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半神の少女 第3話「太陽と月の半神」

第3話「太陽と月の半神」

冥界 ハデスの宮殿

冥界の深い闇の中にそびえる黒き宮殿。
巨大な柱と青白い炎が灯る広間。

冥界の王、ハデスが戻ってくる。

玉座の前で待っていたのは
冥界の女王、ペルセポネだった。

ペルセポネはゆっくりと玉座から立ち上がる。

ペルセポネ
「おかえりなさい、あなた」

ハデス
「ただいま、ペルセポネ」

ハデスは歩み寄り
玉座に腰を下ろす。

ペルセポネはその隣に立つ。

ハデス
「……オリンポスの状況は知っているか?」

ペルセポネ
「ええ。母上やアルテミス、ヘルメスから大体は聞いたわ……」

少し間を置く。

ペルセポネ
「私も個人的に、父上のやり方は気に入らない」

ハデスは小さく笑う。

ハデス
「相変わらず正直だな」

ペルセポネ
「父親だからって、間違っていることを肯定するつもりはないわ」

ペルセポネは静かに続ける。

ペルセポネ
「半神を排除するなんて……そんなことをしていたら、いずれオリンポスは崩れる」

ハデス
「……私も同感だ」

ハデスは腕を組む。

ハデス
「だから私はあの娘に会いに行った」

ペルセポネ
「ヘスティアの娘……佳織ね」

ハデス
「ああ」

ペルセポネは少し興味深そうに言う。

ペルセポネ
「どんな子だった?」

ハデスは少し考える。

ハデス
「……面白い娘だ」

ペルセポネ
「面白い?」

ハデス
「神を相手に一歩も引かなかった」

ハデスは思い出す。

佳織の強い目。

ハデス
「しかもアレスを退けた」

ペルセポネが驚く。

ペルセポネ
「アレスを?」

ハデス
「覚醒したばかりの炎の力でな」

ペルセポネは小さく笑う。

ペルセポネ
「それは……確かに面白い子ね」

ハデス
「だから助言しておいた」

ペルセポネ
「半神を集めろ、ね?」

ハデス
「そうだ」

ハデスは少し楽しそうに言う。

ハデス
「これは面白いことになる」

ペルセポネ
「ええ」

ペルセポネは静かに言う。

ペルセポネ
「もし父上があの子を本気で殺そうとするなら……私たちも動くべきね」

ハデスは頷く。

ハデス
「冥界は中立を保ってきたが……今回ばかりは違う」

ハデスの目が鋭くなる。

ハデス
「ヘスティアの娘に手を出すなら、冥界を敵に回すことになる」

冥界の炎が大きく揺れる。
遠くでケルベロスの咆哮が響く。ペルセポネは静かに微笑む。

ペルセポネ
「ふふ……オリンポスが騒がしくなりそうね」

白石家

キッチンからトーストの焼ける匂いがする。
テーブルには……

・トースト
・スクランブルエッグ
・サラダ
・コーヒー

蓮と母の由香が朝食を食べている。

蓮が少し考えたあと、ぽつりと言う。


「……昨日、親父に会ったんだ」

由香がコーヒーを飲みかけて止まる。

由香
「あら?」

少し驚いた顔。

由香
「お父さん日本に来てたの!?」


「うん」

由香
「相変わらず突然ねあの人……」

苦笑する由香。
蓮は少し真剣な顔になる。


「それでさ……」

由香
「?」


「結構、やばい話だった」

由香の表情が変わる。

由香
「……神様の話?」


「うん」

蓮は昨日アポロンから聞いた話を伝える。

・半神の存在
・ゼウスが半神を危険視していること
・ある半神が狙われていること

話を聞いた由香は、少し驚いた顔をする。

由香
「……そう」


「そんなに驚かないんだな」

由香は小さく笑う。

由香
「あなたのお父さんが太陽神だもの。今さら神様がどうこう言われてもね」


「まあそれもそうか」

少し沈黙。

蓮が言う。


「それでさ……その半神、俺の学校にいるんだ」

由香
「え?」


「同じクラスのやつ」

由香
「……名前は?」


「神宮寺佳織」

由香が少し考える。そして思い出したように言う。

由香
「ああ、あの子ね」


「知ってるの?」

由香
「前に学校行事で会ったことあるわ。礼儀正しいいい子だった」


「そいつ、昨日軍神アレスに襲われた」

由香の手が止まる。

由香
「……アレス?」


「でも撃退した」

由香
「え?」


「炎の力で」

由香は小さく息をつく。

由香
「……なるほど」

少し考える。

そして静かに言う。

由香
「その子のお母さんは?」


