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宮廷賢者アルトリア 第13話「ベルナード三王訪問」

第13話「ベルナード三王訪問」

カーン邸

王都レグナリアの貴族街。
その中でもひときわ広大な屋敷――カーン家の屋敷。旧貴族派の中心人物、アントニウス・カーンの邸宅である。

重厚な書斎。壁には古い王国の地図や書物が並んでいる。

机の前に座り、書類に目を通しているアントニウス・カーン。
その扉が静かに開く。入ってきたのは息子――オリオン・カーン。

オリオンは恭しく頭を下げる。

オリオン
「父上」

アントニウス
「……どうした?」

オリオンは懐から一通の書状を取り出す。

オリオン
「姉上から書状が届いております」

アントニウスはゆっくりと手を差し出す。オリオンは書状を渡す。封蝋にはベスティナ王家の紋章。
アントニウスはそれを開く。静かな部屋に紙の擦れる音だけが響く。

しばらく読み進めると――アントニウスの口元がゆっくりと歪む。

アントニウス
「……なるほど。近々、デモガンと共にレグナスを訪れるか」

オリオンは淡々と聞いている。

オリオン
「ベルナード連合の盟主争いの件でしょうか?」

アントニウスは椅子に深く座り直す。
窓の外――夜のレグナリアの灯りを見つめる。そして不敵に笑う。

アントニウス
「ベルナード連合は今――3つの王国が盟主の座を争っている」

オリオン
「マラリカ、ベスティナ、ユーラス」

アントニウス
「そうだ。だが、その争いもまもなく終わる」

アントニウスは机の上の地図を指でなぞる。
南方――ベルナード地方。

アントニウス
「私の娘婿……デモガン・ベスティナをベルナードの盟主にする」

オリオンの目がわずかに細くなる。

オリオン
「そうなれば……」

アントニウスは言葉を続ける。

アントニウス
「ベルナード連合は我が影響下に入る。そして――」

アントニウスはゆっくりと立ち上がる。

アントニウス
「レグナス王国。この国も、いずれ私のものになる」

オリオンは静かに尋ねる。

オリオン
「アルトリア・フィリアはどうしますか?」

アントニウスの口元が再び歪む。

アントニウス
「……あの小僧か。少しばかり頭が切れるようだが、所詮は若造だ」

アントニウスは低く笑う。

アントニウス
「レグナスとベルナード……両方を手に入れれば、この大陸は私のものになる」

そして――アントニウスは不敵に笑った。
暗い書斎にその笑い声が静かに響いた。

レオニスの部屋

王城レグナリア。
国王の執務室――重厚な机の上には数通の外交文書が置かれている。

その前で腕を組みながら考え込んでいるのはレグナス王国国王レオニス・レグナード。
部屋には外務長官のテイラル・ホルン、宰相のロバート・ガルサ、そして王族たちが集まっていた。

