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宮廷賢者アルトリア 第20話「蔓延する毒」

第20話「蔓延する毒」

レグナリアの城下町 市場通り

活気ある町。
商人の声、人々の笑い声。

商人
「新鮮な果物だよ!今日は安いよー!」

主婦
「ほんと?じゃあ少し頂こうかしら」

子供たちが走り回る。

子供A
「待てー!」

子供B
「捕まえてみろー!」

平和な日常。
そんな時、1人の男が立ち止まる。


「……ん?」

胸を押さえる。


「はぁ……はぁ……?」

呼吸が荒くなる。


「な、なんだ……息が……」

突然、膝をつく。

ドサッ

周囲の人々
「えっ!?」
「どうしたの!?」

男(苦しそうに)
「く……苦し……い……!」

呼吸困難に陥る。そして別の場所でも……

女性
「……あれ……体が……重……」

ふらつく。

女性
「立て……ない……」

倒れる。

子供
「お母さん!?」

その後、あちこちで人が倒れ始める・

住民A
「な、なんだこれは!?」

住民B
「病気か!?毒か!?」

老人
「こんな症状……見たことがない……」

恐怖が広がる……。

数時間後

家の中で女性が寝込んでいる。

女性(弱々しく)
「……はぁ……はぁ……」

家族
「しっかりしてくれ……!」

女性
「……食べ……られない……」

食事ができず、衰弱していく。

さらに数日後

その女性は完全に寝たきりになる。

家族
「……もう起き上がれないのか……?」

女性(かすれ声)
「……ごめ……ん……」

急速な悪化であった。

町全体では担架で運ばれる人々や泣き叫ぶ家族、混乱する医者が大勢いた。

医者
「原因が分からない……!」

助手
「薬も効きません!」

医者
「こんな症状……聞いたことがないぞ!」

広がる恐怖に住民は混乱していた。

住民
「これ……うつるのか?」
「逃げろ!この町から出ろ!」

それは、静かに——確実に広がっていった。

別の町でも——

兵士
「こちらでも同様の症状が発生しています!」

さらに別の地域でも——

医官
「患者数が急増しています!」

それは——王国全土へと広がっていった。

レオニスの部屋

重厚な扉が閉ざされた王の私室。
空気は張り詰めている。

レオニス
「いずれも原因がわからんだと!?」

医官が額に汗を浮かべながら頭を下げる

医官
「……はい。既知の毒、病とも一致せず……特定には至っておりません」

沈黙。

レオニスは腕を組み、深く考え込む。

レオニス(低く)
「……ふざけた話だ。国中で人が倒れているというのに、原因すら掴めぬとはな」

医官
「申し訳……ございません……」

さらに重くなる空気。

フリアが静かに口を開く。

フリア
「……疲労から歩行不能で寝たきり……ユリナが意識不明になった時と一緒ですね」

一瞬、空気が凍る。

レオニス
「ああ……だが——あの時よりも毒の進行が早すぎる」

フリア
「そして……呼吸困難からの急速な衰弱は確か……」

レオニス
「前宰相バーンズの長男シャルルと、次男ハンスの時と同じ……」

医官が驚く。

医官
「なっ……!?」

レオニス(静かに、だが重く)
「……だが今回は違う」

ゆっくりと立ち上がる。

レオニス
「今回は——国全体に伝染してしまった……」

医官の顔が青ざめる。

医官
「……そ、そんな……」

レオニスがロバートを見る。

レオニス(断言するように)
「ロバート」

ロバート
「はっ」

レオニス
「アルトリアと、その協力者全員をここに呼べ」

ロバート
「はい」

ロバートは深く一礼し、その場を去る。
レオニスが窓の外を見る。

レオニス(心の声)
(これは……ただの病ではない)

目が鋭くなる。

レオニス(心の声)
(誰かが——仕組んでいる)

しばらくして重厚な扉が開く

ロバート
「アルトリア・フィリア伯爵、および協力者一同を連れてきました」

一同が入室する。
部屋の中央にレオニスが立つ。その威圧感に空気が張り詰める。

オラン(心の声)
(ま……まさか……陛下にお会いできるなんて……)

ザック(心の声)
(ヤバい……お顔を見ることすら恐れ多い……)

2人の肩がわずかに震える。
アルトリアが一歩前に出る。

アルトリア
「お呼びにより参上いたしました、陛下」

それに続き——

全員
「……!」

一斉に頭を下げる。

全員
「陛下に、謹んで拝謁いたします」

静寂。

レオニスが一同を見渡す。

レオニス
「面を上げよ」

ゆっくりと顔を上げる一同。

ザック(心の声)
(うわ……本物だ……圧が違う……)

