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宮廷賢者アルトリア 第16話「伯爵アルトリア」

第16話「伯爵アルトリア」

宮廷・中庭

穏やかな日差し。事件後の静けさが戻りつつある。
ベンチの近くでアルトリア、イルハレム、ジェームズ、ダイムの4人が集まっている。

ジェームズ
「いやぁ……まさか本当に遺体が見つかるとは……」

ダイム
「正直、半信半疑でしたよ……アルトリア様の推理……」

イルハレム
「でも……本当に全部繋がりましたね」

アルトリアは軽く笑う。

アルトリア
「みんなの働きのおかげだよ」

イルハレム
「いえ……従兄上がいなければ、何も始まりませんでした」

アルトリアは少し肩をすくめる。

アルトリア
「結果として、ここにいる全員が陞爵(しょうしゃく)だからね」

ジェームズ
「ですね!子爵ですよ子爵!」

ダイム
「爵位が上がるなんて……まだ実感ないです……」

イルハレム
「僕もです……」

アルトリアはふと何かを思い出す。

アルトリア
「そういえば」

全員
「?」

アルトリア
「レオンも子爵になったよ」

ジェームズ
「え?レオンもですか?」

ダイム
「法務官のレオンですよね?」

アルトリアは頷く。

アルトリア
「国家を統治するための法案をいくつも出して、それが陛下にも刺さったって」

イルハレム
「……さすがですね」

ジェームズ
「完全に出世コースじゃないですか……」

ダイム
「負けてられませんね……」

アルトリアは少し笑う。

アルトリア
「競争するのはいいけど、協力も忘れないようにね」

全員
「はい!」

風が吹く。

中庭の木々が揺れる。

ジェームズ
「でも……アルトリア様は伯爵ですよね?」

ダイム
「すごいですよね……」

イルハレム
「もう完全に貴族の上位層ですね……」

アルトリアは少し苦笑する。

アルトリア
「肩書きが増えただけだよ。やることは変わらない」

アルトリアは空を見上げる。

アルトリア(心の声)
(むしろ……ここからが本番だ)

