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コラプス・オブ・ユグドラシル 3話

前話

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――場面7 この島の正体は……?

リコが水上バイクを走らせてる最中、突如右に急旋回する。
断雷によって落ちた新しい島を見つけたからだ。

「うわぁ!?」

急な方向転換に戸惑う、イルとバド。
そんな彼らをお構いなしにリコはバイクを島に上陸させると、急にバイクが止まったせいで二人は、ものすごい勢いで砂浜に顔面ダイブする。

「オエッ……」

バドが立ち上がると、口の中に入った大量の砂を吐く。

「クソッ! 砂が鼻に……。おい、リコいきなり止まるなよ! 危ねえじゃねえか」

イルは鼻骨をつまんで、鼻に力を入れると穴から大量の砂が出る。

「何言ってんのよ! ただ乗りしてる分際で贅沢言わないで」

二人の身など気にする素振りも見せないリコは、ずかずかとした足取りで島の中へと進んでいく。

「ジッ……。島の全体の大きさ。およそ半径200メートル。40センチを超えた生物の生体反応なし」

リッキィが解析した結果を、横にいるリコに伝える。

「さっきの島と比べて、だいぶ小さいわね。家の造りもほとんどボロっちいし、レンガの家すらないんじゃない?」

そう言ったリコが見渡す限り、ほとんどが倒壊した家屋が広がる一面。

「う~ん、金目のものはなさそうね。一応あの家調べて、何もなければさっさと島を出ましょう」

唯一倒壊していない、屋根が落ちてふきぬけ状態の木の家に向かおうとするリコ。

「OKです、リコ」

その言葉に返事をするリッキィ。

「OKです、リコ」
「OKです、リコ」

しかし、その後に続けて返事する二人の少年の声。

「返事が二つ多い! てか、勝手についてくるな!」

イルとバドの声にツッコミを入れるリコ。
リコが動かなければ島を出れない二人は、暇つぶしに彼女の後を追いかけていたのだ。

家に入ると、中を物色し始める三人。

「うん? 何だこれ」

すると、イルが一冊の本を見つける。
表紙の埃を払い、ページをぱらぱらとめくる。
本の中身は絵本だった。
内容は一人の勇者が次々と凶悪な魔獣を倒していくというもの。

「へえ~。誰か有名な冒険者の英雄譚かな。となると、この島はその英雄を称える記念碑みたいな場所ってところか?」

上からイルの本を覗き込んだバドが語り掛けてくる。
自身が目指し憧れる職業が主役の物語ということもあり、夢中になってページのめくる手が止まらないイル。

「はあー……。何もないわね」

なかなか自身の目当てになる物が見つからず、ため息を吐くリコ。

「おいおい、そう嘆くなよ。ここにはロマンがあるじゃねえか!」

そんなリコに、手を広げ興奮した様子で訴えかけるバド。

「その英雄のこと? あのさ、ロマンで飯が食える? あなたたち、ユグドラシルとは違ってコラシルは貧しいの。地に足つけず、そういうロマンとか夢を持った人間はここだと早死にするのよ」
「何だ、リコ。お前、夢ないのか?」
「とっくに捨てたわよ。そんなもの、あの日に……」

バドの言葉に冷めた返事をするリコ。
彼女がおもむろに立ち上がると、廃屋を後にしようとした。

「行くぞ、イル」

リコの後をついてこうとしたバドが、ふと振り返りイルに声かける。

「いや、もうちょっと俺、ここに残っていろいろ見てみる」
「そうか。あんまり長居すんなよ」

イルを残して、リコとバドが他の場所に向かった。

リコはイルのいる廃屋とは違う、別のあばら家で見つけた一冊の本を見つけて恐る恐るページをめくる。
その本を読み進めるリコの顔は、まるで恐怖におびえる様子だった。

「イギャー!!」

次の瞬間、リコの大きな悲鳴が響き渡る。
彼女はわめきながら、読んでいる本を投げ捨てた。

「何なのよ、この絵本! 作者、頭おかしいんじゃないの!?」
「うん? どれどれ……」

バドがリコの投げ捨てた本を拾うと、パラパラとページをめくる。

「これ、絵本じゃねえぞリコ。漫画だ。ジャンルはホラーってところか? しかし、すげえ迫力のある絵だな。ビビッて投げ飛ばすのも無理はない」
「ビビってない!」

バドの言葉に強がった態度で返すリコ。
しかし、態度とは裏腹にあまりにも怖かったのか、その目にはうっすらと小さな涙も。

「リコ、これを見てください。素晴らしいものを発見しました」

リッキィが照らすレーザーサイトの先、それは小さな木箱に入ってる、人の腕と同じくらいの大きさの、剣を手にした戦士を模した白い彫刻だった。

「へえ~、なかなかにイカした彫像じゃない」
「違います、リコ。この彫刻の価値は使われた素材にあります。これはユグドラシルでも採る数に限られる鉱石――ジルホワイト石を100%フルに使い、作成された芸術品。まるで夜空を照らす月のように美しく白く輝くこの石は、コラシルの富裕層にも高く評価される嗜好品。砕いて原石にすれば、少なくとも三年分の生活費に相当」
「えっ、本当!? それじゃあ、超お宝じゃん!」

