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宮廷賢者アルトリア 第4話「炎に消えた真実」

第4話「炎に消えた真実」

バーンズ・フィリアの屋敷・書斎 夜

静かな部屋。
大きな本棚が並び、数多くの書物が整然と並べられている。

バーンズ・フィリアは窓辺に立ち、遠くを見つめている。
その顔には、年齢を重ねた分の深みと疲れが見える。

扉が開く。
ピエール・フィリアが入ってくる。

ピエール
「兄上」

バーンズは静かに振り返り、穏やかな表情でピエールを見る。

バーンズ
「どうであった?」

ピエールは一歩前に進む。

ピエール
「読み通りでした。ラドフォード商会を動かしていたのは、貴族でした」

バーンズは冷静に聞き、しばらく黙っていた。

バーンズ
「……その貴族はどうなった?」

ピエールは少し間を空けると、静かに答える。

ピエール
「すべての爵位剥奪の上で、都を追放されました。黒幕を暴いたのはアルトリアです」

バーンズは驚いたように目を見開く。

バーンズ
「アルトリア……あの子がか?」

ピエール
「はい。宮廷賢者として立派にやっております」

バーンズは目を細め、遠くを見る。

バーンズ
「そうか……」

バーンズはその場で少し考え込む。

バーンズ(心の声)
(成長を見届けてやれなかったというのに、いつの間にか立派になったものだ)

アルトリアの家・書斎 夜

暖炉の火が静かに燃えている。
アルトリアはソファに座り、本を開いている。
彼の顔は真剣で、ページをめくる手が止まる。

アルトリア(心の声)
(何故だろう……)

アルトリアは本を一時的に閉じ、静かに目を閉じる。

アルトリア(心の声)
(……あの人のことを、思い出す……)

アルトリアの目には、わずかな迷いと懐かしさが浮かんでいる。
本を置き、背もたれに寄りかかる。

アルトリアは自分でも気づかぬうちに、過去の記憶を思い起こしていた。
彼の心の中には、遠い昔の人物――バーンズ・フィリアが、静かに存在している。

アルトリア
「……なぜだろう」

アルトリアは立ち上がり、窓の外を見つめる。
その目は、過去と未来を見つめるような、複雑な感情を抱えている。

王宮・国王執務室 昼

重厚な扉の前にアルトリアが書類を手に立っている。
近衛騎士が扉を開く。

近衛騎士
「宮廷賢者アルトリア様が参りました」

レオニス
「入れ。」

アルトリアが静かに入室する。
レオニスは机に向かって書類に目を通している。
アルトリアは机の前まで進み、一礼する。

アルトリア
「陛下。先日摘発された貴族に関する調査が完了しました」

アルトリアは報告書を差し出す。

アルトリア
「脱税の証拠、および不正な資金の流れをまとめた報告書です」

レオニスはそれを受け取り、目を通す。

沈黙。

ページをめくる音だけが響く。

やがて――

レオニス
「……見事だ。これほど短期間で、ここまで調べ上げるとはな」

アルトリアは静かに答える。

アルトリア
「宮廷賢者として当然の務めです」

レオニスは書類を閉じる。

レオニス
「……ご苦労。後はこちらで対応しよう。下がってよい」

アルトリア
「失礼いたします」

アルトリアは一礼し、静かに部屋を出る。

王宮・回廊 昼

明るい回廊をアルトリアが一人で歩いている。
その時――

侍女A
「あっ……!」

侍女B
「アルトリア様!」

アルトリア
「え?」

侍女たちが駆け寄ってくる。

侍女A
「先日の事件、すごかったですね!」

侍女B
「ラドフォード商会の件も、アルトリア様が解決されたとか!」

侍女C
「本当に素敵です!」

アルトリアは戸惑う。

アルトリア
「あ、いえ……僕一人の力ではありません……」

侍女たちは目を輝かせている。

侍女A
「謙虚なところも素敵です!」

侍女B
「さすが宮廷賢者様です!」

アルトリア
「え、えっと……」

完全に囲まれてしまう。

アルトリア(心の声)
(ど、どうすればいいんだ……)