イルカン王国 王都ガルディア 王宮

広大な玉座の間。
ジョルジュが書状を手にしている。

ジョルジュ
「ハッハッハッハ!」

豪快な笑い声が響く。

ジョルジュ
「アルトリアが……ヴェルナ王国のラーダム王の遺体を見つけ出すとは!」

ジョルジュは書状を握りしめる。

ジョルジュ
「しかも伯爵にまでなるか!」

その横に立つハリス。

ハリス
「……嬉しそうですね、父上。敵国の賢者なのに」

ジョルジュは口元を歪める。

ジョルジュ
「フッ。真の武将はな——敵にも敬意を払うものだ」

ゆっくりと立ち上がる。

ジョルジュ
「それに……イルカンにもあのような知性を持つ賢者が必要だ」

ハリスはわずかに笑う。

ハリス
「父上があの者を恋しがるわけですね」

ジョルジュは空を見上げる。

ジョルジュ
「少なくとも……あの時、レグナスに帰して惜しかったとは思うがな」

ハリス
「……いずれ敵として相対することになります」

ジョルジュは楽しげに笑う。

ジョルジュ
「それもまた良い!知と力がぶつかる戦——これほど面白いものはない!」

アルゼリア王国 王都ムーロン 王宮

静かな書斎。落ち着いた空気。
ヨハンが書状を読んでいる。

ヨハン
「……アルトリアがヴェルナ王国のラーダム王の遺体を見つけ出し、伯爵の爵位を得たか」

ヨハンはふっと笑う。

ヨハン
「面白いことになったと思わぬか?イルーシャよ」

その横に立つイルーシャ。

イルーシャ
「はい、父上」

イルーシャは静かに目を細める。

イルーシャ
「やはりあの時——レグナスに返して惜しかったと思いました」

ヨハン
「同感だ。あの才は……一国に収めておくには惜しい」

イルーシャ
「ですが、今はその才がレグナスを変え始めています」

ヨハンは頷く。

ヨハン
「……世界が動くぞ。アルトリアという存在を中心に」

イルーシャは静かに微笑む。

イルーシャ
「ええ。次に会う時が楽しみです」

大陸各地

荒野、雪原、砂漠、密林。様々な地で人々が語っている。

兵士
「レグナスにすごい賢者がいるらしいぞ」

商人
「たった1人で事件を解決したとか……」

遊牧民
「名は……アルトリア……だったか」

学者
「興味深い……」

ささやきが波のように広がっていく。

アルトリア・フィリア。その名はすでに一国の枠を超え、“世界”に届き始めている。

王宮・回廊

明るい昼下がり。アルトリアが書類を手に歩いている。
その周囲に——数人の侍女たちがいる。

侍女A
「あの、アルトリア様!」

アルトリア
「はい?」

侍女B
「この前の事件、本当にすごかったです!」

侍女C
「さすが宮廷賢者様です!」

アルトリアは少し困ったように笑う。

アルトリア
「いえ……私はやるべきことをやっただけですから」

侍女A
「その謙虚なところも素敵です!」

侍女B
「本当にかっこいい……」

侍女C
「伯爵様ですし……」

アルトリア
「いや、その……」

完全に囲まれている。

そこに——こっそりと様子をうかがうセリアとパーヤ。
セリアは腕を組み、じっと見ている。

セリア
「……アルトリアったら……ずいぶんモテモテじゃない……」

パーヤはくすっと笑う。

パーヤ
「姫様ったら。すっかりアルトリア様に夢中ですね」

セリア
「なっ!?ち、違うわよ!私はただ……様子を見ているだけで……!」

パーヤ
「はいはい。そういうことにしておきましょう」

セリアは再びアルトリアを見る。

侍女たちに囲まれているアルトリア。

セリア
「……もう。少しは自覚しなさいよ……」

その時——アルトリアがこちらに気づく。

アルトリア
「……あれ?」

セリアと目が合う。

セリア
「……っ!」

セリアはとっさに隠れる。

パーヤ
「あらあら」

アルトリアは首をかしげる。

アルトリア
「……今、姫様がいたような……?」

侍女A
「アルトリア様?」

アルトリア
「あ、いえ……」

再び囲まれるアルトリア。
セリアは顔を赤くしている。

セリア
「な、なんで気づくのよ……!」

パーヤは微笑む。

パーヤ
「それはもう……お互いに見ているからでは?」

セリア
「っ……!」

セリアは何も言い返せない。
再びアルトリアの方を見る。

セリア(小声)
「……ほんとにもう……」

エリスの部屋

扉が開き、イルハレムが中へ入ってくる。
その後ろで扉が閉まる。

イルハレム
「えっと……姫様……?」

エリスが優雅に足を組み、こちらを見ている。

エリス
「……来たわね」

イルハレムは少し緊張した様子。

イルハレム
「何か……ご用でしょうか?」

エリスは静かに立ち上がる。そしてゆっくり歩み寄る。

エリス
「侍女に囲まれて、ずいぶん楽しそうだったわね」

イルハレム
「……え?」

完全に意味が分からない顔。