「ヘスティア」

由香
「!」

由香は驚く。

由香
「炉の女神ヘスティア……それはまたすごい血筋ね」


「親父が言ってた。オリンポスが動いてるって」

由香は少し真剣な顔になる。

由香
「蓮」


「ん?」

由香
「その子を守りなさい」


「え?」

由香
「あなたは半神なんでしょう?」


「まあ……そうだけど」

由香
「だったら、困ってる子を放っておくような子に育てた覚えはないわ」

蓮は少し笑う。


「……母さんに言われなくてもそうするさ」

由香
「それに……」

由香はトーストを食べながら言う。

由香
「太陽神の息子が逃げたらカッコ悪いじゃない?」


「それもそうだな」

蓮は立ち上がる。


「行ってくる」

由香
「いってらっしゃい」

蓮が玄関を出る。
ドアが閉まる。

静かになった部屋。
由香はコーヒーを飲みながら呟く。

由香
「……オリンポスが動き出したのね」

そして小さく笑う。

由香
「相変わらず騒がしいわね、アポロン」

岬家

静かな住宅街の一軒家。

リビングの窓から朝日が差し込む。
テーブルには……

・トースト
・オムレツ
・サラダ
・コーヒー

月菜と父の啓人が朝食を食べている。

月菜が少し迷ったあと口を開く。

月菜
「……お父さん」

啓人
「ん?」

新聞を読んでいた啓人が顔を上げる。

月菜
「昨日ね……お母さんに会ったの」

啓人の手が止まる。

啓人
「え?」

少し驚いた顔。

啓人
「お母さん日本に来てたの?」

月菜
「うん」

月菜は静かに続ける。

月菜
「それでね……」

月菜はアルテミスから聞いたことを父に伝える。

・半神の存在
・オリンポスの対立
・ゼウスが半神を排除しようとしていること
・ヘスティアの娘が狙われていること

啓人は黙って聞いている。
そしてゆっくりコーヒーを飲む。

啓人
「……なるほど」

月菜
「驚かないの?」

啓人
「いや」

啓人は少し笑う。

啓人
「お前のお母さんが月の女神だって時点で、だいたいのことは驚かなくなる」

月菜
「それもそうね」

少し沈黙。

月菜が言う。

月菜
「……というわけで、その神宮寺佳織さんと会ってみたいの」

啓人
「神宮寺佳織って子にか?」

月菜
「うん」

啓人
「その子がヘスティアの娘なんだね?」

月菜
「うん」

啓人は少し考える。

啓人
「ん~……」

月菜
「?」

啓人
「それは蓮君にお願いしてみないとな~」

月菜
「え?」

啓人
「蓮君のクラスメイトなんだろ?」

月菜
「うん」

啓人
「じゃあ蓮君に紹介してもらうのが一番早い」

月菜
「……そうね」

啓人はふと笑う。

啓人
「それにしても、太陽神の息子と月の女神の娘か」

月菜
「?」

啓人
「神話っぽくて面白いじゃないか」

月菜
「他人事みたいに言わないで」

啓人
「はは」

啓人は少し真面目な顔になる。

啓人
「でもな、月菜」

月菜
「?」

啓人
「もし神々の争いに巻き込まれるなら、無理はするな」

月菜
「……」

啓人
「お前は俺の大事な娘だからな」

月菜は少しだけ微笑む。

月菜
「大丈夫。私、一人じゃない」

啓人
「?」

月菜
「蓮君もいる。そして神宮寺佳織さんもいる」

啓人は少し驚く。

啓人
「……なるほど」

啓人は静かに笑う。

啓人
「それなら安心かもしれないな」

月菜
「うん」

学校(教室)

午前の授業中。
静かな教室にチョークの音が響く。黒板には数学の問題。

佳織は窓の外をぼーっと見ている。
昨夜の出来事が頭をよぎる。

・アレス
・炎の力
・ハデスの言葉

佳織(心の中)
(半神を集めろって言われても……どうすればいいのよ……?)

先生が振り返る。

先生
「じゃあこの問題……神宮寺」

佳織
「えっ!!??」

クラスがざわつく。
佳織は慌てて立ち上がる。

佳織
「え、えっと……」

黒板を見るが、まったくわからない。

佳織(心の中)
(やばい、全然聞いてなかった……!!)

先生
「どうした?」

佳織
「えーっと……その……」

一瞬考える。
そして完全に勘で答える。

佳織
「……たぶん、③です!」

教室が一瞬静まる。
先生が黒板を見る。

先生
「……正解」

クラス
「ええええ!?」

ざわつく教室。

佳織
「え!?やった!」

ほっとして座る。

佳織(心の中)
(あぶなっ……!!)