その時――後ろからすっと伸びてくる白い手がアルトリアの手を掴む。

アルトリア
「え?」

振り向く。
そこにいたのは――セリア。
その表情は微笑んでいるが、目は笑っていない。

セリア
「アルトリア」

侍女たちが慌てて頭を下げる。

侍女たち
「セリア姫様!」

セリアは彼女たちを一瞥し、何も言わずにアルトリアの手を引く。

アルトリア
「え、え~っと姫様?」

セリアはそのまま歩き続ける。
回廊の角を曲がり、人気のない場所へ来る。 
そこでようやく手を離す。

アルトリア
「姫様……?」

セリアはアルトリアを見つめる。

セリア
「……美人に囲まれてたわね」

アルトリア
「え?」

セリア
「ずいぶん楽しそうだったじゃない」

アルトリア
「え!?いえ、あれは……突然だったので……」

セリア
「そう」

短い返事。明らかに不機嫌。

アルトリア
「……?」

アルトリアは困惑している。

アルトリア(心の声)
(……セリア姫はなんで不機嫌そうなんだ?)

セリアは視線を逸らす。

セリア(心の声)
(……何を言っているの、私は。まるで……嫉妬しているみたいじゃない)

セリアは小さく息を吐く。

セリア
「……仕事は終わったの?」

アルトリア
「はい」

セリア
「なら――」

一瞬迷う。だが決意する。

セリア
「少し、付き合いなさい」

アルトリア
「え?」

セリアは歩き出す。アルトリアは慌てて後を追う。

アルトリア(心の声)
(……やっぱり姫様の考えていることは、よくわからない)

だが――なぜかその背中から目が離せなかった。

王宮・庭園 昼

王宮の奥にある庭園。
色とりどりの花が咲き、中央には静かな噴水。
風が優しく木々を揺らす。

セリアが先を歩き、アルトリアが少し後ろをついていく。
やがて、セリアが立ち止まる。アルトリアも止まる。

沈黙。

鳥のさえずりだけが聞こえる。

アルトリア
「……姫様?」

セリアは噴水の方を見たまま言う。

セリア
「ここなら、誰も来ないわ」

アルトリア
「は、はあ……」

アルトリアはまだ状況が理解できていない。
セリアは振り返る。

セリア
「あなた」

アルトリア
「はい」

セリア
「最近、忙しそうね」

アルトリア
「はい。やるべきことが多くて」

セリア
「……そう」

一歩、近づく。

セリア
「無理はしていない?」

アルトリアは少し驚く。

アルトリア
「いえ、大丈夫です。姫様や陛下が信頼してくださっているので」

セリアの瞳がわずかに揺れる。

セリア
「……信頼」

アルトリア
「はい。それに――」

アルトリアは少し微笑む。

アルトリア
「姫様がいるので」

セリア
「……!」

セリアの心臓が大きく跳ねる。

セリア
「……どういう意味?」

アルトリア
「え?姫様は、僕を王宮へ招いてくださいました。そして、ずっと支えてくださっています。だから僕は安心して、自分の役目を果たせます」

真っ直ぐな瞳、偽りのない言葉。
セリアは目を逸らす。

セリア(心の声)
(……ずるい。そんな顔で言われたら……)

