胸を悟られぬように、ゆっくり息を吐く。
「答えは『Yes』だけ。いい?」
「Yes」
「……ごめん。『はい』でいいよ」
「はい」
珈琲と煙草の香り。美羽さんの長い髪がさらりと揺れる。瞳の深さに感じていた恐怖が、何か別のものに変わっていく。
「君は、私が好き?」
「はい」
「付き合いたいと思っている?」
「はい」
「弄ばれてもいい?」
「はい」
「従順。尻に敷かれるタイプね」
「はい」
「……君を一番に愛さないかもしれない。それでもいい?」
「はい」
美羽さんは吹き出す。鈴が鳴るように笑いながら、僕の左手に手を添える。跳ねた心臓は、何度かの深呼吸でどうにか喉元から下がっていく。
弄ばれている。それがわかっても、僕はこの人しか愛せない。これ以上、誰かを愛せない。
「最後の質問」
「はい」
「二択。選んで」
「はい」
「君を愛している私のこと、誰よりも愛してくれる?」
「……えっ」
「だからさ」
美羽さんはそう言うと、僕にぐっと顔を近づけて、僕の耳元で囁く。
「愛してくれなきゃ、”悪戯”するよ?」
そう言った美羽さんは、鼻先が触れそうな距離で僕を見つめる。鼓動とジョン・コルトレーン。少しだけ急かすような、誰かの呼吸。
僕は答えに窮した。
全ては、”悪戯”の内容次第。はやる下心を抑えつけながら、美羽さんの瞳に吸い込まれていく自分を感じた。
ハロウィンに潜む何かが、僕を毒していく。
了(1020字)
あとがき
灯火さんの企画に参加させていただきました。すごく楽しかったです。ありがとうございます。
最近、こういう小説を書くのが好きです。愛に飢えてるんですかね。ナルの恋には何の進展もありません。今日あたり劇的な展開にならないかな。神様よろしく。
『美羽』は櫻坂46の村山美羽さんよりお借りしました。『朝が来るまで』の村山さんも彼女から。何度も名前をお借りしている気がする。
美しさに心を持っていかれて帰ってこれなくなることがあります。これからも応援させてくださいね。
それでは、また後で。楽しんでいこうね。
いいなと思ったら応援しよう!
いただいたチップは、通院費と岩手紹介記事のための費用に使わせていただきます。すごく、すごーくありがたいので、よろしくお願いします。チップって名前にちょっとだけ違和感ありません…?