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宮廷賢者アルトリア 第2話「眠れるユリナ姫」

第2話「眠れるユリナ姫」

王都レグナリア・城門前

巨大な城壁、天を突くような塔。
王都レグナリア。大陸最大の都市。
人々が行き交い、商人の声、馬車の音、兵士の巡回。

その中央を――王家の紋章を刻んだ馬車が進む。

アルトリアとセリアは馬車で向かい合って座っている。
アルトリアは窓の外を見ている。

王都の景色、豪華な建物、整備された道路、賑わう民衆。
だが――その瞳には、喜びだけではない。

アルトリア(心の声)
(……僕は……また、都に戻ってきてしまったのか……)

窓に映る、自分の姿。

アルトリア(心の声)
(……あの、心落ち着かない都に)

アルトリアは暗そうな顔をする。セリアはその様子に気づくが、あえて明るく話しかける。

セリア
「どう?」

アルトリアが視線を向ける。セリアは微笑んでいる。

セリア
「王都レグナリアは?」

アルトリアは一瞬戸惑う。
そして少し緊張しながら答える。

アルトリア
「と……とてもいいところですね……」

セリアは静かに聞いている。

アルトリア
「本で見たことはありますが……それ以上です……」

その言葉は嘘ではない。だがすべてでもない。
セリアは優しく微笑む。

セリア
「そう。あなたなら、きっと気に入るわ」

アルトリアは小さく頷く。

やがて馬車が止まる。目の前には王宮。
巨大な白い城、天へと伸びる塔、荘厳な門。
近衛騎士たちが整列している。
アルトリアの目が見開かれる。

アルトリア(心の声)
(……大きい)

御者が扉を開ける。

御者
「到着いたしました」

セリアが優雅に立ち上がる。

セリア
「行きましょう」

アルトリアも立ち上がる。少し緊張している。
馬車を降りる二人。
石畳の地面。
アルトリアは王宮を見上げる。その圧倒的な存在感。

アルトリア(心の声)
(ここが……レグナス王国の中心……)

セリアは彼の隣に立つ。

セリア
「緊張してる?」

アルトリア
「はい……少しだけ」

セリアは微笑む。

セリア
「大丈夫よ。私がいるわ」

その言葉に、アルトリアの緊張がわずかに和らぐ。
近衛騎士が声を上げる。

近衛騎士
「セリア王女殿下、ご帰還!」

門が開く。重厚な音。
王宮の中へ続く道。
セリアは一歩踏み出す。そして振り返る。

セリア
「アルトリア」

アルトリア
「はい」

セリア
「ここからが、あなたの新しい世界よ」

アルトリアは王宮を見る。
その蒼い瞳に、わずかな決意の光。

アルトリア
「……はい」

二人は並んで歩き出す。

賢者は、王都へ足を踏み入れた。
それは――王国の運命が、大きく動き出す瞬間だった。

王宮・玉座の間

重厚な扉が開く。

ギィィ――――

広大な空間。
赤い絨毯が一直線に伸び、その先には黄金の玉座。
両脇には近衛騎士が整列している。

その中央――玉座に座る男。
レグナス王国国王、レオニス・レグナード。
圧倒的な威厳。
その隣には、王太子ガイナス・レグナード。

セリアとアルトリアが入室する。

近衛騎士
「セリア王女殿下と賢者アルトリア・フィリア殿です」

セリアとアルトリアが玉座の前で止まる。セリアは優雅に一礼する。

セリア
「父上、お連れいたしました」

アルトリアも慌てて膝をつき、頭を下げる。

アルトリア
「……」

わずかな沈黙。
レオニスの視線がアルトリアを見つめる。鋭く深い目。

レオニス
「……そなたが、アルトリア・フィリアか?」

アルトリアは顔を上げる。王と目が合う。
その圧力に、わずかに息を飲む。

アルトリア
「……はい。国王陛下」

静寂。
レオニスはゆっくりと玉座から立ち上がる。近衛騎士たちがわずかに緊張する。
レオニスは、ゆっくりとアルトリアへ歩み寄る。足音だけが響く。アルトリアの前で止まる。

レオニス
「顔を上げよ」

アルトリアは顔を上げる。
レオニスはアルトリアの姿を間近で観察する。
蒼い瞳、黒髪、整った顔立ち。
その瞬間――レオニスの瞳がわずかに揺れる。
だがすぐに、手を差し出す。

レオニス
「立て」

アルトリア
「……?」

戸惑いながらも手を取り、立ち上がる。

レオニス
「よく来た」

その言葉は王としてではなく、一人の人間としての歓迎だった。

アルトリア
「……ありがとうございます」

レオニスは隣を見る。

レオニス
「こちらは王太子のガイナスだ」

ガイナスが一歩前に出る。堂々とした佇まい。

ガイナス
「ガイナスだ。よろしく」

アルトリアは慌てて頭を下げる。

アルトリア
「よ……よろしくお願いいたします……王太子殿下……」

ガイナスはその様子を見てわずかに微笑む。

ガイナス
「そう堅くなるな。ここではそなたは客人だ」

アルトリアはわずかに安心する。
レオニスは再び口を開く。

レオニス
「そなたの住まいはおって用意させる。それまでは客室を使うとよい」

アルトリア
「……ありがとうございます」

深く一礼する。セリアが一歩前に出る。

セリア
「アルトリア、こちらへ」

アルトリア
「はい」

二人は玉座の間を後にする。
重厚な扉が閉まる。

ギィィ――――

静寂。

ガイナスが口を開く。

ガイナス
「どう思われますか、父上」

レオニスは答えない。
ただ扉を見つめている。

レオニス(心の声)
(……アルトリア・フィリア。あの瞳……)

一瞬、過去の記憶がよみがえる。

赤子。蒼い瞳の赤子。
誰かに抱かれている。

レオニス(心の声)
(……本当に……あの時の赤ん坊なのか……?)

