【僕と記憶】 #せりふ三題噺様 投稿作品

今週のお題
■セリフ
「はい、忘れ物」

■三題
・エビフライ
・三輪車
・つらら


【僕と記憶】

動き始めの一歩を躊躇うような
雪混じりの冷えた風の音

窓越しの外は白い

寒さで重くなる足どりで
僕は玄関へ向かう

『はい、忘れ物』
小走りの母が弁当袋を差し出し

『エビフライ弁当よ〜!
       気をつけて行ってらっしゃい!』

明るい母の笑顔に
僕の心が少しゆるむ


得意な季節なんてないけど
冬は内側の思考回路まで
凍るようで苦手だ


寒さが厳しくなると
さらに街は静けさを重ねてく


凍りついた街の静けさの中
半袖で元気に遊ぶ子どもや
防寒着で雪だるまになった子どもが
三輪車でニコニコ遊ぶ姿を
たまに見かける


ふと自分にもそんな頃が大昔に
あったなぁ〜と想い出を探してみる


からからと空回りする記憶


想い出の中を探して遡ろうとしても
三輪車を漕ぐ幼少期の姿も想い出も
記憶の欠片すら頭には浮かばない


『またか…、また消えたのか……』


記憶が消える
脳の損傷でも
一時的な喪失でもなく

エピソードが削がれ
記憶から消える


医者はただ首を傾げる



つららが日に照らされ
ぽつりぽつりと水滴を垂らし
気づけば無くなるのと同じように


僕の記憶も少しずつ知らないうちに
どこか遠くへと消え去っていく


僕は記憶が消え去ることに

そう、悲しみも落胆もない


ただ、たまにふと思う

『○○お探しします』 の張り紙を見かけると


『失くした記憶』も
探してくれるのだろうか?

(記憶も探せたらいいのに…、)



母という人の存在はおそらく
記憶から消えないだろう

だけどエビフライ弁当と
笑いかける母の顔は

僕の記憶から消えていく


【終】

こちらの企画に
参加させていただきました




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