レオニスが口を開く。

レオニス
「……マラリカ、ベスティナ、ユーラスの国王がこの王都に来るというのか?」

テイラル
「はい……」

テイラルは深刻そうな顔でうなずく。

ロバート
「面倒なことになりましたな……」

レオニス
「ああ……」

レオニスは額に手を当て深くため息をつく。

レオニス
「なぜこのタイミングで三国の王が同時に来る……?」

部屋の空気が重くなる。
王族たちも父の様子を静かに見ていた。

ユリナが首をかしげる。

ユリナ
「マラリカ、ベスティナ、ユーラスはベルナード連合の有力国のはずです。どこが面倒なのですか?」

ユリナの純粋な疑問にセリアが静かに口を開く。

セリア
「……ベルナード連合はね、小国の連合国家なの。多くの国は君主が“公”を名乗っている」

ユリナ
「そうでしたね」

セリア
「でも――マラリカ、ベスティナ、ユーラス、この三国だけは君主が王を名乗っているの」

ドルゴン
「つまり……」

セリア
「ベルナード連合の盟主は基本的にこの三国の王の中から選ばれるのよ」

ユリナ
「なるほど……」

セリアは続ける。

セリア
「そして、前盟主だったユーラスの先王が亡くなった。その結果――この三国の王が盟主の座を争っている」

部屋がさらに静まり返る。

ユリナ
「……っ」

ユリナはごくりと唾を飲み込む。

ユリナ
「その三国の王が……同時にここに来るということは……」

ガイナス
「レグナスの支持を取り付けに来る可能性が高い」

アグニス
「つまりレグナスがどこを支持するかで、ベルナード連合の盟主が決まる」

エリス
「外交問題どころじゃないですね……」

ロバートが低く言う。

ロバート
「下手をすればベルナード連合が分裂しますな」

テイラル
「あるいは戦争になる可能性もあります」

レオニスは椅子に深く座る。
しばらく黙ったあと低く呟く。

レオニス
「……やれやれ。国家改革で忙しいというのに今度は南方か」

レオニスは窓の外を見る。遠くに王都レグナリアの街が広がる。

レオニス
「レグナス王国は大陸最大の国家だ。だからこそ誰もが我らの力を利用しようとする」

レオニスはゆっくり立ち上がる。

レオニス
「三王を迎える準備をしろ」

テイラル
「はっ」

レオニス
「そして――」

レオニスはセリアを見て言う。

レオニス
「警備を強化せよ」

セリア
「お任せください」

レオニスは最後に言う。

レオニス
「これはただの外交ではない。大陸の勢力図が動く可能性がある」

王城の空気が緊張に包まれた。

王都レグナリア 城門前

城門付近は普段よりも多くの兵士が配置され、街の空気はどこか緊張している。
騎士たちが行き交い、警備兵たちは忙しく持ち場につく。

その様子を見ながらジェームズが歩いていた。隣には六軍将第六将リーナ・レイソル。
ジェームズは周囲の厳重な警備を見回す。

ジェームズ
「……ずいぶんと城門の前の警備が厚いですね」

リーナ
「はい」

リーナは静かにうなずく。

リーナ
「ベルナード連合の三国。マラリカ、ベスティナ、ユーラス。その三国の王が同時に王都へ来るそうです」

ジェームズは納得したように息をつく。

ジェームズ
「王都レグナリアの警備がこんなに厚くなったのは……そういうことだったんですね」

リーナ
「ええ」

リーナは少し遠くを指さす。
広場の中央では鎧を着た巨漢の騎士が、兵士たちに指示を出していた。
アレス・デュラント。六軍将第四将で怪力の豪将として知られる男だ。

アレス
「おいおいおい!!そこだそこ!!警備線を広げろ!!」

兵士
「はっ!!」

アレス
「城門の警戒を倍にしろ!!怪しい奴がいたらすぐ報告だ!!」

兵士たちが慌ただしく動く。
アレスは大きくため息をつく。

アレス
「ったく……なんで俺が警備の責任者なんだよ……?」

近くの兵士たちが苦笑している。
その様子を見てジェームズが小さく呟く。

ジェームズ
「……アレス隊長はずいぶん不満を口にしておいでですが?」

リーナが少し笑う。

リーナ
「前線に出たい人なんです」

ジェームズ
「なるほど」

リーナ
「戦場の将軍ですから」

リーナは腕を組む。

リーナ
「こういう警備任務は退屈なんでしょう」

ジェームズ
「ですが……」

ジェームズは周囲の警備を見る。