隣の席の蓮が呆れた顔で見ている。

蓮(心の中)
(……あれ絶対適当に答えただろ)

蓮は小さくため息をつく。

蓮(心の中)
(でもまあ……無事でよかったか)

佳織は何も知らずにノートを開く。

休み時間

チャイムが鳴り、教室が一気に騒がしくなる。

佳織はぼんやりと窓の外を見ている。
そこへ蓮が近づいてくる。


「佳織、ちょっと面貸せよ」

佳織
「?」

佳織は首をかしげる。

屋上

青空が広がり、夏の強い日差しが照りつけている。風が少しだけ吹く。
蓮と佳織、二人きり。

蓮は少し真剣な顔で切り出す。


「お前、最近神様に襲われなかったか?」

佳織
「え?」

少し驚いたあと、あっさり答える。

佳織
「うん、アレスって戦いの神様に襲われた」


「やっぱりか……」

佳織
「そしたらなんか暖かい感じの炎に守られて……」


「……まじか」

一歩近づく。


「じゃあ、お前自分が半神ってことには気づいてるか?」

佳織
「うん」

佳織は頷く。

佳織
「あの後パパに言われた。ママはヘスティアって炉の女神様だって……でもなんでそんなこと聞くの?」

蓮は一瞬迷う。そして、決意したように口を開く。


「……俺も、半神なんだ」

佳織
「え!?そうなの!?」


「ああ」

蓮は空を見上げる。
太陽の光が強く照りつく。


「俺の親父はアポロン。芸能や芸術、太陽の神だ」

佳織
「アポロン……」


「だから太陽の光を浴びると力がみなぎるし、音楽の才能にも恵まれてる」

佳織は納得したように言う。

佳織
「……だからこのクソあっつい夏の日差しの中でも元気だったんだね」


「おい今の言い方ちょっとひどくないか?」

佳織
「だってみんなバテてたのに1人だけあんなに元気だったじゃん」

佳織がハッとする。

佳織
「っていうか!ハデス叔父さんが言ってた身近なところにいる半神って、蓮のことだったんだ!」

蓮は続けて話す。


「……それと、俺には同じく半神の従妹がいる」

佳織
「え?誰?」


「岬月菜」

佳織
「えっ!?」


「俺の親父、アポロンの双子の妹。月と狩猟の女神アルテミスの娘だ」

佳織は驚きを隠せない。

佳織
「岬月菜ちゃんって、西高に通ってる弓道のうまいあの子!?」


「ああ」

佳織
「あの子も半神だったんだ……」

少し考える。

佳織
「それであの子、蓮と顔がそっくりだったんだね」


「親同士が双子の兄妹だからな」

蓮はポケットからスマホを取り出す。
画面を見せる。


「その月菜から連絡が来てさ」

佳織
「?」


「お前に会わせてほしいって」

佳織
「私に?」


「ああ」

少し真剣な顔。


「だからよかったら放課後、一緒に来てくれ」

佳織は少しだけ考える。そして、しっかり頷く。

佳織
「うん、行く」


「決まりだな」

放課後のカフェ

落ち着いた雰囲気のカフェ。
窓際の席。夕方の柔らかい光が差し込んでいる。

席には……

佳織

月菜

三人が向かい合って座っている。
少しだけ緊張した空気。

月菜が静かに口を開く。

月菜
「はじめまして。墨田西高校1年、岬月菜です」

丁寧に頭を下げる。
佳織も少し慌てて頭を下げる。

佳織
「墨田南高校2年、神宮寺佳織です」

少し笑いながら続ける。

佳織
「弓道部での活躍は聞いてるけど、実際会うのははじめてだね〜」

月菜
「……」

佳織はじっと月菜の顔を見る。

佳織
「こうしてみると本当に蓮にそっくり」


「それ、今日二回目な」

月菜は少しだけ視線を逸らす。

月菜
「私は……以前から蓮君からお話は伺っていました」

佳織
「え?」

月菜
「同じクラスに、少し騒がしいけど放っておけない人がいると」

佳織
「ちょっとそれどういう意味!?」


「そのままの意味だろ」

三人の間に少し笑いが生まれる。

そこへ店員がやってくる。

店員
「ご注文の品をお持ちしました」

それぞれの飲み物がテーブルに置かれる。

・アイスコーヒー(蓮)
・カフェラテ(佳織)
・紅茶(月菜)