イルハレム
「えっと……?何の話でしょうか……?」

エリスはじっと見つめる。

エリス
「とぼけるつもり?」

イルハレム
「い、いえ……!」

エリスはさらに一歩近づく。

エリス
「廊下で見たわ。あなたが侍女たちに囲まれてにこにこしているところを」

イルハレム
「ええ!?あ、あれはその……!僕が囲まれていたというか……!」

エリス
「ふぅん……」

エリスは少しだけ顔を近づける。

エリス
「嫌じゃなかったのね?」

イルハレム
「えっ!?い、いやその……少しは困りましたよ!?」

エリス
「……本当に?」

イルハレム
「本当です!」

エリスはじっと見つめる。

沈黙。

イルハレムは焦る。

イルハレム
「えっと……姫様は……その……どうしてその話を……?」

エリスは一瞬だけ目を逸らす。

エリス
「別に。気になっただけよ」

イルハレム
「気になった……?」

エリスは少しだけ頬を染める。

エリス
「あなたは私の……」

言いかけて止まる。

エリス
「……なんでもないわ」

イルハレム
「???」

エリスは背を向ける。

エリス
「とにかく、軽々しく女性に囲まれないことね」

イルハレム
「軽々しくって……」

エリス
「分かった?」

イルハレム
「は、はい!」

エリスは振り返る。
少しだけ柔らかい表情。

エリス
「……それならいいわ」

イルハレムは少し安心する。

イルハレム
「……あの、姫様」

エリス
「何?」

イルハレム
「姫様は……怒っていたんですか?」

エリスは一瞬黙る。そして小さく言う。

エリス
「……少しだけ」

イルハレム
「え?」

エリス
「気にしないで」

エリスは椅子に戻る。

エリス
「もういいわ。下がりなさい」

イルハレム
「は、はい……」

イルハレムは頭を下げて部屋を出る。

扉が閉まる。
1人になったエリス。

エリス(小声)
「……まったく。鈍いにもほどがあるわ……」

ほんの少しだけ微笑む。

ガルサ邸・食堂

夜。重厚で落ち着いた食堂。長いテーブルの上には料理が並ぶ。
レオンの子爵陞爵を父ロバートと兄ウィルバーが祝っている。

ロバートがワインを軽く掲げる。

ロバート
「レオン。子爵陞爵、おめでとう」

ウィルバーも穏やかに微笑む。

ウィルバー
「おめでとう」

レオンは背筋を伸ばして頭を下げる。

レオン
「ありがとうございます。父上、兄上」

3人は軽くグラスを合わせる。
ロバートはレオンを見ながら言う。

ロバート
「しかし……出世もいいが、そろそろ縁談も考えてはどうだ?」

レオン
「……え?」

レオンは一瞬固まる。

レオン
「父上。私はまだ結婚は考えておりません」

ロバートは肩をすくめる。

ロバート
「そうか?まあ急ぐ必要はないがな」

ウィルバーが楽しそうに笑う。

ウィルバー
「いやいや、結婚はいいものだぞ」

ウィルバーは少し遠くを見るように言う。

ウィルバー
「私だって、家に帰れば妻や子供たちが待ってくれている。あれはなかなか……悪くないものだ」

レオンは少し困ったように笑う。

レオン
「兄上は家庭人ですから……」

ロバート
「それも1つの在り方だ」

ロバートは真剣な表情になる。

ロバート
「だがレオン。お前はこれからさらに上に行く人間だ。家もまた、力になる」

レオンは少し考える。

レオン
「……私はまだ、やるべきことがあります」

ロバート
「ほう?」

レオン
「法務官として、この国を変えるために」

ウィルバーは微笑む。

ウィルバー
「アルトリア殿の影響か?」

レオンは少しだけ笑う。

レオン
「……そうかもしれません」

ロバートは静かに頷く。

ロバート
「いいだろう。自分の道を行け。ただし、選ぶ時は間違えるなよ?」

レオン
「はい」

ウィルバーが軽く肩を叩く。

ウィルバー
「まあそのうちいい相手が現れるさ」

レオン
「……そういうものですか?」

ウィルバー
「ああ。気づいたらもう逃げられなくなっている」

レオン
「それは怖いですね……」

3人の間に小さな笑いが起こる。
レオンは静かに考える。

レオン(心の声)
(結婚か……今はまだ……それよりも——やるべきことがある)

レオンの視線はどこか遠くを見ている。

回廊

翌日。王宮の回廊をアルトリアが書類を手に歩いている。

アルトリア(心の声)
(昨日の件で宮廷の流れも少し変わった……だがまだ終わりではない)

アルトリアは足を止める。
財務省執務室の扉の前だった。

アルトリア
「……少し確認しておくか」

扉を開ける。

財務省執務室

机と帳簿が並ぶ整然とした空間。数字が書かれた書類が山積みになっている。
その中でペンを走らせている少年、エドワード・レイン。
エドワードはすぐに気づき、立ち上がる。