セリア
「……あなたは」

アルトリア
「はい?」

セリア
「自分がどれほど注目されているか、わかっているの?」

アルトリア
「え?」

セリア
「宮廷の者たち、騎士団、侍女たち……」

セリアは少し言葉を詰まらせる。

セリア
「……皆、あなたを見ている」

アルトリアは首を傾げる。

アルトリア
「そう……なのですか?」

セリア
「本当に気づいていないの?」

アルトリア
「はい……」

セリアはため息をつく。

セリア
「……変な人」

アルトリア
「すみません……」

セリアは少し笑う。

セリア
「謝ることじゃないわ」

沈黙。

風が吹く。
セリアはアルトリアを見る。その瞳は戦場の騎士ではなく、一人の少女のものだった。

セリア
「アルトリア」

アルトリア
「はい」

セリア
「……危険なことは、しないで」

アルトリア
「え?」

セリア
「あなたは――」

一瞬言葉を止める。だが勇気を出して言う。

セリア
「王国にとって、必要な人だから」

アルトリアは静かに頷く。

アルトリア
「はい。約束します。必ず、生きて役目を果たします」

セリアの胸が熱くなる。

セリア(心の声)
(違う……そうじゃない……私は……)

だが、その言葉は口にできない。
代わりに小さく微笑む。

セリア
「……なら、いいわ」

噴水の水音が、静かに響いていた。
二人の距離は確実に近づいていた。

王都外れ・屋敷 夜

静かな夜、月明かりが建物を照らしている。
周囲には人の気配はない。
風が吹き、建物の扉がわずかに軋む。

突如屋敷が――

ボッ!!

燃え上がる。
炎は瞬く間に広がり、建物を包み込む。
夜空が赤く染まる。

同時刻・王都騎士団詰所

鐘が鳴り響く。

騎士
「火事だ!!王都外れで火災発生!」

騎士団が一斉に動き出す。

火災現場 夜

騎士団が到着している。バージルが指揮を取っている。

バージル
「水を運べ!」

騎士団
「はっ!」

騎士たちが連携し、火を抑え込む。

炎は激しいが、やがて徐々に弱まっていく。
時間が経過し火は消し止められる。
建物は――完全に焼け落ちていた。

バージルは焦げ跡を見つめる。

バージル
「……犠牲者は?」

騎士
「いません」

バージル
「そうか……」

だが、バージルの表情は険しい。

バージル(心の声)
(偶然の火災か……?)

翌朝・火災現場

朝日が昇る。
焼け跡からは、まだ煙が上がっている。

そこへアグニスとドルゴンが到着する。
アグニスは腕を組み、焼け跡を見渡す。

アグニス
「こりゃあ……やべえな〜」

ドルゴンは真剣な表情で現場を観察している。

ドルゴン
「報告によれば、原因は不明だそうです」

アグニス
「原因不明?」

アグニスはしゃがみ、焼けた地面を見る。

アグニス
「……妙だな」

ドルゴン
「兄上も、そう思われますか?」

アグニス
「自然発火にしちゃあ、燃え方がきれいすぎる」

ドルゴンは頷く。

ドルゴン
「僕も同じ考えです。まるで――意図的に燃やされたかのようです」

沈黙。

アグニスは立ち上がる。

アグニス
「……父上に報告だ」

ドルゴン
「はい」

ドルゴンの瞳が鋭くなる。

ドルゴン(心の声)
(これはただの火事ではない)

煙が静かに空へと昇っていた。

王宮・謁見の間 朝

王座に――レオニス。
その前に、アグニスとドルゴンが立っている。
横には、王太子ガイナス、第1王女セリア、第2王女エリス、第3王女ユリナ、全王族が揃っている。

空気が重い中、アグニスが報告する。

アグニス
「――以上が、現場の状況です。建物は完全に焼失。原因は――」

一瞬、言葉を止める。

アグニス
「不明です」

沈黙。

レオニスの目が細くなる。

レオニス
「原因がわからんだと?」

アグニス
「……はい」

アグニスの表情は真剣。
レオニスは何も言わず、ゆっくりと目を閉じる。

静寂。

誰も言葉を発しない。

レオニス(心の声)
(あの別荘が……燃やされた。なぜだ。あの男はこの腐敗した宮廷の中で、数少ない良心だった)

回想――

臣下が民の嘆願を真剣に聞いている姿。臣下が腐敗貴族に対して異議を唱える姿。

回想終わり――

レオニス(心の声)
(なぜ、このタイミングで……ラドフォード商会の件が終わった直後に。偶然ではない。これは――警告か?)

