宮廷賢者アルトリア 第14話「王都の民」
第14話「王都の民」
廊下
昼下がり。
長い廊下をアルトリアがゆっくり歩いていた。
アルトリアは腕を組み、どこか考え込んでいる。
アルトリア(心の声)
(ベルナード連合……マラリカとユーラスは互いに疑心暗鬼。ベスティナは……アントニウス公爵の影響下。このままだと――)
アルトリアは歩きながらさらに考え込む。
アルトリア(心の声)
(いずれ南方は戦乱になるかもしれない。その時レグナスは――)
アルトリアは考えに没頭している。そのため、周囲の視線にはまったく気づいていない。
廊下の端で数人の侍女たちがアルトリアを見る。
侍女A
「ねえ……」
侍女B
「ええ」
侍女C
「やっぱり素敵……」
侍女たちはアルトリアをうっとりした目で見ている。
侍女A
「宮廷賢者様って本当に綺麗な顔よね……」
侍女B
「しかも天才なんでしょう?」
侍女C
「まだ19歳なのに……」
侍女A
「しかもフィリア家のご子息……」
侍女B
「噂では王女様とも仲が――」
侍女たちはひそひそ話をしている。しかしアルトリアは全く気づいていない。
アルトリア(心の声)
(レグナスが介入するなら外交か……それとも――)
アルトリアは完全に思考の世界に入っている。
その様子をセリアは腕を組み、少し離れた場所からジト目でアルトリアと侍女たちを見ている。
セリア(心の声)
(……あの人、また気づいてない)
侍女たちはまだアルトリアを見ている。
侍女B
「歩いてるだけで絵になるわね……」
侍女C
「話しかけてみたい……」
セリアの目がさらに細くなる。
セリア(心の声)
(……へえ。そう)
セリアはゆっくりアルトリアの方へ歩き出した。
セリア(心の声)
(ちょっと教育が必要ね)
セリアはアルトリアに近づき、後ろから声がかかる。
セリア
「アルトリア」
アルトリアは振り向く。
アルトリア
「?」
そして目の前に立っている人物を見て少し驚く。
アルトリア
「なぜ姫様が?」
セリアは無表情でどこか不機嫌そうだ。
セリア
「ちょっと来なさい」
アルトリア
「え?」
セリアはアルトリアの手をつかむ。
アルトリア
「えっ、姫様?」
セリア
「いいから」
そのままアルトリアの手を引き、歩き出す。
アルトリア
「ちょ、ちょっと待ってください!いったい何が――」
セリアは振り返らない。
セリア
「黙ってついてきなさい」
アルトリアは戸惑いながら引っ張られていく。
廊下にいた侍女たちはその様子を見てざわめく。
侍女A
「えっ……」
侍女B
「手……」
侍女C
「つないでる……?」
侍女たちは目を丸くしている。
セリアの部屋
扉が勢いよく開く。
バン!!
セリアはアルトリアをそのまま部屋へ引き込む。そして扉を閉める。
バタン!!
アルトリア
「い、いったいどうしたんですか姫様?」
セリアは腕を組み、アルトリアをじーっと見ている。
セリア
「……アルトリア」
アルトリア
「はい?」
セリア
「さっき……」
少し沈黙。
セリア
「……随分人気だったじゃない」
アルトリア
「?」
アルトリアは本当に意味がわからない顔。
アルトリア
「何のことです?」
セリアの眉がぴくっと動く。
セリア
「……は?」
部屋の空気が少し危険になり始めていた。
セリア
「……アルトリア」
アルトリア
「はい?」
セリアは少し不機嫌そうに言う。
セリア
「宮廷賢者で前宰相の息子……おまけにそのきれいな顔立ち……」
少し間。
セリア
「モテ要素満載じゃない」
アルトリアはきょとんとしている。
アルトリア
「?そうですか?」
セリアの眉がぴくっと動く。
セリア
「……は?」
アルトリアは本当に意味が分かっていない。
アルトリア
「いや、私は別に……そんなつもりは……」
セリアはさらにジト目になる。
セリア
「つもりとかの問題じゃないの。自覚がないのが一番厄介なのよ」
アルトリア
「?」
アルトリアは完全に困惑している。
アルトリア
「えっと……つまり何の話でしょう?」
セリア
「……」
セリアは額を押さえる。
セリア
「あなたね……さっき廊下で侍女たちがどんな顔であなたを見てたか、本当に気づいてないの?」
アルトリアは少し考える。
