宮廷賢者アルトリア 第8話「王都ガルディア 決死の謁見」
第8話「王都ガルディア 決死の謁見」
レグナス王城 玉座の間
重厚な玉座の間。壁には王国の紋章。
空気は重い。
玉座には――国王レオニス。
その前に並ぶのは、王国の武の中枢。
六軍将
ロウラル
ルーク
バージル
アレス
ロイド不在(アルトリア護衛中)
リーナ不在(同)
そして王子王女たち。
ガイナス
アグニス
ドルゴン
セリア
エリス
ユリナ
全員が武装している。
戦争は続いている。
レオニスが口を開く。
レオニス
「……アルトリアたちは今どのへんだ?」
ロウラルが一歩前へ出る。
ロウラル
「報告ではすでにイルカンの王都、ガルディアに到着しております」
玉座の間に緊張が走る。
アグニス
「もう敵のど真ん中か……」
ガイナス
「無事であればよいが……」
レオニスは静かに目を閉じる。
レオニス
「……あの者なら必ず道を開く」
王の確信。
セリアは黙っている。拳を握りしめて。
王城 回廊
軍議終了後。
武人たちは次々と玉座の間を出ていく。鎧の音が響く。
セリアも静かに歩いている。
その時――声がする。
カイン
「姫様!」
セリアが振り返る。
そこに立っていたのは、黒髪の青年。鋭い眼差し。
ロウラルの長男でセリアのいとこ。
カイン・レグナード。
セリア
「……カイン」
カインが近づく。
カイン
「聞きました。アルトリア殿がイルカンへ向かわれたと」
セリアは少し俯く。
セリア
「……ええ」
沈黙。
カイン
「心配ですか?」
セリア
「……当然よ」
カインは静かに彼女を見る。
セリア
「……敵国よ。殺されるかもしれない……帰ってこないかもしれない……」
カインの胸がわずかに痛む。
セリア
「でも――」
セリアは顔を上げる。
セリア
「きっと帰ってくる」
その瞳には揺るがない信頼。
カインはその表情を見て、すべてを理解する。
カイン
「……ええ。必ず帰ってきます」
セリア
「そうね」
セリアは微笑む。
だが、それはカインに向けられたものではない。
カイン(心の声)
(姫様……あなたは……もう――)
セリア
「ありがとう、カイン」
そう言って、彼の横を通り過ぎる。
カインは動かない。
ただその背を見つめる。
柱の影から、三人の少年少女が現れる。
ミレア
リュサル
エルサ
ロウラルの子供たち。
ミレアが静かに言う。
ミレア
「複雑そうな顔ですね、兄上」
リュサル
「いまだに姫様に未練がおありですか?」
エルサ
「というか、カイン兄上はなぜ姫様を?いとこ同士のはずですが?」
カインはしばらく黙っている。
そして、小さく笑う。
カイン
「……いとこだからだ」
三人が首を傾げる。
カイン
「子供の頃からずっと一緒だった」
回想――
幼いセリアとカインが木剣で稽古をしている。
――回想終わり。
カイン
「誰より強く、誰より気高く、誰より美しい」
沈黙。
カイン
「……守りたかった」
リュサル
「兄上……」
エルサ
「でも……姫様は……」
カイン
「分かっている」
カインは空を見る。
カイン
「俺の役目は、姫様を守ることだ」
ミレア
「アルトリア様ではなく?」
カインは静かに答える。
カイン
「アルトリア殿も」
一拍。
カイン
「姫様が守りたい人なら」
三人は黙る。カインの覚悟を理解する。
カインの拳が静かに握られる。
カイン(心の声)
(アルトリア殿、あんたが姫様の希望なら、俺は――その剣になる)
イルカン王国 王都ガルディア 城門前
巨大な黒い城壁。レグナスとは異なる建築様式。
重厚で、威圧的な都市。
城門の上には、イルカン王国の黒き紋章。
門がゆっくりと開く。
アルトリア一行が中へ入る。
アルトリア
イルハレム
ジェームズ
ダイム
ロイド
リーナ
騎士団護衛
市民たちの視線が一斉に向けられる。
敵意、警戒、ざわめき。
市民A
「レグナスの連中だ……」
市民B
「賢者だと……?」
市民C
「なぜここに……」
ジェームズが小声で言う。
ジェームズ
「……ここが、イルカン王国の王都……ガルディア」
彼の瞳には緊張が浮かぶ。
ダイムが馬車の窓から周囲を見渡す。
整備された石畳。巨大な建造物群。規律ある街並み。
ダイム
「レグナリアほどじゃないが、かなりの規模だ」
ロイドが静かに言う。
ロイド
「軍事国家らしい都市だ」
リーナ
「隙が少ない」
アルトリアは何も言わない。
ただ窓から街を見つめている。
その瞳には警戒ではなく――懐かしさがあった。
アルトリア
「……久しぶりだ」
イルハレムが驚く。
イルハレム
「従兄上?」
アルトリア
「ガルディアは」
イルハレム
「一度来たことがおありで?」
アルトリアはゆっくり頷く。
アルトリア
「昔、家族でここに来たことがある」
イルハレム
「……!」
ジェームズとダイムも驚く。
ジェームズ
「敵国に……ですか?」
アルトリア
「当時は、今ほど関係は悪くなかった」
アルトリアの瞳に遠い記憶が浮かぶ。
回想
青空の下。
幼いアルトリア。その隣には――
父
バーンズ・フィリア
母
アンジュ・フィリア
