半神の少女 第2話「語られる母の秘密」
第2話「語られる母の秘密」
住宅街の公園 ― 夕方
夕焼けの公園でブランコに座っていた神宮寺佳織。
だが今、目の前には――雷に包まれた男が立っている。
戦神アレス。
赤いマントが風に揺れている。
佳織は恐怖で体が動かない。
目を見開いたまま、固まっている。
佳織(震えながら)
「……あ……」
少し後ずさる。
佳織
「あ……あなた……」
言葉がうまく出ない。
佳織
「……誰なの?」
沈黙。
アレスは佳織を見下ろしている。その目は獲物を見る獣のよう。
ゆっくりと口を開く。
アレス(低く)
「……俺は」
一歩前に出る。地面がミシッと鳴る。
アレス
「オリンポス十二神が一柱」
赤い雷が体の周囲に走る。
アレス
「軍神アレス」
佳織の顔が青ざめる。
アレス
「主神ゼウスの命により」
剣の柄に手をかける。
アレス
「お前を殺しに来た」
剣がゆっくりと抜かれる。金属音。
キィン……
刃が夕焼けの光を反射する。
佳織(混乱)
「は……?何言って……意味わかんないよ……!」
アレスは答えずに剣を構える。
戦神の殺気が空気を震わせる。
アレス
「理解する必要はない」
一瞬の静寂。
アレス
「死ねばすべて終わる」
次の瞬間――アレスが地面を蹴る。
ドン!!
地面が割れる。
一瞬で距離を詰める。
佳織
「きゃっ!?」
剣が振り下ろされる。
ザンッ!!
佳織はとっさに横へ飛び退く。
ブランコの鎖が切れる。鉄の座面が地面に落ちる。
佳織(叫ぶ)
「何これ!?意味わかんない!!」
立ち上がって全力で走り出す。
佳織
「なんなの!!なんで私が狙われるのよ!!」
公園の出口へ必死に逃げる。
アレスはゆっくり歩き出す。余裕の表情。
アレス(冷笑)
「ハッハッハッハ!逃げろ逃げろ。だが――」
目が鋭く光る。
アレス
「神からは逃げられない」
雷鳴。
アレスの体から赤い雷が走る。
その姿は――まさに戦争の神だった。
佳織は必死に走り続ける。
住宅街の裏路地
佳織が息を切らしながら、狭い路地へ逃げ込む。
佳織(息を切らしながら)
「はぁ……はぁ……」
後ろを振り返る。
佳織
「どこまで追ってくるのよ……!」
周囲を見渡す。行き止まり。
高い塀。逃げ場はない。
佳織
「うそ……」
その瞬間、後ろから足音。
コツ……コツ……
振り返る。
そこには――アレス。
赤いマントを揺らしながらゆっくり歩いてくる。
アレス
「……逃げ足だけは悪くない」
佳織(震えながら)
「こ……来ないで……!」
後ずさる。しかし壁にぶつかる。完全に追い詰められる。
アレスは剣を肩に担ぐ。そして冷たい目で佳織を見る。
アレス(淡々と)
「……悪く思うなよ?」
一歩前へ。
アレス
「これも」
剣を構える。
アレス
「お前の運命だ」
剣が振り上げられる。
佳織(恐怖で叫ぶ)
「いやああああああっっっっっっっ!!!」
剣が振り下ろされる――その瞬間、佳織の体から炎が爆発する。
ドォォォォッ!!
炎が佳織を包み込む。
アレスの剣が炎に弾かれる。
キィィン!!
アレス(驚き)
「何!?」
炎は佳織の周囲で揺れている。まるで守るように。
佳織(呆然)
「……え?」
自分の体を見る。炎に包まれている。
だが――熱くない。むしろ、暖かい。
佳織
「何これ……」
手を見る。炎が指先にまとわりつく。
佳織
「熱く……ない……」
アレスは目を細める。
興味深そうに笑う。
アレス
「……そうか。力が覚醒したのか」
アレスは再び剣を構える。
アレス
「だが所詮は人間の血を引いた半神!」
一瞬で距離を詰める。
ザンッ!!