アルトリア
「……?気づいてません」
セリア
「でしょうね!!」
その様子を扉の外から王太子ガイナスがこっそり見ていた。ガイナスは腕を組みながら小さく笑う。
ガイナス(心の声)
(完全に嫉妬だな)
ガイナスは面白そうに様子を見ている。
セリア
「とにかく!少しは自覚を持ちなさい!」
アルトリア
「自覚?」
セリア
「そうよ!」
アルトリアは真面目な顔で考える。
アルトリア
「……外交の話でしょうか?」
セリア
「違うわ!!」
ガイナスは思わず吹き出す。
ガイナス(心の声)
(あいつ……天然すぎるだろ)
アグニスの部屋
広い部屋の中央で、アグニスが腕を組みながらウロウロしている。
アグニス
「うーん……」
アグニスは立ち止まり、真剣な顔になる。
アグニス
「……ティアナへのプロポーズはどんな感じにしようかな〜」
アグニスは両腕を広げ、空想を始める。
アグニス
「ティアナ……俺と結婚してくれ!」
少し考える。
アグニス
「いや、待て……それじゃ普通すぎるか?」
アグニスはまた歩き始める。
アグニス
「ティアナ!俺はお前を一生守る!」
少し考える。
アグニス
「……うーんなんか重いな」
アグニスは頭を抱える。
アグニス
「じゃあ……ティアナ!俺と一緒にこの国を守ろう!」
少し沈黙。
アグニス
「……いや、なんか演説みたいだな」
アグニスは再び歩き回る。
アグニス
「くそ……なんて言えばいいんだ……」
しばらく悩んだあと、突然叫ぶ。
アグニス
「うわああああ!!わけわかんなくなってきたぜ〜〜!!」
アグニスはソファにどさっと倒れ込む。
その様子を扉の外からこっそり見ているガイナス。
ガイナスは腕を組み苦笑している。
ガイナス(心の声)
(こいつもこいつで大変そうだ)
ガイナスは小さくため息をつく。
ガイナス(心の声)
(セリアは嫉妬……アグニスは恋で暴走)
ガイナスは空を見上げる。
ガイナス(心の声)
(この王家……平和だな)
そのとき、部屋の中からまた叫び声が聞こえる。
アグニス
「いや待て!!剣を渡してプロポーズとかどうだ!?」
ガイナスは静かにその場を去る。
ガイナス(心の声)
(……あいつ絶対失敗するな)
中庭
王城の中庭には花が咲き、穏やかな風が吹いている。
石畳の道を、イルハレムとエリスが並んで歩いている。2人の間には静かな空気。
イルハレムはどこか少し緊張している。エリスはそっとイルハレムの横顔を見る。
エリス(心の声)
(真面目な人。いつもアルトリア様を支えていて……)
イルハレムは政治の話をしている。
イルハレム
「ベルナード連合の情勢ですが、しばらくは内紛が続きそうです」
エリスは微笑む。
エリス
「本当に政治の話が好きなのね」
イルハレムは少し慌てる。
イルハレム
「す、すみません!つい……」
エリスは小さく笑う。
エリス
「いいの。あなたらしいわ」
エリスはもう一度イルハレムの横顔を見る。
エリス(心の声)
(真面目で優しくて少し不器用)
エリスは少しだけ頬を赤くする。
同じころ レオニスの部屋
レオニスは少し照れくさそうに、フリアに箱を差し出す。
レオニス
「……これを」
フリア
「あら?」
フリアは箱を受け取る。中を開けると美しい装飾品が入っていた。
フリア
「まあ……」
レオニス
「そなたに……似合うと思って買ってきた」
フリアは驚いた表情になる。
フリア
「あらあなた。記念日はまだ先のはずなのに」
レオニスは少し視線を逸らす。
レオニス
「……そなたには」
少し間。
レオニス
「苦労をかけてきたからな」
フリアは優しく微笑む。
フリア
「あなた……」
フリアは装飾品をそっと手に取る。
フリア
「でも、私は幸せよ」
レオニス
「……」
フリアはレオニスを見る。
フリア
「あなたと一緒にこの国を見てきたのだから」
レオニスは静かに笑う。
王城の中ではそれぞれの場所で、それぞれの想いが静かに流れていた。
数日後 アルトリアの屋敷
窓から柔らかな陽光が差し込む中、アルトリアは椅子に座り、分厚い本を読んでいた。
机の上には政治書、地図、書類が広がっている。
しかしアルトリアは、本を読みながらもどこか考え込んでいた。