そして、兄たち
シャルル
ハンス
シャルル
「ほらアルトリア、見てみろ」
ハンス
「でかい城だろ?」
アンジュ
「迷子にならないようにね」
バーンズが優しく頭に手を置く。
バーンズ
「よく見ておけ。世界は広い」
幼き日の笑顔。
家族の笑顔。
回想が終わる。
アルトリアの瞳がわずかに揺れる。
アルトリア
「父上と母上……シャルル兄上とハンス兄上も……一緒だった」
沈黙。
イルハレムが静かに言う。
イルハレム
「……きっと皆、従兄上を見守っています」
アルトリアは微笑む。
アルトリア
「そうだといいね」
ロイドが馬車に近づく。
ロイド(ひそかに紙を渡しながら)
「アルトリア殿、イルカンの王宮が見えました」
全員の視線が向く。
王都の中心に巨大な黒き王宮。
イルカン王国の中枢。
リーナ
「……あそこが敵の本拠地」
アルトリアは王宮を見つめる。
アルトリア
「敵ではありません」
ロイド
「?」
アルトリア
「これから話をする相手です」
沈黙。
王宮の前で馬車が止まり、アルトリアが馬車を下りて歩き出す。
その背に迷いはない。
若き賢者は敵国の王と対面するため、王宮へ向かう――
イルカン王国 王宮 正門前
重厚な門の前にアルトリア一行が立っている。
門の前には、すでに一人の老人が立っていた。
白髪、鋭い灰色の瞳、静かな威圧感。
イルカン王国宰相、セバス・グランディス。
セバスはゆっくりと歩み寄る。
その動きに無駄はない。
セバス
「遠いところよくぞお越しくださった」
落ち着いた声。
だが、その瞳はアルトリアを鋭く観察している。
セバス
「レグナス王国宮廷賢者、アルトリア・フィリア殿」
アルトリアは静かに一礼する。
アルトリア
「お出迎えいただき感謝いたします」
セバス
「両国は戦争中の身故、安全までは保障できぬがよろしいか?」
空気が張り詰める。
ロイドとリーナがわずかに身構える。
だが――アルトリアは一歩も引かない。
アルトリア
「構いません。こちらも命がけで、ジョルジュ国王陛下に謁見にまいりました」
沈黙。
セバスの瞳がわずかに細まる。
セバス(心の声)
(……恐怖がない。いや、恐怖を理解した上で来ている。この年齢で……バーンズに似ている……)
セバスは静かに振り返る。
セバス
「どうぞ。陛下がお待ちです」
門が開く。
重い音。
アルトリアは歩き出す。
その後に全員が続く。
若き賢者は、敵国の中枢へ足を踏み入れる。
王宮 上階回廊
高所の回廊。
そこから、アルトリア一行を見下ろす三人の影。
ハリス
グラーズ
パトルク
イルカン王国の王子たち。
グラーズが不満そうに言う。
グラーズ
「全く……せっかくレグナスの連中を蹴散らそうという時に、なぜガルディアに戻らねばならぬ?」
パトルクが肩をすくめる。
パトルク
「父上のご命令ですからね。レグナスから使者が来るからと」
パトルクはアルトリアを見る。
パトルク
「何でも使者として来る賢者は若いですが、知恵が優れているとか」
グラーズが目を細める。
グラーズ
「……あれが噂の賢者か」
アルトリアを見下ろす。
グラーズ
「おなごのようにきれいな顔をしておるわ」
口元が歪む。
グラーズ
「にしても、戦争中だというのに我が国に足を踏み入れるとは、命知らずな連中だ」
パトルク
「度胸だけは認めますよ」
沈黙。
その時――ハリスが口を開く。
ハリス
「……きっと面白い物が見られる」
グラーズ
「何ですと?」
ハリスは微笑む。
ハリス
「あの男、ただの賢者ではない」
一歩、歩き出す。
ハリス
「行くぞ。直接見てみようではないか」
三人の王子は、玉座の間へ向かう。
レグナス=イルカン国境地帯 イルカン軍 本陣
荒野には無数の軍旗。黒き紋章。
十万を超える大軍が展開している。
その中心にはイルカン王国最強戦力。
イルカン四天王
彼らはそれぞれ独立した陣を敷いていた。
だが――王命が届く。
戦場の空気が変わる。
第一将バルダ・イルコスの陣
巨大な軍幕。
中央に立つのは、屈強な男。
イルカン軍総司令官、バルダ・イルコス。
彼の前に伝令兵が跪く。
兵士
「ご報告!国王陛下より本陣をガルディア近郊まで後退せよとのご命令です!」
沈黙。
バルダの鋭い眼が兵士を見下ろす。
バルダ
「……本当に兄上がそう命じたのか?」
兵士
「はっ!間違いございません!」
バルダはしばらく動かない。
戦場を見つめる。
その先には――レグナス軍。
そして、宿敵ロウラルの姿を想像する。
バルダ
「……チッ」
舌打ち。
だが――バルダは振り返る。
バルダ
「全軍に伝令」
一瞬の静寂。
バルダ
「本陣を下げろ!」
兵士
「はっ!!」
命令が伝達される。
イルカン軍の中心が動き始める。
第二将ジャック・スピナーの陣
荒野の高台。
無数の兵を従える歴戦の猛将、ジャック・スピナー。
伝令が到着する。
兵士
「本陣後退命令です!」
ジャック
「くそっ!!」
地面を蹴る。
ジャック
「これから戦おうというときに!!」
拳を握る。
ジャック
「レグナスの首を刈る好機だったというのに……!」
