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【短編】ぬいぐるみのエール【#灯火物語杯】


いつからか、君は学校というところに通うようになった。
ランドセルとやらを背負い、君は毎日学校に行った。
背が伸びて、髪が長くなって、君は僕たちとは遊ばなくなった。
部屋の隅っこ、棚の上に飾られた僕たちを手に取ることは、減っていった。
それでも、毎日必ず言葉をくれた。頭を撫でてくれた。

つらそうな日、悲しそうな日。
どんな日々も君は乗り越えてきた。


君が3歳の頃、僕はサンタクロースに連れられてこの家に来た。
それから毎年、サンタは僕の友達を連れてきた。
僕よりモフモフのテディベア、僕より背の高いキリン、僕よりかっこいい恐竜。
仲間が増えても、君は僕を大切にしてくれた。
毎日、色んな話をしたね。
君に大切な人ができたこと、何よりうれしかった。


ベッドから起き上がれない君を見ながら、僕は昔を思い出していた。
病気なんだとお母さんが言っていた。
君は毎晩泣いた。たくさん、たくさん泣いた。
僕たちには何もできなかった。
君が大切な人に電話をして泣いた日も
自分で決めた目標に苦しんだ日も
僕たちにできることは、何もなかった。

着るのを楽しみにしていた制服。
壁に飾った思い出の写真。
無造作に破られたカレンダー。
今日は、クリスマスイブ。

白い雪が降り積もる窓の向こうに、赤い帽子が見えた。
少しして、白い髭のおじいさんが姿を現した。
僕らをここに連れてきた、サンタクロース。
僕たちに手を振ってから、窓の外で祈り始めた。
僕たちも棚から降りて、同じように君の幸せを祈った。
元気になって。幸せになって。
大好きだよ。
ただ、祈った。

長い時間祈りを捧げたサンタは、鈴の音とともに去った。
深い夜に、その声だけを響かせて。

諦めなかった君よ。
涙を流した君よ。
歩み続ける君よ。
立ち止まった君よ。
願い続けた君よ。
祈りをやめた君よ。
明日も生きるすべての君よ。

クリスマスには、きっと。



翌朝、君は泣きながら目覚めた。どんな夢を見ていたのだろう。
まだ体は苦しいようだ。眠そうな瞼をこすっている。
ゆっくりとベッドから起き上がると、君は僕たちの頭を撫でた。

「私、生きてるね」

知ってる、と答えようとしても、僕たちにはできなかった。
サンタクロースの贈り物。それでも僕たちは、ただのぬいぐるみ。
ただ一夜動けた、ただのぬいぐるみ。
ありがとうが言えたなら。
ずっと生きててほしいって言えたなら。
僕たちは、君の力になれたかな。

「昨日さ、みんな…」

そのとき、君の携帯電話が鳴った。
君はその画面を見て少しだけ泣いて、そのあとで笑った。
君の大切な人が、仲間たちと撮った写真が見えた。
「ずっと待ってる」と言葉が添えられていた。

君は僕たちに背を向けて、自分の写真を撮った。
僕やテディベア、キリンに恐竜。みんなが写るように。
君はそれを大切な人に送った。
「必ず元気になるよ」と言葉を添えて。


#灯火物語杯


どうか届け。


あとがき

note上で応援している方へ、この物語が届けばいいなと思って書いた。その方が読んでくれるかはわからないが、どうか届いてほしいと思っている。
僕自身も不調に悩んでいるからこそ、病気で悩むすべての方々に元気になってほしい。幸せになってほしい。夢を叶えてほしい。
その祈りを物語にしたつもりだ。
…普段の芸風(作風)と違いすぎる?
いやいや、本来はこっち…まあ、いいや。

「クリスマスと言えば、ラブストーリーだろ」と最初は思ったが、諸般の事情により恋愛小説拒否をし続けていた僕には、王道のラブストーリーは書けなかった。というか、あんまり書こうと思わなかった。未だに僕の脳裏には、あの出来事がフラッシュバックする(詳しくは僕のエッセイ『恋愛小説が書けなくて』参照)。

どうか、この短編を愛していただければ幸いです。
ちなみに脳内イメージソングはYOASOBIの『ハルカ』ですので、お聴きいただけると幸いです。

#賑やかし帯

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