ジェームズ
「今回ばかりは退屈とは言っていられませんね」

リーナ
「ええ」

リーナは真剣な表情になる。

リーナ
「ベルナードの三王が同時に来る。何が起きてもおかしくありません」

ジェームズ
「外交問題だけで済めばいいのですが……」

遠くからアレスの怒鳴り声が聞こえる。

アレス
「おいそこ!!盾の配置が甘いぞ!!」

兵士
「も、申し訳ありません!」

リーナは苦笑する。

リーナ
「ほら」

ジェームズ
「本当に前線に出たい人なんですね」

2人は小さく笑う。
しかし――王都の空気はどこか、嵐の前の静けさのようだった。

アルトリアの屋敷

窓から午後の日差しが差し込む静かな部屋で、アルトリアは椅子に座り、分厚い本を読んでいた。

机の上には政治書や地図が広げられている。

その時、扉が軽くノックされる。

召使い
「アルトリア様」

アルトリアは顔を上げる。

アルトリア
「どうした?」

召使い
「お客様がお見えです」

アルトリア
「お客様?」

召使い
「カイゼル卿でございます」

アルトリアは少し驚いた表情になる。

アルトリア
「……カイゼル卿が?」

アルトリアは本を閉じる。

アルトリアが玄関に行くと、そこにはカイゼルが立っていた。

アルトリア
「カイゼル卿、お久しぶりです」

カイゼル
「久しぶりだ」

カイゼルは少し笑う。

カイゼル
「以前、私の別荘が放火されたときは世話になった」

アルトリア
「いえ、大したことではありません」

カイゼルはアルトリアをじっと見つめる。

カイゼル
「しかし……まさか本当にそなたがバーンズ様の三男だったとは」

アルトリアは少し困ったように笑う。

アルトリア
「私自身もあまり実感はありません」

カイゼル
「ふっ……」

カイゼルは腕を組む。

カイゼル
「だが今やそなたは宮廷賢者。王国の政治に関わる人物だ」

アルトリア
「……それで、本日は?」

カイゼルは真剣な顔になる。

カイゼル
「単刀直入に言おう。ベルナード連合の三王が王都へ来る」

アルトリアは静かにうなずく。

アルトリア
「警備が強化されたのはそれでなんですね」

カイゼル
「ああ」

カイゼルは苦笑する。

カイゼル
「まあ、警備の責任者になった六軍将のアレスは不満らしいがな」

アルトリアは少し笑う。

アルトリア
「前線の将軍ですから。城門警備は退屈でしょうね」

カイゼル
「まったくだ」

カイゼルは窓の外を見る。

王都の街が見える。

カイゼル
「だが……今回の件はただの外交ではない」

アルトリア
「……でしょうね」

アルトリアは静かに言う。

アルトリア
「ベルナード連合の盟主争い。レグナスの支持を求めて来るのでしょう」

カイゼル
「さすがだ」

カイゼルは満足そうにうなずく。

カイゼル
「陛下も頭を抱えておられる」

アルトリア
「当然です」

アルトリアは静かに言う。

アルトリア
「どこか一国を支持すれば、ベルナード連合の勢力図が大きく変わります」

カイゼル
「その通り」

アルトリアは少し考え込む。

アルトリア
「……3人の王が同時に来る。これは偶然ではありませんね」

カイゼル
「私もそう思う」

2人の間に重い沈黙が流れる。
アルトリアは小さく呟く。

アルトリア
「……何かが起きる」

カイゼル
「私も同じ考えだ」

カイゼルはアルトリアを見る。

カイゼル
「だからこそそなたに知らせに来た」

アルトリアは静かに頷く。

アルトリア
「ありがとうございます」

アルトリアは窓の外を見る。遠くの城――王城レグナリア。

アルトリア
「……南方の風が、ついに王都まで吹いてきましたね」

静かな屋敷の中で、新たな政治の嵐が近づいていた。

バーンズの屋敷

王都レグナリア。フィリア家本邸――その奥にある静かな書斎。
壁には古い歴史書や政治書が並び、机の上には大陸地図が広げられている。

椅子に座っているのは前宰相バーンズ・フィリア。
白髪の老賢者は静かに書物を読んでいた。

扉が開き、ピエール・フィリアが入ってくる。

ピエール
「兄上」

バーンズはゆっくり顔を上げる。

バーンズ
「どうした?ピエール」

ピエールは少し険しい顔をしている。

ピエール
「報告があります。ベルナード連合の三国――マラリカ、ベスティナ、ユーラス。その王たちが王都レグナリアを訪れるそうです」