レオニスは静かに目を閉じる。

レオニス(心の声)
(いや……そんなはずはない。同姓同名の、別人だろう……)

だがその表情には、確かな動揺があった。

王宮・客室前の廊下

長い廊下、赤い絨毯、高い天井、窓から差し込む光。
セリアが先を歩き、アルトリアがその後ろを歩く。

アルトリアは周囲を見回している。
豪華な装飾、彫刻、絵画。

アルトリア(心の声)
(……落ち着かない。この空気は……昔と同じだ……)

セリアが一つの扉の前で止まる。

セリア
「ここよ」

扉を開ける。

王宮・客室

広い部屋、大きな窓、豪華なベッド、机、本棚、すべてが整っている。
アルトリアは部屋の中に入る。

アルトリア
「……」

静かに見回す。
セリアも中に入る。

セリア
「気に入った?」

アルトリア
「……はい。とても……立派な部屋です」

セリアは微笑む。
だが、ふと何かを思い出したように、アルトリアを見る。

セリア
「それにしても……」

アルトリアが顔を向ける。

セリア
「フィリアって……どこかで聞いたような名字ね」

その瞬間――アルトリアの体が、わずかに強張る。
セリアは気づいていない。

セリア
「もしかして……」

アルトリア
「いえ!」

反射的に答える。思わず声が大きくなる。
セリアが驚く。
アルトリアは慌てて言い直す。

アルトリア
「……気のせいです。どこにでもある名字ですから……」

視線を逸らす。
セリアは少し不思議そうに見る。
だがそれ以上は追及しない。

セリア
「……そう」

セリアは微笑む。

セリア
「部屋は好きに使って構わないわ。必要なものがあれば、侍女に言って」

アルトリア
「……ありがとうございます」

セリアは扉の方へ向かう。そして一度振り返る。

セリア
「ゆっくり休んで」

アルトリア
「……はい」

セリアは部屋を出る。
扉が閉まる。

カチリ――

静寂。

アルトリアはその場に立ったまま、

動かない。

アルトリア(心の声)
(……フィリア。やっぱり……あのことは知られてはいけない)

ゆっくりと歩き、窓の前に立つ。
王都が見える。広大な都市。

アルトリア(心の声)
(……ここは……僕のいるべき場所じゃない)

手を見る。わずかに震えている。

アルトリア(心の声)
(帰りたい……あの小さな家に……)

アルトリアはベッドに座る。
だが――落ち着かない。
立ち上がってまた座る。
歩いて止まってを繰り返す

アルトリア
「……落ち着かない」

深く息を吐く。

アルトリア
「……少し……外の空気を……」

部屋を出る。

王宮・回廊

静かな回廊。高い窓から差し込む夕陽。
赤い絨毯。
アルトリアが一人で歩いている。
周囲を見回しながらどこか落ち着かない様子。

アルトリア(心の声)
(……やっぱり落ち着かない。空気が重い……)

アルトリアは窓の前で立ち止まる。
王都を見下ろす。
広大な都市、整然と並ぶ建物、人々の営み。

アルトリア(心の声)
(あの平原の方が……落ち着く)

その時――突然横から声がする。

アグニス
「お前か?噂の若い賢者ってのは〜?」

アルトリア
「うわあ!」

完全に不意を突かれバランスを崩す。

ドサッ!

尻もちをつく。

アルトリア
「い、痛っ……」

その様子を見て声の主が豪快に笑う。

アグニス
「はははははは!!いい反応だ!」

アルトリアが見上げる。
そこに立っていたのは――長身、筋骨隆々、短く整えられた髪、鋭い目。
そして、圧倒的な存在感。
アグニスは腕を組みアルトリアを見下ろしている。

アグニス
「へぇ〜……聞いた通りの色男じゃねぇか」

アルトリア
「……?」

アグニスはニヤリと笑う。

アグニス
「おっと、自己紹介がまだだったな!」

胸を叩く。

ドンッ!

アグニス
「俺はアグニス・レグナード!この国の第2王子だ!」

アルトリアの目が見開かれる。

アルトリア
「だ……第2王子……!?」

慌てて立ち上がる。

アルトリア
「アルトリア・フィリアです……ロ、ロゴ国との戦の最中だったはずでは……?」

アグニスは豪快に笑う。

アグニス
「おう!全戦全勝!楽勝だったぜ!」

自信満々に言い放つ。

そして――

ドン!ドン!

アルトリアの肩を強く叩く。

アグニス
「お前があの水路を見抜いた賢者か!」

ドン!ドン!

