半神の少女 第4話「荒ぶる冥府神の息子」
第4話「荒ぶる冥府神の息子」
オリンポス ― 神殿・玉座の間
天を貫く白き神殿。
雷雲が渦巻く空の下――玉座には主神ゼウスが座している。
ゼウスは静かに呟く。
ゼウス
「……ヘスティアの娘が、アポロンの息子とアルテミスの娘を味方にしたか……」
その時――神殿の空気が変わる。
大地の気配。重く、古き神の存在。
ゆっくりと現れるのは――ゼウスの母、大地の女神レア。
ゼウスは即座に立ち上がる。
ゼウス
「……母よ、なぜオリンポスまでいらしたのだ?」
レアはまっすぐゼウスを見る。
レア
「ねえゼウス。あなた、ヘスティアの娘を殺そうとしているのは本当?」
一瞬の沈黙。
ゼウスの表情がわずかに硬くなる。
ゼウス
「……事実だ」
レア
「どうして?」
ゼウス
「半神は危険だ」
低く、断定的な声。
レアは静かに続ける。
レア
「あなたもヘラを妻としているのに、多くの人間の女との間に子供を儲けてきたじゃない」
ゼウスの目が鋭くなる。
ゼウス
「ヘスティアは処女神だ!」
神殿が震える。
ゼウス
「かつてのように十二神の席にいたならばともかく、その席を下りた今は子供を作ることも許されない!」
雷が走る。
ゼウス
「秩序を乱す芽は、早いうちに摘むべき。これはオリンポスを守るための判断だ」
レアは静かに首を振る。
レア
「それは――」
ゆっくりと語る。
レア
「あなたの父クロノスが、かつてあなたの祖父ウラノスを追い出した際に受けた予言と同じ。」
ゼウスの眉がピクリと動く。
レア
「クロノスは恐れた。自分の子に王位を奪われることを」
空気が重くなる。
レア
「だから子供が生まれる度一人、また一人と飲み込んでいった」
ゼウス
「……」
レア
「この母が石をあなたと偽らなかったら、あなたも兄姉たちと同じ運命だった」
静寂。
レアは一歩近づく。
レア
「それなのに、あなたは今同じことをしようとしている」
次の瞬間――
ドォォン!!
大きな雷鳴が轟く。
ゼウス
「私は父とは違う!!」
神殿全体が揺れる。
しかし――レアは一切動じない。
ただ静かに、ゼウスを見つめる。
そしてさらに一歩踏み込む。
レア
「ヘスティアはあなたの姉。その娘なら――あなたの姪でしょ?」
ゼウスの視線が揺れる。
レア
「それでも殺すの?」
沈黙。
雷が遠くで鳴り続ける。
ゼウスは拳を握る。
ゼウス
「……」
答えない。
だがその目には迷いと恐れが宿っている。
レアはその表情を見逃さない。
レア
「あなたは“恐れている”」
ゼウス
「……違う」
レア
「いいえ」
静かに断言する。
レア
「力を持つ“次の世代”を」
ゼウスの瞳が鋭く光る。
レア
「でもね、ゼウス」
優しく、しかし強く言う。
レア
「恐れで支配した世界は、必ず崩れる」
沈黙。
重い空気。
レアは背を向ける。
レア
「この母は――」
少しだけ振り返る。
レア
「ヘスティアの娘を守る」
その言葉に空気が凍る。
ゼウス
「……母よ」
レアは振り返らない。そのまま光となって消える。
レアが去った後の空間には未だに雷の余韻が残っている。
ゼウスはゆっくりと玉座に腰を下ろす。
その表情には苛立ちと怒り。
次の瞬間――
バチッ!!