バーンズは少しだけ眉を動かす。

ピエール
「宮廷はかなり騒がしくなっております。これは……非常に厄介な事態です」

バーンズはしばらく黙っていた。
そして――静かに言う。

バーンズ
「……本当に厄介なのはそこではあるまい」

ピエール
「と言いますと?」

バーンズは椅子に深く座り直す。

バーンズ
「忘れたのか?今のベスティナの王は――アントニウスの娘の夫だ」

ピエール
「……!」

バーンズ
「王座に就いたのもアントニウスの野望によるもの。そして今もアントニウスの言いなりだ」

ピエールはゆっくり息を吐く。

ピエール
「……確かに。ベスティナ王国は実質的にアントニウスの影響下」

バーンズは目を閉じる。

バーンズ
「……アントニウスは野心に満ちた男だ」

バーンズは静かに続ける。

バーンズ
「今回の三王訪問。ただの外交とは思えん」

ピエール
「では……?」

バーンズの目が
鋭く光る。

バーンズ
「……あの男ならやりかねん」

ピエール
「何を……ですか?」

バーンズは低い声で言う。

バーンズ
「マラリカとユーラスの国王を殺すかもしれん」

ピエール
「……!!」

部屋の空気が凍りつく。

ピエール
「まさか……王都で暗殺など……」

バーンズ
「アントニウスならやる」

バーンズは静かに断言する。

バーンズ
「もし二人の王が死ねば、残る王は1人」

ピエール
「……ベスティナ王」

バーンズ
「そうだ」

バーンズは大陸地図を見る。

バーンズ
「ベルナード連合はそのままアントニウスの手に落ちる」

ピエール
「……!」

ピエールは言葉を失う。

バーンズ
「そしてその影響力を使い、いずれレグナスにも手を伸ばすだろう」

ピエール
「兄上……」

バーンズは静かに呟く。

バーンズ
「アルトリア。お前の戦いはもう始まっているぞ」

窓の外では、王都レグナリアの灯りが静かに揺れていた。

王城レグナリア 玉座の間

数日後――王城レグナリア。

巨大な扉が開き、王都の貴族や騎士たちが並ぶ中、ベルナード連合の三王が順番に玉座の間へと通される。

玉座の上には国王レオニス・レグナード。
その左右には王族たち。
さらに宰相ロバートに外務長官テイラル、そしてアルトリアも控えていた。

玉座の間には緊張した空気が漂っている。
衛兵が声を上げる。

衛兵
「ベルナード連合マラリカ王国の国王が参られました!」

堂々とした男が歩み出る。
鋭い目つきの王、イワン・マラッカ。

イワンは玉座の前で跪く。

イワン
「レグナス王国国王レオニス陛下。この度は謁見の機会をいただき、感謝いたします」

レオニス
「遠路よく来られた」

イワン
「ベルナード連合を代表し、レグナス王国との友好を願っております」

イワンはゆっくり立ち上がる。その目には強い野心が宿っていた。

衛兵
「ベルナード連合ベスティナ王国の国王が参られました!」

整った顔立ちの男が進み出る。
デモガン・ベスティナ。冷静な雰囲気の王。

デモガンは静かに頭を下げる。

デモガン
「レオニス陛下。我が国ベスティナ王国は、レグナス王国との友好を何よりも大切に考えております」

レオニス
「歓迎しよう」

デモガンは穏やかに微笑む。
しかし、その視線の奥には何か計算するような光があった。

衛兵
「ベルナード連合ユーラス王国の国王が参られました!」

最後に若い王タムナス・ユーロが歩み出る。まだ若くどこか緊張した表情。
玉座の前に進み出てぎこちなく跪く。

タムナス
「レオニス陛下……ユーラス王国国王、タムナス・ユーロです」

レオニス
「顔を上げよ」

タムナスがゆっくり顔を上げる。その姿を見てアルトリアは思う。

アルトリア(心の声)
(若いな〜……あの歳で国王に即位なんて)

アルトリアは静かに三王を見渡す。
そして頭の中に、父バーンズから届いた書状の言葉がよみがえる。

バーンズの書状(回想)
「アントニウスは野心に満ちた男だ。おそらくマラリカとユーラスの王を殺すかもしれん」

アルトリアは目を細める。

アルトリア(心の声)
(……父上の書状どおりなら、マラリカとユーラスの王が殺される)

アルトリアは玉座の間を見渡す。

アルトリア(心の声)
(もしそれが本当なら……状況は厄介だ)