オラン(心の声)
(……落ち着け……落ち着け僕……)

しかし視線が泳ぐ。
レオニスの視線がオランに止まる。

オラン
「ひっ……!」

オランは思わず声が漏れる。周囲が一瞬固まる。

アルトリア(小声で)
「オラン、落ち着いて」

オラン(小声)
「は、はい……!」

オランは必死に姿勢を正す。

レオニス(わずかに口元を緩め)
「……若いな」

空気が少し緩む。

レオニス
「だが、その若さゆえの力を今は借りたい」

レオニスは真剣な表情に戻る。

レオニス
「王都、そして各地で原因不明の症状が広がっている。呼吸困難、急速な衰弱……既に医官では手に負えぬ状況だ」

全員の表情が引き締まる。

イルハレム
「……まさかそこまで……」

グエン
「被害範囲はどの程度でしょうか?」

レオニス
「王国全土だ」

一同、息を呑む。

ザック
「ぜ、全国……!?」

オラン
「……そんな……」

レオニスがアルトリアを見る。

レオニス
「アルトリア」

アルトリア
「はっ」

レオニス
「これは病か、それとも——“人為的なもの”か、どう思う?」

全員がアルトリアを見る。
アルトリアは静かに目を閉じる。

アルトリア(心の声)
(情報はまだ足りない……だが……)

ゆっくりと目を開く。

アルトリア
「……可能性は後者が高いと考えます」

場が一気に張り詰める。

レオニス(鋭く)
「……理由は?」

アルトリア
「発症範囲が異常です。自然発生では説明がつきません。これは——意図的に拡散されたものです」

一同
「……!」

レオニスの目が鋭く光る。

レオニス
「やはりか……」

レオニスがアルトリアを見る。

レオニス
「アルトリア」

アルトリア
「はい」

レオニス
「この件、全てそなたに任せる」

それは絶対的信頼の表れだった。

アルトリア
「……承知いたしました」

アルトリアが静かに頭を下げる。

レオニス
「必ず原因を突き止めてくれ」

王としての命令であり、信頼でもある一言だった。

アルトリア
「はい」

アルトリアの目はまっすぐ前を見据えている。

ロバートが一歩前に出る。

ロバート
「レオン」

レオン
「はい」

ロバート
「しっかりと支えるのだ」

レオン
「……はい、父上」

レオンは覚悟を決めた表情をする。

アルトリアが一礼する。

アルトリア
「失礼いたします」

一同
「失礼いたします」

全員が深く頭を下げる。そしてゆっくりと背を向ける。

オラン(小声)
「……すごい空気だった……」

ザック(小声)
「心臓止まるかと思った……」

イルハレム(小声で苦笑)
「まだ始まったばかりだぞ」

アルトリアは無言で前を歩く。その表情は真剣そのもの。

アルトリア(心の声)
(時間がない……原因を突き止めなければ——国が崩れる)

国務省 宮廷賢者専用執務室

アルトリアが中央に立ち、全員を見渡す。

アルトリア(即断)
「オラン」

オラン
「は、はい!」

アルトリア
「解毒剤の開発を急いでくれ。毒は神経と血流の阻害型だ」

周囲がざわつく。

グエン
「もうそこまで……」

アルトリア
「致死量でなければ——ユリナ姫の時と同じく、リュネ草とアルバ根の組み合わせで中和できる」

オラン(驚きながら)
「……! はい!すぐに取り掛かります!」

オランの迷いが消え、医官としての顔に変わる。

アルトリア
「頼んだ」

アルトリアがジャンの方を向く。

アルトリア
「ジャン」

ジャン
「はい」

アルトリア
「イルカンへ行ってくれ」

周囲が一瞬驚く。

ジャン
「……イルカンに、ですか?」

アルトリア
「この毒について、イルカンに生息する“ある生物”が関係している可能性がある」

タルマン
「生物……毒源がそこに……?」

アルトリア
「まだ確証はない。だが——可能性は高い」

アルトリアは書状を差し出す。

アルトリア
「これをジョルジュ王に渡してくれ」

ジャンが受け取る。

ジャン
「……承知しました」

アルトリア
「念のため、護衛もつけてもらえ」

ジャン
「はい」

ジャンはすぐに踵を返す。
オランも資料を抱え、急いで部屋を出ていく。

オラン
「失礼します!」

ジャン
「行ってまいります」

扉が閉まる。

アルトリアは地図を見つめたまま考える。

アルトリア(心の声)
(過去の事件……)