だが、彼は命令に逆らわない。
ジャック
「……全軍撤収準備だ」
兵士
「はっ!」
第三将フリード・ホークスの陣
巨大な男。
怪力の将、フリード・ホークス。
彼の周囲には、破壊された訓練用の鉄人形。
伝令が走り込む。
兵士
「後退命令です!」
フリード
「ああ〜っ!?」
怒号。
フリード
「俺はまだ戦うぞ!!」
拳で鉄人形を粉砕する。
フリード
「まだあのアレスが出てきておらぬ!!奴を叩き潰しておらぬのだ!!」
兵士たちは震える。
だが、フリードは歯を食いしばり――
フリード
「……だが、王命は絶対だ……撤収だ!!」
兵士
「はっ!」
第四将アイゼル・シュバルツの陣
静かな森の中。標的が並んでいる。
弓を構える冷酷な射手、アイゼル・シュバルツ。
矢を放つ。
――ドン
矢は標的の中心を貫く。
伝令が来る。
兵士
「本陣後退命令です」
アイゼルは振り向かずに次の矢をつがえ、放つ。
再び中心に命中。
アイゼル
「……本陣を戻す」
兵士
「はっ」
アイゼルは空を見る。
アイゼル(心の声)
(何かが動いている。戦場の外で)
静かに弓を下ろす。
国境全体
イルカン軍本陣が、徐々に後退していく。
兵士たちは不満を漏らす。
兵士A
「なぜだ……?」
兵士B
「勝てる戦だったのに……」
兵士C
「王のご命令だ……」
だが誰一人として逆らわない。
イルカン軍は統制された軍だった。
遠く――レグナス軍の斥候がそれを見る。
斥候
「……イルカン軍が下がっている……?」
戦場に、変化が生まれる。
その原因は――ただ一人。
敵国へ乗り込んだアルトリア。
イルカン王国 王宮 玉座の間
巨大な扉が開く。
――ギィィィ……
重厚な玉座の間。
黒き大理石、高い天井。
中央奥の黒き王座。
そこに座るのはイルカン王国国王、ジョルジュ・イルコス。
肘をつき、足を組み、王としての絶対的威圧を放っている。
その左右には――
ハリス
グラーズ
パトルク
さらに、宰相セバス・グランディスに衛兵たち。
玉座の間の中央に、アルトリア一行が立つ。
重い沈黙。
ジョルジュがゆっくりと口を開く。
ジョルジュ
「……よく来たな。アルトリア・フィリアよ」
低く重い声。
アルトリアは静かに一礼する。
アルトリア
「お初にお目にかかります。ジョルジュ国王陛下」
その瞬間――ジョルジュがわずかに指を動かす。
ハリスが一歩前へ出る。
――シャッ
剣を抜く。
そしてアルトリアの喉元へ突きつける。
空気が凍る。
ジェームズ
「っ……!」
イルハレム
「従兄上!」
ロイドとリーナが反射的に剣を抜く。
――ギィン!
ロイド
「陛下!」
リーナ
「何のつもりですか!」
衛兵たちも槍を構える。一触即発。
だが――アルトリアは動かない。
ジョルジュが口を開く。
ジョルジュ
「……愚かな奴め。わざわざ死にに来るとはな……」
ハリスの剣は微動だにしない。
ジョルジュ
「だが、私は慈悲深い」
沈黙。
ジョルジュ
「ただ殺してはつまらん」
王の瞳がアルトリアを射抜く。
ジョルジュ
「戦争中の国にわざわざ出向くとは、相応の覚悟を持っていると見る」
ジョルジュはゆっくりと背にもたれる。
ジョルジュ
「現在、この謁見のために軍を引かせている」
ロイドとリーナの表情が変わる。
ジョルジュ
「四天王達が不満を言っておる」
グラーズが笑う。
グラーズ
「当然だ。血気さかんな彼らを引かせるも、このまま侵攻させるも」
王の瞳が光る。
ジョルジュ
「貴様次第だ」
玉座の間が静まり返る。
ジョルジュ
「要件を言ってみろ」
沈黙。
ハリスの剣はまだアルトリアの喉元にある。
だが、アルトリアは微動だにしない。
アルトリアは静かに口を開く。
アルトリア
「陛下」
その声は、落ち着いていた。
アルトリア
「まず、このまま軍の侵攻をお止めいただきたい」
玉座の間がざわめく。
グラーズ
「何だと……?」
パトルク
「はは……」
ハリスは無言で観察する。
ジョルジュ
「……ほう」
アルトリアは続ける。
アルトリア
「そしてお尋ねいたします」
一歩、前へ出る。
ハリスが剣を構えなおす。
だが、アルトリアは止まらない。
アルトリア
「陛下、この度イルカン王国が侵攻を開始した真の理由は」……
沈黙。
アルトリアの蒼い瞳が王を見据える。
アルトリア
「何ですか?」
ハリスの剣先が微かに震える。
ハリス
「貴様!何を言うか!」
空気が張り詰める。
その瞬間――ジョルジュがゆっくりと手を上げる。
ジョルジュ
「もうよい。下がれ、ハリス」
ハリスは一瞬躊躇うが、剣を引く。
ハリス
「……失礼いたしました、父上」
ジョルジュは肘をつき、アルトリアを見下ろす。
ジョルジュ
「せっかく我が国まで来たのだ。教えてやろう」
玉座の間が静まる。
ジョルジュの声は低く、重い。
ジョルジュ
「今のイルカンは外から見るほど安定しておらぬ」
セバスが無言で目を細める。
ジョルジュ
「北部の農地は三年連続の凶作、南部の貴族は不満を抱え、商人は物価を釣り上げ、兵糧の価格は高騰している」
グラーズが鼻を鳴らす。
グラーズ