炎が剣を弾く。
アレス
「ちっ……!」
再び攻撃。
ザンッ!!
ザンッ!!
ザンッ!!
何度も剣を振るう。
だが――炎の壁は破れない。
アレス(苛立ち)
「……厄介な炎だ」
剣を下ろして少し考える。
アレス
「だが」
佳織を睨む。
アレス
「覚えていろ。次は必ず」
雷が鳴る。
ドォォォン!!
赤い雷が落ちる。
光の中で――アレスの姿が消える。
静寂。
炎がゆっくり消えていく。
佳織はその場に立ったまま。まだ理解が追いついていない。
佳織(呆然)
「……何……?」
手を見る。
佳織
「これ……」
空を見上げる。
佳織
「どういうこと……?」
夕焼けの空。遠くで雷が光る。
だが佳織はまだ知らない。
自分が――神々の争いの中心にいることを。
神宮寺家 ― 夜・玄関
玄関のドアが勢いよく開く。
ガチャッ!!
神宮寺佳織が慌てて家に入ってくる。息はまだ荒い。
佳織(息を切らしながら)
「ただいま……!」
リビングでは父・神宮寺康弘が本を読んでいる。
佳織の様子を見てすぐ異変に気づく。
康弘(立ち上がる)
「佳織?どうした、そんな顔をして」
佳織はまだ混乱している。
靴も脱ぎきらないまま言葉を吐き出す。
佳織
「パパ……今日、公園で……」
言葉を探す。
佳織
「変な人……じゃなかった。神様に襲われたの」
沈黙。
康弘の表情が一瞬で変わる。
康弘(真剣)
「襲われた?」
一歩近づく。
康弘
「誰だ!?」
声が低くなる。
康弘
「襲った奴は!?」
佳織は必死に思い出す。
佳織
「アレスって神様だった」
康弘の顔が引きつる。
佳織
「なんか……オリンポス十二神とか言ってた……それで……主神ゼウスの命令がどうとかで」
佳織は震える。
佳織
「私を殺しに来たって」
沈黙。
康弘は固まる。拳が震える。
康弘(小さく)
「……ゼウス」
佳織は続けて話す。
佳織
「それで剣で斬られそうになって……でもその時」
自分の手を見る。
佳織
「炎が出て……気づいたら私を守ってたの……なんなのあれ……」
康弘は静かに目を閉じて深く息を吐く。
康弘(小さく)
「……そうか」
目を開ける。
康弘
「とうとう……」
少し遠くを見る。
康弘
「この時が来たか」
佳織は不安そうに父を見る。
佳織
「パパ……?」
康弘は決意した表情になる。
康弘
「佳織」
静かに言う。
康弘
「ついてきなさい」
佳織は首をかしげる。
佳織
「どこに?」
康弘
「パパの書斎だ」
少し間。
康弘
「お前に……」
ゆっくり言う。
康弘
「すべてを話す」
佳織の目が大きく開かれる。
佳織
「……え?」
康弘は歩き出す。
佳織は少し戸惑いながらも後を追う。
佳織(小さく)
「……全部?」
康弘は振り返らない。ただ静かに言う。
康弘
「お前のママのことだ」
佳織の足が一瞬止まる。
佳織(小さく)
「……ママの?」
康弘は書斎のドアを開ける。
ギィ……
暗い書斎。本棚に囲まれた部屋。
そして机の上には――古いギリシャの遺物。
佳織はまだ知らない。この部屋に自分の出生の秘密が眠っていることを。
康弘の書斎
重厚な木製の本棚に囲まれた部屋。
机の上には古い書物やギリシャ遺跡の写真。
机の引き出しから、康弘は一枚の写真を取り出す。
佳織は向かいの椅子に座っている。まだ混乱した様子。
康弘(静かに)
「佳織、お前のお母さんはな」
少し間を置く。
康弘は写真を見せる。
康弘
「ヘスティアっていう、ギリシア神話に出てくる炉の女神様だ」