ゼウスの手から稲妻が走る。
空間が歪む。
ゼウス
「いるのはわかっている」
低く、重い声。
ゼウス
「出て来いハデス」
さらに稲妻が走る。
ゼウス
「私は今、すこぶる機嫌が悪い」
一瞬の沈黙。
その足元――影が揺らぐ。
ボッ……
黒い炎が現れる。
そこからゆっくりとハデスが姿を現す。
ハデス
「……そう怒るなよ」
静かに歩み出る。
ハデス
「今出ようと思っていた」
ゼウスは無言で睨む。
ハデスは肩をすくめる。
ハデス
「しかしさすが母上だ」
少し笑う。
ハデス
「お前の本気の怒りを見ても物おじせぬとは。あれには私やポセイドンでも恐れおののくぞ」
ゼウス
「……」
沈黙。
ゼウスは冷たく言い放つ。
ゼウス
「……何の用だ?」
ハデスは一歩前に出る。
その目は鋭い。
ハデス
「用件は一つ」
短く告げる。
ハデス
「ヘスティアの娘の件だ」
ゼウスの目がわずかに光る。
ゼウス
「……やはりその話か」
ハデス
「ああ。お前はあの娘を殺す気だな」
ゼウス
「当然だ」
即答。
ゼウス
「秩序を守るためだ」
ハデス
「秩序、か」
ハデスは静かに笑う。
ハデス
「随分と都合のいい言葉だな」
ゼウス
「何だと?」
空気が張り詰める。
ハデス
「恐れているだけだろう」
ゼウスの目が鋭くなる。
ハデス
「自分と同じように、いずれ牙を剥く存在をな」
ゼウス
「……」
雷が強くなる。
ゼウス
「貴様……」
ハデスは構わず続ける。
ハデス
「だが安心しろ。私はあの娘を守る」
ゼウス
「……!」
ハデス
「そして半神を集める」
ゼウス
「貴様、私に逆らうつもりか?」
ハデス
「最初からそのつもりだ」
即答。その言葉に空気が凍りつく。
ゼウスが立ち上がる。
ドォン!!
雷が轟く。
ゼウス
「ならば覚悟しろ、ハデス!!冥界ごと叩き潰してやる!!」
ハデスは一歩も引かない。
ハデス
「やってみろ」
低く言い放つ。
ハデス
「だがその時は……海も、大地も、お前の敵になる」
ゼウスの瞳が揺れる。
ハデス
「ポセイドンは動き始めた。母上も、な」
沈黙。
重い空気。
ハデス
「これは“神々の内戦”だ、ゼウス」
黒い炎が揺らぐ。
ハデス
「もう止まらん」
次の瞬間――
ボッ……
黒い炎となって消えるハデス。
残されたゼウス。
激しい雷。
ゼウスは拳を握る。
ゼウス
「……いいだろう」
低く呟く。
ゼウス
「ならば――」
その目が光る。
ゼウス
「神の力をもって、全てを制圧する」
雷鳴が天を裂く。
学校(教室)
夏の日差しが差し込む午後の教室。セミの声が遠くに響いている。
担任の先生が教壇に立つ。
先生
「さて、もうすぐ夏休みだな」
クラスがざわつく。
先生
「羽目を外しすぎないように。課題も忘れるなよ〜」
クラス
「はーい!」
チャイムが鳴る。
休み時間
教室は一気に賑やかになる。
佳織の周りに友人たちが集まる。
友人A
「ねえ佳織!夏休みさ〜」
友人B
「みんなで海行かない?」
佳織の目がキラッと輝く。
佳織
「いいねえ海〜!」
友人A
「でしょでしょ!」
友人B
「水着買いに行こ〜!」
盛り上がる女子たち。
その時――後ろから声がする。
蓮
「あ〜ごめん」
全員が振り向く。
蓮
「こいつは夏休みは俺とデート」
一瞬の沈黙。
次の瞬間――
友人たち
「えええええええ!!!???」
教室がざわつく。
友人A
「え!?佳織、白石君といつからそういう関係だったの!?」
友人B