「戦が始まれば一時的に民は結束する」
ジョルジュは続ける。
ジョルジュ
「若き兵は戦を望む。貴族は戦功を欲する。民は不満のはけ口を求める」
一瞬の沈黙。
ジョルジュ
「国をまとめるには、外敵が最も分かりやすい」
玉座の間が重くなる。
アルトリアは静かに言う。
アルトリア
「……それなら、なおのこと戦争をすべきではありません」
ざわめき。
ハリス
「何?」
アルトリアは続ける。
アルトリア
「凶作、物価高騰、貴族の不満、それらは国内問題です。外に敵を作っても根本は解決しない」
ダイムとイルハレムが息を呑む。
アルトリア
「むしろ戦争は兵糧不足を悪化させ、民の不満を増大させ、戦後の統治を困難にします」
ジョルジュの瞳が鋭くなる。
ジョルジュ
「……だからこそだ」
アルトリア
「?」
ジョルジュはゆっくりと立ち上がる。
王の威圧。
ジョルジュ
「国内の不満はいずれ爆発する。だが勝利すれば、新たな土地、新たな資源、新たな農地が手に入る」
ハリス
「奪えばよいのだ」
グラーズ
「弱き者からな」
パトルク
「戦争は危機を機会に変える手段でもある」
アルトリアは王を見つめる。
アルトリア
「……勝てると確信しておられるのですか」
沈黙。
ジョルジュ
「我が軍は強い」
アルトリア
「レグナスもです」
一瞬、空気が凍る。
アルトリア
「両国が全力でぶつかればどちらも無傷では済みません。仮に勝っても国力は大きく削がれる。その隙を……」
アルトリアはわずかに視線を横に向ける。
アルトリア
「第三国が狙う可能性が十分あります」
セバスの目が光る。
セバス
(……見えているな)
ジョルジュは沈黙する。
ハリス
「……」
ジョルジュはゆっくりと笑う。
ジョルジュ
「面白い」
玉座の間の空気が変わる。
ジョルジュ
「ならば問おう」
王の視線がアルトリアを射抜く。
ジョルジュ
「戦わずしてこの国の不満を鎮め、国を安定させる策があると?」
アルトリアは一歩進み出る。
アルトリア
「あります」
玉座の間がざわめく。
ジョルジュ
「ほう」
アルトリア
「ただし条件がございます」
沈黙。
ジョルジュ
「……条件とは何だ?」
アルトリアはゆっくりと周囲を見渡す。
王子たち、宰相、衛兵、そして――王。
アルトリア
「まず、兵糧価格の高騰は凶作だけが原因ではありません」
セバスの瞳がわずかに動く。
セバス
「……続けよ」
アルトリア
「兵糧が市場に出回っていない」
沈黙。
アルトリア
「つまり誰かが意図的に流通を止めている」
ざわめき。
ハリス
「何だと?」
グラーズ
「証拠はあるのか」
アルトリア
「あります」
アルトリアはダイムを見る。
ダイムが一歩前へ出て、先ほどロイドに渡された紙を出して話す。
ダイム
「我々は王都へ入る際、同行している騎士団を使って市場と倉庫を確認させました」
イルハレムも続く。
イルハレム
「倉庫には兵糧が大量に保管されていました」
ジェームズ
「ですが市場にはほとんど出回っていませんでした」
沈黙。
アルトリア
「つまり凶作ではあるが、兵糧が完全に不足しているわけではない」
セバスが静かに言う。
セバス
「……誰かが価格を操作していると?」
アルトリア
「はい」
ジョルジュの瞳が鋭くなる。
ジョルジュ
「目的は何だ?」
アルトリア
「戦争です」
ざわめき。
ハリス
「馬鹿な」
アルトリア
「兵糧価格が上がれば民の不満は増し、不満は戦争への支持へ変わります」
セバス
「……」
アルトリア
「つまり戦争を望む者が、国内不安を作り出しているということです」
完全な静寂。
ジョルジュ
「……誰だ?」
アルトリア
「それは……」
アルトリアはセバスを見る。
アルトリア
「調査すればすぐに分かります」
沈黙。
セバスはゆっくりと目を閉じる。
そして――
セバス
「陛下」
ジョルジュ
「申せ」
セバス
「確認する価値はございます」
ハリス
「宰相!」
セバス
「もしこれが事実なら、我が国は内側から操られていることになります」
ジョルジュはアルトリアを見る。
ジョルジュ
「……続けろ」
アルトリア
「解決策は単純です」
一歩前へ出る。
アルトリア
「兵糧を市場に放出することです」
グラーズ
「それだけか?」
アルトリア
「はい。価格は下がり、民の不満は収まり、戦争の大義は消えます」
沈黙。
アルトリア
「さらに兵糧を独占している者を摘発すれば、王権の正当性は強まります」
セバスの瞳が光る。
セバス
(見えている……)
ジョルジュ
「……」
アルトリア
「陛下」
アルトリアはまっすぐ王を見る。
アルトリア
「戦争は最後の手段であるべきです」
沈黙。
ジョルジュがゆっくりと立ち上がる。
王の威圧が玉座の間を満たす。
ジョルジュ
「……若き賢者よ」
一歩、アルトリアに近づく。
ジョルジュ
「貴様はこの国を救うと言うのか」
アルトリア
「いいえ」
静かに答える。
アルトリア
「陛下が、この国を救うのです」
沈黙。
ジョルジュの目が細まる。
そして――
ジョルジュ
「セバス」
セバス
「はっ」
ジョルジュ