レオニスの目が開く。
その瞳には、王としての決意と警戒が宿っている。

ガイナスが静かに言う。

ガイナス
「父上。放火の可能性も考えるべきかと」

レオニス
「……考えている」

セリアの拳がわずかに握られる。

セリア
「民を守る臣下の屋敷を狙うなど……許せません」

エリス
「卑劣です……」

ユリナ
「……どうして、そんなことを……」

ドルゴンが冷静に言う。

ドルゴン
「意図があるはずです。これは単なる破壊ではなく、何かを隠すためか、あるいは誰かへの威嚇」

沈黙。

レオニスはゆっくりと立ち上がる。王の威厳が空間を支配する。

レオニス
「……アルトリアを呼べ」

その一言に全員がわずかに反応する。
セリアの瞳が揺れる。

セリア(心の声)
(アルトリア……)

ガイナスは小さく微笑む。

ガイナス(心の声)
(父上は完全に信頼しているな。)

アグニスは腕を組む。

アグニス
「アルトリアなら、何か見つけるかもしれませんな」

レオニスは静かに頷く。

レオニス
「この炎の裏にある真実を暴けるのは、あの者だけだ」

その時――

衛兵
「陛下。別荘の主、カイゼル卿が参りました」

レオニス
「通せ」

扉が開く。
入ってきたのは年配の貴族――カイゼル卿。

彼は明らかに動揺している。

カイゼル卿
「陛下!」

カイゼル卿は膝をつく。

カイゼル卿
「わ……私の別荘が……本当に火事にあったのですか!?」

声が震えている。

レオニスは静かに答える。

レオニス
「そうだ。そなたの別荘は、昨夜全焼した」

カイゼル卿の顔から血の気が引く。

カイゼル卿
「そ、そんな……」

すぐに顔を上げる。

カイゼル卿
「別荘にいる人間は!使用人たちは!全員無事ですか!?」

レオニス
「心配ない。騎士団の迅速な対応により、全員無事だ」

カイゼル卿はホッとする。

カイゼル卿
「……よかった……本当に……よかった……」

セリアがその姿を見て、

静かに目を伏せる。

セリア(心の声)
(この方は……民を何より大切にする方。それなのに……)

沈黙。

その時――

衛兵
「宮廷賢者アルトリア様が参りました」

扉が開く。
アルトリアが入ってくる。
堂々と歩み、王の前で跪く。

アルトリア
「お呼びでしょうか、陛下」

レオニス
「昨夜、カイゼル卿の別荘が焼失したことは知っているか?」

アルトリア
「……はい」

レオニス
「原因は不明。そなたはどう見る?」

謁見の間の全員の視線が、アルトリアに集中する。
アルトリアは静かに顔を上げてカイゼル卿を見る。
その怯え、その悲しみ。

そして、王族たちを見る。
最後に――レオニスを見る。

アルトリアは静かに言う。

アルトリア
「……お話を聞く限り――」

一瞬の静寂。

アルトリア
「ほぼ放火で間違いないでしょう」

場の空気が凍る。

エリス
「……!」

ユリナ
「放火……」

アグニスが低く唸る。

アグニス
「やっぱりな……」

ドルゴンの目が鋭くなる。

ドルゴン
「根拠は?」

アルトリアは冷静に答える。

アルトリア
「はい。まず犠牲者が出ていない点です」

カイゼル卿
「……え?」

アルトリア
「通常の火災であれば、深夜の別荘で全員が無事というのは不自然です。これは――火が“逃げられるタイミング”で放たれた可能性が高い」

セリアが気づく。

セリア
「……脅し」

アルトリアは頷く。

アルトリア
「はい。殺すためではなく、示すための火」

沈黙。

レオニスの瞳が鋭く光る。

レオニス
「誰が……何のために」

アルトリアは静かに答える。

アルトリア
「それは――現場を調べればわかります。必ず」

その瞳には、絶対の確信があった。
セリアはその姿を見つめる。

セリア(心の声)
(アルトリア……あなたなら――真実に辿り着ける)