アルトリア
「げほっ!げほっ……!」

あまりの力にむせる。

アグニス
「ははは!弱ぇな!」

さらに叩こうとする。

その時――

ガイナス(低い声)
「おい、アグニス」

空気が変わる。
アグニスの動きが止まる。
振り返る。
そこに立っていたのは王太子ガイナス。
腕を組み、ジト目でアグニスを見ている。

ガイナス
「何をしている?」

アグニス
「うげ!兄上!」

ガイナスはゆっくり近づく。
アルトリアを見る。

ガイナス
「大丈夫か?」

アルトリア
「は、はい……」

アグニスは頭をかく。

アグニス
「いや〜、ちょっと挨拶をな!」

ガイナス
「挨拶で人を叩くな」

アグニス
「ははは……」

だがアグニスの目は楽しそうだ。

アグニス
「気に入ったぜ、アルトリア!また遊ぼうな!」

アルトリア
「え……?」

アグニスは豪快に笑いながら去っていく。
ガイナスは小さくため息をつく。

ガイナス
「……すまない。あれはああいう男だ」

アルトリア
「い、いえ……」

アルトリアは肩を押さえる。

アルトリア(心の声)
(……王子とは……あんな人なのか……)

だが――少しだけ恐怖とは違う感情が生まれていた。

王宮・中庭

整えられた芝生、美しい花々。
中央には澄んだ水を湛える噴水。
柔らかな風が吹いている。

アルトリアが一人、歩いている。
先ほどまでの緊張が、少しだけ和らいでいる。

アルトリア
「……」

周囲を見回す。
広がる緑、揺れる草木。

アルトリア
「ここは……」

小さく微笑む。

アルトリア
「エルメア平原を思い出すな〜」

アルトリアはゆっくり歩く。

草を見つめ、空を見る。

アルトリア(心の声)
(……ここなら……少し落ち着ける)

だが――
その様子を、遠くから見つめる者がいた。

柱の陰。
白銀の髪、整った顔立ち。

エリス・レグナード。

彼女は柱の陰から、アルトリアをこっそり観察している。

エリス(小声)
「……あれが……噂の若い賢者様……」

アルトリアの横顔。
蒼い瞳、風に揺れる黒髪。
エリスの頬がわずかに赤くなる。

エリス(小声)
「……あれほどのイケメンが……この国にいたなんて……」

思わず見入ってしまう。
その時――アルトリアがふと振り返る。
エリスと目が合う。

エリス
「っ!」

完全に見つかった。

エリス
「えっ……」

隠れるタイミングを逃す。
数秒の沈黙。

エリスは意を決して、柱の陰から出てくる。
王女としての姿勢を整える。
だが、少しだけぎこちない。

エリス
「わ……私は!」

一瞬、言葉に詰まる。
深呼吸。
そして、王女として名乗る。

エリス
「私は、この国の第2王女、エリス・レグナードです!」

アルトリアが慌てて姿勢を正す。

アルトリア
「ア……アルトリア・フィリアです!本日より、王宮に招かれました!」

二人が同時に頭を下げる。
そして、ゆっくり顔を上げる。
再び目が合う。一瞬の沈黙。

エリスはアルトリアを見つめる。
近くで見ると、さらに整った顔立ち。

エリス(心の声)
(……綺麗な人……本当に……賢者なの……?)

アルトリアは少し困惑している。

アルトリア
「えっと……何か……御用でしょうか?」

エリスは我に返る。

エリス
「い、いえ!ただ……」

少し微笑む。

エリス
「あなたに興味があっただけです」

アルトリア
「興味……?」

エリス
「はい。王国を救った賢者に」

柔らかな風が吹く中庭、噴水の音。
向かい合う二人。
アルトリアとエリス。まだ少し緊張した空気。

アルトリアはふとある知らせを思い出し、エリスに尋ねる。

アルトリア
「しかし聞いた話では……姫様も戦場にいらしたはずでは……?」

エリスは少し驚いたように目を瞬かせる。
そして、静かに微笑む。

エリス
「はい。昨日、戻りました」

アルトリア
「昨日……」

アルトリアは少し驚く。

アルトリア
「お疲れでは……?」

エリスは首を横に振る。

エリス
「大丈夫です。戦場には慣れていますから」

その言葉は穏やかだが、その奥には確かな強さがある。
アルトリアは少しだけ尊敬の眼差しで見る。

アルトリア
「……すごいですね」

エリスは少しだけ照れたように視線を逸らす。

エリス
「姉上の方が、ずっと強いですよ」

その時――後ろから声がする。

セリア
「ここにいたのね?」

アルトリアとエリスが同時に振り返る。
そこに立っていたのはセリア。
銀の髪が風に揺れる。

セリアはゆっくり近づく。

アルトリア
「セリア姫様……」

セリア
「探したわ。」

アルトリア
「すみません……落ち着かなくて……宮殿を歩いていました」

セリアはアルトリアを見る。
そしてエリスを見る。

そして――再びアルトリアを見る。

セリア
「それにしても……」

わずかに微笑む。

セリア
「妹と、随分楽しそうに話してたわね?」

エリス
「えっ?」

アルトリア
「えっ?」

二人同時に反応する。

アルトリア
「い、いえ!そんな……!」

エリスも慌てる。

エリス
「姉上、誤解です!」

セリアはしばらく二人を見る。
そして――くすりと微笑む。

セリア
「冗談よ」

エリスはほっとする。アルトリアも安心する。
セリアはアルトリアの方を見る。

セリア
「アルトリア」

アルトリア
「はい」

セリア
「父上がお呼びよ」

アルトリア
「陛下が……?」

セリアは頷く。

セリア
「ええ。大事なお話があるそうよ」

アルトリアの表情が引き締まる。

アルトリア
「……分かりました」

エリスは二人を見て小さく微笑む。
セリアは歩き出す。アルトリアもその後を追う。
去っていく二人の背中。

王宮・レオニスの私室前

重厚な扉。
扉の前に立つアルトリアがわずかに緊張している。

アルトリア(心の声)
(国王陛下の……私室)