「調べよ」
セバス
「御意」
玉座の間の空気が変わる。
戦争の流れが、わずかに揺らぐ。
ハリスはアルトリアを見る。
ハリス
(面白い……)
グラーズは睨む。
グラーズ
(気に食わぬ……)
セバスは確信する。
セバス
(この男は……本物だ)
ジョルジュは玉座に戻る。
ジョルジュ
「結果が出るまで貴様の首は預けておこう」
アルトリア
「感謝いたします」
戦争を止めるための戦いが、今始まった――
イルカン王宮 客人用の部屋
重厚な石造りの部屋。
豪華ではあるが、どこか冷たい空間。
窓の外には、イルカン王都ガルディアの街並みが見える。
リーナがじっとジェームズを見ている。真っ直ぐに、微動だにせず。
ジェームズが気づく。
ジェームズ
「え、え~っと……」
困惑した笑顔。
ジェームズ
「何か……?」
リーナはハッとする。
そしてそっと目を逸らす。
リーナ
「……いえ」
短く答える。
ジェームズ
「?」
ジェームズは首を傾げる。
ダイムが小声で言う。
ダイム
「……お前何かしたのか?」
ジェームズ
「してないよ!?」
イルハレムが興味深そうに見ている。
イルハレム(心の声)
(何だろう……)
その時――
――コンコン
扉がノックされる。
ロイドが一歩前へ出る。
ロイド
「誰だ?」
扉が開く。
そこに立っていたのは――イルカン王国の王子たち。
ハリス
グラーズ
パトルク
空気が一瞬で張り詰める。
ロイドとリーナが即座に身構える。
ハリスが一歩前へ出る。
ハリス
「警戒するな」
落ち着いた声。
ハリス
「第1王子で王太子、ハリス・イルコスだ」
アルトリアをまっすぐ見る。
ハリス
「先ほどの無礼、許されよ」
アルトリアは軽く頭を下げる。
アルトリア
「いえ、国を守る者として当然の行為です」
ハリスはわずかに微笑む。
グラーズが近づいてくる。
グラーズ
「俺は第2王子のグラーズ・イルコスだ」
アルトリアの顔を覗き込む。
距離が近い。
グラーズ
「近くで見ると本当におなごのようだな~」
アルトリアが若干引く。
アルトリア
「……一応男ですが」
グラーズ
「ハハハハ」
パトルクが近づく。
パトルク
「第3王子のパトルク・イルコスです」
優雅に一礼する。
パトルク
「以後お見知りおきを」
アルトリアも一礼する。
ハリスが真剣な目で問う。
ハリス
「一つ聞こう」
アルトリア
「何でしょう?」
ハリス
「貴様、命が惜しくないのか?」
部屋の空気が変わる。
イルハレムが息を呑む。
ジェームズの手が震える。
だが――アルトリアは静かに答える。
アルトリア
「……惜しいですよ」
三人の王子の目がわずかに変わる。
アルトリアは胸元に手を入れる。
そして――一つの小さな石を取り出す。淡く光る守り石。
アルトリア
「……何しろ」
石を見つめる。
アルトリア
「セリア姫様に……」
一瞬、微笑む。
アルトリア
「必ず帰ってくると誓ってしまったので」
沈黙。
その言葉に、重みがある。
ハリスの目が細まる。
ハリス
「……なるほど」
パトルクが微笑む。
パトルク
「誓い、ですか」
グラーズは無言で見ている。
グラーズ(心の声)
(あの女のために……命を懸けているのか……)
リーナがアルトリアを見る。
ロイドも静かに頷く。
ハリスが言う。
ハリス
「賢者よ、貴様がただの理想家ではないことは分かった」
一歩、近づく。
ハリス
「だが、この国を動かせるかどうかはこれからだ」
アルトリア
「はい」
レグナス王城 玉座の間
戦時の緊張が漂う玉座の間。
集まっているのは――
レオニス
ロウラル
ルーク
バージル
アレス
ガイナス
アグニス
ドルゴン
セリア
エリス
ユリナ
そして重臣たち。
一人の伝令兵が膝をついている。
伝令兵
「陛下!イルカン王都よりアルトリア殿からの書簡が届きました!」
玉座の間にざわめき。
セリアの表情が強張る。
セリア
「……!」
レオニスがゆっくりと書簡を受け取る。
封蝋には、フィリア家の紋章。
レオニスは静かに開封する。
沈黙。
全員が固唾を呑む。
レオニスが目を通す。
レオニス
「……ジョルジュ王は」
わずかに眉をひそめる。
レオニス
「誠愚かだ」
空気が張り詰める。
アグニス
「父上?」
レオニス
「国が不安定ならば、なおさら戦争をすべきではなかろうに」
ロウラルが腕を組む。
ロウラル
「……やはり国内が揺れているのですか?」
レオニスは読み進める。
レオニス
「兵糧価格高騰、南部貴族の不穏な動き、商人による流通独占の疑い……それらの問題があり、一時的に民を結束させるために戦争を仕掛けたそうだ」
状況は明確。
レオニス
「アルトリアは、内部に戦争を望む勢力がいると見ている」
ざわめき。
ガイナス
「戦争を望む……?」
アレス
「自国の民を犠牲にしてまでか?」
レオニスは続ける。
レオニス
「兵糧を市場に放出させれば、民の不満は収まり、戦争の大義は失われる」
ロウラルが低く言う。
ロウラル
「なるほど。外敵より内敵の方が厄介ということか」
レオニスは最後まで読み終える。
沈黙。