王都外れ・焼失した別荘跡 昼

黒く焼け焦げた建物の残骸。
焦げた木材、崩れた石壁、まだ煙の匂いが残っている。

アルトリア、ジェームズ、ダイムの三人が到着する。

ジェームズ
「……ひどいですね」

ダイム
「完全に燃え尽きています……」

アルトリアは何も言わず、ゆっくりと歩いて焼け跡を見つめる。
しゃがみ込んで地面に触れる。

アルトリア
「……ジェームズ」

ジェームズ
「はい!」

アルトリア
「建物の外周を調べてくれ。特に――火の広がり方を」

ジェームズ
「わかりました!」

ジェームズは走って調査に向かう。

アルトリア
「ダイム」

ダイム
「はい」

アルトリア
「地面の匂いを確認してくれ。油の痕跡があるはずだ」

ダイム
「……油?」

アルトリア
「おそらくね」

ダイム
「わかりました」

ダイムは慎重に調べ始める。
アルトリアは焼けた柱の跡を見る。

アルトリア(心の声)
(火点は……複数。しかも建物の外側から)

数分後――ジェームズが戻ってくる。

ジェームズ
「アルトリア様!火の広がり方が不自然です!」

アルトリア
「どう不自然だ?」

ジェームズ
「普通なら中心から広がるはずなのに、外周から内側に燃えています!」

アルトリア
「やはり」

その時、

ダイムも戻る。

ダイム
「アルトリア様、油の匂いが残っています。複数箇所に」

アルトリアは立ち上がる。

アルトリア
「……間違いない。放火だ」

ジェームズとダイムが息を呑む。

ジェームズ
「やはり……」

ダイム
「誰がこんなことを……」

アルトリアは焼け跡を見つめる。

アルトリア
「目的は――破壊ではなく威嚇だ」

ダイム
「威嚇……」

アルトリア
「殺す気なら、夜中に逃げられない形で火を放つ。だが今回は違う。逃げる時間を与えている」

ジェームズ
「つまり……」

アルトリア
「見せしめだ」

アルトリアの瞳が鋭くなる。

アルトリア
「王国の“良心”に対する」

王宮・謁見の間 夕方

レオニスが王座に座っている。
アルトリア、ジェームズ、ダイムの三人が前に立つ
王族も同席している。

アルトリアが報告する。

アルトリア
「現場調査の結果をご報告いたします」

レオニス
「申せ」

アルトリア
「火は複数箇所から同時に放たれています」

ざわめき。

ドルゴン
「同時に……」

アルトリア
「さらに、地面から油の痕跡を確認しました」

ガイナス
「油……」

アルトリア
「自然発火の可能性は完全に否定されます」

沈黙。

アルトリアは続ける。

アルトリア
「これは……明確な意志を持った放火です」

レオニスの瞳が鋭くなる。

レオニス
「目的は?」

アルトリア
「威嚇です」

セリア
「威嚇……」

アルトリア
「別荘の主を殺すことではなく、恐怖を与えること。そして――」

アルトリアは一瞬止まる。

アルトリア
「警告です」

アグニス
「誰への警告だ?」

アルトリアは王を見る。

アルトリア
「……王国そのものへ」

静寂。

レオニスの表情は変わらない。
だが瞳の奥が燃えている。

レオニス
「続けよ」

アルトリア
「犯人は王国の内部事情をよく知る者、そしてカイゼル卿の思想を危険視している者です」

ガイナスが低く言う。

ガイナス
「……貴族か?」

アルトリア
「可能性は高いでしょう」

沈黙。

レオニスはゆっくりと言う。

レオニス
「アルトリア」

アルトリア
「はい」

レオニス
「犯人を見つけ出せ。この王国に潜む腐敗を」

アルトリアは深く頭を下げる。

アルトリア
「必ず」

セリアはその背中を見る。

セリア(心の声)
(アルトリア……あなたは今王国の闇に踏み込もうとしている)