エドワード
「おはようございます、アルトリア様」

アルトリア
「おはよう、エドワード」

アルトリアは軽く頷く。

この少年はまだ宮廷に入って数カ月の新人。だが——その計算能力は常軌を逸していた。

アルトリア
「昨日の予算案は?」

エドワードはすぐに書類を差し出す。

エドワード
「こちらになります」

アルトリアは受け取り、目を通す。

アルトリア
「……ほう」

ページをめくる。

アルトリア
「収支の再構築……無駄な支出の削減……」

アルトリアの目が鋭くなる。

アルトリア
「ここは……」

エドワード
「はい。旧貴族派が関与している事業です」

アルトリア
「やはりか」

エドワードは淡々と続ける。

エドワード
「不自然な資金の流れがありました。表向きは公共事業ですが、実際には資金の抜き取りが行われています」

アルトリアは静かに頷く。

アルトリア
「……どれくらいだ?」

エドワード
「全体の約3割です」

アルトリア
「3割……?」

エドワード
「はい。しかも複数年にわたって」

アルトリアは小さく息を吐く。

アルトリア
「よくここまで見抜いたね」

エドワード
「数字は嘘をつきませんから」

エドワードは淡々としている。

エドワード
「嘘をつくのは人間です」

アルトリアは少し笑う。

アルトリア
「その通りだ」

アルトリアは書類を閉じる。

アルトリア
「この資料は使える。旧貴族派を追い詰める決定打になるかもしれない」

エドワード
「はい。必要であればさらに詳細な分析も行います」

アルトリア
「頼もしいね」

アルトリアはエドワードを見る。

アルトリア
「君を推薦したのは正解だった」

エドワードは少しだけ目を伏せる。

エドワード
「光栄です」

アルトリアは踵を返す。

アルトリア
「引き続き頼む」

エドワード
「はい」

アルトリアが去る。
エドワードは再び机に向かう。

エドワード(心の声)
(アルトリア様……あなたの役に立てるなら……)

ペンを走らせる音が響く。

公共工務省執務室前

アルトリアがゆっくりと歩いている。

アルトリア(心の声)
(財務、法務、外交……それぞれ順調に機能している)

アルトリアは足を進める。

アルトリア(心の声)
(あとは——現場を支える者たちだな)

その時——

グエン
「おはようございます、アルトリア様」

アルトリアが足を止める。

アルトリア
「おはよう、グエン」

グエン・ライン。公共工務省に所属する新人文官。
彼はアルトリアと同じくエルメア平原の集落出身である。
かつてはアルトリアの家の修繕を任されていた。手際がよく、どんな修理でも短時間で仕上げる腕を持っていた。

アルトリア(心の声)
(昔から手先が器用で仕事が早かったが……まさかここまでとはな)

アルトリアは軽く周囲を見る。

アルトリア
「今は何をやっている?」

グエンはすぐに答える。

グエン
「王都南区の水路整備です。老朽化していた部分をすべて作り直しています」

アルトリア
「進捗は?」

グエン
「予定より3日巻いています」

アルトリア
「……早いな」

グエンは淡々としている。

グエン
「資材の無駄が多かったので、設計から見直しました」

アルトリア
「設計から?」

グエン
「はい。流れを変えれば工数は減らせます」

アルトリアは少し感心する。

アルトリア
「現場だけでなく構造まで見ているのか」

グエン
「当然です。壊れないものを作るには、最初から考えないといけません」

アルトリアは小さく笑う。

アルトリア
「変わらないね」

グエン
「何がです?」

アルトリア
「昔から無駄が嫌いだった」

グエンは少しだけ表情を緩める。

グエン
「アルトリア様の家の修繕も、無駄が多かったですから」

アルトリア
「……そうだったかな?」

グエン
「はい。本来であれば3日かかる仕事を半日で終わらせました」

アルトリア
「それは……助かったよ」

グエンは軽く頭を下げる。

グエン
「その縁でここにいます」

アルトリアは子爵となった際、レオニスにグエンを推薦。グエンは宮廷入りし、公共工務省に所属となった。
そして——その実力は予想を遥かに超えていた。短期間で成果を上げ続け、早々に男爵の爵位を得る。

アルトリア(心の声)
(現場の力は国家の基盤だ。グエンのような人材がいる限り——この国は変えられる)

アルトリア
「引き続き頼む」

グエン
「はい」

アルトリアはその場を離れる。
グエンは再び作業へ戻る。

グエン(心の声)
(アルトリア様が目指す国……必ず形にする)

国防省執務室

壁には武器、地図、軍旗。机の上には作戦図が広げられている。
アルトリアが入室する。

タルマン
「おはようございます、アルトリア様」

アルトリア
「おはよう、タルマン」

タルマン・ワルソン。彼もまた宮廷入りして間もない新人。だが——その経歴は異質だった。
辺境の村出身。蛮族の侵攻に対し、独自の兵法で撃退。その才を見抜いたのはセリアであった。
レオニスに推薦されて宮廷入りし、現在は国防省所属。

アルトリア(心の声)
(実戦で結果を出している。理論だけの軍師ではない)