セリアが一歩前に出る。
セリア
「……アルトリアは無事なのですか?」
レオニスはわずかに微笑む。
レオニス
「生きている。それどころかジョルジュ王の心をわずかに揺らした」
セリアの瞳が揺れる。
安堵と誇り。
アグニス
「さすがだな」
ドルゴン
「兄上……」
レオニスは玉座から立ち上がる。
レオニス
「ジョルジュ王は戦争を機会と見ている。だが真に強き王は民を守る者だ」
玉座の間が静まる。
レオニス
「ロウラル」
ロウラル
「はっ」
レオニス
「アルトリアが失敗した場合は即座に動け」
ロウラルの瞳が鋭くなる。
ロウラル
「御意」
レオニスは遠くを見る。
レオニス
「だが私は信じている」
王の声が静かに響く。
レオニス
「あの者は戦わずして勝つ」
セリアは胸に手を当てる。
その時――伝令兵が再び口を開く。
伝令兵
「陛下」
レオニス
「申せ」
伝令兵
「書簡とは別に、もう一通アルトリア殿からの手紙がございます」
ざわめき。
伝令兵はゆっくりと顔を上げる。
伝令兵
「……セリア姫様宛です」
セリア
「……!」
一瞬、時間が止まる。
レオニスは静かに微笑む。
レオニス
「渡してやれ」
伝令兵
「はっ」
伝令兵がセリアの前に歩み寄る。
差し出される手紙。
セリアは両手でそれを受け取る。
震えている。
その封蝋には――フィリア家の紋章。
セリアの瞳が揺れる。
アグニスがニヤリと笑う。
アグニス
「ほう?」
エリスが微笑む。
ユリナは嬉しそうに見ている。
ロウラルは黙っている。
レオニス
「読んでよい」
セリアは小さく頷く。
セリア
「……はい」
セリアは封を解く。
ゆっくりと大切に。
そして――読み始める。
セリア(読み上げ)
「セリア姫様、突然の訪問で驚かせてしまったことをお許しください」
セリアの瞳が優しくなる。
「僕は今、イルカン王国の王都にいます。敵国の中心に立っているというのは少し不思議な感覚です」
セリアは小さく微笑む。
「ですが怖くはありません」
一瞬セリアの手が止まる。
「なぜなら、あなたが守り石をくれたからです」
セリアの胸が締め付けられる。
手紙を持つ手に力が入る。
「そして、あなたに必ず帰ると誓ってしまったからです」
セリアの瞳に涙が浮かぶ。
「僕は必ず帰ります。この戦争を止めて、あなたのいる国へ」
涙が一筋、頬を伝う。
「ですから、少しだけ待っていてください」
沈黙。
「アルトリア・フィリア」
手紙が終わる。
玉座の間は静まり返っている。誰も何も言わない。
セリアは手紙を胸に抱く。
セリア
「……」
涙を拭う。
そして――顔を上げる。
その瞳にはもう不安はない。
セリア
「……父上」
レオニス
「うむ」
セリア
「アルトリアは必ず帰ってきます」
確信に満ちた声。
レオニスは静かに頷く。
レオニス
「そうだ」
ロウラルも頷く。
ロウラル
「フィリアの男だ」
アグニス
「約束は守るだろう」
ユリナは嬉しそうに笑う。
エリスも優しく微笑む。
セリアは手紙を大切に胸に抱く。
セリア(心の声)
(アルトリア、待っています。必ず……必ず帰ってきて)
イルカン王宮 客人用の部屋(夜)
アルトリアは窓辺に立ち、街を見ている。
その後ろでジェームズが話しかける。
ジェームズ
「アルトリア様」
アルトリア
「ん?」
ジェームズ
「セリア姫様にもお手紙をお出ししたとか?」
アルトリアは少し驚いた顔をする。
アルトリア
「……ああ」
小さく頷く。
アルトリア
「必ず帰ってくると誓った以上……」
アルトリアは手の中の守り石を見る。
アルトリア
「無事なことは伝えないと」
ジェームズは微笑む。
ジェームズ
「きっと喜んでおられますよ」
アルトリアは少し黙る。
そして――小さく呟く。
アルトリア
「……それに」
ジェームズ
「?」
アルトリア
「なぜかは分からないけど……」
守り石を握る。
アルトリア
「僕のこと色々気にかけてくれるし」
その言葉は、無意識の本音。
イルハレムが微笑む。
イルハレム
「従兄上、それはきっと――」
ダイムが軽く肘で止める。
ダイム
「やめておけ」
ジェームズがニヤリとする。
ジェームズ
「アルトリア様もやっぱり普通の男ですね」
アルトリア
「……?」
意味が分かっていない。
三人は顔を見合わせる。
イルカン王宮 宰相執務室
情報官
「宰相閣下、確認が取れました」
セバス
「申せ」
情報官
「南部の有力貴族のヴォルクス伯爵および軍需管理官グレス」
情報官は書類を差し出す。
情報官
「兵糧を意図的に買い占め、市場への流通を止めております」
セバスの瞳が鋭く光る。
情報官
「さらに戦争継続により、軍需契約で莫大な利益を得る計画です」
沈黙。
セバスは書類を手に取って目を通す。
完全な証拠。
セバス(心の声)
(やはり……あの賢者の言う通りだったか)
セバスは静かに立ち上がる。
セバス
「陛下にご報告申し上げる」
情報官
「はっ!」
情報官が退出する。
セバスは窓の外を見る。
遠く、客人用の部屋の方向。
セバス
(アルトリア・フィリア、貴様はどこまで見えている?)