王宮・宮廷賢者執務室 夜

夜。
執務室にはランプの灯りだけ。

机の上には、

・焼け跡の図面
・別荘の構造図
・カイゼル卿の資料
・王宮の記録文書

アルトリアが机に向かっている。
ジェームズとダイムもいる。

静寂。

ジェームズ
「アルトリア様……」

アルトリア
「……」

返事はない。
アルトリアは図面を見つめている。

ダイム
「放火なのは間違いありません。ですが……威嚇のためだけにここまでやるでしょうか?」

アルトリア
「……そこだ」

ジェームズ
「え?」

アルトリアはゆっくりと顔を上げる。

アルトリア
「威嚇だけなら燃やす必要はない」

ジェームズ
「!」

ダイム
「どういうことですか?」

アルトリアは図面の一点を指す。

アルトリア
「火はこの部屋から始まっている」

ジェームズ
「ここは……」

ジェームズは資料を見る。

ジェームズ
「書斎です」

アルトリア
「そう、そして最も激しく燃えているのも、この部屋だ」

ダイム
「つまり……」

アルトリア
「犯人の目的は――」

アルトリアは静かに言う。

アルトリア
「建物ではない。書斎にあった“何か”だ」

沈黙。

ジェームズ
「何か……?」

アルトリア
「証拠だ」

ダイム
「証拠……」

アルトリアの瞳が鋭くなる。

アルトリア
「犯人は……証拠を消すために放火した」

衝撃。

ジェームズ
「証拠隠滅……!」

ダイム
「では……カイゼル卿は何かを掴んでいた?」

アルトリア
「そう考えるのが自然だ」

アルトリアは静かに立ち上がる。

アルトリア(心の声)
(カイゼル卿は良心の臣下。腐敗を許さない人物。つまり彼は、“腐敗の証拠”を掴んでいた)

アルトリアの目が細くなる。

アルトリア
「そして――その証拠が消された今、犯人は安心しているはずだ」

ジェームズ
「では……どうやって犯人を……」

アルトリアは振り返る。

アルトリア
「簡単だ」

ジェームズとダイムが息を呑む。

アルトリア
「証拠がなくても、“証拠を消した者”は存在する」

ダイム
「……!」

アルトリアはある紋章の入った首飾りを見せる。

アルトリア
「さっき騎士団に聞いたらこれを拾ったそうだ。これの持ち主に直接問いただす」

ジェームズ
「直接……」

アルトリア
「犯人は――必ず動揺する」

アルトリアの瞳に確信が宿る。

アルトリア
「証拠を消したという事実は消せない」

沈黙。

ジェームズとダイムは、初めて見るアルトリアの“戦う者の顔”を見る。

ジェームズ(心の声)
(これが……宮廷賢者……)

ダイム(心の声)
(アルトリア様は……闇の中に踏み込む覚悟をしている)