それはシャルルとハンスが死んだ事件、そしてユリナの件だった。

アルトリア(心の声)
(共通しているのは——“毒”)

アルトリアはゆっくりと顔を上げる。

アルトリア(心の声)
(そして……今回の規模……これは偶然じゃない……多分、犯人は旧貴族派)

アルトリアの目が静かに光る。

オランの研究室

机の上に並ぶ薬草、器具、試験管。
書物が山のように積まれている。

オランが必死に調合を繰り返している。

オラン
「……違う……これでもない……」

液体の色が変わるが——

オラン
「効果なし……!」

額に汗が走る。

オラン(息を荒げながら)
「こんな毒……」

オランは書物をめくる。

オラン
「バラチャッタにいたころに読んだ医学書にも……」

ページをめくる手が止まる。

オラン
「……こんな方法は書いてなかった……!」

完全に未知の領域であった。

オラン(小さく)
「……時間がない……」

イルカン王国・玉座の間

壮麗な玉座の間には厳かな空気が流れる。
ジャンがひざまずいている。

ジャン
「……」

玉座に座るジョルジュが手紙を読む。紙をめくる音だけが響く。

ジョルジュ
「……此度の事件」

ゆっくり顔を上げる。

ジョルジュ
「あの生物の毒が原因と申すか?」

ジャン
「可能性ではありますが……症状、進行、全ての特徴が一致しております」

ジョルジュは腕を組み、考え込む。

ジョルジュ
「……よかろう。その申し出、受けるとしよう」

ハリスが一歩前に出る。

ハリス
「父上!本気ですか!?」

グラーズ
「仮にもレグナスは敵国ですぞ!?」

パトルク
「そうです!この機に乗じて征服すべきです!」

王子たちは好戦的な意見。

ジョルジュ(即座に)
「バカを言うな!私はそのような卑劣な真似はせぬ」

それは王としての矜持であった。

ジョルジュ
「それに——」

ジョルジュは少し身を乗り出す。

ジョルジュ
「毒が蔓延している今、侵攻すればどうなる?」

王子たち
「……」

ジョルジュ
「征服しても、我が軍の兵士たちも同じ毒に倒れるだけだ」

それは冷静な判断であった。
ジョルジュが静かに上を見る。

ジョルジュ
「それに……」

ジョルジュの表情が少し柔らかくなる。

ジョルジュ
「アルトリアは、我が国の危機を救ってくれた。その恩を返す時が来た」

王子たちは黙る。

ジョルジュがジャンを見る。

ジョルジュ
「その生物を捕獲次第、連絡する。国に帰り、アルトリアとレオニス王にそう伝えよ」

ジャン
「……ありがとうございます」

ジャンは深く頭を下げる。

宮殿・廊下

静かな廊下。外の騒ぎとは対照的な静寂。
アルトリアが立ち止まり、考え込んでいる。

アルトリア(心の声)
(ジョルジュ王からの協力は得られた……あとは……解毒剤が作れれば……)

しかし——

アルトリア(心の声)
(時間がない……)