「うらやま〜!!」
佳織は顔を真っ赤にする。
佳織
「い……いやそういうわけじゃ……!!」
慌てて否定する。
しかし蓮はさらっと続ける。
蓮
「そういうわけだから、悪いけどこいつは海には行けないから」
友人たち
「きゃーーー!!」
友人B
「もう完全に彼氏じゃん!」
友人A
「青春だ〜!」
佳織
「違うってばあああ!!!!!」
放課後(校舎裏)
人気のない場所。
佳織が蓮に詰め寄る。
佳織
「ちょっと蓮!!なんでデートなんて言ったの〜!!?」
蓮は少し気まずそうに頭をかく。
蓮
「いや……半神探すなんて言っても誰も納得しねえじゃん?」
佳織
「まあ……それはそうだけど……」
蓮
「世間の人達は神様なんていねえと思ってるからさ」
佳織は腕を組む。
佳織
「だからってデートはないでしょ〜!」
蓮
「じゃあ何て言えばよかったんだよ?」
佳織
「うっ……」
言葉に詰まる。
蓮は少し真面目な顔になる。
蓮
「俺たちはこれから普通じゃないことに関わるんだ」
佳織
「……」
蓮
「だったら、普通の理由で動くしかねえだろ」
少しの沈黙。
佳織はため息をつく。
佳織
「……まあ、理屈はわかるけど」
少し頬を膨らませる。
佳織
「でも“デート”はやめてよね!」
蓮
「はいはい」
軽く流す蓮。
佳織
「もう……!」
その時――風が吹く。
学校(屋上・給水塔の影)
給水塔の影に、異様な気配が潜んでいる。
影の中から現れる二つの存在。ポボスとデイモス。
2人は人間には見えない形で、佳織と蓮の様子を見下ろしている。
ポボス
「……ヘスティアの娘の次の行動は――」
目を細める。
ポボス
「ハデスの息子とポセイドンの息子に会う」
デイモスは鼻で笑う。
デイモス
「ハデスの息子、ねえ……」
冷たい声。
デイモス
「神になり損ねて、両親に施設に捨てられたゴミだ」
軽蔑の笑み。
デイモス
「そんな奴が役に立つのか?」
ポボスは無表情のまま答える。
ポボス
「戦力としては未知数だが――利用価値はある」
デイモスが振り向く。
デイモス
「それで……どうする兄上?」
ポボスは静かに指示を出す。
ポボス
「例の半神2人の様子を見てこい」
デイモス
「……」
ポボス
「俺は引き続き、ヘスティアの娘を監視する」
一瞬の沈黙。
デイモスはニヤリと笑う。
デイモス
「かしこまった」
次の瞬間――デイモスの姿が歪み、影の中へと消える。
ポボスはその場に残り、佳織たちを見下ろす。
ポボス(心の中)
(半神が集まるほど――恐怖は増す)
その目に、不気味な光。
屋上・別の場所(見えない存在)
ヘルメスが屋上のフェンスに腰掛け、足をぶらぶらさせながら一部始終を見ていた。
ヘルメス
「……あっちゃあ〜」
肩をすくめる。
ヘルメス
「こいつは前途多難だなあ〜」
下を見下ろす。
佳織たちの姿。
ヘルメス
「ま、でも――」
ニヤッと笑う。
ヘルメス
「こういう方が面白いか」
指を鳴らす。
ヘルメス
「さてと、どこから手ぇ貸すかな〜」
風が吹く。
その姿はふっと消える。
夜(街中・高架下)
暗い夜、バイクのエンジン音が響き渡る。
数十台のバイクが並び、睨み合う若者たち。
その中心に立つ刈間大悟。
大悟
「おい……」
低く唸る。
大悟
「テメェら、俺らのシマで好き勝手してくれたらしいなぁ?」
相手校のリーダー
「はっ、何だよ。ビビってんのか?」
その瞬間――大悟の目が鋭く光る。
大悟
「……やれ」
ドンッ!!