アルトリアは深呼吸する。

コンコン――

中から声。

レオニス
「入れ」

アルトリア
「失礼します」

アルトリアは扉を開ける。

王宮・レオニスの私室

広い部屋。
だが玉座の間ほどの威圧感はない。

机、書類。王としての重責を感じさせる空間。

レオニスが立っている。
そしてその隣に一人の女性。
白く美しい長髪、穏やかな瞳。
王妃フリア・レグナード。

レオニス
「……来たか」

アルトリアは一礼する。

アルトリア
「お呼びでしょうか?陛下」

レオニスは隣の女性を見る。

レオニス
「こちらは王妃だ」

フリアが一歩前に出る。
優雅な所作。

フリア
「フリアと言います。お噂はかねがね」

その声は柔らかい。

アルトリアは深く頭を下げる。

アルトリア
「アルトリア・フィリアです。お目にかかれて光栄です、王妃殿下」

フリアは優しく微笑む。

フリア
「顔を上げてください」

アルトリアは顔を上げる。
フリアはアルトリアを静かに見つめる。
まるで、何かを確かめるように。
その視線は、レオニスのものと似ている。

短い沈黙。

やがてレオニスが話を切り出す。

レオニス
「……フリア。そなたがここへ来たということは――ユリナのことだろう?」

フリアの表情が曇る。

フリア
「……はい。中々、病が良くならず……原因も、わかりません」

その声には、王妃ではなく母としての苦しみが滲んでいる。
アルトリアはわずかに反応する。

アルトリア
「ユリナ姫……確か、ご容体が優れないとか……」

フリアは頷く。

フリア
「日に日に弱っていくのです。宮廷医師たちも、原因が分からないと……」

フリアの手がわずかに震えている。
レオニスはそれを見て静かに目を伏せる。
王であっても娘を救えない。

重い沈黙。

やがて、レオニスがアルトリアを見る。

レオニス
「アルトリア」

アルトリア
「……はい」

レオニス
「そなたは水源の異変を見抜いた。常人には見えぬものを見た」

レオニスは一歩近づく。

レオニス
「ユリナの病も……見抜けるか?」

静寂。

アルトリアの瞳が揺れる。

アルトリア
「……分かりません。ですが……診なければ、分かりません」

フリアの瞳に、

わずかな希望の光。

フリア
「……お願いします。娘を……見ていただけますか」

王妃ではなく、一人の母としての願い。

アルトリアは静かに頷く。

アルトリア
「……はい」

レオニスの瞳が鋭くなる。

レオニス
「セリアが案内する。ユリナの部屋へ」

アルトリア
「承知しました」

王宮・ユリナの部屋前

静かな廊下。
重い空気。

扉の前に立つセリア、フリア、アルトリア。
フリアの表情には不安が滲んでいる。

セリア
「ここよ……」

フリアがゆっくりと扉を開ける。

ギィ……

ユリナの部屋

薄暗い部屋。
カーテンは半分閉じられ、光は柔らかく差し込んでいる。
部屋の中央に豪華なベッド。
そこに一人の少女が横たわっている。

ユリナ・レグナード。

顔は青白く、呼吸は浅い。
小さな胸がゆっくり上下している。

アルトリアはその姿を見る。

アルトリア(心の声)
(……これが……第3王女……)

フリアがベッドのそばへ行く。

フリア
「ユリナ……」

優しく髪を撫でる。
反応はない。
セリアはアルトリアを見る。

セリア
「これが……今のユリナの状態よ。元気だったころは一緒に戦場で剣をふるっていたけれど、今は……」

アルトリアはゆっくりと近づく。
一歩、また一歩。
ベッドの横に立つ。

アルトリア
「……失礼します」

アルトリアはユリナの顔を見る。

瞳、肌の色、呼吸、すべてを観察する。

アルトリア(心の声)
(呼吸は浅い……だが、不規則ではない。脈は……)

手首に触れる。

アルトリア(心の声)
(弱いが、安定している……)

アルトリアの表情がわずかに変わる。

アルトリア(心の声)
(おかしい……致命的な症状がない……)

セリアが不安そうに尋ねる。

セリア
「……どう?」

アルトリアは答えない。
代わりに周囲を見る。
机、椅子、薬瓶、水差し、窓、光、空気。すべてを観察する。

フリア
「宮廷医師たちも……原因が分からないと……」

アルトリアはゆっくりと窓へ近づく。
外を見る。
空、庭。

アルトリア(心の声)
(環境は正常……)

振り返って再びユリナを見る。

アルトリア(心の声)
(外傷はない……感染症の兆候もない……)

アルトリアの視線があるものに止まる。
ベッドの横の小さなテーブル。
その上にある――水差し。

アルトリアの瞳がわずかに鋭くなる。

アルトリア(心の声)
(……あれは……)

アルトリアはゆっくりと近づく。

セリア
「アルトリア?」

アルトリアは水差しを見る。
そして、再びユリナを見る。

アルトリア(心の声)
(まさか……)