店員が去る。
三人は一口飲む。少し落ち着いた空気。

佳織が改めて口を開く。

佳織
「その……」

少し言いにくそうにしながらも言う。

佳織
「2人とも私の親戚ってことよね?」


「まあな」

月菜
「血筋的にはそうなります」

佳織は指を折りながら整理する。

佳織
「えっと……2人ともゼウス叔父さんの孫だから……」

佳織は少し混乱した顔になる。

佳織
「え、ちょっと待って!これ家系図どうなってるの!?」


「ん~まあはとこみたいなもんかな?」

月菜
「神々の系図は複雑ですから」

佳織
「だよね……!」

三人は少しだけ苦笑する。
テーブルの上の飲み物から、氷の音が小さく鳴る。
少し落ち着いた空気の中、佳織が口を開く。

佳織
「今日、家にハデス叔父さんが来て言われたの」


「ハデスが?」

月菜も少し驚いた表情になる。

月菜
「冥界の王が……人間界に?」

佳織
「うん」

佳織は頷く。

佳織
「それでね、言われたの」

少し間を置く。

佳織
「半神の仲間を集めろって」

蓮は腕を組んで考える。


「……そういえば親父に聞いたな」

佳織
「え?」


「この世界には実は俺達と同じ半神がいっぱいいるって」

月菜も静かに続ける。

月菜
「私も、母から聞きました」

佳織
「ほんと?」

月菜
「ええ」

少し視線を落とす。

月菜
「実際に会ったことはありませんが」

佳織は「へえ〜」と小さく頷く。
そして椅子にもたれ、上を向いて考え込む。

佳織
「でもさ〜」

天井を見ながら言う。

佳織
「叔父さん、具体的に何人とは言ってなかったんだよね〜」


「まあ神様ってそういうとこあるよな」

佳織
「ふわっとしすぎじゃない?」

月菜
「ですが……」

二人が月菜を見る。

月菜
「少なくとも、私たち三人が出会ったのは偶然ではないはずです」


「だな」

蓮は佳織を見る。


「ハデスが言った“身近な半神”ってのは、俺のことだった」

佳織
「うん」

月菜
「そして次に私たちがこうして集まった」

佳織
「……」

月菜
「つまりこれは“始まり”です」

静かな言葉。しかし確信を帯びている。
蓮が少し笑う。


「なんか本格的になってきたな」

佳織
「ほんとだよ……」

少し苦笑する佳織。
佳織はまっすぐ二人を見る。

佳織
「じゃあさ」

少しだけ笑う。

佳織
「まずは三人でやってみない?」


「何を?」

佳織
「残りの半神探し」


「……いいじゃん」

月菜も小さく頷く。

月菜
「賛成です」

佳織は笑う。

佳織
「よし、決まり!」

三人が今後のことを話している最中――突然、月菜が鋭く反応する。

月菜
「――っ!!」

カップを持つ手が止まり、目を見開く。

佳織
「え?どうしたの月菜ちゃん?」

月菜は足元を見つめている。

月菜
「……影……」


「は?」

次の瞬間――

月菜
「きゃっ!?」

小さな悲鳴。
佳織が反射的に振り向く。

佳織
「え!?」

テーブルの下。床に伸びる影。
その中から――顔の上半分だけが浮かび上がっている。

黒い影の中に、静かにこちらを見つめる瞳。
それは――ハデスだった。

佳織
「うわ!!ハデス叔父さん!?いつからそこに!?」


「はあああっっ!?」

蓮が椅子ごと後ろにのけぞる。月菜は無言で一歩距離を取る。
ハデスは影の中から淡々と答える。

ハデス
「先程からずっとだ。上手く気配を消せたと思ったのだがな」

佳織
「いや消せてないから!!」

佳織はツッコミを入れる。

佳織
「ていうか叔父さん!その登場の仕方やめて!普通に怖いから!!」


「てか客の足元から出てくるなよ!?」

月菜
「……不法侵入です」

ハデスはわずかに首を傾げる。

ハデス
「む?冥界の王に侵入も何もないだろう?」

佳織
「あるよ!!ここカフェ!!」

周囲の客はなぜか気づいていない。
まるで三人にしか見えていないかのよう。

ハデスはゆっくりと動き始める。
影が揺れる。
そして

ズズ……

と音もなく床の影から体が浮かび上がっていく。
足、胴体、腕――完全な姿を現すハデス。
黒い衣と圧倒的な存在感。
カフェの空気が一瞬だけ重くなる。

ハデスは何事もなかったかのように立つ。

ハデス
「……ふむ」

三人を見渡す。