一斉にぶつかり合う。
殴り合い、蹴り合い、怒号が飛び交う。
圧倒的な力で相手をねじ伏せていく大悟。最後には相手のリーダーの胸ぐらを掴み、地面に叩きつける。
大悟
「二度と俺らに生意気な口効けねえようにしねえとな!!」
拳を振り上げる。相手は怯え、何も言えない。
大悟は吐き捨てる。
大悟
「失せろ」
相手たちは逃げていく。
仲間たちが歓声を上げる。
翌日 墨田北高校・職員室
重たい空気の中、大悟が立っている。
目の前には怒りに満ちた教師。
先生
「刈間!!」
机を叩く。
先生
「お前また他校の生徒と喧嘩したな!!」
大悟は気だるそうに答える。
大悟
「おう。それが何?」
先生
「何だその態度は!!」
怒鳴る教師。
しかし大悟はまったく動じない。耳を小指でほじりながら、退屈そうにしている。
先生
「とにかく!!今度やったらお前は退学だ!!」
さらに怒鳴る。
先生
「いいか!!退学だぞ退学!!!」
大悟は鼻で笑う。
大悟
「ケッ。退学上等」
教師を睨む。
大悟
「先公の言う事なんざクソくらえだ」
そう言い放ち――踵を返す。
先生
「おい!!刈間!!待て!!」
無視。
ドアを乱暴に開けて――
バンッ!!
そのまま職員室を出ていく。
廊下(誰もいない場所)
大悟がポケットに手を突っ込みながら歩いている。
その目はどこか虚ろ。
大悟(心の中)
(……くだらねえ。全部、どうでもいい)
黒い炎がゆらめく。
そこに立つのはハデス。
ハデスは静かに大悟を見つめている。
ハデス
「……相変わらず暴れているか……」
悲しげな目。
ハデス
「我々の愛情を知らないばかりに――」
わずかに目を伏せる。
ハデス
「あの子は……」
その言葉には父としての後悔が滲んでいる。
ハデス
「……もう少しだ」
静かに呟く。
ハデス
「お前は、変わる」
黒い炎が揺らぐ。
ハデス
「運命が――動き出している」
その視線の先には歩き去る大悟の背中。
冥界 ハデスの宮殿
深い闇に包まれた宮殿。
静寂の中、冥界の玉座がそびえる。
ハデスはゆっくりと口を開く。
ハデス
「……人間界の様子を見てきた」
ペルセポネは静かに視線を向ける。
ペルセポネ
「……あの子のことね」
ハデス
「ああ」
一瞬の沈黙。
ハデス
「また問題を起こした」
ペルセポネは目を伏せる。
ペルセポネ
「そう……あの子はまた……」
どこか悲しげな声。
ハデス
「今度問題を起こせば、学校を退学になるそうだ……」
その言葉にペルセポネの表情が曇る。
ペルセポネ
「……あの子は、ずっと一人で戦ってきた」
小さく呟く。
ペルセポネ
「自分が何者かも知らずに……」
ハデスは拳を強く握りしめる。
ギリッ……
ハデス
「……本来ならば冥界の王子として育てるはずだった。」
低く、悔しさを滲ませる。
ハデス
「だが……人として生まれてしまった」
ペルセポネ
「だから……人間界に預けた」
ハデス
「……ああ」
静寂。
ハデス
「……だがもう少しだ」
低く呟く。
ハデス
「大悟も、自分の運命を悟る」
冥界の空気がわずかに震える。
ハデス
「そして――」
その視線は遠く人間界へ向けられる。
ハデス
「ヘスティアの娘と出会う」
ペルセポネは微笑む。
ペルセポネ
「その時が……あの子の“始まり”ね」
黒い炎がゆらめく。
路地裏(夕方)
人通りの少ない裏道。夕焼けがビルの隙間から差し込む。
壁にもたれながら、佳織はじっと待っている。
佳織(心の中)
(……来る)
足音。
大悟はポケットに手を突っ込み、気だるそうに歩いている。
その前に、佳織が一歩踏み出す。
スッ
大悟の進路を塞ぐ。
大悟は足を止める。
大悟
「……なんだてめえ?」
鋭い視線。
佳織は一切ひるまない。
佳織
「刈間大悟君……だよね?」
大悟は舌打ちをする。
大悟
「チッ……誰だっつってんだよ……」
佳織はまっすぐ見つめる。
佳織
「私、墨田南高校2年の神宮寺佳織。君の親戚」
大悟の眉がわずかに動く。
だがすぐに表情を崩す。
大悟
「……は?」
低く吐き捨てる。
大悟
「何言ってんだ?俺に親兄弟も親戚もいねえよ」
佳織は静かに言う。
佳織
「君のお父さんに会ったの」
一瞬、空気が止まる。
大悟の目が鋭くなる。
大悟
「……は?」
ゆっくりと近づく。
大悟
「親父に?」
怒りがにじむ。
大悟
「俺には会いに来ねえのにか?」
佳織は一歩も引かない。
佳織
「私もね――」
少しだけ目を伏せる。
佳織
「母親に会いたいの」
大悟
「……」
佳織
「でも、そのためには力がいる」
顔を上げる。
佳織
「だから君に力を貸してほしい」
沈黙。
次の瞬間――大悟の顔が歪む。
大悟
「あ?」
怒りが爆発する。
大悟
「お前のお袋に会いたいから力を貸せってのか……?」
拳を握る。
大悟
「ふざけんじゃねえ!!」
ガシッ!!
