羽【#片想い文芸部】
月が、とても近くに見える。
自分の体がふわふわと浮かび上がっているのがわかる。ベッドに入った記憶はあるから、幽体離脱か、はたまた突然死か。どちらにせよ、僕は今夜空に浮かんでいる。
どうにも頭がはっきりしない。今日がクリスマスであったということ、ひどく寂しい日だったということ。それだけが思い出せる。心にほんの僅かに残るのは、恋の名残だろうか。
月を見つめながら、その名残り火に思いを馳せた。ああ、そうだ。僕はずっと、恋をしていた。
イルミネーションが煌めく街を見下ろす。
冬の星座にぶら下がって、というわけにはいかないけれど、僕は世界を見下ろしている。死に向かう前に見る景色がこれだとすれば、生きてきた日々もそんなに悪くなかったような気がする。
聖夜の街並みは、遠い夜空から見ても煌めいている。きっと、あの明かりの何処かに君がいたのだろう。想いを伝えることなく僕が死ぬのだとして、君は果たしてどういう顔をするのだろうか。それさえもうまく思い描けないほど、僕らの距離感は曖昧なままだった。そうして、幾年もの日々が過ぎた。
ロマンスなんて、そう上手くはいかない。
人生なんて、そう簡単には叶わないことばかり。
だから、僕らは祈る。奇跡とか、愛情を。或いは、希望を。
君のことを思い浮かべる。
あの日の横顔の美しさと、その向こうに見えた銀木犀。「あのさ」と僕が呟くように言った後、振り返った君の一つに結わえた髪が揺れた。風に仄かな香りが乗っていて、僕は君に恋をしていた。あれはいつのことだったか。遠い昔のような、つい昨日のような。
想い続けた日々を振り返るとき、ほんの僅かの痛みと、咲き誇るような幸福に満たされるような気がする。伝えることが全てではない。少なくとも、僕にとっては。
伝えずに秘め続けた恋は、確かに僕の生を導いた。やはり、僕は思う。そんなに悪くなかったな、と。
全ての恋人たちの、できるだけの幸福を祈る。それがきっと、伝える勇気さえなかったあの想いへの贖罪であり、僕の生の全て。
あの明かりは、恋人たちを照らすだろう。
僕らが共にあの明かりに照らされている未来は、果たしてあっただろうか。
月が陰ったとき、僕はふと君の名前を呼びたくなった。
「梨加」
もうきっと呼ぶことのない名前を、僕は何度も呼んだ。街明かりはどんどん遠ざかっていく。ああ、やっぱり僕は死ぬのか。そうだとして、君は──梨加は、もう天国にいるのだろうか。それとも、誰かとの愛を実らせて、大切な家族に囲まれて生きているのだろうか。
今日僕が行く先は、天国なのだろうか。天国からならば、梨加の幸せな姿をたしかに見つけられるだろうか。
埃を被っていた恋心に、真綿のような羽が生えた。たった一人で生きた日々を、君を想い続けた日々を生きてよかったと、心から思う。
遠ざかっていく街並みに、僕らの幸せの可能性を探してみた。もう、月に触れることができる。僕はまだ何も見つけられないまま、静かに夢を見ていた。
祈るように君との全てを探した、今日は聖夜。
了
あとがき
こういう、ある種幻想的な(?)作品のレベルをもっと上げたい。書きたい気持ちは強くあるのだけれど、いまいち上手く書けていない気がする。書き続けるしかないだろう。
「梨加」は、元櫻坂46(欅坂46)の渡辺梨加さんよりお借りしました。
この作品は当初、特定の名前を登場させるつもりはなかった。梨加さんの名前を登場させてみたところ、ふっとストーリーが動いたので、使わせてもらいました。
これからも応援しています。あたたかくして過ごしてくださいね。
さて、作品のことから少し離れるのだが、皆様に伝えておきたいことがある。僕のnoteのことだ。
いずれアカウントを潰す意志があることは、常々お伝えしてきた。だから、皆様に謝らなければいけない。僕は、もう少しここで頑張りたくなってしまった。
もう少しだけ、あと少しだけ。そう言いながら、頑張らせてください。見守ってくれたら、嬉しいです。あと、気軽に相手してくれると、すごく喜びます。
あと、片想い文芸部期間限定復活で思っていたよりも皆様に参加してもらえていて嬉しいです。期間は今日いっぱいまでですが、どうしてもという方は明日くらいまでならお待ちしています。あと、年内にきっとまとめ記事を出せる……はず。
それでは、また。
もう少しがんばるからね。見守っていてね。
あたたかくして過ごしてね。
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