ハデス
「ちょうど良いところに集まっているな」

佳織
「いやタイミングどうなってるの!?」


「ほんとに神様かこの人……?」

月菜
「……間違いなく神です」

三人の前に冥界の王が静かに立っている。
場の空気が一変する。

冥界の王ハデスが平然と立つ中、
三人はまだ動揺している。

佳織は一歩前に出て、真剣な表情でハデスを見る。

佳織
「ねえ叔父さん」

ハデス
「何だ佳織?」

佳織
「ママやゼウス叔父さんに会うために半神集めろって言ってたけど、具体的に何人集めればいいの?」

蓮と月菜もハデスを見る。

ハデスは少し考えるように視線を上に向ける。

ハデス
「そうだなあ……」

顎に手を当てる。

ハデス
「まあざっと10人ほどだったかな?」

一瞬の沈黙。

三人はポカンとする。

佳織
「……え?」


「……は?」

月菜
「……10人?」

蓮がツッコむ。


「“ほど”ってなんだよ!?」

佳織
「ざっとって何!?ざっとで決める人数じゃないでしょ!?」

月菜
「基準が曖昧すぎます……」

ハデスは気にした様子もなく続ける。

ハデス
「まあしかし今のご時世SNSとやらがあるのだから、半神の1人や2人すぐに集まるだろう?」

佳織
「いや無理でしょ!?」


「“半神募集”とかどうやってやるんだよ!」

月菜
「炎上案件です」

ハデスは少し不思議そうな顔をする。

ハデス
「そうか?」

佳織
「そうだよ!!」

佳織は頭を抱える。

佳織
「というか叔父さん、もうちょっとヒントとかないの!?」

ハデス
「あるぞ」

三人がピタッと止まる。


「あるのかよ……」

ハデスはゆっくりと指を立てる。

ハデス
「半神は基本的に、強い神力を持つ者同士が自然と引き寄せられる」

月菜
「引き寄せられる……」

ハデス
「つまり……」

佳織たち三人を見る。

ハデス
「既にお前たちは引き寄せられている」

佳織
「……」


「……」

月菜
「……」

ハデス
「今後も同じだ。強い半神ほど、お前たちの前に現れる」


「つまり待ってても来るってことか?」

ハデス
「いや。待っていては遅い」

佳織
「え?」

ハデス
「ゼウスも動いている」

場の空気が一気に重くなる。

ハデス
「半神は“狩られる側”にもなる」

月菜
「……」


「チッ……」

佳織
「……じゃあ」

佳織は強く言う。

佳織
「私たちが先に見つけるしかないってことね」

ハデスは満足そうに頷く。

ハデス
「その通りだ」

佳織は三人を見る。

佳織
「よし」

拳を握る。

佳織
「とりあえず半神10人集めるよ」


「軽く言うなよ……」

月菜
「前途多難ですね」

ハデスは静かに微笑む。

ハデス
「だが面白くなってきた」

カフェの空気がわずかに揺れる。
三人の前に立つ冥界の王。
そして始まる――半神集めの戦い。
重くなった空気の中――ハデスがふと口を開く。

ハデス
「そういえば佳織」

佳織
「え?」

ハデス
「お前には半神の“いとこ”がいる」

佳織
「いとこ!?」


「また急に濃い情報きたな……」

ハデスは何も言わず、手を軽くかざす。

その瞬間――

ボッ…

黒い炎が空中に現れる。
カフェの空気が一瞬で冷え込む。

佳織
「うわっ!?」

炎の中に、一人の少年の顔が浮かび上がる。
鋭い目つきに荒々しい雰囲気。

ハデスは淡々と告げる。

ハデス
「この子は刈間大悟……私の息子だ」

佳織
「え……?」

目を見開く。

佳織
「この辺で有名な暴走族の総長……!?」


「マジかよ……」

月菜
「冥界の神の子が……暴走族……」

ハデスは特に気にした様子もなく続ける。

ハデス
「本来は神に生まれるはずだったのだがな。私とペルセポネの間に生まれた子だが、なぜか“人間として”生まれてしまった」

佳織
「ええ!?」


「そんなことあるのかよ……」

ハデス
「時々よくあることだが、詳しいことは神にも分からぬ」

淡々と言い切る。

ハデス
「そのため人間界で育てることにした」

黒い炎の中の大悟の顔がゆらめく。

ハデス
「力は既に目覚めているはずだ」

月菜
「……危険な存在ですね」

ハデス
「扱いを誤ればな」

炎が静かに消える。

佳織
