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【二つの恋のかたち】──シャンソンと演歌に見る恋


恋は同じでも歌い方が違う

「恋」というものは、世界共通か。

人を好きになる。愛し合う。
忘れられない。待ち続ける。

こうした感情そのものは、フランス人にも日本人にも、それほど大きな違いはないのだろう。

けれど、その恋を歌にすると、少し違った姿が見える。

フランスのシャンソンと、日本の演歌。
どちらも、恋や別れ、人生の哀歓を歌ってきた音楽である。

ところが、そこに描かれる「恋のかたち」は、どこか違う。

シャンソンの恋には「自由」があり、
演歌の恋には「情」がある。

そんなことを考えながら、二つの音楽を聴いてみると、恋愛そのものだけではなく、それぞれの国の文化まで見えてくるような気がする。

シャンソンの恋は「私」の恋

シャンソンに登場する恋は、どこか都会的。
パリの街角、カフェ、バー、夜の街
男と女が出会い、恋をし、そして別れる

そこには悲しみもある
失恋もある
孤独もある

それでも、恋が終わったからといって、
自分の人生まで終わるわけではない。

「あなたを愛した。でも、私は私の人生を生きていく」そんな雰囲気を感じることがある。

もちろん、すべてのシャンソンがそうだというわけではない。しかし、そこには、恋に傷つきながらも、自分自身を失わない女性の姿がある。

恋をしている自分を、
少し離れたところから見つめる。

それもまた、
シャンソンの魅力なのかもしれない。

演歌の恋は「情」の恋

一方、演歌になると、恋の景色が少し変わる。

港 雪 夜汽車 古い酒場 故郷
そして、別れ。

演歌に描かれる恋には、
「忘れられない」という情念がある。
別れた人をいつまでも思い続ける。

帰らない人を待つ
忘れようとしても、忘れられない

「もう終わった恋」と頭では分かっていても、
心がついていかない。

そこに、演歌独特の「情」がある。

シャンソンが「恋をした私」を歌うとすれば、
演歌は「恋に生きる私」を歌っている。

そんな違いがあるように思う。

「去っていく恋」と「待つ恋」

二つの音楽を比べてみると、女性の描かれ方にも興味深い違いがある。

シャンソンでは、恋が終われば、
その女性は自分の人生へ戻っていく。
悲しみを抱えながらも、街を歩き、酒を飲み、
また誰かと出会う。

一方、演歌には「待つ女性」がよく登場する。
来ないと分かっていても待つ。
忘れられないから、思い出の場所へ行く。
それでも、その人を恨むことができない。

そこには、日本人が大切にしてきた「義理」や「情」、「忍耐」といった価値観も重なっているのかもしれない。

もちろん、現代の恋愛観からすれば、
ずいぶん古い女性像に見えることもある。

けれど、だからこそ演歌には、日本人の心の奥にある「情」の文化が残されている。

酒場に見る二つの恋

面白いのは、シャンソンにも演歌にも「酒」が登場することである。

酒場は、恋が生まれ、恋が終わり、
そして恋を思い出す場所でもある。
ただ、その酒の意味も少し違って見える。

シャンソンの酒は、「恋を語るための酒」
演歌の酒は、「恋を忘れるための酒」

これは私の勝手な見立て、
けれど、この違いが面白い。

酒を飲みながら恋を語るのか
酒を飲んで恋を忘れようとするのか

同じ「酒」でも、
そこに込められた感情はずいぶん違う。

恋愛観は文化を映す鏡

恋は、人間にとって普遍的なものだと思う。
それでも、それをどう表現するかは、
その国の文化によって変わる。

フランスには「個」を尊重する文化があり、
日本には「情」や「縁」を大切にしてきた文化がある。その違いが、恋の歌にも表れている。

シャンソンには、
「私は私」という恋がある。
演歌には、
「あなたを忘れられない」という恋がある。

自由な恋にも美しさがある
忘れられない恋にも美しさがある
恋とは、合理的なものではない
だからこそ、人は歌にするのだろう

二つの恋  二つの人生

考えてみれば、恋のかたちは人生そのもの。

忘れることも人生
引きずることも人生
去っていくことも人生
待ち続けることも人生

シャンソンを聴いていると、
「恋をしても、自分の人生を生きていこう」
と言われているように感じる。

演歌を聴いていると、
「人を好きになったなら、忘れられない」と言われているように感じる。

どちらも、人間の心の一面を見事に表している。

恋は自由なのか
それとも、情なのか

ただ、シャンソンと演歌を聴き比べてみると、
同じ「恋」という感情にも、国によってこんなにも違う美学があるのだと気づかされる。

恋とは、不思議なものだ。

そして、その不思議さを歌にして残してきたところに、音楽の面白さがある。

シャンソンに見る恋
演歌に見る恋

そこには、二つの国の、二つの恋のかたちがある。

(随筆随想)


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