アルトリアは静かに言う。

アルトリア
「明日犯人に会いに行く」

王宮・レオニス私室 夜

レオニスが中央の机に座っている。
部屋には、騎士団長ルーク。
そして――一人の貴族。

男の名は、ヴァレンツ・グラディウス公爵
王国有数の大貴族。

表情は平静。
だがその額にはわずかな汗。

レオニスが静かに言う。

レオニス
「ヴァレンツ」

ヴァレンツ
「は」

レオニス
「此度のカイゼルの別荘放火の犯人は――」

沈黙。

レオニスの視線が突き刺さる。

レオニス
「そなたであろう?」

空気が凍る。
ヴァレンツの瞳が揺れる。
だがすぐに、表情を整える。

ヴァレンツ
「……何を仰います?この私が、そのような卑劣な真似をするなどありえませぬ」

ヴァレンツは堂々としている。
長年、宮廷を生き抜いた男の余裕。

レオニスは無言。

そして静かに言う。

レオニス
「入れ」

扉が開く。
入ってきたのはアルトリア。

アルトリアは王の前で跪く。

アルトリア
「お呼びでしょうか?陛下」

レオニス
「アルトリア。この者が犯人だと報告したのはそなただ。そなたから説明してやれ」

アルトリア
「……はい」

アルトリアは立ち上がる。
そしてヴァレンツを見る。
ヴァレンツもアルトリアを見る。
若造を見るような目。

ヴァレンツ
「……ほう。この子供が、私を犯人だと?」

アルトリアは動じない。

アルトリア
「ヴァレンツ公爵。あなたはカイゼル卿を危険視していましたね?」

ヴァレンツの瞳が一瞬揺れる。

ヴァレンツ
「……根拠のない発言だな」

アルトリア
「カイゼル卿は、貴族による不正の調査を進めていました」

沈黙。

ヴァレンツの指がわずかに動く。

アルトリア
「そして、その調査資料は別荘の書斎に保管されていた」

ヴァレンツ
「……だから何だと言うのだ」

アルトリア
「あなたはそれを消した」

空気が張り詰める。

ヴァレンツの額に汗。
だがまだ崩れない。

ヴァレンツ
「証拠は?証拠もないのに、この私を疑うと?」

アルトリアは先ほどの首飾りを見せながら静かに言う。

アルトリア
「証拠は――これです」

ヴァレンツ
「……何?」

アルトリア
「現場に落ちていたところを騎士団が見つけました。この紋章は確か――グラディウス家のものでしたね」

ヴァレンツの呼吸がわずかに乱れる。
アルトリアは続ける。

アルトリア
「これはこの国でも有数の貴族の当主にしか持つことを許されない首飾り。これの模造品を作ることは国家の法で禁止されている。つまり――放火犯はグラディウス家の当主」