リコがウキウキな笑顔で彫刻を手に取った。

「泣いたり笑ったり、忙しい奴だな……」

その様子を見て、バドが呆れたように言い放つ。

「しかし、あれだな。さっきのイルの本と話は同じ。勇者が魔物退治をして。それに出てくる魔物をホラー調に描かれている以外は似たような内容だ。その彫刻と言い、やっぱこの島は著名な冒険者の功績を、本にして残すために作られたような場所なのか……」

だがその時、バドが読む手を止めると本を閉じ元の机の上に置いた。

「あれ、どうしたの? あんたもビビった感じ?」
「いや、違う。むしろ逆、とんだ拍子抜けだ。ここは英雄の記念碑なんかじゃなかった」

バドが落胆したような表情で語る。

「漫画に出てくる魔物だ。最後に勇者が戦っている魔物なんだが、あれは俺やイルみたいな冒険者志望みたいな奴でも倒せる、いわば雑魚敵みたいな魔物だった。そんなのを倒したことを、わざわざ本にはしない。クソッ! とんだホラ吹きものだ」
「じゃあ、この彫刻は何なのよ。誰をモチーフにして作ったの?」
「さあな。まあ、少なくともここが大した場所じゃないのは間違いない。お宝も見つけたみたいだし、イルと合流してさっさとこの島出ようぜ」

そう言うと、バドが廃屋から出て行った。

「ちょっと、出て行く出て行かないの主導権はわたし! 勝手に決めないでよ!」

そんなバドに愚痴たれながら、リコも彼の後を追う。

イルのいる廃屋に戻ったバドとリコとリッキィの一行。
そんな彼らに向かってイルが一言放つ。

「わかったんだ。この島の正体が」
「どういうことでしょう、イル」

イルの言葉にリッキィが反応した。

「あぁ、イル。先に言っとくけど、その本に出てくるような英雄を称えるような場所じゃねえぜ。全部、嘘っぱちだ」
「そう、全部嘘なんだ」
「うん!?」

バドはイルの掴みどころのない返事に戸惑いを見せる。

「ここにある全ての本に書かれている内容は、全部空想。つまり作家の作り話なんだ」

そう言うとイルは、さっきの勇者の英雄譚の絵本とは違う、一冊の本をバドたちに見せてみた。

「この島はどうやらまだ世に出てない作家志望が集まって、暮らしてたみたいなんだ。絵本作家、油絵師、彫刻家、漫画家……。ジャンルは問わず、互いに切磋琢磨し合って、創作に情熱を注いでた。これは、そのうちの一人の日記なんだが、面白いぜ。意識してるのか、自身が目指している漫画雑誌に載った新連載を忖度なく辛口で批評しているんだが、一番最後にした作品の選評はこれまでと違って手放しの賞賛なんだ」

バドはイルに手渡されたその日記をパラパラとめくると、その作品の批評を見つける。

「アラドフ戦記!」
「ああ。俺たちが一番好きな漫画で、ユグドラシルで一番売れてる漫画だ。こいつはそれが世に出たばっかの時から、その才能を見抜いてたんだ」
「そうか、それはすげえな。ん? 待て、イル。これが最後の批評? アラドフ戦記は、今年連載20周年を迎えた大長編だぞ。てことは、この島は俺たちが生まれるよりも前に……」
「ああ、断雷で落ちた」

イルが違う本を手に取ると、話をつづけた。

「断雷の原因は、この日記に書いてある。魔獣の襲来だ。死人こそ出なかったみたいだが、それは食糧庫を放棄して島の隅に避難した捨て身の策。島を出て助けを呼ぼうにも、雲海の周りを魔獣に取り囲まれ外に出れない始末」
「酷い……。それじゃあ、その人たちは……」

リコが物悲しげに言う。

「きっと毎日が怖かっただろうな。日を追うごとに刻々と、自分の寿命が擦り減っていく日々。でも、この日記はそんな暗い話じゃなくて、明るい内容だったんだ」

イルが日記を開いた。

「自分たちは恐らくここで死ぬ。だから、死ぬ間際まで作品を書き、作り続けようと。それがいつの日か、後世の人たちに見られると信じて! 日記は最後、この決意表明で終わっている。その後のことはわからない。自決したのか、そのまま命尽きるまで島に留まったのか、あるいは一粒の望みを賭けて戦いに挑んだのか……」

物思いにふけるようにイルは空を見上げた。

「それは何だ?」

イルがリコの手に持つ彫刻について尋ねる。

「ああ、これ? そうね……。大事なお守りにでもしようかしら」

リコは彫刻を壊し、現金に換えようと思っていたがイルの話を聞き考えを改めた。

「なあ、イル。ここにある作品何個か持って帰れねえかな?」

日の目を見ないことにもどかしさを感じたバドがイルに提案する。

「う~ん、そうしたいのは山々だけど……。今の俺たちに持ち抱えられるほどの余裕は……」
「あら……? それなら大丈夫よ。私のバイクの後ろにちょっとだけスペースあるから」

場面変わって、リコが水上バイクでコラシルの海上を駆け抜けるシーン。

「あのさ、乗っけてくれたのはいいんだけど……」

イルが海風を浴びながら、一人ぼやく。

「そのスペースに俺たちも乗せてくれねえかな!」

蔦を伸ばし、ウェイクボードのように走るイルの愚痴が海上に響き渡る。
イルたちの冒険はまだまだ続く。


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