「いとこが暴走族ってどういうことなの……」


「ツッコミどころ多すぎるだろ……」

ハデスはさらに続ける。

ハデス
「もう一人いる」

再び黒い炎が現れる。
今度は爽やかな雰囲気の少年の顔。
海を背景にした姿。

ハデス
「橋本海斗という子だ。海の神ポセイドンの息子」


「……あの高校生サーファーも半神だったのか……」

佳織
「テレビで見たことあるかも……」

月菜
「海と同調するような動き……納得です」

ハデス
「この二人に会ってみるといい」

佳織
「うん……!」

ハデスは三人を見渡す。

ハデス
「お前たちの最初の仲間としては、悪くない」


「“悪くない”ってレベルじゃねえだろ……」

月菜
「戦力としては十分すぎます」

ハデスは満足そうに頷く。

ハデス
「ではな」

その体がゆっくりと黒い炎に包まれる。

ハデス
「冥界から見守っている」

佳織
「ちょっと待って叔父さん――」

言い終わる前に

ボッ…

黒い炎となって消えるハデス。

静寂。

三人だけが残る。

佳織
「……」


「……」

月菜
「……」

少し間。


「とりあえず……」

佳織
「うん」


「暴走族の総長とサーファーに会いに行くの確定な」

佳織
「急に難易度上がったんだけど!?」

月菜
「ですが……」

二人を見る。

月菜
「行くしかありません」

佳織
「……だね」

佳織は深く息を吸う。

佳織
「よし」

拳を握る。

佳織
「半神集め、最初のターゲット決定!」

その目には確かな決意が宿っていた。

海底都市アトランティス ポセイドンの宮殿

深い海の底。巨大な珊瑚と水晶で作られた壮麗な宮殿。
水の流れが静かに揺れ、青い光が幻想的に広間を照らしている。

玉座には海の神ポセイドン。その隣には妻アムピトリテ。
そして少し下がった椅子に、ポセイドンとアムピトリテの息子のトリトンが座っている。

その空間に――黒い影がゆらめく。
次の瞬間、ハデスが姿を現す。

ハデス
「……お前の宮殿に来るのは久しぶりだ」

ポセイドンは静かにハデスを見る。

ポセイドン
「最近のオリンポスは落ち着かん」

ハデス
「そのようだな」

水の流れがわずかに揺れる。

ポセイドン
「それで?わざわざここまで来た理由は何だ?」

ハデスは腕を組む。

ハデス
「ヘスティアの娘の件だ」

トリトンとアムピトリテが反応する。

ポセイドン
「……やはりその話か」

ハデスは淡々と続ける。

ハデス
「半神を集めさせる。そしてゼウスに対抗する」

ポセイドン
「……」

ハデス
「そのために、お前の息子と私の息子を、ヘスティアの娘に協力させる」

ポセイドンは目を細める。

ポセイドン
「そうか……私の息子とお前の息子を、ヘスティアの娘に協力させるのか」

ハデス
「ああ」

ハデスの目にわずかな感情が宿る。

ハデス
「なんとしてもヘスティアを娘と会わせてやりたいからな」

ポセイドンはゆっくりと頷く。

ポセイドン
「だが……ゼウスが黙って見ているとは思えない」

ハデス
「無論だ。だからこそ、先に動く」

その時トリトンが身を乗り出す。

トリトン
「父上」

ポセイドン
「なんだトリトン?」

トリトン
「その娘を殺そうとアレスが動いたというのは本当ですか?」

ポセイドンは静かに答える。

ポセイドン
「……そうだ。ゼウスの命を受けてな」

アムピトリテが続ける。

アムピトリテ
「でもその子の力が覚醒して、結局仕留め損ねたの」

トリトンは驚く。

トリトン
「アレスを退けた……?」

拳を握りしめる。

トリトン
「それほどの力を持つ半神が……」

ハデス
「ただの半神ではない」

静かに言い放つ。

ハデス
「ヘスティアの娘だ」

場の空気が一段と引き締まる。
トリトンはゆっくり立ち上がる。

トリトン
「父上」

トリトンは真っ直ぐ前を見る。

トリトン
「その戦い、我々も無関係ではいられません」

ポセイドンは息子を見る。

ポセイドン
「……お前の考えは分かる」

トリトン
「ならば――」

拳を強く握る。

トリトン
「海の神の誇りとして、その娘に力を貸すべきです」

静寂。

水の流れがゆっくりと揺れる。
ポセイドンは目を閉じ、少し考える。
そして――

ポセイドン
「……無論だ」

ハデスがわずかに口元を緩める。

