芸術祭のアーティスト #5 西尾樹里さん
「芸術祭のアーティスト」第5回目は、ダンサーの西尾樹里さんです。
西尾さんのパフォーマンス「シラタマと惑星 満月ライブ」は、桜台駅から徒歩で5分くらいのところにあるご自宅「トヨタマN邸」で行われました。
このお宅は、亡くなられた建築家のお父様が設計されたもの。
道路に面した大きな扉を開けると、中には土間のような大きな空間、さらにその中に曲面の壁があらわれ、さらにその奥にお部屋があるというちょっと不思議な構造で、なんだか、巻貝の奥に入っていくような感覚もありました。
このユニークな空間を活かしてみたい、と思ったのが、「江古田のまちの芸術祭」に参加するきっかけだったということです。
白い球体のオブジェ「シラタマ」と、再利用の糸で編まれたソウマヒカリさんの「惑星マット」が配置された空間で、パフォーマンス「満月ライブ」は行われました。
見ていると、人の祈りと音楽にあわせて、種のようなものが螺旋を描くように成長し、宇宙にひろがり、また戻ってくるというような物語を感じました。

自分の体を感じながら動く
ーーパフォーマンスを見て、とても「物語」を感じました。ストーリーはあらかじめ考えてから踊るんでしょうか?
あの日は、ほとんど何も決めずに出てきました。
空間を見て、「ここでこういうことができるかな」「こっち側でこういう感じができるかな」と、イメージ的なものは考えますが、「こうして、こうして、こうしよう」と細かく決めているわけではありません。
最近は本当に即興が多いです。
ーー観客からは、ストーリーがあるように感じられたと思います。
私は演劇のバックグラウンドがあるからか、お客さんからは、ストーリーが見えるみたいなんです。
細かくいろいろと決めているわけではなく、自分の中では、ただ、一瞬一瞬、嘘がない状態でそこにいるようにしているんです。
ーー嘘がない、というのはどういうことでしょうか。
自分の中でしっくりくる状態です。ただ形をやるのではなくて、必然的にその形になっている。
常にエネルギーが流れ続けているか、とか、全身がつながっているか、とか、そういうことです。要は自分自身がそこに在るかということです。
でも、本番のときは、いちいち考えていませんけれど。

模索と身体への注目 シラタマの誕生
西尾さんは、2002年から2016年にかけて渡米、ニューヨークを中心に活動して、自身の作品を発表していました。帰国後、方向性を模索する中で、自分自身の体について考えるようになったといいます。
日本に帰ってから、いろいろ見て回ったのですが、「ビビッ」と強く感じるものにはすぐには出会えませんでした。
その時に、まず体のことをやらないと、舞台に立つ以前に始まらないなと思ったんです。
それで、野口体操を学び始めました。体の中のこと、重さの流れ、エネルギーの通り道のようなものを感じ取る作業です。
野口体操では、人間の体を「ビニール袋に水が入っているようなもの」と例えることがあります。中の液体が動くように、私たちの体の中でも重さや流れが動いている。そういうことに意識を向けていきました。

ーー会場に置かれている白い球体「シラタマ」はどうやって生まれたんですか?
しばらくパフォーマンスをしない時期がありました。何を踊りたいのかも、よくわからなくなっていたんです。でも、このままだと一生踊らないで終わってしまうかもしれない、と思いました。
そんな中、2020年ごろ、あるシアターのイベントに応募しました。その時にやりたかったのが、「少しずつ動いていく絵」でした。
私は四角いスペースを歩くだけなんですけど、白い球体を体につけて、それがズルズルとついてくる。
最初はシラタマがバラバラに置いてあって、私自身もそのシラタマの一つのように存在している。そこから立ち上がって、人間になって、歩き出す。するとシラタマがついてきて、糸がほどけて、川のようなイメージができる。その先に人がいるような、そういう絵ができあがる作品でした。
ーー西尾さんにとって、「シラタマ」とは何なんでしょうか?
シラタマって、何なんでしょうね。
時と場合によって、何にでも変われる存在なんですが、自分の分身でもあり、コアなものでもあり、何でもあって、何でもないという存在かもしれません。
ただ、時々「シラタマに頼らずに自分だけで行こう」と思う時もあります。そういう感覚があるんです。

場所と体
ーー西尾さんにとって、パフォーマンスを演じられたあの空間は、どんな場所ですか?
あそこは我が家(HOME)です。
普通、部屋ってだいたい四角いじゃないですか。でも、あの空間は使いこなすのが簡単ではないんです。真四角ではないし、壁も少し湾曲している。
父は建築設計士として、丸い空間を作りたかったんだと思います。今の私たちはあまりにもデジタルで真っすぐ平たい空間に慣れて暮らしているので、そうではない場所で過ごすこと自体が、ある意味チャレンジングで面白いなと思っています。
身体表現を探求する身としても、面白いスペースだと思います。まっすぐな壁や通路ではなくて、少し曲がっているだけで、身体の感じ方が変わるんです。
自宅で行っている「からだの教室」の生徒さんたちも、部屋に入ると「呼吸が深くなって落ち着く」と言ってもらえています。
芸術祭に参加してみて
ーー芸術祭に参加してみて、いかがでしたか?
芸術祭のパンフレットを見て「これ、ちょっと気になるな」と思って来てくれた人が結構いました。
自分も展示を出しているという女の子とその家族、練馬区議の方、建物に興味があるという方、ご近所の方も来てくれました。
普段はなかなか接点がない人にも来てもらえたのは、とてもよかったです。
ーー今年の芸術祭にも参加されますか?
はい。今年もやります。
今年は、現代美術家の秋山秀馬さん、加茂孝子さん、三浦かおりさん、写真家の武元狩さんの4人をお招きして、この空間で展示をします。武元さんは音楽家でもあるので、コラボでライブパフォーマンスをお願いしました。
スペースをオープンしている間は、お客さんが来るたびに待ち伏せてスローウォークを見せる「ナマ在ルクウ」というパフォーマンスをやろうと思っています。突然始まるのでびっくりすると思いますが、一緒の時空をつくっているという感覚を味わってください。
「在ルクウ」は、歩くという意味でもありますが、存在の「在る」、空間や空っぽの「空」とも引っかけています。 「在る」と「空」は、実は同じものだと思います。
ーーInstagram でも、すごくゆっくり歩いていく映像を公開していますね。
はい。太陽が昇るころに、うちの屋上を歩いています。
歩くことは、動作の中で一番ファンダメンタルなものです。誰もがする、特別ではないこと。毎日、太陽が昇るような、あたり前のことですが、特別でないことが、特別重要なのです。
やっていると毎日発見があります。
ーー「ナマ在ルクウ」では、どんな所をあ見てほしいですか?
見てほしいというより、本当に一緒にいてほしいです。
その場に一緒にいることで生まれる化学反応があるんです。
同じ空間にいると、より伝わるものがあると思います。やっぱりライブだからこそ、伝わることがあるんです。