佳織は写真を見る。
そこには――白い衣をまとい、暖かな炎に包まれた女神の姿。
佳織(戸惑いながら)
「ヘス……ティア?その女神様が……」
自分を指差す。
佳織
「私のママなの?」
康弘は静かにうなずく。
康弘
「そうだ」
机の上にもう一枚資料を広げる。そこにはギリシア神話の神々の系図。
康弘(説明しながら)
「ギリシア神話の最高神ゼウスには」
紙を指差す。
康弘
「5人の兄と姉がいた」
順番に指を動かす。
康弘
「下から海の神ポセイドン、冥府の神ハデス、ゼウスの妻で結婚の女神ヘラ、豊穣の女神デメテル、そして……」
少し指を止める。
康弘
「その中で最年長なのが……炉と家庭の女神、ヘスティアだ」
佳織は必死に頭を整理している。
しばらく沈黙。
佳織(混乱)
「え〜っと……」
頭を抱える。
佳織
「よくわからないけど……」
康弘を見る。
佳織
「つまりこのヘスティアって女神様がママで……」
少し指を折って数える。
佳織
「ほかのゼウスとかポセイドンとかって神様達って……みんな私の叔父さんや叔母さんってこと?」
康弘は苦笑する。
康弘
「……まあ」
少し肩をすくめる。
康弘
「そういうことになるな」
佳織は完全に固まる。
佳織
「え……ええええええええ!?」
椅子から立ち上がる。
佳織
「ちょっと待って!じゃあ、さっきのアレスって神様も私の親戚なの!?」
康弘は真顔で答える。
康弘
「……ああ。ゼウスとヘラの息子……つまり……」
少し言いづらそうにする。
康弘
「お前の……いとこだ」
沈黙。
佳織の思考が止まる。
佳織(呆然)
「いとこが……私を殺しに来たの……?」
部屋に静かな空気が流れる。
康弘は真剣な表情になる。
康弘
「佳織……ここからが本当に重要な話だ」
佳織はゆっくり座り直す。
康弘
「なぜゼウスがお前を殺そうとしているのか」
康弘の目が真剣になる。
康弘
「その理由を話す」
佳織の運命が――今、明かされようとしていた。
康弘と佳織が向かい合って座っている。
康弘はゆっくりと語り始める。
康弘(静かに)
「……お前のママと出会ったのは今から18年前――」
少し遠くを見る。
康弘
「当時パパは考古学の研究のためにギリシャに渡っていた」
回想シーン ギリシャ ― 山岳地帯
雪山。吹雪が荒れ狂っている。
若い康弘が必死に歩いている。
登山装備を身に着けているが、体力は限界。
康弘(息を切らしながら)
「くっ……まさか……こんな天気になるとは……」
風が強く吹く。視界はほとんどない。
康弘
「まずい……」
足を滑らせて雪に倒れる。
康弘
「このままじゃ……」
空を見上げる。吹雪。
康弘(小さく)
「死ぬのか……」
その時――康弘の体が突然、炎に包まれる。
ゴォォ……
赤い炎。しかし――熱くない。
康弘(驚き)
「な……なんだ……!?」
炎の向こうに人影が現れる。
白い衣。優しく燃える炎。
一人の女神。ヘスティア。
ヘスティア(優しく)
「大丈夫。もう寒くないでしょう?」
康弘は呆然と見上げる。
康弘
「あなたは……?」
ヘスティア
「私はヘスティア。炉と家庭を守る女神」
康弘は信じられない顔をする。
康弘
「女神……?」
ヘスティアは微笑む。
炎は康弘の体を優しく包み続けている。吹雪は近づけない。
日本 ― 神宮寺家
康弘が日本に戻った後。
夜、窓の外に炎が現れる。
その中からヘスティアが姿を現す。
康弘(驚き)
「ヘスティア……」