佳織の胸ぐらを掴み、引き寄せる。
大悟
「なめてんのかテメェ!!」
だが――佳織は笑う。
挑発するように。
佳織
「へえ~」
軽く言う。
佳織
「女の子に暴力ふるうんだ~?」
大悟
「……」
佳織
「暴走族の総長やってるくせに、ずいぶんダサいんだね?」
大悟のこめかみに血管が浮かぶ。
佳織はさらに踏み込む。
佳織
「あ~そうか」
わざとらしく頷く。
佳織
「親がいない寂しさ埋めるために、仲間とつるんで喧嘩してるんだもんね?」
その言葉――一線を越える。
大悟の目が見開かれる。
次の瞬間、怒りが頂点に達する。
大悟
「……てめえ」
拳を振り上げる。
その時――
ゾワッ
空気が歪む。
大悟の動きが一瞬止まる。
彼の視界に――無数の“何か”が映る。
ぼんやりとした人影、苦しむ顔、泣いている者、そして叫んでいる者。
大悟
「……チッ」
舌打ち。
頭を押さえる。
大悟
「またかよ……!!」
佳織は気づく。
佳織
「……それ」
真剣な目。
佳織
「見えてるの?」
大悟は睨む。
大悟
「……何がだよ?」
佳織
「死者の魂」
沈黙。
大悟の目がわずかに揺れる。
佳織
「やっぱり」
静かに言う。
佳織
「君はただの人間じゃない」
一歩近づく。
佳織
「君は――」
はっきりと告げる。
佳織
「冥界の王ハデスの息子」
大悟の瞳が大きく揺れる。
大悟
「……は?」
佳織
「君はずっと一人じゃなかった」
その言葉はまっすぐ突き刺さる。
佳織
「ただ、知らなかっただけ」
河川敷(夕暮れ)
佳織と大悟は草の上に並んで座る。
少しの沈黙のあと、大悟が口を開く。
大悟
「……俺はよ」
空を見上げる。
大悟
「生まれたときから、ずっと施設にいた」
佳織は静かに聞いている。
大悟
「園長も、俺の親のことは知らねえ」
淡々と話す。
大悟
「赤ん坊の時に、施設の門の前で泣いてたとこを拾ってきたんだと」
佳織
「……」
優しく頷く。
佳織
「やっぱり、親のことは知らなかったんだ」
大悟は小さく笑う。
大悟
「まあな」
少し間を置いて、続ける。
大悟
「施設のガキどもともなじめなくてよ」
拳を軽く握る。
大悟
「ずっと喧嘩ばっかしてた」
少しだけ声が柔らぐ。
大悟
「どこにも居場所がなかった俺に高校になって、ようやく信頼できるダチが見つかった」
佳織はその横顔を見る。
大悟
「そいつらと喧嘩ばっかして、暴走族結成して……総長になった」
佳織
「……」
少し微笑む。
佳織
「暴走族の人たちが、初めての友達だったんだね……」
大悟
「ああ」
遠くを見る。
大悟
「そいつらといる時間が楽しかった……」
一瞬だけ、穏やかな表情。
だがすぐに曇る。
大悟
「だけど最近になって――」
顔をしかめる。
大悟
「幽霊が見えるようになって」
拳を握る。
大悟
「俺、どうなっちまうんだって思ったんだ」
佳織は真剣な目で見つめる。
静かな沈黙。
やがて大悟が佳織の方を向く。
大悟
「なあ?」
少しだけ迷いのある声。
大悟
「そのさっきの……ハデスってのが、本当に俺の親父なのか?」
佳織
「……うん」
大悟
「どんなやつだった?」
その問いには――怒りでも、不信でもなく知りたいという感情が混じっている。
佳織はゆっくりと答える。
佳織
「……優しい人だったよ」
大悟
「……は?」
意外そうな顔。
佳織
「見た目はちょっと怖いけどね」
少し笑う。
大悟は何も言わない。ただ少しだけ視線を落とす。