ベスティナ王国客室

来賓用の豪華な客室。
厚い絨毯と重厚な家具が並び、窓の外には王都の夜景が広がっている。

部屋の中央ではデモガンが椅子に腰掛け、ワインを飲みながら考え込んでいた。
そのとき――扉が静かに開く。
入ってきたのはベスティナ王妃、ミランダ。

ミランダは落ち着いた足取りでデモガンのもとへ歩み寄る。

ミランダ
「あなた」

デモガン
「どうした?」

ミランダは一通の書状を差し出す。封蝋にはカーン家の紋章。

ミランダ
「父からの書状よ」

デモガン
「義父上から?」

デモガンは少し眉を上げる。
書状を受け取りゆっくりと封を切る。静かな部屋に紙の擦れる音が響く。

デモガンは書状を読み進める。すると――口元に小さな笑みが浮かぶ。

デモガン
「なるほど……」

ミランダ
「何と書いてあるの?」

デモガンは書状を折りたたむ。

デモガン
「義父上は、やはりこの機会を逃すつもりはないらしい」

ミランダの表情がわずかに鋭くなる。

ミランダ
「ベルナード連合の盟主になる機会ね」

デモガン
「ああ」

デモガンは立ち上がり窓の外を見る。

デモガン
「マラリカのイワンは野心家だ。ユーラスの若王タムナスは経験不足」

ミランダ
「ええ」

デモガン
「だが――この2人がいなければ」

デモガンは振り返る。

デモガン
「ベルナード連合の王は私1人になる」

ミランダは静かに微笑む。

ミランダ
「父はいつも言っていたわ。力を持つ者だけが国を支配する資格があると」

デモガン
「その通りだ」

デモガンはゆっくり言う。

デモガン
「そしてその力を持つ者が――私だ」

ミランダ
「レグナスの王都で血を流すことになるかもしれないわね」

デモガンは少し考え静かに答える。

デモガン
「歴史とはそうやって作られるものだ」

デモガンは書状を握りしめる。

デモガン
「義父上の計画はすでに動き始めている」

廊下

王城の廊下。
柱の陰からアルトリアが、静かに三王の様子を観察していた。
3人の王はそれぞれ別々の客室に案内されている。

アルトリアは思う。

アルトリア(心の声)
(ベルナード連合の盟主争い。マラリカ、ベスティナ、ユーラス。それぞれの王が何を考えているのか……少し見てみるか)

マラリカ王国の客室

豪華な客室。
イワンが腕を組みながら窓の外を見ている。
その後ろには宰相カルド・ヴァルガ。

イワン
「大国レグナスの王に認められれば……ベルナード連合の盟主の座は俺のものだ」

カルドは静かに言う。

カルド
「ですが陛下。そのためには下手に出ることが重要です」

イワンは少し不満そうに鼻を鳴らす。

イワン
「わかっている。今はな」

イワンの目には野心が燃えていた。

アルトリア(心の声)
(典型的な野心家。しかし宰相はかなり冷静だな)

ベスティナ王国の客室

落ち着いた雰囲気の客室。
椅子に座るデモガン。その隣には王妃ミランダ。

デモガン
「どんな手を使ってでも連合の盟主にならねば」

ミランダは静かに微笑む。

ミランダ
「ええ。私も支えるわ」

デモガン
「ありがとう」

2人の間にはどこか冷たい計算があった。

アルトリア(心の声)
(……この2人。やはり父上の書状どおりか)

ユーラス王国の客室

質素な客室。
椅子に座っているタムナス。
若い王の顔には緊張が浮かんでいる。

隣に立つのは宰相ラディウス・グレイ。

タムナス
「……イワン王とデモガン王の目を見たか?」

ラディウス
「ええ」

タムナス
「あれは僕を軽視している目だ」

ラディウスは静かに答える。

ラディウス
「確かに私もそう感じました。ですが……今は我慢です」

タムナスは少し俯く。

タムナス
「……そうだな」

廊下

アルトリアは柱の陰から静かに歩き出す。

アルトリア(心の声)
(マラリカの王は野心でいっぱい。ベスティナの王は計算高い。ユーラスの王は不安になっている)