ヘスティア
「少し会いに来ただけ」
二人は笑い合う。
この関係は続いていく。時間が流れる。
それから1年後――
ヘスティアが赤ん坊を抱いて現れる。赤ん坊が泣いている。
康弘(驚き)
「その子は……?」
ヘスティアは少し悲しそうな顔をする。
ヘスティア
「あなたの子よ」
康弘は目を見開く。
康弘
「俺の……?」
ヘスティア
「ええ。私にも、あなたにもよく似た女の子」
赤ん坊を優しく見る。
ヘスティア
「でも……」
少し声が震える。
ヘスティア
「私はこの子を育てられない」
康弘は混乱する。
康弘
「本当に……俺の子なのか?でも……この子を育てられないってどういうことだ!?」
ヘスティア(静かに)
「……私は本来、子を授かってはいけない神」
康弘
「……え?」
ヘスティア
「私は処女神。でも同じ処女神でも、オリンポスの玉座にいるアテナやアルテミスとは違う」
康弘
「違う……?」
ヘスティア
「私は……もうオリンポスの玉座にはいない。もし……ゼウスに知られれば……この子は……殺される」
沈黙。
ヘスティア(涙を流しながら)
「ごめんなさい康弘……私があなたを愛してしまったばかりに……」
康弘は赤ん坊を見る。小さな命。
康弘(決意)
「……俺が育てる」
ヘスティアは驚く。
康弘
「この子は俺の娘だ」
ヘスティアの目に涙が浮かぶ。
ヘスティア
「……ありがとう」
康弘は赤ん坊を抱き上げる。
康弘(優しく)
「名前は」
少し考える。
康弘
「佳織」
赤ん坊が小さく笑う。
康弘
「神宮寺佳織だ」
ヘスティアはその光景を見ている。
幸せそうに。だが――どこか悲しそうに。
現在 ― 書斎
佳織は黙って話を聞いている。
まだ信じられない。
佳織(小さく)
「……ママ」
写真を見る。
佳織
「そんな人だったんだ……」
康弘は静かにうなずく。
康弘
「お前のお母さんは優しい女神様だった」
佳織はしばらく黙る。
そして小さくつぶやく。
佳織
「……会ってみたい」
その願いは――まだ叶わない。
ヘスティアの宮殿 ― 炉の神殿
静かな神殿。
巨大な炉の炎がゆらゆらと揺れている。橙色の暖かな光が神殿を照らす。
玉座に座るのは、炉と家庭の女神ヘスティア。
その前の炎の中には――地上の光景が映し出されている。
神宮寺家の書斎。
康弘と佳織が向かい合い、話している様子。
佳織が母のことを知り、戸惑っている姿。
ヘスティアはその様子を、静かに見つめている。
ヘスティア(小さく)
「……佳織」
炎が優しく揺れる。佳織の顔が映る。
ヘスティア
「……あの子は」
少し目を伏せる。
ヘスティア
「すべてを知ってしまったのね……」
炎が静かに揺れる。
ヘスティアの表情には、複雑な感情。
母としての愛情。そして――会えない悲しみ。
ヘスティア(寂しそうに微笑む)
「もう……そんなに大きくなったのね」
炎の中の佳織。
まだ混乱している少女。
ヘスティア(小さく)
「本当なら……」
少し言葉を止める。
ヘスティア
「私が……」
声が震える。
ヘスティア
「あなたを育てたかった」
炎が一瞬大きく揺れる。まるで感情に呼応するように。
ヘスティアは静かに手を炎にかざす。
炎の中の佳織に触れるように。
だが――触れることはできない。
ヘスティア(優しく)
「でも大丈夫」
炎の中の佳織を見つめる。
ヘスティア
「あなたには優しいお父さんがいる」
康弘の姿が映る。
ヘスティア(静かに)
「……ありがとう」