アルトリアは静かに言う。

アルトリア
「……王妃殿下」

フリア
「はい……」

アルトリア
「ユリナ姫が、この状態になったのは……いつ頃からですか?」

フリアは思い出すように目を伏せる。

フリア
「三ヶ月ほど前です……最初は、少し疲れやすくなっただけでした。ですが……徐々に食事も減り……歩くこともできなくなり……」

フリアの声が震える。

フリア
「今では……この状態です……」

アルトリアは静かに頷く。

アルトリア
「……なるほど」

セリア
「何か……分かったの?」

アルトリアは答えない。
代わりに水差しを見つめる。

アルトリア
「ユリナ姫は……毎日、この部屋で過ごしているのですか?」

フリア
「はい……」

アルトリア
「食事も……ここで?」

フリア
「ええ……」

アルトリア
「水も……?」

フリア
「はい……」

アルトリアは目を閉じる。

思考を整理する。

アルトリア(心の声)
(症状は緩やか……急性ではない……だが確実に悪化している……感染症では説明できない……自然の病とも一致しない……)

アルトリアの目が開く。

アルトリア
「宮廷医師は……毒の可能性を調べましたか?」

セリアが驚く。

セリア
「毒……?」

フリア
「はい……調べました。ですが、毒は検出されなかったと……」

アルトリア
「……そうですか」

アルトリアは水差しに近づく。そして手に取る。

セリア
「アルトリア……?」

アルトリアは水差しを観察する。

匂い、透明度、光の反射。

アルトリア(心の声)
(見た目は普通……だが……)

アルトリアは静かに言う。

アルトリア
「宮廷医師の診断は、正しいと思います」

フリア
「え……?」

アルトリア
「急性毒ではありません」

セリア
「急性毒では……ない?」

アルトリア
「はい」

アルトリアは続ける。

アルトリア
「ですが――」

短い沈黙。

アルトリアの蒼い瞳が鋭く光る。

アルトリア
「慢性毒の可能性があります」

セリア
「……!」

フリア
「慢性……毒……?」

アルトリア
「微量の毒を、長期間摂取し続けた場合……検出は極めて困難になります。ですが――」

アルトリアはユリナを見る。

アルトリア
「確実に、体を蝕みます」

セリア
「そ、それはつまり……!」

アルトリアは静かに断言する。

アルトリア
「ユリナ姫は……毒を盛られている可能性があります」

沈黙。

空気が凍る。

フリア
「そ……そんな……」

セリア
「誰が……!」

アルトリア
「……まだ断定はできません。ですが……」

アルトリアは水差しを見る。

アルトリア
「最も可能性が高いのは――水です」

セリア
「水……」

アルトリア
「人間は、毎日必ず摂取します。そして、最も疑われにくい」

アルトリアは続ける。

アルトリア
「毒は……この部屋の中にあります」

フリアが震える。

フリア
「この……部屋に……」

アルトリアは静かに言う。

アルトリア
「はい。そして――犯人は……」

短い沈黙。

アルトリアの言葉が重く落ちる。

アルトリア
「王宮の内部の人間です」

セリア
「……!」

フリア
「そんな……」

賢者は――王宮の闇に触れた。

王宮・中庭

夕暮れの中庭。
空は橙色に染まり、長い影が伸びている。

アルトリアが一人噴水の前に立っている。
動かずただ考えている。

アルトリア(心の声)
(慢性毒……可能性は高い。だが……証拠が足りない)

アルトリアは目を閉じる。
思考の中でユリナの部屋を再現する。
ベッド、窓、机、水差し、侍女、光、空気。

アルトリア(心の声)
(毒があるなら……必ず痕跡がある。どこだ……どこにある……)

その様子を少し離れた場所から見ている者がいる。

セリア・レグナード。

静かに、アルトリアを見つめている。

セリア(心の声)
(あんな顔……まるで……世界に一人しかいないみたい)

アルトリアの横顔は、

孤独そのものだった。

その時――突然背後から大声。

アグニス
「わ~~っ!!!」

アルトリア
「うわあ!!!」

アルトリアが飛び上がる。
完全に不意打ち。
振り返ると、そこには大笑いしているアグニス。

アグニス
「はっはっはっはっ!!いい反応だ!」

アルトリア
「な、何するんですか……!」

胸を押さえ息を整える。

アグニスはニヤニヤしている。

アグニス
「な~んか辛気くせえ顔してっからよ~ちょっと元気づけてやろうと思ってな!」

その時――背後から、低く静かな声。

セリア(笑顔)
「あ~に~う~え~?」

空気が凍る。アグニスの笑顔が固まる。
ゆっくり振り返る。
セリアが、笑顔で立っている。
だがその笑顔は――少し怖い。

アグニス
「うわあ!なんだよいたのかよセリア!」

セリア
「ええ。ずっといました」

アグニス
「……」

一瞬気まずい沈黙。
アグニスが話題を変える。

アグニス
「そ、それより!どうしたんだよ?」

セリアの表情が変わる。真剣な顔。

セリア
「ユリナのことです」

アグニスの表情も変わる。
セリアは説明する。

セリア
「アルトリアは……ユリナの病が、毒の可能性があると言いました」

アグニス
「毒……?」

アグニスの顔から、笑みが消える。

アグニス(頭をかきながら)
「そういやあ……ユリナはいまだに病気でベッドん中だったな~……医者も分からねえって言ってたが……」

アグニスはアルトリアを見る。

アグニス
「なあ。なんか原因は分かったのか?」

アルトリアは少し黙る。
そして、静かに答える。

アルトリア
「……一応の検討は」

セリアとアグニスが息を飲む。

アルトリア
「ですが……確証がありません」

アルトリアは空を見る。

アルトリア
「まだ……足りないんです。決定的な何かが……」

アグニスはアルトリアを見る。
その目は、先ほどまでの軽いものではない。

アグニス
「……そうか。なら――」

アグニスはニヤリと笑う。

アグニス
「見つけろ。お前は賢者なんだろ?」

アルトリアはその言葉を聞く。

セリアも静かに見つめている。
アルトリアの瞳に、光が戻る。

アルトリア(心の声)
(……そうだ。必ずある。真実は……必ず存在する)

