押してダメなら
前の職場の入口には、2枚の自動ドアがあった。
ごく普通の、どこにでもある自動ドアだ。
前の仕事は、休みも時間もすべて不規則だった。
早出は朝6時半から遅出は10時半から。
土日も年末年始も関係なく、年中無休。
突発的なことがあると、朝3時半に出勤ということもあった。
入口には数名の当直が常にいて、自動ドアは24時間開閉していた。
通用口は他にもあったが暗証番号を知らなかったため、いつもこの表口から出入りしていた。
ある土曜日の早出。
時間に余裕がなく、焦りながら駆け込もうとした、その時……
1枚目の自動ドアが、開かない。
当直室からはちょうど死角になる位置だ。
なぜか私は
「自動ドアは体重で反応する」
という思い込みをしていたため、慌ててその場で飛び跳ねてみた。
当然、反応なし。
はっとして、上部のセンサーに手をかざして振ってみる。
……開かない。
時間は刻一刻と迫っている。
中から開けてもらおうとドアをドンドンとノックする。
しかし気づいてもらえない。
当直室の窓へ回ってみたが、1階とはいえ窓は高く、ブラインドも閉まっている。
大声を出しても反応はない。
再び自動ドアの前へ戻る。
飛び跳ね、手を振り、
ついには
「押せばわずかな動きで中のセンサーが反応するかもしれない」
と思い込み、ぐいぐいドアを押し始めた。
ようやく中から当直が二人、ゆっくりと歩いてきた。
私はドア越しに叫んだ。
『開けてーーー!』
そう叫ぶ私を見て2人とも口元を押さえて笑いを堪えているようだった。
しかも急いで来る気配はなかった。
中のセンサーも反応せずその様子を見て戸惑っていると
普通の引戸を開けるようにして開いた。
半笑いの当直は
『夜からセンサーの不具合みたいで…引けば開きますよ……ぐふっ、押してダメなら…』
と言いかけて吹き出してた。
『押してダメなら引いて…えっ…横に引くのもありなんですね!!』
そう意味の分からないことを言ってエレベーターに乗りどうにか間に合った。
後々知ったのだが出入り口には防犯カメラがある。
と、言うことは私の跳び跳ねたり、手を振ったりしている姿は当直室で見えていたはずだ。
しばらく観察していたのか…
まぁあの笑いを堪えてゆっくりこちらに向かってきた姿はどう見ても緊急性が高いと言う感じではなかったからそういうことだろう。
押してダメなら引いてみろ
って引くのは前後だけじゃなくて左右もありだったの?
自分の中で感動した。
でも……
押してダメなら引いてみろは
私の辞書にはない。
押してダメならもっと押してみろ(破壊も可)
これしかなかった。
自動ドア、壊さなくてよかったわ…😅
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