アルトリア
「何を見ている?」

タルマンは地図を広げる。

タルマン
「大陸全体の情勢です」

広げられたのは大陸地図。レグナス、イルカン、アルゼリア、ベルナード連合、周辺諸国の情勢すべてが記されている。

タルマン
「現在の問題は3つです」

アルトリアは腕を組む。

アルトリア
「聞こう」

タルマンは指で地図を指す。

タルマン
「第一に——イルカン王国。軍事力が突出しています」

別の場所を指す。

タルマン
「第二に——ベルナード連合。内紛状態ですが、いずれ統一されれば脅威になります」

そして——

タルマン
「第三に——」

アルトリアを見る。

タルマン
「内部」

アルトリア
「旧貴族派か」

タルマン
「はい。外敵よりも危険です」

アルトリアは頷く。

アルトリア
「それで?」

タルマンは一歩前に出る。

タルマン
「防衛案をまとめました」

地図に駒を置く。

タルマン
「まず北方のイルカンに対しては、正面戦は避けます」

アルトリア
「理由は?」

タルマン
「戦力差です。正面衝突は不利。代わりに……」

駒を動かす。

タルマン
「補給線を叩きます」

アルトリアの目が光る。

アルトリア
「兵站か」

タルマン
「はい。戦は補給で決まります」

次にベルナード方面を指さす。

タルマン
「ベルナード連合には直接介入しません」

アルトリア
「放置するのか?」

タルマン
「いえ、分裂を維持させます」

アルトリア
「……内政干渉か」

タルマン
「外交と情報戦です」

最後に中央を指す。

タルマン
「そして内部。旧貴族派は——軍ではなく政治で潰すべきです」

アルトリアは静かに頷く。

アルトリア
「……いい判断だ」

タルマンは少しだけ目を伏せる。

タルマン
「ありがとうございます」

アルトリア
「君の戦略は無駄がない」

タルマン
「戦は無駄を削るものです」

アルトリアは少し笑う。

アルトリア
「グエンと同じことを言うね」

タルマン
「現場も戦も本質は同じです」

アルトリア(心の声)
(財務、工務、軍事……すべてが繋がっている)

アルトリア
「引き続き頼む」

タルマン
「はい」

タルマンは地図を見る。

タルマン(心の声)
(アルトリア様……あなたの戦いを必ず支えます)

回廊

アルトリアが静かに歩く。

アルトリア(心の声)
(財務、工務、軍事……各分野の基盤は整った)

アルトリアはゆっくりと歩きながら考える。

アルトリア(心の声)
(優秀な人材が揃ってきたな……)

その脳裏に浮かぶ顔。

イルハレム
ジェームズ
ダイム

レオン
ジャン

エドワード
グエン
タルマン

アルトリア(心の声)
(そして——)

少しだけ足を止める。

アルトリア(心の声)
(最近、さらに2人……)

最近アルトリアには2人の協力者が現れた。

1人は医局にいる医官、オラン・ハーム。イルカン王国の隣国——バラチャッタ王国出身。
バラチャッタは医療に優れた国として知られていた。
しかし——故郷の村がイルカンによって征服され、オランは家族とともにレグナスへ逃れてきた。
アルトリアは彼の腕を聞きつけ、宮廷に召し出した。

もう1人は騎士団所属のザック・ロール。
タルマンと同じ村の出身で、蛮族討伐で実績を上げた剣士。
その圧倒的な剣の速さを見ていたタルマンが、仕官後にアルトリアに紹介し、騎士団へ入ることとなった。

アルトリアは再び歩き出す。
その時、廊下の先からオランとザックが歩いてくる。

オラン
「アルトリア様」

ザック
「おはようございます!」

アルトリア
「おはよう、2人とも」

オランは少し落ち着いた様子。ザックは元気よく挨拶。

アルトリア
「仕事には慣れたか?」

オラン
「はい。薬の管理は問題ありません」

ザック
「俺も問題ありません!もっと強くなります!」

アルトリアは小さく笑う。

アルトリア
「頼もしいね」

2人は嬉しそうにする。

オラン
「アルトリア様の役に立てるなら……」

ザック
「何でもやります!」

アルトリアは2人を見る。

アルトリア(心の声)
(若い……だが——この国の未来だ)

アルトリア
「期待している」

オラン・ザック
「はい!」

2人は去っていく。
アルトリアは再び歩き出す。

アルトリア(心の声)
(戦う準備は整った)