その時――後ろから落ち着いた声。

ドルゴン
「アグニス兄上も、セリア姉上もここにいたんですね」

三人が振り返る。
そこに立っていたのは、細身で知的な雰囲気を持つ少年。

ドルゴン・レグナード。

鋭い瞳、冷静な表情。
アグニスが笑う。

アグニス
「お~!ドルゴンじゃねえか!あの強国相手に苦戦しつつも勝ったらしいな!」

ドルゴンは軽く頭を下げる。

ドルゴン
「はい。戦術を振り絞って、何とか勝てました」

アグニス
「はっはっは!さすが俺の弟だ!」

ドルゴンの視線がアルトリアへ向く。観察するような目。
セリアが前に出る。

セリア
「ドルゴン。こちらがアルトリア・フィリア。エルメア平原の干ばつを解決した賢者よ」

ドルゴンの瞳がわずかに輝く。
ドルゴンは一歩前に出る。丁寧に頭を下げる。

ドルゴン
「初めまして。アルトリア殿。僕はレグナス王国の第3王子、ドルゴン・レグナードです」

アルトリアも慌てて頭を下げる。

アルトリア
「アルトリア・フィリアです!」

ドルゴンは続ける。

ドルゴン
「先日のエルメア平原の干ばつの件……本当に、ありがとうございました。あの平原は、王国の命です」

アルトリアは慌てて手を振る。

アルトリア
「やめてください!当然のことをしたまでです!僕は……ただ、見えたものを言っただけです……」

ドルゴンは静かにアルトリアを見る。

ドルゴン(心の声)
(謙虚……だが――この男は、本物だ)

ドルゴンは静かに尋ねる。

ドルゴン
「……ところで。妹の病の原因は……わかりそうですか?」

空気が変わる。
アグニスもセリアもアルトリアを見る。

アルトリアは少し黙る。
そして、静かに話し始める。

アルトリア
「……可能性の話になりますが」

ドルゴン
「構いません」

アルトリア
「ユリナ姫の症状は……急性の病ではありません。緩やかに、しかし確実に弱っています」

ドルゴンは真剣に聞いている。

アルトリア
「これは……慢性的な影響によるものです」

ドルゴン
「慢性……」

アルトリア
「はい」

アルトリアは続ける。

アルトリア
「そして、その原因として最も考えられるのは――」

短い沈黙。

アルトリア
「毒です」

ドルゴンの瞳が鋭くなる。

ドルゴン
「毒……」

ドルゴン
「つまり――誰かが、意図的に?」

アルトリア
「……可能性は高いです。しかも、微量を長期間」

ドルゴンはすぐに理解する。

ドルゴン
「検出されないように……」

アルトリア
「はい」

ドルゴン
「そして、確実に殺すため……」

アルトリア
「はい」

重い現実。
アグニスが拳を握る。

アグニス
「誰だ……誰がユリナにそんなことを……」

アルトリアは静かに言う。

アルトリア
「まだ……断定はできません。ですが犯人は……王宮の内部の人間です」

空気が凍る。
ドルゴンの瞳に怒りと決意。

ドルゴン
「……ならば。必ず見つけ出します」

ドルゴンはアルトリアを見る。

ドルゴン
「アルトリア殿。あなたの知恵を、お借りしたい」

アルトリアは静かに頷く。

アルトリア
「……必ず。真実を見つけます」

王宮・ユリナの部屋前(夜)

廊下は静まり返っている。
窓から月明かりが差し込む。

アルトリアが一人ユリナの部屋の前に立っている。

アルトリア(心の声)
(毒だとすれば……必ず供給源がある。そして、それは――毎日、確実に摂取するもの)

アルトリアは扉を見る。

アルトリア
「……失礼します」

静かに中へ入る。

ユリナの部屋

ユリナは眠っている。侍女は席を外している。
静かな空間。
アルトリアはゆっくりと歩く。
机を見る。薬を見る。食器を見る。
そして――水差し。

アルトリアはそれを手に取り、月明かりに透かす。
透明な水。
異常はないように見える。

だが――アルトリアの視線が水差しの内側に止まる。

アルトリア(心の声)
(……?)

アルトリアはさらに近づけ、目を細める。
ガラスの内側。ごくわずかに――白い粉のような極微細な沈着物。

アルトリアの瞳が見開かれる。

アルトリア
「……これだ」

アルトリアは指で触れないように角度を変えて観察する。

アルトリア(心の声)
(溶解性の毒。完全には溶けない。微量が、内側に残る。長期間使用された証拠)