その言葉は康弘へ向けられている。
その時、神殿の炎がわずかに揺らぐ。
遠くで雷の音。
ヘスティアの表情が少し変わる。
ヘスティア(小さく)
「……アレス」
炎の中に映るのは先ほどの戦闘の光景。
ヘスティア
「ゼウスは……もう動いているのね」
ヘスティアの目に決意が宿る。
ヘスティア
「佳織」
炎の中の娘を見る。
ヘスティア
「どうか……生き延びて」
炎が強く燃え上がる。
母の祈りのように。
オリンポス ― 神殿・玉座の間
天空にそびえる神殿。
巨大な柱と黄金の玉座。
その中心、主神ゼウスが玉座に座っている。
神殿の空気は重く、雷雲が空を覆っている。
アレスが片膝をついている。
ゼウス(低く)
「……ぬかったか」
神殿の空気が震える。
アレス(頭を下げたまま)
「……申し訳ありません……半神の力が覚醒しました」
ゼウス
「ふん……」
ゼウスの目が鋭く光る。
ゼウス
「所詮は半神。次は確実に仕留めろ」
その時――神殿の一角から、ため息が聞こえる。
ヘパイストス
「……あ~あ」
耳をほじりながら、気だるそうに言う。
ヘパイストス
「やってらんない」
神殿が一瞬静まり返る。
ゼウスの目がゆっくりとヘパイストスへ向く。
ゼウス(低く)
「おい、ヘパイストス」
ゆっくり立ち上がる。
ゼウス
「今……何と言った?」
雷が空を走る。
ヘパイストス(気にせず)
「聞こえなかった父上?」
肩をすくめる。
ヘパイストス
「おいらもうやってらんないって言ったの」
雷鳴。
ドォォォン!!
雷が神殿の柱に落ちる。
だがヘパイストスは全く動じない。
ヘパイストス
「だってさ~」
腕を組む。
ヘパイストス
「何の罪もない子供を、おきてがどうのって理由で殺すんでしょ?マジばっかばかしくてやってらんねえっての」
神殿がざわつく。
アレスの目が鋭くなる。
ヘパイストスはアレスを見る。
冷たい目。
ヘパイストス
「それに個人的に……」
アレスを指さす。
ヘパイストス
「おいらこいつのこと今でも許してねえし」
アレスの表情が険しくなる。
アレス
「……何だと」
ヘパイストス
「とぼけんなよ。おいらの嫁さん寝取ったくせによ」
神殿が凍り付く。
アフロディーテは黙ったまま視線をそらす。
ヘパイストスはふと別の方向を見る。
ヘパイストス
「なあ、お前もやってらんないだろ?」
視線の先にはディオニュソス。ワインの杯を持っている。
ディオニュソスはゆっくり酒を飲む。
そして静かに答える。
ディオニュソス
「……ええ」
杯を机に置く。
ディオニュソス
「この十二神の一席を譲ってくださった恩人のお嬢さんを……」
ゼウスを見つめる。
ディオニュソス
「殺すことはできません」
神殿に再び沈黙が落ちる。
神々の間で亀裂が生まれ始めていた。
ゼウスの目に怒りの雷が宿る。
東京 ― 高層ビル屋上(夜)
夜の東京。
ネオンが輝き、無数のビルが立ち並ぶ。
車のライトが川のように流れている。
そのビルの屋上に――二つの光が降り立つ。
金色の光と銀色の光。
光が消えると、そこに立っているのは二柱の神。
太陽神アポロン、そして月の女神アルテミス。
風が二人の髪を揺らす。
アポロンは東京の夜景を見下ろし、満足そうに微笑む。
アポロン(感心して)
「いつ見てもいいものだな。東京の街並みは」
腕を組み、街を見渡す。
アポロン
「同じ首都でもアテネの街とは華やかさが違う」
アルテミスも街を見下ろす。