ポセイドン
「だが忘れるな」

トリトンを見る。

ポセイドン
「これは神々の争いだ。軽い気持ちで踏み込めば命を落とす」

トリトン
「承知しています」

アムピトリテが静かに微笑む。

アムピトリテ
「でも少し楽しみね。新しい時代が動き出しそう」

ハデスは背を向ける。

ハデス
「では決まりだな」

ポセイドン
「ああ」

ハデス
「海も、冥界も動く」

黒い影が再び広がる。
ハデスの姿がゆっくりと消えていく。

ハデス
「オリンポスがどう動くか……見ものだな」

完全に消える。

同じころ――

白石家

ソファーに寝転がりながら、アポロンが優雅にくつろぐ。
由香は腕を組んでため息をつく。

由香
「相変わらず急に現れるわねあなたは」

蓮も呆れ顔。


「てか普通にくつろいでるし……」

アポロンは気にした様子もなく笑う。

アポロン
「細かいことは気にするな」

由香
「人の家なんだけど?」

アポロン
「我が子の家でもある」


「その理屈どうなんだよ……」

蓮は少し真面目な顔になる。


「それよりさ、今日ハデスに会ってさ……」

アポロン
「ほう?」


「具体的な数は知らないけど、半神10人ぐらい集めろって言われた」

アポロンは軽く笑う。

アポロン
「伯父上らしいな……相変わらず大雑把だ」


「ほんとそれ」

アポロンは少しだけ目を細める。

アポロン
「それで?ハデスは半神の有力な情報は話していたか?」

蓮は頷く。


「ああ。2人名前が出た」

アポロン
「ほう」


「1人は刈間大悟」

由香
「刈間…?」


「暴走族の総長」

由香
「ええ!?」

アポロンは少し興味深そうに言う。

アポロン
「……冥界の血を引く者か」


「もう1人は橋本海斗。高校生サーファー」

アポロン
「ポセイドンの息子だな」

由香
「そんな有名人まで……」


「ハデスが“会え”ってさ」

アポロンはゆっくり立ち上がる。

アポロン
「なるほど」

太陽の光が差し込み、彼の周囲がわずかに輝く。

アポロン
「面白くなってきたな」

岬家

静かな空間。
アルテミスはじっと啓人の顔を見つめている。

アルテミス
「……いつ見ても素敵ね啓人。出会った頃から変わらずいい男だわ……」

啓人は顔を赤くして目を逸らす。

啓人
「そ……そんなに見ないでくれ……」

月菜がジト目で言う。

月菜
「あの……私もいるの忘れないでくれる?」

アルテミス
「あら、ごめんなさい月菜」

アルテミスは楽しそうに言う。

アルテミス
「月菜にも聞かせてあげるわ。お父さんとお母さんのなれそめ」

啓人
「やめてくれ!!」

アルテミスは嬉しそうに語り始める。

アルテミス
「まずギリシャの満月の夜に――」

月菜
「いやそれ何回も聞いたから」

ピシャリと止める。

アルテミス
「ちぇ」

月菜は真面目な顔になる。

月菜
「それより……」

アルテミス
「?」

月菜
「今日ハデスに会って……具体的な数は知らないけど、半神10人ぐらい集めろって言われたの」

アルテミスはため息混じりに言う。

アルテミス
「相変わらず伯父上はざっくりした説明ね……」

月菜
「本当に」

アルテミスは少し表情を変える。

アルテミス
「それで?ハデスは有力な情報は伝えていたかしら?」

月菜は頷く。

月菜
「うん。2人、名前が出た」

アルテミス
「……聞きましょう」

月菜
「刈間大悟」

アルテミスの目がわずかに鋭くなる。

アルテミス
「……ハデスの子」

月菜
「もう1人は橋本海斗」

アルテミス
「ポセイドンの息子ね」

啓人
「……話が大きくなってきたな」

アルテミスは静かに笑う。

アルテミス
「ええ」

月菜
「ハデスはこの2人に会えって」

アルテミスは満足そうに頷く。

アルテミス
「的確ね」

そして月菜を見る。

アルテミス
「行きなさい。あなたたちなら大丈夫」

月菜
「……うん」

深夜 神宮寺家・佳織の部屋

静かな夜。窓の外では虫の声が微かに響いている。
部屋の中は薄暗く、ベッドの上では佳織が静かに眠っている。穏やかな表情。

その時――部屋の壁がふわりと揺らぐ。
小さな灯り。それはやがて炎へと変わる。
だがその炎は燃え広がることなく、優しく、温かい光だけを放っている。