佳織
「それにね」
優しく言う。
佳織
「お母さんもいるよ」
大悟
「……は?」
佳織
「ペルセポネっていう、冥界の女神様」
大悟
「……」
佳織
「会ったことはないけど、多分すごく優しい人」
大悟は黙る。
拳が少し震える。
大悟(小さく)
「……なんだよ、それ」
笑うでもなく、怒るでもなく。
大悟
「今さら……」
声がかすれる。
大悟
「そんなこと言われてもよ……」
佳織は静かに言う。
佳織
「でも、いるんだよ」
まっすぐ見る。
佳織
「君を想ってる親が」
沈黙。
夕焼けが二人を包む。
大悟は空を見上げる。
大悟
「……チッ」
小さく舌打ち。
でもその顔は、少しだけ孤独がほどけたような表情だった。
翌日 廃工場(暴走族のアジト)
錆びた鉄骨、割れた窓。
朝の光が差し込む中、数十人の不良たちが集まっている。
大悟は口を開く。
大悟
「……みんな」
場が静まる。
大悟
「俺は今日で、族の総長を下りる」
一瞬の沈黙。
次の瞬間――
全員
「はあああああ!!?」
騒然。
メンバー1
「だ……大悟……どうしてだ!?」
メンバー2
「急に総長を下りるなんて、お前らしくもねえじゃん!!」
ざわざわと広がる動揺。
だが大悟は落ち着いている。
大悟
「……なんつうかさ」
頭をかく。
大悟
「喧嘩すんのが、馬鹿らしくなってきたんだよ」
メンバーたちが黙る。
大悟
「俺は、今まで――」
少しだけ視線を落とす。
大悟
「孤独を紛らわすために、喧嘩を続けてきた」
空気が変わる。
大悟
「けどよ、気づいたんだ」
顔を上げる。
大悟
「俺が本当に望んでたことじゃねえって」
静寂。
仲間たちは黙って聞いている。大悟は続ける。
大悟
「それによ」
少し照れくさそうに笑う。
大悟
「昨日、いとこに会った」
メンバーたちが顔を見合わせる。
大悟
「まだそいつの話、全部は信じちゃいねえけどよ――」
少し間を置く。
大悟
「親父は、ずっと俺のこと見てたって言ってた」
誰も何も言わない。ただ、聞いている。
大悟
「なんつうかさ……」
空を見上げる。
大悟
「俺も、親父とお袋に会いたくなってきた」
その言葉は真っ直ぐだった。
メンバーたちの中から声が上がる。
メンバー1
「……よかったじゃねえか」
少し笑う。
メンバー1
「親、見つかるかもしんねえんだろ?」
メンバー2も頷く。
メンバー2
「お前、ずっと言ってたもんな。“親なんかいねえ”って」
別のメンバーが笑う。
メンバー3
「じゃあよ、大悟。今度会ったら、ちゃんと文句言ってこいよ。“なんで今まで来なかったんだ”ってさ」
周囲から笑いが起こる。
大悟は少し驚く。
大悟
「……お前ら……」
メンバー1
「勘違いすんなよ?」
ニヤリと笑う。
メンバー1
「総長じゃなくなっても、ダチはダチだ」
メンバー2
「むしろ喧嘩減るなら平和でいいわ」
メンバー3
「お前いなくなったら誰が俺らを止めんだよ」
笑いが広がる。
大悟は黙る。
少しだけ視線を落とし――そして、笑う。
大悟
「……ケッ。ほんと、バカな連中だな」
でもその声は、どこか優しい。
大悟はゆっくりと振り返り、出口へ向かって歩き出す。
メンバーたちが見送る。
メンバー1
「行ってこいよ、大悟!!」
メンバー2
「親に会ってこい!!」
メンバー3
「戻ってきてもいいからな!!」
大悟は立ち止まらない。