アルトリア(心の声)
(ベルナード連合……マラリカとユーラスは互いに疑心暗鬼。ベスティナはアントニウス様の影響下)
アルトリアはページをめくる。
アルトリア(心の声)
(このままいけばベルナードは荒れる。その時レグナスはどう動くべきか……)
そのとき、扉がノックされる。
コンコン
召使い
「アルトリア様」
アルトリア
「?」
召使い
「お客様がお見えです」
アルトリア
「お客様?」
召使い
「セリア姫様でございます」
アルトリアは少し驚く。
アルトリア
「姫様が?」
アルトリアは立ち上がる。
屋敷 応接室
扉が開く。
そこにはセリアが窓からの光を背に立っている。
アルトリア
「姫様」
セリアは軽く微笑む。
セリア
「突然ごめんなさい」
アルトリア
「いえ。それで、今日はどうされたのですか?」
セリアは少し考えてから言う。
セリア
「あなたと見に行きたいと思って」
アルトリア
「?」
アルトリアは首をかしげる。
セリア
「王都の様子を」
アルトリア
「……王都の様子ですか?」
セリアはゆっくり頷く。
セリア
「ええ。あなた、政治のことばかり考えているでしょう?」
アルトリアは少し苦笑する。
アルトリア
「……否定できませんね」
セリアは静かに言う。
セリア
「だから一度見たほうがいい。この国の民の暮らしを」
アルトリアは少し考え込む。
アルトリア
「……なるほど」
アルトリアは本を閉じる。
アルトリア
「わかりました。行きましょう」
セリアは少し嬉しそうに微笑む。
セリア
「ありがとう」
2人は王都レグナリアへ向かうことになる。
王都レグナリア 大通り
昼の大通り。市場や露店が並び、人々の声で賑わっている。
商人、旅人、職人、子供たち、多くの民が行き交っている。その中を、アルトリアとセリアが並んで歩いている。
アルトリアは周囲を見渡しながら静かに街を観察している。
セリアがアルトリアに尋ねる。
セリア
「改めてどう?王都レグナリアは?」
アルトリアはしばらく街を見回す。
アルトリア
「……そうですね」
少し考えてから答える。
アルトリア
「ゆっくり見る時間がありませんでしたが、今こうして見てみると、昔住んでいた頃より華やかになりました」
セリア
「でしょう?」
セリアは少し誇らしそうに微笑む。
通りの広場で踊り子たちが舞を披露している。華やかな衣装に軽やかな踊り。
周囲の人々が歓声を上げている。
アルトリアはその様子を見て、思わず足を止める。
アルトリア
「……」
アルトリアは踊り子たちを見ながら静かに言う。
アルトリア
「……本当に華やかに」
その瞬間――隣から強烈な視線。
アルトリアが振り向く。そこには――鬼の形相のセリア。
セリア
「……」
アルトリア
「……」
アルトリアの顔が一瞬で固まる。
アルトリア
「ひっ……」
セリアはジーーーっとアルトリアを睨んでいる。
セリア
「……楽しそうね」
アルトリア
「い、いや……」
アルトリアは慌てて弁解する。
アルトリア
「違います!私はただ王都の文化を観察していただけで――」
セリア
「へぇ」
アルトリア
「……」
セリアの目がさらに細くなる。
セリア
「踊り子の“文化”を?」
アルトリア
「……」
アルトリアは完全に固まる。
アルトリア
「……すみません」
セリア
「謝る理由がわかってるならいいわ」
アルトリアは小さく頷く。
アルトリア
「はい……」
セリアはふっと表情を戻す。
セリア
「ほら行くわよ」
アルトリア
「は、はい!」
2人は再び歩き出す。しかし、アルトリアの顔はまだ少し青ざめていた。
王都レグナリア 街中
大通りから少し外れた通り。市場の喧騒から離れ、落ち着いた雰囲気の街並み。
アルトリアとセリアはゆっくりと街を歩いている。
屋台、パン屋、仕立て屋、人々が穏やかに暮らしている。
そのとき――通りの向こうから幼い兄弟が走ってくる。
兄
「ほら、早く来いよ!」
弟
「待ってよ兄ちゃん!」
弟が転びそうになり、兄がすぐ手を引く。
兄
「気をつけろよ」
弟
「うん!」
2人は笑いながらまた走っていく。
アルトリアはその様子を見て、ふと足を止める。
セリア
「?」
セリアがアルトリアを見る。
セリア