その瞳には月の光が宿っている。
アルテミス(静かに)
「ヘルメスはこの前、京都という街を日本で見つけたとも言っていたわよ」
アポロンが少し笑う。
アポロン
「ああ。特に清水寺という寺院が素晴らしかったとな」
夜風が吹く。
アポロン
「後はディオニュソスも最近、日本の農業や酒に興味があるらしいぞ」
アルテミスが少し呆れたように言う。
アルテミス
「相変わらずね。酒と祭りのことになると止まらない」
アポロンは小さく笑う。
アポロン
「まあ。それがディオニュソスだ」
しばらく夜景を眺める。
やがてアポロンは空を見る。
アポロン
「……さて、では私は久しぶりに息子の顔を見に行くとするか」
アルテミスが少し微笑む。
アルテミス
「あなたも同じ目的なのねアポロン」
アポロンがアルテミスを見る。
アポロン
「お前も娘に会いに来たんだろう?アルテミス」
アルテミスは少しだけ空を見る。月が雲の隙間から顔を出す。
アルテミス(優しく)
「ええ。どうしてもあの子に会いたくなって」
夜風が吹く。遠くで電車が走る音。
東京の街は何も知らない。神々がすぐ近くにいることを。
アポロン(小さく)
「半神の子供たちか……どうやら面白い時代になりそうだ」
アポロンの体が金色の光に包まれる。アルテミスは銀色の光に包まれる。
次の瞬間――二人の姿は消える。それぞれの子供のもとへ。
公園のサッカー場(夜)
ボールが芝を転がる音。
蓮が一人で練習している。
ドリブルからシュート。ボールがゴールネットを揺らす。
蓮(小さく)
「……ふう」
ボールを拾って再びドリブルを始める。
その時――上空から金色の光がゆっくり降りてくる。
光が地面に着く。
そこに立っているのは――アポロン。
明るく笑いながら手を振る。
アポロン(陽気に)
「お〜蓮!こんな時間まで練習をしているのか!」
蓮はボールを止める。
ゆっくり振り返る。
そして――ジト目。
蓮(呆れた声)
「……何しに来たんだよ親父」
アポロンは少し苦笑する。
蓮
「全然帰ってこねえで急に顔出すとかさ」
肩をすくめる。
蓮
「どういうつもりだよ」
アポロンは少し困った顔をする。
アポロン
「いや〜」
頭をかく。
アポロン
「神というのは色々あるのだ。お父さんも本当はお前に会いたかったんだぞ?」
蓮はじっとアポロンを見る。
沈黙。
そして一言。
蓮(冷静)
「……とか言って」
アポロンが少し固まる。
蓮
「この前の大会、こっそり観客席にいたろ?」
アポロン
「……」
一瞬フリーズ。
アポロン
「え?い、いや……」
蓮は腕を組む。
蓮
「バレてないと思った?金髪でサングラスとか目立ちすぎなんだよ」
アポロンはビクッとする。
アポロン(小声)
「……バレていたのか」
蓮はため息をつく。
蓮
「ったく」
しばらく沈黙。
その後、アポロンの表情が少し真剣になる。
アポロン
「……蓮」
蓮
「ん?」
アポロン
「最近変わったことはないか?」
蓮は少し考える。
蓮
「変わったこと?」
ボールを軽く蹴る。
蓮
「まあ。体力が前より上がったくらいかな」
アポロンは小さく微笑む。
アポロン(小さく)
「……そうか」
夜空には星が輝いている。
夜 ― 学校の弓道場
夜の弓道場。静まり返った空間。
外では虫の声が聞こえる。
弓道場の中央で月菜が一人で弓を構えている。
深呼吸をして弓を引く。弦が張り詰める音。
月菜(心の中)
(距離……風……問題なし)
矢を放つ。
パァン!!