アルトリアはゆっくり呟く。

アルトリア
「……三者三様か」

アルトリアの目が細くなる。

レオニスの部屋

国王の執務室。
重厚な机の前に座るレオニスと、その前に立っているアルトリア。
部屋の空気は重い。

アルトリアは静かに口を開く。

アルトリア
「……以上が、三王の様子です」

レオニスは腕を組み、ゆっくりと考え込む。

レオニス
「……本当にデモガン王が他の2人の王を殺すと?」

アルトリア
「可能性ですがその危険はあります」

アルトリアは懐から一通の書状を取り出す。

アルトリア
「父からの書状にも書いてありました」

アルトリアは書状を差し出す。レオニスはそれを受け取り、静かに目を通す。
部屋に紙のめくれる音だけが響く。しばらくしてレオニスは低く呟く。

レオニス
「うむ……バーンズの予測はこれまでほとんど当たってきた」

レオニスはゆっくり顔を上げる。

レオニス
「だが……本当にあのアントニウスが……確かにデモガン王の妃はアントニウスの娘だが……」

アルトリアは静かに答える。

アルトリア
「デモガン王は王位継承権が低かったにも関わらず、アントニウス様の野望によって王位に就きました」

レオニス
「……」

アルトリア
「そして今もアントニウス様の言いなりです」

レオニスはゆっくりと椅子にもたれる。

レオニス
「2人の王を殺せば、連合の王はデモガン王ただ1人」

アルトリア
「はい」

レオニス
「そうなれば、ベルナード連合はアントニウスの手中……」

アルトリア
「その通りです」

レオニスは小さくため息をつく。

レオニス
「……やれやれ。南方の小国連合の王が、我が国の王都で血を流すことになるとはな」

レオニスは立ち上がる。

レオニス
「アレスに命じて警戒を怠らぬようにさせよう」

アルトリア
「賢明なご判断です」

そのとき――扉が勢いよく開く。

セリア
「父上!」

部屋に入ってきたのはセリア。

レオニスが振り向く。

レオニス
「どうした?セリア」

セリアは少し息を整える。

セリア
「たった今アレスから報告がありました」

レオニス
「申せ」

セリアは真剣な表情で言う。

セリア
「マラリカ王イワンの客室付近で、不審な動きをする者を警備兵が発見しました」

レオニスの目が鋭くなる。

レオニス
「……ほう」

セリア
「現在、騎士団が周囲を調査しています」

レオニスはアルトリアを見る。

しばらく沈黙。

そして――低く言う。

レオニス
「……やはりそなたの報告どおりだな」

アルトリアは静かにうなずく。

アルトリア
「残念ながらそのようです」

部屋の空気が一気に緊張する。

マラリカ王国客室

イワンが椅子に座り、酒を飲んでいた。その近くにはカルドもいる。

イワン
「ふん……レグナス王もなかなか簡単には動かんか」

カルド
「当然です。大国の王が簡単に立場を決めることはありません」

イワンはワインを一口飲む。

イワン
「だが、いずれ決める。そして盟主の座は俺のものになる」

カルドは冷静に頷く。

カルド
「焦らぬことです。外交は忍耐です」

そのとき――窓の外でわずかな音がした。

カルド
「……?」

カルドが窓の方を見る。
次の瞬間、窓が勢いよく開く。

黒装束の男
「……!」

男は短剣を握り、イワンへ向かって飛び込む。

カルド
「陛下!!」

イワン
「何!?」

短剣が振り下ろされる。その瞬間――

???
「そこまでだ!!」

扉が勢いよく開く。現れたのはアレスだった。

アレス
「やっぱり来やがったな!」

アレスは一瞬で距離を詰める。
犯人が短剣を振るう。しかし――アレスはその腕を片手で掴む。

犯人
「ぐっ!?」

アレス
「甘ぇんだよ!」

アレスは犯人の腕をひねり上げる。短剣が床に落ちる。

カラン!!

犯人は逃げようとする。しかしアレスの拳が腹に叩き込まれる。

ドン!!

犯人
「ぐはっ……!」

犯人は床に倒れる。アレスはそのまま襟首を掴み上げる。

アレス
「おいおい。王都で他国の王を暗殺とはいい度胸じゃねぇか」

兵士たちが部屋に駆け込む。

兵士
「アレス隊長!」

アレス
「こいつを縛れ」

兵士
「はっ!」

兵士たちが犯人を取り押さえる。
イワンは立ち上がる。

イワン
「……助かった」

アレスは肩をすくめる。

アレス
「陛下。大丈夫ですか?」

イワン
「ああ……ありがとう」

カルドがアレスを見る。

カルド
「見事な腕前です」

アレス
「どうも」

アレスは犯人を睨む。

同じころ ユーラス王国客室

部屋の中ではタムナスが椅子に座っていた。その隣にはラディウスがいる。部屋の入口付近には警備としてリーナとアリサが立っている。

そのとき――窓の外でかすかな物音。
リーナの目が鋭くなる。

リーナ
「……!」

次の瞬間、窓が勢いよく開く。
黒装束の男が短剣を持って部屋に飛び込む。

刺客
「……!」

タムナス
「なっ!?」

ラディウス
「陛下!」

しかし刺客が動くより早くリーナが剣を抜く。

キン!!