「どうしたの?」
アルトリアは遠ざかる兄弟の背中を見ている。
アルトリア(心の声)
(……兄弟……か)
アルトリアの目に少し影が落ちる。
アルトリア(心の声)
(シャルル兄上……ハンス兄上……)
ほんの一瞬、過去の記憶がよぎる。
セリアはその表情の変化に気づく。
セリア
「……アルトリア?」
アルトリアははっとして表情を戻す。
アルトリア
「いえ。何でもありません」
セリアは少しだけ優しく言う。
セリア
「……そう」
2人は再び歩き出す。
王都の街には子供たちの笑い声が響いている。
アルトリアは空を見上げる。
アルトリア(心の声)
(兄上たちが生きていたら、今のレグナスをどう見ただろう)
王都レグナリア 貧民街
王都の中心から少し離れた場所。通りの雰囲気が徐々に変わっていく。
石畳は崩れ、建物も古く、人通りも少ない。
アルトリアとセリアは静かに歩いている。
やがて――2人は王都の貧民街へ入る。そこには粗末な服を着た人々に壁にもたれて座る老人、空腹そうな子供もいる。
痩せた母親が小さなパンを子供に分けている。
子供
「お母さんは食べないの?」
母親
「私はいいの。あなたが食べなさい」
アルトリアはその光景を見て足を止める。
アルトリア
「……」
アルトリアの表情が硬くなる。
アルトリア
「王都で……こんなことが……」
セリアは静かにその様子を見ている。そしてゆっくり口を開く。
セリア
「……これがこの国の現状」
アルトリアは黙って聞いている。
セリア
「レグナスは、長い戦いの中で多くの土地を手に入れた」
少し間。
セリア
「でも、国土を広げすぎた。その結果――」
セリアは貧民街を見渡す。
セリア
「貧富の差がこんなにも開いてしまった」
アルトリアは言葉を失っている。
セリア
「宮殿では豪華な宴が開かれている。でも……」
セリアの声が少し震える。
セリア
「同じ王都で……食べ物に困る人がいる」
セリアの目に涙が浮かぶ。
セリア
「……これが私たちが治めている国」
アルトリアはその言葉を静かに受け止めていた。
アルトリアはしばらく黙っていたが、ふと近くの屋台を見る。小さなパン屋。
アルトリアはそこへ歩いていく。
パン屋
「いらっしゃい」
アルトリア
「パンを……」
アルトリアは少し考える。
アルトリア
「あるだけください」
パン屋は驚く。
パン屋
「え?」
アルトリア
「全部です」
セリアが横に立つ。
セリア
「私も出すわ」
アルトリア
「いえ、姫様。これは私が」
パン屋は慌ててパンを袋に入れる。
パン屋
「こんなに買う人は久しぶりだ……」
アルトリアは袋を受け取る。
アルトリア
「ありがとうございます」
アルトリアは先ほどの親子のところへ歩いていく。
母親
「……?」
アルトリアはしゃがみ込む。そして袋からパンを取り出す。
アルトリア
「どうぞ」
母親
「いいんですか?」
アルトリア
「ええ」
母親
「ありがとうございます……!」
アルトリアは子供にもパンを分け与える。
アルトリア
「食べろ」
子供は驚く。
子供
「……いいの?」
アルトリア
「うん。たくさんあるよ」
子供は恐る恐るパンを受け取る。一口食べる。すると表情が明るくなる。
子供
「おいしい!」
母親
「そうね」
親子は嬉しそうに食べ始める。
その様子を、少し離れた場所からセリアが見ている。
セリアの目に涙が浮かぶ。
セリア
「……アルトリア」
アルトリアは静かに子供たちを見ている。
アルトリア
「……」
夕暮れの光の中で親子の笑顔が広がっていた。
アルトリアは静かに空を見上げる。
アルトリア(心の声)
(この国を変えなければならない)
貧民街に小さな笑顔が広がっていた。
王都レグナリア 丘の上
夕暮れ。王都を見下ろす小さな丘。
空は橙色に染まり、王都レグナリアの街並みが一望できる。
アルトリアとセリアは並んで王都を眺めている。
しばらく沈黙。
そのとき――セリアが自然にアルトリアの肩に寄り添う。
アルトリアは突然のことに驚く。
アルトリア
「ひ……姫様……?」
アルトリアの顔が少し赤くなる。
セリアは静かに王都を見つめたまま言う。
セリア
「……しばらく」
少し間。
セリア
「こうさせて?」