セバスの表情にわずかな敬意が浮かぶ。
セバス
「戦争の流れが変わるな……」
客人用の部屋(同時刻)
アルトリアは窓の外を見ながら静かに呟く。
アルトリア
「……もうすぐ」
ジェームズ
「?」
アルトリア
「答えが出る」
アルトリアの瞳は確信に満ちている。
イルカン王宮 国王執務室(夜)
ジョルジュが座っている。
肘をつき、深く考え込んでいる。
その時――
――コンコン
ジョルジュ
「入れ」
扉が開く。
入ってきたのは、宰相セバス。
セバス
「陛下」
ジョルジュ
「調査結果か?」
セバス
「はっ」
セバスは書類を差し出す。
セバス
「兵糧価格高騰の原因が判明いたしました」
ジョルジュの目が鋭くなる。
ジョルジュ
「申せ」
セバス
「南部貴族ヴォルクス伯爵および軍需管理官グレス、両名が共謀して兵糧を買い占め、市場への供給を止めておりました」
沈黙。
ジョルジュの瞳がわずかに揺れる。
ジョルジュ
「……理由は?」
セバス
「戦争の長期化です。兵糧不足を演出し、民の不満を高め、戦争を正当化するため。そして軍需契約により莫大な利益を得る計画でした」
重い沈黙。
ジョルジュの拳がゆっくりと握られる。
ジョルジュ
「……こんな奴らに私は踊らされていたのか」
低い声。
怒りが込められている。
セバス
「すでに証拠は確保しております。いつでも拘束可能です」
沈黙。
ジョルジュ
「……アルトリア・フィリア。あの若き賢者はすべて見抜いていたのか」
セバス
「はい」
セバスは静かに答える。
セバス
「我々よりも先に」
ジョルジュはゆっくりと立ち上がる。
王としての威圧。
ジョルジュ
「セバス」
セバス
「はっ」
ジョルジュ
「ヴォルクス伯爵とグレスを即刻拘束せよ」
セバス
「御意」
セバスは立ち上がる。
だが、ジョルジュは続ける。
ジョルジュ
「それと」
セバスが止まる。
ジョルジュ
「兵糧を市場へ放出せよ」
セバスの瞳がわずかに動く。
セバス
「……御意」
セバスは深く一礼する。
退出しようとする。
その時――
ジョルジュ
「待て」
セバス
「はっ」
ジョルジュ
「アルトリアは今何をしている?」
セバス
「客人用の部屋にて待機しております」
沈黙。
ジョルジュは窓の外を見る。
ジョルジュ
「……戦争を止めると言ったな」
セバス
「はい」
ジョルジュはわずかに笑う。
ジョルジュ
「面白い。明日、あの賢者を再びここへ呼べ」
セバス
「御意」
セバスは退出する。
ジョルジュ
「アルトリア・フィリア……」
王の瞳に、興味と警戒と、わずかな敬意が宿る。
戦争の運命を決める最後の対話が、迫っていた――
イルカン王宮 玉座の間(翌朝)
巨大な玉座の間。
朝の光が差し込んでいる。
玉座には、ジョルジュ。
その左右には、
ハリス
グラーズ
パトルク
そして宰相セバス。
扉が開く。
――ギィ……
入ってくるのはアルトリア一行。
アルトリア
イルハレム
ジェームズ
ダイム
ロイド
リーナ
玉座の前で止まる。
沈黙。
ジョルジュが口を開く。
ジョルジュ
「アルトリア・フィリア」
アルトリア
「はい」
ジョルジュ
「貴様の言った通りだった」
玉座の間の空気が張り詰める。
ジョルジュ
「兵糧独占の黒幕であったヴォルクス伯爵とグレス。両名はすでに拘束した」
イルハレム
「……!」
ジェームズ
「本当に……」
ダイムが静かに頷く。
ジョルジュは続ける。
ジョルジュ
「それとたった今、四天王たち各将軍にも鳥を飛ばした」
ハリスが静かにアルトリアを見る。
ジョルジュ
「レグナス王国とはこれ以上戦うな。兵を故郷へ帰らせよと」
完全な静寂。
その言葉の意味は、明確だった。
戦争の終結。
ジェームズ
「……終わった」
イルハレム
「従兄上……」
リーナとロイドも、静かにアルトリアを見る。
セバスは黙っている。
ジョルジュ
「後日、改めて詫びの使者をレグナスへ送る」
アルトリアは深く一礼する。
アルトリア
「賢明なるご判断、感謝いたします」
ジョルジュはアルトリアを見る。
その瞳には、明確な興味があった。
ジョルジュ
「……だが」
ゆっくりと立ち上がる。
ジョルジュ
「驚いた」
アルトリアへ近づく。
ジョルジュ
「レグナスにも、このように頭の切れる賢者がまだいたとは」
沈黙。
ジョルジュ
「どうであろう?」
玉座の間の空気が変わる。
ジョルジュ
「このまま私に仕える気はないか?」
一瞬、時間が止まる。
ジェームズ
「……!」
イルハレム
「な……!」
ダイムも目を見開く。
ロイドとリーナが即座に警戒する。
ハリスは興味深そうに見る。グラーズはニヤリと笑い、パトルクは静かに観察する。
セバスは無言でアルトリアを見る。
ジョルジュ
「貴様ほどの知性、一国の宰相にも匹敵する。望むなら、地位も名誉もすべて与えよう」
沈黙。
若き賢者に、敵国の王が手を差し伸べる。
アルトリアは静かに顔を上げる。
その瞳に迷いはない。
アルトリア
「……ありがたいお申し出です。ですが……」
守り石を握る。
アルトリア
「僕には帰る場所があります」
静寂。
アルトリア
「守ると誓った国があります」
ジョルジュの瞳が細まる。
アルトリア