矢は一直線に飛び――的の中心。
ど真ん中。
月菜(小さく)
「……よし」
弓を下ろす。
タオルで額の汗を拭う。
その時――弓道場の空気が静かに変わる。
月の光が強くなる。
銀色の光が差し込む。
アルテミス(優しく)
「弓を射るのがうまくなったのね、月菜」
月菜が振り返る。
そこには――銀色の髪を揺らす女神アルテミス。
月菜
「……」
一瞬固まる。
そして――クールな表情が崩れる。
月菜
「もう!お母さん!!」
弓を持ったまま抗議する。
月菜
「勝手に学校まで来ないで!!」
アルテミスは全く悪びれない。
アルテミス(にこにこ)
「いいじゃない。お母さんもあなたに会いたかったのよ?」
月菜は呆れた顔。
月菜
「だからって学校の弓道場にまで来ることないでしょ!?」
アルテミスは首をかしげる。
アルテミス
「え〜?」
少し拗ねた顔。
アルテミス
「せっかく会いに来たのに〜」
ため息。
アルテミス
「思春期の子への接し方って難しいわ〜」
月菜は顔をしかめる。
月菜(ジト目)
「……子供扱いしないで」
弓を持ち直す。
アルテミスは少し笑う。
アルテミス
「でも、あなたは私の娘だもの」
月菜は少し照れる。
視線を逸らす。
月菜(小さく)
「……それより」
アルテミスを見る。
月菜
「今日はどうしたの?ただ会いに来ただけ?」
アルテミスの表情が少し変わる。
アルテミス(静かに)
「……いいえ」
月の光が強くなる。
アルテミス
「それだけじゃない」
月菜の瞳が真剣になる。
アルテミス
「オリンポスで動きがあった」
弓道場の空気が張り詰める。
月菜
「……神様の?」
アルテミス
「ええ」
少し間。
アルテミス
「半神の少女がゼウスに狙われている」
月菜の目が鋭くなる。
月菜
「……半神」
その名前はまだ知らない。
だが――運命はすぐに交差する。
夜 ― 公園
蓮とアポロンがサッカー場の横に立っている。
ボールが足元に転がっている。
アポロンが真剣な表情で蓮を見る。
アポロン
「蓮、お前神宮寺佳織という子とクラスメイトだったな?」
蓮は少し首をかしげる。
蓮
「ああ、同じクラスだよ」
ボールを軽く蹴る。
蓮
「それがどうした?」
アポロンの表情が少し曇る。
アポロン(静かに)
「その子が今日、ゼウスの命を受けたアレスに襲われた」
蓮の表情が一瞬で変わる。
蓮
「はあっ!?なんで佳織が襲われたんだよ!?ただの普通の女子高生だぞ!?」
アポロンは少し間を置く。
アポロン
「……実は、あの子はヘスティアの娘だ」
蓮
「……」
沈黙。
蓮
「……は?マジかよ?」
蓮は頭をかく。
蓮
「あいつも半神だったのかよ……」
アポロンは頷く。
アポロン
「そしてゼウスはその存在を許さない」
蓮の拳が握られる。
蓮(低く)
「……だから殺そうとしてるってわけか」
アポロンは何も言わない。
夜風が吹く。
蓮の目が鋭くなる。
蓮
「……ふざけんな。同じクラスのやつが殺されそうになってるのに、黙ってられるかよ」
夜 ― 弓道場
月の光が弓道場に差し込む。
月菜とアルテミスが向き合っている。
静かな空気。
アルテミス
「……神宮寺佳織という子、知っているかしら?」
月菜は少し考える。
月菜
「え〜っと〜確か蓮君のクラスメイトっていう子……」
アルテミスは頷く。
アルテミス
「その子が今日アレスに襲われたの」
月菜の目が見開かれる。
月菜
「はあっ!?なんでこんな島国まで!?神様がわざわざ来るなんて」
アルテミスの声が静かになる。
アルテミス
「……その子はヘスティアと人間の間に生まれた半神よ」
月菜
「……」
沈黙。
月菜
「え……?」
月菜は理解が追いつかない。
アルテミスは少し遠くを見る。
アルテミス
「……運命はもう動き始めている」
