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#58 ヘアクリップの輝き
供給部門の女の子たちは、いつも軽やかだ。
英語のメールをさばきながら、
「え、これ昨日のレート?」
なんて笑い合っている。
帰国子女のあの子――
ロングヘアを
アレクサンドル ドゥ パリの
ヴァンドームクリップで留めている子は、
特に目を引く。
あのクリップ、
彼女がつけると、
ただのヘアアクセじゃなくて、
“仕事ができる女の象徴”みたいに見える。
髪をかき上げる仕草ひとつで、
周囲の空気が少し明るくなる。
エンターキーの音
私はといえば、
ひたすらにパソコンにデータを打ち込んでいるだけ。
でも軽やかに、リズムよく。
姿勢を正して。
でも最近、ふと気づいた。
エンターキーを押すたびに、
「ターン」と音が響く。
その度に、誰かがこちらを見ている気がする。
誰も何も言わないけれど、
その沈黙が逆に怖い。
また迷惑をかけているのかもしれない。
また、空気を重くしているのかもしれない。
ふと顔を上げたら、供給部門の彼女たちが笑っていた。
軽やかで、自然で、
空気ごと明るくするような笑い方。
流暢な英語のフレーズが混ざって、
まるで海外ドラマのワンシーンみたいに聞こえた。
私は、その輪の中にいない。
その事実が、急に胸の奥に落ちてきた。
今まで、気づかないふりをしていたのだと思う。
世界のあちらとこちら側
同じ空間にいるから、
同じ会社で働いているから、
なんとなく
“同じ場所に立っている”気になっていた。
でも、違った。
私は、彼女たちの世界の外側にいた。