リーナの剣が刺客の短剣を弾き飛ばす。
刺客が体勢を立て直そうとした瞬間――

アリサ
「はっ!」

アリサが踏み込む。鋭い斬撃。
刺客はそれを避けるが、リーナの剣が喉元へ突きつけられる。

リーナ
「動くな」

刺客
「……!」

アリサが背後に回り、刺客の腕を押さえる。

アリサ
「確保しました!」

兵士たちが部屋に駆け込んでくる。

兵士
「どうしました!?」

リーナ
「刺客だ。縛れ」

兵士
「はっ!」

兵士たちが刺客を取り押さえる。
タムナスはまだ驚いた様子だ。

タムナス
「……助かった」

ラディウス
「お見事です」

リーナは刺客を見ながら静かに言う。

リーナ
「……なかなかの腕前だ」

アリサはその言葉を聞くと少し頬を赤くする。

アリサ
「ありがとうございます!」

リーナは少しだけ微笑む。
部屋の空気は一気に緊張に包まれる。

王城レグナリアでは同じ夜――2つの暗殺未遂事件が起きていた。

翌朝 王城レグナリア 玉座の間

大きな柱の間に王族と臣下たちが集まっている。
その前には昨夜捕らえられた刺客たちが、縛られた状態で跪かされている。

そこへ、マラリカ王イワンとユーラス王タムナスが歩み出る。玉座の間は重苦しい空気に包まれていた。

レオニス
「……誠に申し訳ない。警備を万全にしていたつもりなのに、このような事件が起きてしまうとは……」

イワンは腕を組み、刺客を睨む。

イワン
「……この者たちの正体はまだわかりませんか?」

レオニス
「現在調査中だがなかなか口を割らぬ」

タムナスは黙ったまま刺客を見ている。玉座の間にはざわめきが広がる。
そのとき――扉が開く。

衛兵
「ベスティナ王国の国王が参られました!」

デモガンが堂々と歩いて玉座の前で立ち止まる。

デモガン
「騒ぎを聞きつけて来てみれば……いったい何事ですか?」

レオニス
「イワン王とタムナス王が昨夜、刺客に襲われた」

デモガンは驚いたように目を見開く。

デモガン
「刺客とは……!それは大変ですな!」

デモガンは2人の王を見る。

デモガン
「お2人ともお怪我はなかったか?」

イワン
「……アレス隊長が駆け付けてくれたので、何事もない」

タムナス
「僕も……リーナ隊長がいなければどうなっていたか……」

デモガンは頷く。

デモガン
「それは何よりです」

デモガンはゆっくり刺客の前へ歩く。刺客たちの顔をじっと見る。
そして――静かに言う。

デモガン
「……なるほど」

玉座の間の視線がデモガンに集まる。

デモガン
「この者たちは私の臣下です」

玉座の間が一斉にざわめく。

貴族A
「なっ……!」

貴族B
「ベスティナの臣下!?」

イワン
「何だと?」

タムナス
「……!」

デモガンはため息をつく。

デモガン
「おおかた私をベルナードの盟主にしたかったのでしょう。しかし……そのためにこんな馬鹿げた行動をするとは」

デモガンは首を振る。

デモガン
「この者たちはこのまま国に連れ帰り、ベスティナの法律にて裁きます」

玉座の間は騒然となる。

貴族A
「そんな……!」

貴族B
「それでは真相が……」

しかし――別の声が上がる。
旧貴族派の貴族たちが次々と声を上げる。

旧貴族派A
「当然ですな」

旧貴族派B
「自国の臣下ならば自国の法で裁くべき」

旧貴族派C
「レグナスが口を出す問題ではない」

玉座の間は賛同する声で満ちていく。
アルトリアは静かにデモガンを見つめていた。

アルトリア(心の声)
(……やはりそう来たか。刺客を自国へ連れ帰る。そうすれば……証拠はすべて消える)

アルトリアの視線は玉座へ向く。レオニスと一瞬だけ目が合う。2人は同じ結論にたどり着いていた。

アルトリア(心の声)
(黒幕はアントニウス。間違いない。だが……証拠がない)

レオニスもまた静かに考え込んでいた。

レオニス(心の声)
(アントニウス……やはりそなたか。だが……証拠がない以上、この場で動くことはできぬ)