月の光が強くなる。
神宮寺家 ― 朝
朝日が差し込むリビング。
食卓には簡単な朝食。トーストとコーヒー。
神宮寺佳織がテーブルに座り、少し考え込んでいる。
昨夜、父から聞いた真実。自分の母が神であること、そして神々に命を狙われていること。
佳織は顔を上げる。
佳織
「……パパ」
康弘がコーヒーを飲みながら振り向く。
康弘
「ん?」
佳織は少し迷う。
だが、すぐに決意した顔になる。
佳織
「……どうしたらママに会えるの?」
康弘は少し驚く。そして静かに考える。
康弘
「そうだなあ……」
窓の外を見る。
康弘
「神に会うのは簡単じゃない」
少し間。
佳織の目が真剣になる。
佳織
「それでも会いたい!」
立ち上がる。拳を握る。
佳織
「だって!17年間も会ってないんだよ!?」
佳織の声が震える。
佳織
「それに……私ゼウス叔父さんにも会って文句言ってやりたい!」
康弘
「……」
佳織
「なんで私を殺そうとするのかちゃんと説明してもらわないと!」
康弘は思わず苦笑する。
康弘
「はは……さすが俺の娘だ」
佳織
「え?」
康弘
「神様相手に文句言うなんて普通は考えないぞ」
佳織は腕を組む。
佳織
「だっておかしいじゃん!私は何もしてないのに!」
康弘は少し真剣な顔になる。
康弘
「……だがゼウスはオリンポスの主神だ。簡単に会える相手じゃない」
佳織
「じゃあどうすればいいの?」
その時――家の中の空気が変わる。
温度が少し下がる。
床に影が広がり、黒い炎が現れる。
康弘の表情が変わる。
康弘(驚き)
「……この気配は」
黒い炎の中から――一人の神が現れる。
ハデス
「……その質問なら私が答えよう」
佳織と康弘が同時に振り向く。
佳織
「え?……誰?」
ハデスは静かに言う。
ハデス
「私は、冥界の神ハデス」
佳織の目が大きくなる。
佳織(困惑)
「ハデス……って確か……」
康弘が横から静かに説明する。
康弘
「冥界の神にしてゼウスの長兄。お前のお母さん、ヘスティアの弟だ。」
佳織の目が大きくなる。
佳織
「えっ……じゃあ本当に……叔父さん……?」
ハデスはゆっくり康弘を見る。
そして口元を少し緩める。
ハデス
「さすが考古学者よの義兄上。」
康弘は苦笑する。
康弘
「いや義兄上はやめてくれ」
佳織は少し落ち着きを取り戻し、ハデスに近づく。
佳織
「ねえハデス叔父さん」
ハデスが佳織を見る。
佳織
「知ってるんでしょ?ママやゼウス叔父さんに会う方法」
ハデスは静かに考える。
ハデス
「……人間がオリンポスへ行く方法はかなり面倒だ」
佳織は少し肩を落とす。
しかしハデスは続ける。
ハデス
「だがヘスティアの宮殿へ行く方法なら、そこまで難しくはない」
佳織の顔が一気に明るくなる。
佳織
「ほんと!?」
ハデスはゆっくり頷く。
ハデス
「それはな……」
ハデスが佳織へ方法を教える。会話は聞こえない。
少し時間が経つ。
佳織
「へえ……そんな方法があるんだ」
ハデスは佳織を真剣に見る。
ハデス
「だがその前にお前にやるべきことがある」
佳織
「え?」
ハデス
「この世界にはお前と同じ半神の人間が多く存在する」
佳織は驚く。
佳織
「私と同じ半神の人がいるんだ……でもどこにいるんだろう?」
ハデスは静かに答える。
ハデス
「……1人はお前の身近なところにいる」
佳織は首をかしげる。
佳織
「え?身近……?」
ハデスはそのまま微笑む。
ハデス
「また会いに来るぞ。佳織」
黒い炎が広がる。ハデスの体が闇に包まれていく。
佳織
「え!?ちょっと叔父さん!」
炎が消える。ハデスの姿はもうない。
部屋には静寂だけが残る。
佳織は呆然と立っている。
佳織(小さく)
「……半神。身近なところって……誰?」
第2話 完