炎の中からゆっくりとヘスティアが姿を現す。
静かに部屋に降り立つ。音もなく、気配もなく。
佳織は眠ったまま、気づかない。

ヘスティアはゆっくりと歩み寄る。
ベッドのそばに立つ。
そして――娘の顔を見つめる。

ヘスティア
「……」

言葉はない。ただ、その瞳に深い感情が宿る。
ヘスティアはそっと手を伸ばす。
佳織の頬に触れようとするが、直前で止まる。

ヘスティア
「……大きくなったのね」

小さな声。
17年の時を越えた、母の言葉。

佳織はわずかに寝返りを打つ。

佳織
「……ん……」

ヘスティアは一瞬だけ息を止める。
しかし佳織は目を覚まさない。再び静かな寝息。
ヘスティアはほっとしたように微笑む。

ヘスティア
「……ごめんなさい。ずっと、そばにいられなくて」

ヘスティアはベッドの横に膝をつく。娘を見つめる。

ヘスティア
「でも……ちゃんと見ていたわ」

炎がわずかに揺れる。

ヘスティア
「あなたが、強く優しく育ってくれたこと。全部、誇りに思ってる」

佳織の胸元がわずかに光る。
それに呼応するように、ヘスティアの炎も優しく輝く。

ヘスティア
「……もう少し。あと少しで、ちゃんと会える」

ヘスティアは静かに立ち上がる。
最後にもう一度、佳織を見る。その瞳は母そのものだった。

ヘスティア
「待っていてね、佳織」

次の瞬間――体が炎へと変わる。
そして静かに消えていく。

部屋には再び静寂。
佳織は眠ったまま。
しかし――その頬を一筋の涙が伝う。

佳織
「……ママ……?」

小さな寝言。

オリンポス ― 神殿・玉座の間

雲の上に浮かぶ神殿。
黄金の柱と白い大理石に囲まれた広間。

玉座には……

アテナ
アフロディーテ
ヘルメス
ディオニュソス

が集まっている。

ヘルメスが軽く笑う。

ヘルメス
「……へえ〜面白そうじゃん」

アフロディーテが優雅に微笑む。

アフロディーテ
「嬉しそうねヘルメス」

ヘルメス
「これが微笑まずにいられるかよ」

腕を組みながら続ける。

ヘルメス
「例の娘が半神を集めようってさ」

アテナが静かに言う。

アテナ
「あのヘスティアの娘ね」

ディオニュソスはワイングラスを揺らしながら言う。

ディオニュソス
「恩人のお嬢さんが母君に会おうとなさっているのですね」

ワインを一口飲む。
ヘルメスがニヤリとする。

ヘルメス
「お前も嬉しいだろディオニュソス?」

ディオニュソス
「ええ、もちろん」

ヘルメスは立ち上がる。軽く体を伸ばす。

ヘルメス
「んじゃ俺は、その娘の様子をちと見に行くか」

アテナがちらりと見る。

アテナ
「軽率な行動は慎みなさい」

ヘルメス
「大丈夫だって。ちょっと様子見するだけさ」

次の瞬間――風が吹き抜ける。

シュンッ

ヘルメスの姿が消える。

静寂。

アフロディーテは窓の外を見つめる。

アフロディーテ(心の中)
(……あなたはどう動くのかしら……?アレス)

アレスの宮殿

赤黒い炎に包まれた戦の神の領域。
重々しい空気。
玉座に座るのは、軍神アレス。

その前に跪くのは……

ポボス(恐怖)
デイモス(恐慌)

アレスの二人の息子。

ポボス
「報告いたします、父上」

アレス
「言え」

ポボス
「ヘスティアの娘が、他の半神を探し始めました」

アレスの眉が動く。

アレス
「……ヘスティアの娘が他の半神を探し出しただと?」

デイモス
「はい。すでにアポロンの息子とアルテミスの娘を味方につけています」

アレスは舌打ちする。

アレス
「チッ……」

拳を握る。

アレス
「俺があの時打ち損じたばかりに……」

炎が強く揺れる。

アレス
「だが今度は違う」

ポボス
「ご命令を」

アレスはゆっくりと立ち上がる。

アレス
「引き続き監視しろ」

デイモス
「はっ」

アレス
「そして――」

目が鋭く光る。

アレス
「次に奴らが動いた時、今度こそ仕留める」

ポボス
「承知いたしました」

デイモス
「必ずや」

アレスは不敵に笑う。

アレス
「半神ごときが神に逆らうか……面白い」

炎が激しく燃え上がる。

アレス
「ならば徹底的に叩き潰してやる」

第3話 完

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