Good-bye,my candy.
マルチーズを連れた女は、概してろくでもない。
なんだってそんなことを言っているのかって?
今の俺を見てくれたらわかる。マルチーズ連れの女に殺されたからさ。胸を一突きにされてな。
心臓が止まっているようだ。その割に頭は澄み切っていて、死とはこういうものかって、なぜだか納得したよ。
女はさも退屈そうに俺を眺めている。マルチーズは俺の右手をぺろぺろと舐めて、わんと鳴いた。
「ねえ、聞こえてるんでしょ?」
いつの間にか咥えていた煙草に火をつけて、女は言った。ショートパンツから伸びた細い脚。真っ赤な髪。生気のない顔には、俺の血。
「あんた『再生者』でしょ。キャンディがそう言ってる」
マルチーズがまた鳴いた。キャンディってのはこいつのことか。俺は、地獄ってのはこんなもんかと考えていた。もっとセクシーなもんだったら、喜んで行くのにな。
「ほら、起きなよ。じゃないと、このビールは私のもんだ」
ああそうだ。俺はビールを買った帰り道、こいつに殺されたんだ。期間限定のクラフトビール。期間限定の…。
「返せ」
自分の口から声が出たことに驚いて、俺は目を見開いた。身体を起こす。痛みはないが、鼓動は感じられない。
「やっと起きたか」
俺は女からビールを奪い取った。すぐさま開けて、飲んだ。そしてすぐ吐き出す。まったく味がしない。
「畜生。味がしねえ!」
「…普通驚かない?」
「生きてりゃ色んなことがある。理解できないことも、面白いことも、たくさんな」
「…すごいわ。あんた」
そのとき、キャンディが唸り声を発した。見ている方向には男が一人。
「…早いお出ましだ。キャンディ!」
犬が遠吠えをする。見る間に身体が大きくなり、三つ首の化け物になった。
男の頭はめきめきと音を立て、ガトリング銃になった。
「マジで…色々ありすぎだぜ」
俺はまだ気付いてなかった。吐き出したビールが凍っていることにも、この先に本当の地獄が待っていることにも。
【続く】
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