アルトリアは確信する。

アルトリア
「慢性毒……間違いない」

その時――足音。

セリア
「アルトリア?」

アルトリアが振り返る。セリアが入ってくる。

セリア
「こんな時間にどうしたの?」

アルトリアは水差しを見せる。

アルトリア
「姫様。これを見てください」

セリアは近づく。

セリア
「……何も見えないけど?」

アルトリア
「内側です。よく見てください」

セリアは目を凝らす。
そして――気づく。

セリア
「……これは……」

アルトリア
「沈着物です。毒が溶けた後の残留物」

セリアの顔が青ざめる。

セリア
「本当に……毒だったの……」

アルトリア
「はい」

アルトリアは断言する。

アルトリア
「ユリナ姫様は――毒を盛られていました」

重い沈黙。
セリアの拳が震える。

セリア
「……誰が……」

アルトリアは静かに言う。

アルトリア
「もうすぐ分かります。この水差しを管理している人物を調べれば――犯人は特定できます」

セリアはアルトリアを見る。
その瞳に確信と信頼。

セリア
「……すごいわ」

アルトリア
「……いいえ。毒は……必ず痕跡を残します。真実も……同じです」

翌朝 ユリナの部屋

部屋には、レオニス、フリア、セリア、ガイナス、アグニス、エリス、ドルゴン、ルーク、侍女リリア、そしてアルトリアがいる。

重苦しい沈黙。

アルトリアが一歩前に出る。

アルトリア
「ユリナ姫の病の正体は――毒です」

全員が息を呑む。

フリア
「毒……」

ガイナス
「やはり……」

レオニス
「……続けよ」

アルトリアは静かに言う。

アルトリア
「ユリナ姫の水差しの内側に、毒の沈着物が確認されました。毒は長期間、少量ずつ投与されています。つまり――」

アルトリアは振り向く。
その視線の先にいるのは、リリア。

アルトリア
「ユリナ姫の水を日常的に管理できる人物。ただ一人……リリア様」

空気が凍る。

セリア
「……リリア?」

リリア
「な、何を……」

アルトリア
「リリア様。ユリナ姫の水の管理は、あなたの担当ですね」

リリアの顔から血の気が引く。

リリア
「……はい……ですが……」

アルトリア
「毒は、水差しの内側に微量残っていました。これは毎日使用していた証拠です。そして水差しに触れられるのは――あなたしかいない」

沈黙。
リリアの手が震える。

ドルゴン
「……まさか……」

リリア
「ち、違います……私は……」

アルトリアは静かに続ける。

アルトリア
「リリア様。あなたの出身は――ヴェルナ国」

リリアの瞳が見開かれる。

リリア
「……!」

アルトリア
「征服された国の一つ。違いますか?」

沈黙。
リリアの肩が震える。

リリア
「……そうよ……そうよ!!!!」

リリアが叫ぶ。

リリア
「父は殺された!!母は奴隷として連れて行かれた!!全部……全部……この国のせいよ!!!!」

セリア
「リリア……」

リリア
「私は見てきた……泣き叫ぶ子供を……絶望する人々を……全部……あなたたちのせい!!」

涙が溢れる。
レオニスが一歩前に出る。

レオニス
「……ならばなぜ私を殺さなかった?」

リリアが顔を上げる。

レオニス
「そなたの国の征服を計画したのは私だ。私を殺せばよかっただろう?」

重い言葉。

リリアは震えながら答える。

リリア
「……できなかった……」

レオニス
「なぜだ?」

リリア
「……ユリナ姫様は……」

涙が溢れる。

リリア
「あの方は……違った……」

回想――

ユリナがリリアに微笑む。

ユリナ「ありがとう、リリア。あなたがいてくれて嬉しいわ」

回想終わり。

リリア
「優しかった……私を……奴隷じゃなく……人として見てくれた……」

涙が床に落ちる。

リリア
「だから……殺せなかった……でも……憎しみは消えなかった……だから……苦しませようとした……」

全員が言葉を失う。

静寂。

アルトリアが口を開く。

アルトリア
「あなたは――本当は復讐したかったのではない」

リリアが顔を上げる。

アルトリア
「復讐しなければ自分を保てなかった」

リリアの瞳から涙が溢れる。
リリアは崩れ落ちる。

リリア
「……ごめんなさい……」

リリア
「姫様……」

レオニスが目を閉じる。

レオニス
「……ルーク」

ルーク
「はっ」

レオニス
「リリアを拘束せよ」

ルーク
「……御意」

ルークが優しく手を取る。
リリアは抵抗せず連れて行かれる。

沈黙。
レオニスがアルトリアを見る。

レオニス
「……アルトリア」

アルトリア
「……はい」

レオニス
「よくぞ見抜いた。そなたの知恵が王族の命を救った」

レオニスの瞳は確信に満ちている。

レオニス
「アルトリア。そなたはこの国に必要な存在だ」

セリアがアルトリアを見る。
その瞳には誇りと、そして――特別な想い。

王宮・薬師の間

室内には数人の薬師たち。
机の上には、薬草、蒸留器具、調合器具。
その中央にアルトリアが立っている。

薬師長
「本当にこれで解毒剤になるのですか?」

アルトリア
「はい。ユリナ姫様に使われていた毒は、神経と血流を緩やかに阻害するものです」

アルトリアは続ける。

アルトリア
「幸い、致死量ではありません。この“リュネ草”と“アルバ根”を組み合わせれば、中和できます」

薬師長
「……しかし、この組み合わせは前例が……」

アルトリア
「毒の構造を分析すれば導き出せます」

アルトリアは静かに言う。

アルトリア
「理屈は、嘘をつきません」

薬師長は深く頭を下げる。

薬師長
「……すぐに調合に取り掛かります」

薬師たちが作業を開始する。

セリアが後ろで見守っている。

セリア(小声で)
「本当に……すごいのね……」

アルトリア
「……え?」

セリア
「何でもないわ。」

セリアは微笑む。

王宮・ユリナの部屋(数日後)