レオニスはゆっくり立ち上がる。

レオニス
「……よかろう」

玉座の間に緊張が走る。

レオニス
「この者たちは、デモガン王に引き渡す。貴国の臣下である以上、その判断が筋であろう」

デモガンは静かに頭を下げる。

デモガン
「賢明なご判断です」

兵士たちが刺客たちを立たせる。縛られた刺客たちはベスティナ兵に引き渡される。

宮廷賢者 執務室

アルトリアとイルハレム、ジェームズ、ダイム、さらに協力者であるレオンとジャンが執務室に集まる。
部屋には緊張した空気が流れている。

アルトリアが静かに口を開く。

アルトリア
「……というわけで、刺客はベスティナに引き渡された」

一同が顔を見合わせる。
ジェームズが口を開く。

ジェームズ
「陛下は刺客の処罰をベスティナの国王に任されたのですか?」

アルトリアは頷く。

アルトリア
「うん。ベスティナの臣下だし、アントニウス様の関与の証拠がないからね」

ダイムが腕を組む。

ダイム
「……なるほど。証拠がない以上それしかないですね」

ジャンが少し不安そうに言う。

ジャン
「でも刺客を連れ帰られたら、真相は闇の中ですよね?」

アルトリアは苦笑する。

アルトリア
「その通り。多分、もう二度と口を開かない」

レオンが静かに言う。

レオン
「……処刑されるでしょうね」

アルトリアは頷く。

アルトリア
「おそらく。これで証拠は完全に消える」

部屋が静かになる。
イルハレムが口を開く。

イルハレム
「……それでベルナードの三王は?」

アルトリアは椅子にもたれながら答える。

アルトリア
「今国に帰ったよ」

ジェームズ
「もう帰ったんですか?」

アルトリア
「うん。暗殺未遂が起きた以上、王都に長くいるのは危険だからね」

ダイムが言う。

ダイム
「ベルナード連合の盟主争いは?」

アルトリアは少し考えてから答える。

アルトリア
「多分当分内紛は続く」

ジャン
「やっぱり……」

アルトリアは、机の上に広げられた大陸地図を見る。
その先には南方ベルナード地方。

アルトリア
「マラリカの国王は野心に満ちている。ベスティナの国王は計算高い。ユーラスの国王はまだ王としては弱い」

レオン
「三国とも簡単には譲らないでしょう」

アルトリアは頷く。

アルトリア
「そう。だからベルナードはしばらく荒れる」

イルハレム
「つまり……」

アルトリア
「アントニウス様の狙いはそこかもしれない」

一同が驚く。

ジェームズ
「どういうことです?」

アルトリアは静かに言う。

アルトリア
「ベルナード連合が混乱すれば誰かが“仲裁役”になる」

ジャン
「まさか……」

アルトリア
「うん」

アルトリアは小さく笑う。

アルトリア
「アントニウス様はベルナードを自分の影響下に置こうとしている」

レオン
「……なるほど」

ダイムが呟く。

ダイム
「つまり、今回の暗殺未遂もその布石と?」

アルトリアは静かに頷く。

アルトリア
「多分ね」

アルトリアは窓の外を見る。

アルトリア
「でも、本当の勝負はこれからだ」

カーン邸

アントニウスが書斎の重厚な机の前に座っている。
部屋には静かな緊張が漂っている。

扉がノックされる。

オリオン
「父上」

アントニウス
「入れ」

扉が開き、オリオンが入ってくる。オリオンは父の前で軽く頭を下げる。

オリオン
「ベルナードの三王が国に帰りました」

アントニウスはゆっくり頷く。

アントニウス
「そうか……」

しばらく沈黙。

そして小さく笑う。

アントニウス
「しかし、デモガンはよくやった」

オリオン
「……はい」

アントニウスは椅子にもたれ、目を閉じる。

アントニウス
「刺客が口を割るのを防いでくれた。さすが我が娘婿だ」

オリオン
「これで暗殺未遂の証拠は完全に消えました」

アントニウス
「ああ」

アントニウスは静かに言う。

アントニウス
「ベルナード連合はこれから荒れる。マラリカとユーラスは互いを疑うだろう」

オリオン
「そうなれば盟主争いはさらに激しくなります」

アントニウス
「その通り」

アントニウスはゆっくり立ち上がり、窓の外を見る。遠くに王宮が見える。

アントニウス
「やがて誰かが仲裁を求める」

オリオン
「……ベスティナ」

アントニウス
「そして、ベルナード連合は我らの手に落ちる」

アントニウスはゆっくり目を閉じる。

アントニウス(心の声)
(……バーンズ。悪く思うなよ?これは……時代の流れだ)

第13話 完


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