少しだけ表情が引き締まる。

アルトリア(心の声)
(あとは——敵が動くだけだ)

玉座の間

アルトリアはレオニスに一礼する。

アルトリア
「陛下」

レオニス
「うむ」

アルトリアは報告を始める。まずは財務省の報告内容。

アルトリア
「財務省では、エドワード・レインが旧貴族派の資金の流れを解析しました」

続いて公共工務省の報告内容。

アルトリア
「公共工務省では、グエン・ラインが無駄な支出を削減し、効率的なインフラ整備を進めています」

そして国防省の報告内容。

アルトリア
「国防省では、タルマン・ワルソンが周辺諸国に対する防衛戦略を立案しました」

レオニスは静かに聞いている。

アルトリア
「いずれも今後の国家運営において重要な要素となります」

レオニス
「……見事だ」

アルトリアは顔を上げる。

レオニス
「しかしそなた、宮殿に来てまだ1年も経っていないのに、よくそこまでの人材を集めたものだ」

アルトリアは一礼する。

アルトリア
「すべて陛下のご威光の賜物です」

レオニスは小さく笑う。

レオニス
「……謙遜するな」

レオニスは玉座に深く座り直す。

レオニス
「伯爵となってから、周辺の諸国や部族でもそなたの名は広まっている」

アルトリアはわずかに驚く。

アルトリア
「……そこまで、ですか?」

レオニス
「うむ。イルカンもアルゼリアもそなたを意識し始めている」

レオニスの目が鋭くなる。

レオニス
「これは誇るべきことだが——同時に危険でもある」

アルトリアは静かに頷く。

アルトリア
「……はい」

レオニス
「敵はそなたを放ってはおかぬだろう」

一瞬の沈黙。

アルトリア
「それでも——」

アルトリアは真っ直ぐにレオニスを見る。

アルトリア
「私はこの国を変えます」

その言葉は静かだが重い。
レオニスはしばらく見つめる。そして——

レオニス
「……頼もしい。アルトリア、そなたにこの国の未来を託す」

アルトリアは深く頭を下げる。

アルトリア
「……御意」

アルトリアは一礼する。

アルトリア
「それでは、私はこれで」

その時——扉が開き、セリアが入ってくる。

セリア
「失礼いたします、父上」

レオニス
「セリアか」

セリアは軽く頭を下げ、すぐにアルトリアの方を見る。

セリア
「アルトリア」

アルトリア
「姫様」

セリアは一歩近づく。

セリア
「あとで……」

ほんの少し間を置く。

セリア
「私の部屋までいらっしゃい」

アルトリア
「……え?」

一瞬きょとんとする。

アルトリア
「何か……ご用でしょうか?」

セリアは少しだけ目を細める。

セリア
「来れば分かるわ」

それだけ言う。

アルトリア
「は、はあ……」

レオニスはその様子を見て、ふっと笑う。

レオニス
「若いな」

アルトリア
「……?」

セリア
「父上!」

セリアは少しだけ頬を赤くする。

レオニス
「ははは」

アルトリアは状況が飲み込めていない。

アルトリア(心の声)
(……何の用だろう?)

セリアは背を向ける。

セリア
「待っているわ」

そのまま部屋を出ていく。
扉が閉まる。

沈黙。

レオニスがアルトリアを見る。

レオニス
「行ってやれ」

アルトリア
「は、はい……」

アルトリアは一礼し、玉座の間を出る。

回廊

アルトリアは歩きながら考える。

アルトリア(心の声)
(姫様の部屋に呼ばれるなんて……何か問題でもあっただろうか……?)

少し不安そうな顔。

アルトリア(心の声)
(……行ってみなきゃわからないな~)