ただ――片手を軽く上げる。それが返事だった。
廃工場を出る大悟。空は高く、青い。
大悟(心の中)
(……行くか)
ポケットに手を突っ込み、歩き出す。
その目には――もう迷いはない。
街中(昼・通学路)
青空の下。
佳織・蓮・月菜の3人が並んで歩いている。
佳織
「――って感じでね」
蓮が食いつく。
蓮
「んじゃあったのか!?その刈間大悟に!」
佳織
「うん」
月菜は少し驚いた様子。
月菜
「……あの暴れん坊の総長相手に、物怖じせずに」
佳織は苦笑する。
佳織
「まあね……ちょっと怒らせちゃったけど」
蓮
「“ちょっと”で済む相手じゃねえだろ……」
その時――前方から大悟が歩いてくる。
ポケットに手を突っ込み、まっすぐこちらを見ている。
大悟
「……よお」
佳織の目が見開かれる。
佳織
「大悟君!?」
蓮と月菜が一瞬固まる。
蓮(小声)
「こ……こいつが噂の……」
月菜(小声)
「威圧感が……」
大悟はそんな2人を一瞥し、そして3人を見て言う。
大悟
「今日よ」
少し間を置く。
大悟
「族の総長を下りるって、みんなに伝えた」
一瞬の静寂。
次の瞬間――
3人
「……下りたあああっっっっっ!!!???」
通行人がびくっとするレベルの大声。
蓮
「はああああ!?」
月菜
「えええええ!?」
佳織
「えっ!?ほんとに!?」
大悟は眉をひそめる。
大悟
「うるせえな……」
頭をかく。
大悟
「別に大したことじゃねえよ」
蓮
「いや大したことだろ!!」
月菜
「組織のトップを辞めるなど……」
佳織はじっと大悟を見る。
佳織
「……決めたんだね」
大悟は視線をそらす。少しだけ照れたように。
そして佳織を見て言う。
大悟
「勘違いすんな」
低い声。
大悟
「お前の話、全部信じたわけじゃねえ」
佳織
「……」
大悟
「親父とお袋に文句を言ってやりてえからな」
少しだけ笑う。
大悟
「“なんで今まで来なかった”ってな」
佳織の表情が柔らかくなる。
佳織
「……うん」
蓮は腕を組む。
蓮
「なるほどな……」
ニヤッとする。
蓮
「動機は不純だけど、まあOKだ」
月菜も頷く。
月菜
「理由はどうあれ、協力していただけるのはありがたいです」
大悟
「協力なんて言ってねえ」
ぶっきらぼうに言う。
大悟
「ついでにお前らについて行くだけだ」
蓮
「それを協力って言うんだよ」
大悟
「うるせえ」
佳織は笑う。
佳織
「でも、来てくれるんでしょ?」
大悟は少しだけ間を置いて答える。
大悟
「……ああ」
その一言。
それだけで十分だった。
佳織(心の中)
(これで……1人仲間が増えた)
オリンポス近郊 レトの神殿
柔らかな光に包まれた静かな神殿。
風が優しく吹き抜け、花々が揺れる。
その中央に座るのは――ゼウスの側室でアポロンとアルテミスの母、女神レト。
その前に立つのはアポロンとアルテミス。
レトは穏やかに微笑む。
レト
「……あら」
優しく目を細める。
レト
「蓮も月菜も、もうそんな歳なのね〜」
アポロンは軽く頷く。
アポロン
「はい。大きくなりました」
どこか誇らしげな表情。
アルテミス
「うちの月菜には、勝手に学校まで来ないでと言われました」
少し不満そう。
レトはくすっと笑う。
レト
「ふふ。アルテミス、あなたもすっかり母親ね〜」
アルテミス
「……そうかしら」
少し照れる。
アポロンは横でニヤリとする。
アポロン
「いい男を選んだからな」