アルトリアは一歩、近づく。

アルトリア
「それがあなたです」

沈黙。

完全な沈黙。

ヴァレンツの瞳が初めて明確に動揺する。
レオニスはその様子を一切見逃さない。

アルトリア
「当主にしか持つことを許されない首飾りを持ったまま犯行に及んだのが失敗でしたね」

アルトリアの瞳が真っ直ぐに突き刺さる。

アルトリア
「ヴァレンツ公爵。あなたが――放火犯です」

完全な静寂。

ヴァレンツの顔に初めて“恐怖”が浮かぶ。
レオニスが静かに言う。

レオニス
「ヴァレンツ。弁明はあるか」

王の言葉。
逃げ場はない。
炎の真実が今、暴かれようとしていた。

重い沈黙。

ヴァレンツ・グラディウス公爵は額から汗を流している。
やがて――ヴァレンツの膝が崩れる。

ヴァレンツ
「……くっ…………はは……はははは……」

乾いた笑い。

ヴァレンツ
「……さすがは宮廷賢者……ここまで見抜くとはな……」

レオニス
「……認めるのだな?」

ヴァレンツは俯いたまま答える。

ヴァレンツ
「……はい。放火をしたのは――この私です」

静寂。

ルークの拳が握られる。
レオニスの瞳が鋭くなる。

レオニス
「理由は?」

ヴァレンツはゆっくりと顔を上げる。

ヴァレンツ
「……カイゼルは……私を告発しようとしていた」

アルトリアの瞳がわずかに揺れる。

アルトリア
「……何を告発するために?」

ヴァレンツはアルトリアを見る。

ヴァレンツ
「……前宰相。バーンズ・フィリア様のご子息達のことを……」

その瞬間――アルトリアの表情がわずかに変わる。

ほんの一瞬。

だが確かに。

レオニスが低く言う。

レオニス
「……バーンズ。前宰相バーンズの長男と次男は病死。三男は行方がわからないというが――」

レオニスの瞳が鋭く光る。

レオニス
「そなたが関わっているのか?」

沈黙。

ヴァレンツの唇が歪む。

ヴァレンツ
「……病死?……いいえ。殺しました」

空気が凍る。

ルーク
「……!」

レオニス
「……誰が?」

ヴァレンツ
「我らの派閥だ。バーンズは腐敗を正そうとしていた。我らの邪魔だった。だから2人の息子から消した」

沈黙。

アルトリアの呼吸がわずかに乱れる。
ヴァレンツは続ける。

ヴァレンツ
「だが――三男は違った」

レオニス
「……何?」

ヴァレンツ
「三男は――生きている」

その言葉にアルトリアの瞳が大きく開く。

ヴァレンツ
「我らは殺せなかった。逃げられたのだ」

沈黙。

そして――ヴァレンツはゆっくりとアルトリアを見る。

ヴァレンツ
「……そういえば……貴様の姓もフィリアであろう……?」

完全な静寂。

ヴァレンツの目が見開かれる。

ヴァレンツ
「ま……まさか……もしや……貴様が――」

アルトリアの顔から血の気が引く。瞳が揺れる。
手がわずかに震える。

アルトリア
「……」

呼吸が浅くなる。

アルトリア
「へ……陛下……」

声が震える。

アルトリア
「少し……体調が……すぐれませんので……本日は……これで……早退いたします……」

レオニスはアルトリアを見て静かに答える。

レオニス
「何……?構わぬ」

アルトリアは深く頭を下げる。

アルトリア
「……失礼いたします」

アルトリアは振り返る。
扉へ向かうが足取りがわずかに不安定。

ヴァレンツは恐怖の目でアルトリアを見る。

ヴァレンツ(心の声)
(あの目……あの髪……まさか……)

扉が開き、アルトリアは外へ出る。

アルトリアの屋敷・書斎 夜

静かな夜。
窓の外には王都の灯り。

机の上には開かれたままの書物。
だがアルトリアは椅子に座ったまま、虚ろな目で宙を見つめている。

アルトリア(心の声)
(バーンズ・フィリア……前宰相……そして――フィリア家の三男……)

アルトリアの手が震える。

アルトリア
「……やはり……やはり戻ってくるべきではなかった……」

アルトリアは立ち上がり、拳を握る。

アルトリア
「この地獄のような都に……!」

アルトリアは頭を抱える。呼吸が乱れる。

アルトリア
「……僕は……何のために……」

その時――

コンコン。

扉がノックされる。

アルトリア
「……入って」

召使いが入ってくる。

召使い
「アルトリア様。お客様がお見えです」

アルトリア
「……こんな時間に?」

召使い
「はい。お通ししてよろしいでしょうか?」

アルトリアは一瞬迷う。
そして小さく頷く。

アルトリア
「……通して」

召使い
「かしこまりました」

召使いは出ていく。

静寂。

扉が開く。
ゆっくりと、一人の老人が入ってくる。
白髪に深い皺。
だが、その瞳には鋭い知性。

アルトリアの呼吸が止まる。

アルトリア
「……!」

バーンズ・フィリア。
前宰相にして伝説の大賢者。

二人は見つめ合う。
長い沈黙の後、アルトリアは静かに言う。

アルトリア
「……下がってくれ」

召使い
「ですが……」

アルトリア
「二人きりで話したい」

召使い
「……承知いたしました」

召使いは部屋を出る。
扉が閉まる。

二人だけの空間。アルトリアの瞳が揺れる。
そして――アルトリアはゆっくりと口を開く。

アルトリア
「……お久しぶりです……」

声が震える。

アルトリア
「……父上」

バーンズの瞳がわずかに潤む。

バーンズ
「……ああ。本当に久しぶりだ……」

バーンズは一歩、近づく。

バーンズ
「我が息子――アルトリアよ」

第4話 完

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