セリアの部屋

落ち着いた雰囲気。窓から柔らかな光が差し込む。テーブルの上には湯気の立つティーカップ。
セリアが優雅な手つきで紅茶を注ぐ。

セリア
「どうぞ」

アルトリア
「ありがとうございます」

アルトリアは椅子に座り、カップを手に取る。一口飲む。

アルトリア
「……美味しいです」

セリアは少し嬉しそうに微笑む。

セリア
「そう。それは良かったわ」

一瞬の静かな時間。

セリアはアルトリアを見る。

セリア
「それで?」

アルトリア
「?」

セリア
「最近はどう?」

アルトリア
「最近、ですか?」

セリアは頷く。

セリア
「ええ。伯爵にもなったし、周りの環境も変わったでしょう?」

アルトリアは少し考える。

アルトリア
「そうですね……やるべきことが増えました」

セリア
「ふふ。相変わらずね」

アルトリア
「相変わらず、ですか?」

セリア
「ええ。あなたはいつも自分のことより国のことばかり」

アルトリアは少し困ったように笑う。

アルトリア
「それが仕事ですから」

セリアはじっと見る。

セリア
「……それだけ?」

アルトリア
「え?」

セリア
「何か他に変わったことは?」

アルトリアは首をかしげる。

アルトリア
「特には……」

セリアは少しだけため息をつく。

セリア
「……そう」

少し沈黙。

セリアは紅茶を一口飲む。

セリア
「侍女たちと楽しそうにしていたわね」

アルトリア
「……あ」

思い出す。

アルトリア
「あれは……囲まれていただけで……」

セリア
「ふぅん」

セリアは目を細める。

セリア
「嫌ではなかったの?」

アルトリア
「えっと……正直に言うと、少しは困りました」

セリア
「……そう」

少しだけ表情が柔らぐ。

セリア
「ならいいわ」

アルトリア
「姫様?」

セリアはそっぽを向く。

セリア
「別に。気になっただけよ」

アルトリアは少しだけ微笑む。

アルトリア
「ありがとうございます」

セリア
「何が?」

アルトリア
「気にかけていただいていることが」

セリアは一瞬固まる。

セリア
「……っ」

少し頬が赤くなる。

セリア
「そ、そういう意味じゃないわよ!」

アルトリア
「そうですか?」

セリア
「そうよ!」

沈黙。

セリアは咳払いをする。

セリア
「……とにかく、無理はしないこと。あなたはもう1人で戦う立場じゃないんだから」

アルトリアは少し驚く。

アルトリア
「……はい。ありがとうございます」

セリアは優しく微笑む。

セリア
「困ったことがあったらすぐに言いなさい。私は……あなたの味方なんだから」

アルトリアは静かに頷く。

アルトリア
「心強いです」

柔らかな空気。
2人の距離が少しだけ近づく。

フィリア家本家邸宅・庭園

夕暮れ。やわらかな光が庭を照らしている。
アルトリアがゆっくりと歩いている。久しぶりの実家。どこか懐かしい空気。

アルトリア(心の声)
(……久しぶりだな)

ふと足を止める。
視線の先には——1本の大きな木。枝には赤く熟した木の実がいくつも実っている。

アルトリアはその木を見上げる。

アルトリア
「……この木……」

ゆっくりと近づく。

アルトリア
「懐かしいな」

優しく触れる。

アルトリア
「あの時は……」

回想

幼いアルトリア(5歳)の前にピエールがしゃがみ込む。

ピエール
「アルトリア」

幼いアルトリア
「?」

ピエール
「少しだけ、手を貸そう」

ピエールはアルトリアの前に背中を差し出す。

ピエール
「登るんだ」

幼いアルトリア
「いいの?」

ピエールは笑う。

ピエール
「もちろんだ」

アルトリアは慎重にピエールの背に乗り、ピエールはゆっくりと立ち上がる。

幼いアルトリア
「わあ……」

手を伸ばして木の実を握る。

幼いアルトリア
「取れた!」

現在

アルトリアは小さく笑う。

アルトリア
「あの時はジャンプしても届かなかったけど……叔父上が力を貸してくれたから取れたんだよな」

少し間。

アルトリアは木を見上げる。

アルトリア
「……今なら」

軽く息を整える。
そして——ジャンプ。届かない。

アルトリア
「……っ」

もう1度ジャンプ。少しだけ指が触れる。

アルトリア
「もう少し……!」

3度目。
ジャンプ。ついに——実を掴む。
アルトリアは着地する。手の中には赤く熟した木の実。
アルトリアはそれを見つめる。

アルトリア
「……やった」

静かな達成感。

アルトリア(心の声)
(あの頃は誰かに支えられていた)

木を見上げる。

アルトリア(心の声)
(今は——)

少しだけ微笑む。

アルトリア(心の声)
(自分の力で届く)

遠くで夕焼けが広がる。

少年は手を伸ばし、届かなかったものを今、自らの力で掴み取った——

第16話 完

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