アルトリアがわずかに眉をひそめる。
その時——

セリア(後ろから)
「アルトリア?」

アルトリアが振り返る。

アルトリア
「姫様!」

アルトリアが一礼する。
セリアがゆっくり歩み寄る。

セリア
「ずいぶん難しい顔をしているわね」

セリアがアルトリアの表情を覗き込む。

アルトリア
「……少し、考え事を」

セリア
「毒の件でしょう?」

完全に見透かしている。

アルトリア
「はい……各地に広がる毒……原因はほぼ特定できていますが、解毒剤の開発が間に合うかどうか……」

アルトリアの顔に珍しく不安が滲む。
セリアは少し黙る。そして——

セリア(静かに)
「あなたが“間に合うかどうか”なんて言うなんてね」

アルトリア
「……」

セリアが一歩近づく。

セリア
「でも大丈夫よ」

優しく、しかし力強く言う。

セリア
「あなたは今まで、無理だと思われたことを全部やってきたじゃない」

アルトリア
「姫様……」

セリア
「それに——」

セリアが少しだけ微笑む。

セリア
「今回は1人じゃない」

アルトリアの手をそっと握る。

アルトリア
「……!」

アルトリアが少し驚く。

セリア
「私もいる」

セリアが真っ直ぐな目でアルトリアを見る。

セリア
「だから、全部背負おうとしないで」

アルトリアは一瞬言葉を失う。

アルトリア(小さく)
「……ありがとうございます」

セリア
「……ふふ」

セリアはその様子を見て満足げ。しかし次の瞬間——

セリア(じっと見つめて)
「……ところで」

アルトリア
「?」

セリア
「さっき、侍女と話してたわよね?」

セリアはジト目になる。

アルトリア
「え」

セリア
「ずいぶん楽しそうだったけど?」

アルトリア
「い、いえ!あれはただの業務連絡で——」

アルトリアは慌てる。

セリア(無表情で早口)
「業務連絡ねえそうやって誰にでも優しくしてるから勘違いされるのよほんとにもう——」

アルトリア
「ひっ……」

アルトリアは危険を察知する。

アルトリア(心の声)
(まずい……この流れは……!)

アルトリアは一歩後ずさる。

セリア(にっこり)
「逃げないで?」

アルトリア(心の声)
(誰か助けてえええっっ!!!!)