「そして守りたい人がいます」
完全な沈黙。
ジョルジュはしばらくアルトリアを見つめ――そして笑う。
ジョルジュ
「……そうか。ならば引き止めはせぬ」
ジョルジュはアルトリアの肩に手を置く。
ジョルジュ
「だが……また会おう」
王としてではなく、一人の支配者として。
アルトリア
「はい」
若き賢者は戦争を止めた。
剣ではなく知恵で。
レグナス王城 玉座の間
玉座の間。
戦時の緊張が続いていた空間。
レオニス
ロウラル
六軍将の武人たち
王子王女たち
全員が集まっている。
その時――伝令兵が駆け込んでくる。
伝令兵
「ご報告!!」
膝をつく。
伝令兵
「イルカン軍!国境より完全撤退を確認いたしました!!」
一瞬の静寂。
そして――ざわめきが広がる。
アグニス
「……!」
ドルゴン
「本当に……」
ガイナス
「戦争が……」
ロウラルが低く呟く。
ロウラル
「……終わったか」
レオニスは静かに目を閉じる。
そしてゆっくりと開く。
レオニス
「……見事だ」
その言葉には、王としての誇りが込められている。
セリアは胸に手を当てる。
セリア(心の声)
(アルトリア……あなたは本当に……)
その瞳には、涙と誇りがあった。
レオニス
「アルトリア、そなたは戦わずして勝利した」
国境地帯 イルカン軍 撤退中
広大な荒野。
イルカン軍が整然と撤退している。
その中心にはイルカン四天王。
ジャックが馬上で言う。
ジャック
「……陛下はなぜ軍を引かせたのでしょう?」
バルダは前を見たまま答える。
バルダ
「これ以上戦う理由がなくなったからだ」
ジャック
「……理由、ですか」
バルダ
「王がそう判断した。それで十分だ」
ジャックは黙る。
だが、納得していない様子。
ジャック
「……あそこの怪力バカはだいぶ荒れていますな」
フリードが怒号を上げている。
フリード
「俺はまだ戦うぞ~!!アレスをぶっ倒しておらぬのだ!!」
周囲の兵士たちが困惑している。
兵士A
「将軍……」
兵士B
「王命です……」
フリード
「知るかぁ!!」
拳で岩を砕く。
――ドゴォン!!
兵士たちが震える。
ジャックが呆れて言う。
ジャック
「……ちっ、うるさいやつだな……」
その時――静かな声が響く。
アイゼルが歩いてくる。
冷たい瞳。
アイゼル
「フリード殿」
フリード
「何だ!!」
アイゼル
「おだまりを」
一瞬の沈黙。
フリードが睨む。
だが、アイゼルの瞳は揺らがない。
アイゼル
「王の決断です。従うのが将の務め」
沈黙。
フリードは舌打ちする。
フリード
「……ちっ、覚えておけ。次は必ず戦う」
バルダが低く言う。
バルダ
「その時が来れば戦えばよい」
玉座の間
アルトリアが跪く。
アルトリア
「ただいま戻りました」
静かな声。
レオニスは立ち上がる。
レオニス
「よく戻った」
その言葉には、深い信頼と誇りが込められている。
セリアはその後ろで静かに涙をこらえている。
レオニスは宣言する。
レオニス
「アルトリア、そなたは戦争を知略によって終結させた」
玉座の間に響く王の声。
レオニス
「その功績を称え、そなたに……子爵の爵位を授ける」
ざわめき。
アグニス
「子爵……!」
ガイナス
「異例だ……」
ロウラルも静かに頷く。
ロウラル
「当然の栄誉だ」
レオニスは続ける。
レオニス
「さらに……イルハレム・フィリア、ジェームズ・ホーネル、ダイム・ペイトン」
三人が驚く。
レオニス
「そなたたちにも男爵の爵位を授ける」
ジェームズ
「えっ!?」
ダイム
「……!」
イルハレム
「陛下……」
レオニス
「アルトリアを支え、国家のために尽くしたその忠誠と功績、見事であった」
三人は深く跪く。
イルハレム
「この栄誉、生涯忘れません」
ジェームズ
「必ず陛下と王国に尽くします!」
ダイム
「ありがとうございます!」
レオニスは頷く。
玉座の間の空気が、誇りに満ちる。
その様子を見てピエールが涙ぐんでいる。
ピエール
「……兄上……アルトリアは立派になりました……そしてイルハレムも……」
彼は静かに涙を拭く。
フィリア家 屋敷(余談)
ベッドの上でバーンズが苦しそうに横たわる男。
バーンズ
「ぐぬぬ……立てぬ……!」
腰を押さえている。
アンジュが呆れ顔で見ている。
アンジュ
「だから言ったでしょう?無理に立とうとするから」
バーンズ
「だが!アルトリアが敵国へ行っているのだぞ!父として助けに行かねば……!」
起き上がろうとする。
――ピキッ
バーンズ
「ぐああああああああ!!」
再び倒れる。
アンジュ
「ほら、動かないでください」
バーンズ
「くっ……!情けない……」
アンジュは微笑む。
アンジュ
「大丈夫ですよ。今朝無事に国に帰ってきたそうです」
沈黙。
バーンズは目を閉じる。
バーンズ
「……そうか。それならよかった」
誇りに満ちた声。
王城 回廊(同時刻)
アルトリアが歩いている。
そこに――セリアが立っている。
二人の目が合う。
沈黙。
そして――
セリア
「……おかえりなさい」
アルトリア
「……ただいま戻りました」
若き賢者は帰ってきた。
守ると誓った国へ。そして守ると誓った人のもとへ。
第8話 完
