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海の王者オルカ 第2話「逃げる母と優しい鯨」

第2話「逃げる母と優しい鯨」

暗い外洋。セアとドルンがでゆっくりと泳いでいる。
周囲は静かで、シャーオンの気配はどこにもない。

ドルン(心の声) 
(……海の賢者、シリウス様のところへ行こう。あの方なら、きっと──)

ドルン(静かに) 
「セア様……もう少しの辛抱です」

セア 
「ええ……」

2頭は暗い海を泳いでいく。

しばらくして、セアが1人でつぶやく。

セア(ひとりごとのように)
「シャーオン……あなたが守ってくれたこの命を、私が必ず届けます。だからどうか──この子の誕生を、海の向こうから見守っていてください」

セアは必死に自分を奮い立たせ、また泳ぎ出す。

ドルン
「もう少しで……シリウス様のところまでたどり着きます。あの方ならきっと……」

セア
「シリウス……海の賢者と呼ばれる方ね」

ドルン
「はい。ですが……そこまではまだ少し泳ぎますが、大丈夫ですか?」

セアは穏やかだが揺るぎない声で言う。

セア
「行けるわ。行かなければならないの。この子のために」

ドルンはセアのお腹を見る。そして、深く頷く。

ドルン
「……わかりました。必ず連れていきます。シャーオン様に誓って」

ドルンがセアの傍らに寄り添い、2頭で広い海を泳ぐ。
ドルンはセアのペースに合わせ、海流の穏やかなルートを選ぶ。

その間、ドルンは気を紛らわせようとして昔話をする。

ドルン
「……セア様、以前シャーオン様に助けていただいたとき、私はまだ小さいイルカでした」

セア(懐かしそうに)
「覚えているわ。あなたの群れがサメに囲まれた夜ね」

ドルン
「シャーオン様は何も言わず飛び込んできて、あっという間に追い払ってしまった。そして「礼はいらない」って……」

セア(小さく笑って)
「あの人は、いつもそうだったの。力を使うべき場所で使うことを選んでいた」

ドルン
「……私はずっと、その恩を返したかったんです。でもこんな形になるとは……」

セア(優しく)
「これが恩返しよ、ドルン。あなたが今ここにいてくれることが」

ドルンは前を向いたまま、目を細める。
突然、後方に気配がする。ドルンが振り返ると、影の群れの斥候が2頭、遠くから追ってきている。

ドルン(緊張して)
「セア様……後ろに追手が来ています。おそらくダークが放った斥候でしょう」

セア(振り返らずに)
「何頭?」

ドルン
「今は2頭ですが、増えるかもしれません……」

セアは速度を上げようとするが、体が言うことをきかず苦しそうな表情を見せる。

ドルン(即座に)
「セア様は構わず前へ!私が時間を稼ぎます!」

セア
「ドルン——」

ドルン
「シリウス様のところはまっすぐ北東です!絶対に辿り着いてください!」

ドルンは斥候の前に立ちはだかる。イルカと巨大なシャチでは体格が違いすぎる。しかしドルンの目に迷いはない。
斥候たちの気を引きながら、素早い泳ぎで翻弄し始める。

セアは涙をこらえながら北東へ泳ぐ。

セア(心の声)
(ドルン……必ず生きて)

北東の海域

北東の深い海域。海底から巨大な岩礁が聳え立つ、静かな場所。
そこに浮かんでいるのが海の賢者・シリウス。巨大なマッコウクジラ。
シリウスの体には長い年月を感じさせる傷と貫禄がある。

セアがやっとの思いで辿り着く。体の限界は近い。

シリウス(深く穏やかな声で)
「……来たか、セア殿」

セアは驚く。まるで来ることがわかっていたかのような口ぶりだ。

セア
「私を……ご存じなのですね?」

シリウス
「あなたのことは……この海が教えてくれた。シャーオン殿のこともな。あの者らしい最後だ」

セア(涙をこらえて)
「……はい」

セアは必死な気持ちでシリウスにお願いする。

セア(息を切らして)
「シリウス……お願いします……この子を……」

シリウス(静かに遮って)
「話は後でいい。今はあなたの体が先だ」

シリウスはゆっくりとセアの傍に寄り、その大きな体で波から守るように包む。

シリウス
「ここは安全だ。心を落ち着けなさい。その子が産まれるまで、私がいる」

セアはシリウスの傍らで体を静める。長い旅の疲れと安堵で、目が潤む。

セア(囁くように)
「ありがとう……シリウス」

しばらくして、ドルンがぼろぼろになりながらも泳ぎ着く。傷はあるが、命に別条はない。

ドルン(息を切らして)
「……セア様……っ、よかった……っ!無事にたどり着いたのですね!」

セア(ほっとして)
「ドルン!生きていてくれた!」

ドルン
「あの2頭は岩礁の迷路に誘い込んで撒いてきました。しばらくここまで来られないはずです」

シリウス(静かに)
「よくやった、小さきイルカよ。お前の勇気はシャーオン殿に劣らない」

ドルン(照れながら)
「……そんな、とんでもない」

シリウスは空を見上げる。夕暮れが海を染めていく。

シリウス
「もうすぐ、この海に新しい命が産まれる。その命に、この海の未来が託されている」

セアのお腹が、また動く。今度はより強く。

セア(微笑みながら、静かに)
「……もうすぐよ」

波が静かに揺れる。空に星がひとつ、またひとつと灯り始める。
遠くで、シャーオンが見守っているように、海が輝く。

第2話 完

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