3日後・玉座の間

重厚な玉座の間。
全員が整列し、張り詰めた空気。

レオニスが静かに口を開く。

レオニス
「……本当に、原因が分かったのか?」

アルトリアが一歩前に出る。

アルトリア
「はい。今回の毒……とある生物が持つものでした」

一同がざわつく。

レオニス
「生物……だと?」

アルトリア
「はい」

アルトリアが続ける。

アルトリア
「その生物を、本日——イルカンからの使者の方が連れてきてくださっています」

視線が扉へ向く。

アルトリア
「お通ししてよろしいでしょうか?」

レオニス
「通せ」

重厚な扉が開き、セバス、フリード、アイゼルが堂々と入ってくる。
セバスが一歩前に出て礼をする。

セバス
「イルカン王国宰相、セバス・グランディスでございます。突然の訪問、お許しください」

レオニス
「遠いところ、よくぞお越しくださった。此度の件へのご協力、心より感謝する」

セバス
「光栄にございます」

セバスは一礼する。
レオニスが鋭く問う。

レオニス
「ところで……その“例の生物”とは?」

全員が注目する。
セバスが横に目配せする。

セバス
「……フリード将軍、連れてまいれ」

フリード
「はっ」

フリードが振り向く。

フリード(兵士へ)
「あいつを連れて来い!」

兵士たちが鉄の檻を運び込む。

ガシャン……

檻の中で“それ”が暴れる。

ヘルマンバ
「キシャアアアアアッッッ!!!」

不気味な咆哮に、数名の者が思わず後ずさる。

フリード
「うるさい!おとなしくしろ!」

フリードが檻を軽く叩く。
毒蛇がさらに暴れる。

レオニス(目を細め)
「……この生物は確か……」

アルトリアが前に出る。

アルトリア
「ヘルマンバ——という毒蛇です。普段は臆病で、人が近づくと逃げ出します。ですが……」

一瞬、声を低くする。

アルトリア
「極めて神経質な性質を持ち、追い詰められると強い攻撃性を示します」

それはまさに危険性の強調だった。

セリア(興味深そうに)
「……本物は初めて見たわ」

ヘルマンバ
「キシャアアアアアッッッ!!!」

セリア
「ひぃっ!!」

アルトリアがフリードを見る。

アルトリア
「フリード将軍が捕獲にご尽力くださったと聞きました」

アルトリアが丁寧に頭を下げる。

アルトリア
「ありがとうございます」

フリード(腕を組みながら)
「捕まえるのには苦労したぞ。さすがの俺でも……こいつは気分的に怖い。アイゼルの弓の援護がなければ、捕獲は無理だったな」

フリードが後ろのアイゼルに軽く顎を向ける

アイゼル(静かに一礼)
「当然の務めです」

檻の中のヘルマンバが再び暴れる。

ヘルマンバ
「シャアアアア……!!」

アルトリアが一歩前に出る。

アルトリア
「ヘルマンバの毒は——」

一同の視線がアルトリアに集まる。

アルトリア
「強力な神経毒です。神経と血流を阻害する働きがあります」

ガイナス
「……神経と血流……」

状況が繋がる。

アルトリア
「そして厄介なことに——その毒は、優れた医官でも原因の特定が難しいことで知られています」

医官たちが顔を見合わせる。

医官
「……だから……分からなかったのか……」

ガイナス(納得するように)
「だから原因が特定できなかったのか……」

全員が理解し始める。

アルトリアが続ける。

アルトリア
「ヘルマンバの毒は——致死量が少ない場合、初期症状として疲労感が現れます」

静かに説明する。

アルトリア
「やがて食事が取れなくなり……歩行も困難となり……最終的には寝たきりになります」

一同の顔が強張る。

エリス(小さく)
「……ユリナの時と一緒……」

ユリナ
「……」

アルトリアがさらに声を落とす。

アルトリア
「そして——」

空気がさらに重くなる。

アルトリア
「致死量が多い場合には、突如呼吸困難を引き起こし——その場で倒れます」

市街の光景と重なる。

アルトリア
「その後、急速に衰弱し……寝たきりとなる」

アルトリアの表情がわずかに曇る。

アルトリア(低く)
「……私の兄たちの時と……」

言葉が一瞬詰まる。

アルトリア
「同じ状況です……」

一同
「……」

誰も言葉を発せない。
セリアがそっとアルトリアを見る。心配と理解の視線だった。
レオニスも静かに目を閉じる。

檻の中でヘルマンバがまた激しく暴れる。

ヘルマンバ
「キシャアアアアアッッッ!!!」

数人の兵士が思わず後ずさる。

兵士
「くっ……!」

レオニス(険しい表情)
「かなり興奮しているな……!」

アルトリアは小さくため息をつく。

アルトリア(心の声)
(やれやれ……このままでは説明もできないな……)

アルトリア(静かに)
「……お願いします」

一同がざわつく。
フードを被った人物が一歩前に出る。

フードの人物(低く詠唱)
「——静寂よ、訪れよ」

空気が変わる。
淡い光がヘルマンバを包む。

ヘルマンバ
「シャア……?」

ヘルマンバの動きが鈍る。次第に体が緩み——

ヘルマンバ
「……スゥ……」

完全に眠りにつく。

ガイナス(驚き)
「……ヘルマンバが眠ったぞ!」

エリス
「まさか……魔法で……?」

一同の視線がその人物に集まる。
フードの人物がゆっくりとフードを外す。現れたのは——

イルーシャ
「皆さん、ご無沙汰しております」

イルーシャが静かに微笑む。

一同
「……!」

セリア(小さく)
「……アルゼリアの……王女……!」

レオニス(興味深げに)
「……事前に聞いてはいたが、従者に紛れていたとはな」

レオニスは少し感心した様子。

レオニス
「しかし……今のは?」

イルーシャ(穏やかに)
「簡単な鎮静魔法です」

イルーシャは淡々と説明する。

イルーシャ
「ヘルマンバは神経質な生物ですので、精神を落ち着かせれば活動は抑えられます。毒の解析にも支障が出ぬよう、一時的に眠らせました」

レオニス(頷く)
「見事だ」

アルトリアが一歩前に出る。

アルトリア
「ありがとうございます、姫様」

アルトリアが丁寧に一礼する。

イルーシャ(軽く首を振り)
「いいえ」

イルーシャが少し柔らかく微笑む。

イルーシャ
「魔導国の姫として、当然の務めです」

2人のやり取りを——セリアがじっと見ている

セリア(ジト目・小声)
「……あの女……またアルトリアに近づいて……ほんとに……」

セリアの嫉妬モードが発動する。

アルトリア(心の声)
(……嫌な気配がする……)