アルテミスが睨む。
アルテミス
「オリオンの時は認めてくれなかったのに、今回は違うのね」
アポロンは肩をすくめる。
アポロン
「あいつは乱暴だったからな……」
アルテミス
「あなたに言われたくないわ」
軽い言い合い。
レトは微笑ましく見ている。
しかし――アポロンの表情が変わる。
アポロン
「……母上」
声が低くなる。
空気が少し張り詰める。
アポロン
「ある半神の娘が、父上に命を狙われています」
レトの表情が静かに変わる。
レト
「……」
一瞬の沈黙。
そして、すぐに答える。
レト
「ヘスティアの娘ね」
アルテミスが頷く。
アルテミス
「はい」
レトは目を閉じる。
レト
「やはり……」
小さく呟く。
レト
「ゼウスはそこまで来ているのね」
アポロン
「すでにアレスが動きました」
アルテミス
「ですが、あの子の力が覚醒して撃退しました」
レトはゆっくり目を開ける。
その瞳には静かな決意。
レト
「……強い子ね」
少し微笑む。
レト
「ヘスティアの娘らしいわ」
アポロン
「現在、その娘は半神を集めています」
アルテミス
「蓮と月菜も協力しています」
レトは静かに頷く。
レトは二人を見つめる。
優しく、しかし強く。
レト
「あなたたちは、あの子たちを支えなさい」
アルテミス
「はい」
アポロン
「もちろんです」
レトは微笑む。
レト
「私も――」
少し間を置く。
レト
「あの子たちを守る」
風が吹く。
神殿の空気が静かに震える。
レト
「ゼウスが何をしようとも」
その声には確かな覚悟。
アレスの宮殿
赤黒い炎が渦巻く、戦の神の領域。
大地はひび割れ、空気は重く、血の匂いが漂う。
玉座の前――巨大な炎の柱が立ち上がる。
ゴォォォ……!!
その中から、一人の男がゆっくりと姿を現す。
ローマの建国王、ロムルスの双子の弟、レムス。
鋭い眼光、戦士の風格。
膝をつき、頭を垂れる。
レムス
「ありがとうございます、父上」
アレス
「礼には及ばぬ」
低く言い放つ。
アレス
「お前も私の息子だ」
レムスは静かに顔を上げる。
その目には、かつての戦場の記憶。
かつて――ローマ建国の時代。
ロムルスとレムスの双子の兄弟は、共にアムリウス王を倒し、国を築こうとした。
だが――王の座を巡り対立。
剣を交え、そして――レムスは命を落とした。
その魂を今――アレスが呼び戻した。
レムスは立ち上がる。
レムス
「……再び、この身に戦う機会を与えていただけるとは」
拳を握る。
レムス
「この命、父上のために」
アレスは満足そうに笑う。
アレス
「……その意気だ」
炎が揺らぐ。
アレス
「お前の任務はわかっているな?」
レムスは即答する。
レムス
「はい、父上。例の半神の監視です」
アレス
「そうだ」
目が鋭く光る。
アレス
「ヘスティアの娘――」
低く呟く。
アレス
「奴の動きを見極めろ」
レムス
「承知いたしました」
アレス
「ポボスとデイモスも動いている」
レムス
「兄たちと連携を取ります」
アレスは満足そうに頷く。
アレス
「行け」
レムス
「はっ」
次の瞬間――
ドンッ!!
レムスの体が炎となって消える。
静寂。
炎が揺れる中、アレスはゆっくりと立ち上がる。
その顔には、狂気じみた笑み。
アレス
「……神宮司佳織……だったか」
拳を握る。
アレス
「次は必ず――」
炎が激しく燃え上がる。
アレス
「俺が息の根を止めてやる」
第4話 完