ユリナがベッドに横たわっている。

アルトリアが薬を差し出す。

フリア
「……本当に、これで……」

アルトリア
「はい。毒は中和されます」

フリアは震える手で薬を受け取る。

フリア
「ユリナ……」

フリアがユリナに薬を飲ませる。
全員が見守る。

セリア
「……お願い……」

沈黙。
時間が流れる。

ユリナの指が、わずかに動く。

セリア
「……!」

フリア
「ユリナ……?」

ユリナの瞳がゆっくりと開く。

ユリナ
「……母……上……?」

フリア
「ユリナ!!!!」

フリアがユリナを抱きしめる。

フリア
「ユリナ……ユリナ……!」

涙が溢れる。
セリアも涙を流している。

セリア
「よかった……」

レオニスも静かに目を閉じる。

レオニス
「……奇跡だ……」

ルーク
「……いいえ」

ルークはアルトリアを見る。

ルーク
「賢者の力です」

全員の視線がアルトリアに集まる。
アルトリアは少し困った顔をする。

アルトリア
「……僕は……当然のことをしただけです」

ユリナがアルトリアを見る。

ユリナ
「……あなたが……助けてくれたのですか?」

アルトリア
「……はい」

ユリナは微笑む。

ユリナ
「ありがとう……」

アルトリアの目が少し見開かれる。

そして1カ月ほどすると、ユリナは自分の足で歩けるようになった
まだ少しぎこちないが、中庭を自分の足で歩いている。

フリア
「ユリナ……!」

フリアが涙ぐむ。

セリア
「もう……歩けるのね……」

ユリナ
「ええ。まだ少し疲れるけど……」

ユリナは微笑む。

ユリナ
「でも……大丈夫」

レオニスも来る。

レオニス
「……よく戻ってきた……」

ユリナ
「父上……」

レオニスは静かに頷く。
アルトリアは少し離れた場所から見ている。
セリアが隣に来る。

セリア
「……ありがとう」

アルトリア
「え?」

セリア
「妹を……救ってくれて」

アルトリア
「……僕一人ではありません。薬師の方々も、皆が力を尽くしました」

セリアは優しく微笑む。

セリア
「それでも――あなたがいなければ、救えなかった」

アルトリアは少し照れる。

アルトリア
「……そう言われると……少し……嬉しいです」

セリア
「ふふ」

セリアはアルトリアを見る。
その瞳には、確かな想い。

王宮・玉座の間(宮廷賢者任命式)

荘厳な空間。
赤い絨毯が一直線に伸びている。

両側には騎士団が整列。
中央に――アルトリアが立っている。
玉座にはレオニス。その横にはフリア。
その周囲に、ガイナス、セリア、アグニス、エリス、ドルゴン、ユリナが並んでいる。

重厚な沈黙。

レオニスが立ち上がる。

レオニス
「アルトリア・フィリア」

アルトリア
「は、はい!」

アルトリアは緊張している。

レオニス
「そなたはその知恵をもって、我が娘ユリナの命を救った。それはすなわち――王族のみならず、王国の未来を救ったということ」

全員が静かに聞いている。

レオニス
「よって、ここに宣言する」

レオニスの声が響く。

レオニス
「アルトリア・フィリアを――レグナス王国 宮廷賢者に任命する!」

騎士団が一斉に剣を打ち鳴らす。

ガイナス
「見事だ、アルトリア」

アグニス
「はっはっは!すげえじゃねえか!」

エリス
「おめでとうございます……!」

ドルゴン
「あなたは僕の誇りです」

ユリナ
「アルトリア様……!」

フリア
「本当に……ありがとう……」

セリアは微笑んでいる。
レオニスがアルトリアに杖を差し出す。
銀と蒼で装飾された賢者の杖。

レオニス
「これが宮廷賢者の証だ」

アルトリアは震える手で受け取る。

アルトリア
「……僕が……宮廷賢者……」

アルトリアは深く頭を下げる。

アルトリア
「この命、レグナス王国のために捧げます」

騎士団
「おおおおおお!!」

セリア(心の声)
(アルトリア……)

セリアの瞳には誇りと想い。

王都・アルトリアの新居前(後日)

王都の静かな区画。
アルトリアが地図を見ながら歩いている。

アルトリア
「陛下から言われた場所ってこのあたりだよな~……え~っと……ここを右に曲がって~……」

アルトリアは角を曲がる。
そして――止まる。
目の前にあるのは、広大な屋敷。

アルトリア
「……え?……え?……ええええええええええええええええええええっ!?」

門を開けて中へ入る。
広い庭、畑、果樹、そして――プール。

アルトリア
「……は?プール……?なんで……?」

アルトリアは屋敷へ走って扉を開ける。
そこには――壁一面の本棚。
ぎっしり詰まった本。
古代書、魔導書、歴史書、戦術書、未読の知識の宝庫。

アルトリアの目が輝く。

アルトリア
「……」

次の瞬間。

アルトリア(踊りながら)
「ん~うっほっほ~い!うっほっほ~い!うっほっほっほほほ~い♪」

アルトリアは本棚へ走る。
本を抱きしめる。

アルトリア
「本……!全部……読める……!夢みたいだ……!」

アルトリアはその場でくるくる回る。

アルトリア
「うっほっほ~い!」

その様子を、窓の外から誰かが見ている。
セリアだ。

セリア(小声で)
「……ふふ。本当に……変わった人」

セリアは優しく微笑む。

セリア(心の声)
(でも――この国を救うのは、きっとこの人)

アルトリアはまだはしゃいでいる。

アルトリア
「うっほっほ~い!」

若き賢者は王国の中枢へと迎えられた。
だが王国の闇はまだ深い。
これは――大国を救う賢者の物語。

第2話 完

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