アルトリアが深く息を吸う。

アルトリア
「……では、本題に戻ります」

一歩前に出る。

アルトリア
「この毒が王国全土に広まった理由ですが——この毒は、“空気”を使って充満していました」

一同がざわめく。

レオニス
「……空気だと?」

アルトリア
「はい」

アルトリアは落ち着いた声で続ける。

アルトリア
「ヘルマンバの毒は、本来は体内に注入されて作用するものです。しかし特定の処理を施すことで——」

周囲を見渡す。

アルトリア
「揮発性を持たせることが可能になります」

貴族A
「き、気体化したというのか!?」

アルトリア
「完全な気体ではありません」

アルトリアが冷静に訂正する。

アルトリア
「極めて微細な粒子として空気中に漂わせることで、呼吸とともに体内へ取り込まれる仕組みです」

ガイナス
「……だから呼吸困難が先に現れたのか」

アルトリア
「はい。肺から毒が吸収され、神経と血流に直接作用した」

一気に納得が広がる。

エリス
「……そんなことが可能なの……?」

アルトリア
「通常は困難です。ですが——複数箇所に“拡散装置”を設置すれば話は別です」

貴族B
「装置だと!?」

アルトリア
「風の流れを利用し、王都から地方へと徐々に拡散させた」

アルトリアが地図を指す。

アルトリア
「発症の分布は、風向と一致しています」

レオニス(低く)
「……つまりこれは——人為的な攻撃というわけだな」

アルトリア
「はい」

玉座の間に緊張が走る。

イルハレムが近づく。

イルハレム
「従兄上、オランが来ました」

アルトリア
「通してくれ」

オランが前に出る。
顔には疲労、だが目は強い。

オラン
「お呼びでしょうか?」

アルトリア
「オラン、ヘルマンバの毒を使った解毒剤のレシピを」

全員の視線がオランへ。
オランは深く息を吸う。

オラン
「……はい」

オランは一歩前に出る。少しだけ緊張している。

オラン(小さく息を吸い)
「……今回の毒——ヘルマンバの毒は」

オランの声がわずかに震える。

オラン
「神経と血流を同時に阻害する、非常に厄介な性質を持っています」

医官たちが真剣に聞く。

オラン
「そのため、通常の解毒では効果がなく……」

オランが一瞬言葉を選ぶ。

オラン
「毒そのものを“無効化する”必要があります」

ガイナス
「無効化……?」

オラン(頷く)
「はい」

少し自信が戻る。

オラン
「まず、リュネ草の成分で神経系への毒の作用を一時的に抑えます」

オランが手元の資料を示す。

オラン
「次に、アルバ根の抽出液で血流阻害を解除する。この2つを同時に作用させることで——体内に取り込まれた毒を中和することが可能です」

一同がざわめく。

医官
「……なるほど……!」

別の医官
「理にかなっている……!」

オラン(少し強い声で)
「ただし——」

空気が引き締まる。

オラン
「この方法は、あくまで初期〜中期の症状に限られます。重症患者には……さらに強い処置が必要になります」

レオニス
「だが……救えるのだな?」

オランは一瞬だけ目を閉じる。そして——

オラン(まっすぐに)
「……はい。救えます」

イルハレム(安堵)
「……よくやった、オラン」

グエン
「さすがだ……!」

ザック(小声で)
「すげぇ……」

セリアも静かに頷く。

セリア(小さく)
「やるじゃない」

アルトリアがオランを見る。

アルトリア(柔らかく)
「見事だ、オラン」

オラン(少し照れながら)
「……いえ、まだ終わっていません。これを量産し、全土に行き渡らせなければ……」

レオニス
「よくやった。直ちに解毒剤の製造と配布を開始せよ!」

ロバート
「はっ!」

玉座の間にわずかな“希望”が生まれる。

カーン邸

重厚な書斎。
薄暗い室内、静かな空気。

扉が勢いよく開く。

オリオン
「父上!」

アントニウス(書類から目を離さず)
「どうした?」

オリオン(焦りを隠せず)
「失敗です……!」

一瞬、空気が張り詰める。

オリオン
「失敗しました!解毒剤により……国民は毒から解放されました!」

アントニウスがゆっくりと顔を上げる。

アントニウス
「……何だと?医官でも特定が難しいヘルマンバの毒を使ってか?」

アントニウスは信じ難いという表情をしている。

アントニウス
「今回はいつもより多めの量……」

拳をわずかに握る。

アントニウス
「しかも拡散装置も使ったはずだぞ」

オリオン(悔しげに)
「……その拡散装置も、すべて破壊されました……」

沈黙。

アントニウスの指がゆっくりと机を叩く。

コツ……コツ……

やがて——

アントニウス
「……アルトリアだな?」

オリオン
「……そのようです……」

オリオンが目を伏せる。

一瞬の静寂。

そして——アントニウスの口元がゆっくりと歪む

アントニウス
「……フッ。やはりそうか」

オリオン
「……」

アントニウス(椅子にもたれながら)
「まあいい。どのみち——」

アントニウスの目が鋭くなる。

アントニウス
「我々には危害はない」

自信に満ちた断言。

オリオン(わずかに驚き)
「……それは……?」

アントニウス(意味深に)
「まだ“駒”は残っている。むしろ、これでいい」

アントニウスが不敵な笑みを浮かべる。

アントニウス
「アルトリアには——」

ゆっくりと言う。

アントニウス
「もう少し踊ってもらおう」

第20話 完

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