アルトリアは緊張して固まる。
アルトリア
「は、はい……」
アルトリアは少しぎこちなく立っている。
しかし、セリアは穏やかな表情で王都を眺めている。
セリア
「今日見たでしょう?」
アルトリア
「……はい」
セリア
「華やかな街も貧しい街も」
アルトリアは静かに頷く。
アルトリア
「……この国は大きすぎるのかもしれません」
セリアは小さく微笑む。
セリア
「それでも守らないといけない」
アルトリア
「はい」
夕日が王都を照らしている。しばらく2人は黙って街を見ている。
セリア
「……アルトリア」
アルトリア
「はい」
セリアは少しだけ、アルトリアの肩に体重を預ける。
セリア
「この国を、一緒に変えていきましょう」
アルトリアは少し驚く。しかし、すぐに静かに頷く。
アルトリア
「……はい」
夕日が沈む。王都レグナリアの灯りが1つずつ灯り始める。
アルトリアとセリアは並んで街を眺めている。
しばらく静かな時間。
そのとき――丘の下の道を歩いてくる人影。セリアが目を細める。
セリア
「……?……あれは」
アルトリアも視線を向ける。
セリア
「アグニス兄上と……」
少し間。
セリア
「侍女長のティアナ?」
アルトリア
「?本当ですね」
丘の道を歩いてくるのは、アグニスとティアナだった。
アグニスはどこか落ち着かない様子で歩いている。ティアナは穏やかな表情で隣を歩いている。
セリアはアルトリアの袖を引く。
セリア
「……ちょっと」
アルトリア
「?」
セリアは木の陰へ移動する。
セリア
「ここから様子を見ましょう」
アルトリア
「え?」
アルトリアは少し戸惑う。
アルトリア
「それは……」
セリア
「いいから」
アルトリア
「……はい」
2人は丘の木陰からアグニスとティアナを見守る。
アルトリア(小声)
「何をしているのでしょう?」
セリア(小声)
「……多分」
セリアは少しニヤリと笑う。
セリア(小声)
「プロポーズよ」
アルトリア
「!」
アルトリアは驚く。
アルトリア(小声)
「ここでですか?」
セリア(小声)
「兄上ならやりそう」
2人は静かに様子を見守る。
アルトリア(小声)
「本当にプロポーズでしょうか……?」
セリア(小声)
「兄上、ここ数日ずっと様子がおかしかったもの」
アルトリア
「そうなのですか?」
セリア
「ええ。廊下でブツブツ独り言を言ってたわ」
アルトリア
「それは怪しいですね」
丘の中央でアグニスが急に立ち止まる。ティアナが振り向く。
ティアナ
「どうされました?」
アグニス
「いや……その……」
アグニスは明らかに緊張している。
アルトリア(小声)
「かなり緊張されていますね」
セリア(小声)
「兄上、こういう時は弱いのよ」
アグニスは深呼吸する。
アグニス
「ティアナ」
ティアナ
「はい」
アグニスはしばらく言葉に詰まる。
アグニス
「俺は……その……昔からお前には世話になってきた」
ティアナは静かに聞いている。
アグニス
「お前はいつも真面目で、俺がどんな時でも支えてくれた」
アグニスは拳を握る。
セリア(小声)
「いい感じじゃない」
アルトリア(小声)
「順調ですね」
アグニスはついに言う。
アグニス
「ティアナ!」
ティアナ
「はい」
アグニス
「俺と」
少し間。
アグニス
「結婚してくれ!」
丘の上に静寂が落ちる。
アルトリア
「……!」
セリア
「……!」
2人は思わず息を呑む。
ティアナは少し驚いた表情になる。しかしすぐに優しく微笑む。
ティアナ
「……はい」
アグニス
「え?」
ティアナ
「お受けします」
アグニスはしばらく固まる。
アグニス
「ほ、本当か!?」
ティアナ
「はい」
ティアナは少し照れながら言う。
ティアナ
「実は私も……王子様のことを、ずっとお慕いしておりました」
アグニスは思わず笑う。
アグニス
「よっしゃああああ!!」
セリア
「……」
アルトリア
「……」
2人は顔を見合わせる。
アルトリア
「成功しましたね」
セリア
「ええ」
セリアは少し微笑む。
セリア
「兄上も幸せそうね」
アルトリア
「はい」
夕暮れの丘。王都レグナリアを見下ろす場所で、新しい未来が静かに始まっていた。
第14話 完
