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宮廷賢者アルトリア 第7話「イルカン侵攻!アルトリアの決断」

第7話「イルカン侵攻!アルトリアの決断」

国境要塞アクトニア

イルカンの軍隊がレグナスの軍と交戦している。
軍を率いているのは王太子、ハリス・イルコス。

ハリス
「攻撃せよ~!レグナスのやつらに我らの力を思い知らせてやれ~!!」

前線ではハリスの弟のグラーズとパトルクが敵をなぎ倒していた。

グラーズ
「ハッハッハッハ!こんなものか!大陸最強国の兵士たちの力は!!」

パトルク(槍をふるいながら)
「敵ではありませんな。兵士ごときは」

グラーズ
「さすがの槍術よのパトルク。俺も負けておれぬわ。皆の者!ついてこい!!」

パトルク
「レグナスのやつらを皆殺しにしろ~!!」

ハリスは敵を倒しながらその様子を叔父で四天王第一将、バルダと見ていた。

ハリス
「叔父上。我が弟たちが張り切っております」

バルダ
「そのようだな。だがそれはほかの四天王も一緒だ」

バルダはほかの四天王たちに目を向ける。

ジャック(敵をなぎ倒しながら)
「ここだ~!皆ここをたたけ~!!」

バルダ
「相変わらずジャックは勘が鋭いな」

バルダはフリードとアイゼルのほうを見る。

フリード(斧をふるいながら)
「ぶちかませぇえ!!」

フリードが斧で敵をなぎ払う。
アイゼルも適格に矢を敵めがけて打ち込む。

アイゼル
「一斉射撃だ。打て」

矢の雨が降り、レグナスの軍は前に進めない。

ハリス
「ハッハッハッハ!四天王たちも活躍をしている……!にしてもさすが軍事要塞アクトニア、聞いていた通りの守りの固さだ」

ハリスは全軍に号令をかける。

ハリス
「だがここまで見せつけてやればレオニス王も我が軍に恐れおののくはずだ!!全ぐ~ん!!!攻撃せよ~~!!!」

軍事要塞アクトニアは大混戦になっていた。

王城 玉座の間

重厚な扉の奥。

普段は荘厳で静寂に包まれている玉座の間が、
今は異様な緊張に満ちていた。

玉座の間中央。

黄金の玉座に座るレグナス王国国王、レオニス

その両側には――完全武装した王族。

王太子ガイナス。
第二王子アグニス。
第三王子ドルゴン。

第一王女セリア。
第二王女エリス。
第三王女ユリナ。

さらに――王国最強戦力。
レグナス六軍将。

第一将
ロウラル・レグナード

第二将
ルーク・ヴァルディス

第三将
バージル・マルコス

第四将
アレス・デュラント

第五将
ロイド・ニクソン

第六将
リーナ・レイソル

王族や武人たちが武装している。
それは――戦争を意味していた。

重い沈黙。

その中で、テイラルが一歩前に出て、跪く。

テイラル
「……面目ありません、陛下」

声は震えていた。

テイラル
「私の外交が行き届かず……このような事態を招いてしまいました……」

彼は深く頭を下げる。玉座の間に重苦しい空気が漂う。
しかし――レオニスは静かに言う。

レオニス
「いや……こうなることは……予想していた」

テイラルが顔を上げる。

テイラル
「……陛下」

レオニスの眼は、遠くを見ていた。

レオニス
「イルカンは……いずれ必ず牙を剥く。それが今だった……それだけのことだ」

その言葉には、王としての覚悟が込められていた。

その時――玉座の間の大扉が開く。

ギィィィ……

全員の視線が扉へ向く。

アルトリアがゆっくりと歩いて入ってくる。
そして――玉座の間に集う面々を見る。
六軍将、王族、王。
王国のすべての中枢が、ここに集まっている。

アルトリア(心の声)
(……六軍将が全員……王族も……これは……国家総動員体制……)

玉座の上からレオニスが口を開く。

レオニス
「……来たか、アルトリア」

アルトリアは玉座の前まで歩き、静かに跪く。

アルトリア
「お呼びと伺い、参上いたしました」

一瞬の沈黙。

アルトリアは顔を上げ、まっすぐ王を見る。

アルトリア
「……本当にイルカン王国が侵攻してきたのですか?」

その問いに、ロウラルが一歩前に出る。

ロウラル
「事実だ」

低く、重い声。

ロウラル
「本日未明、国境要塞アクトニアにてイルカン軍との交戦が確認された」

玉座の間の空気がさらに重くなる。
ロイドが続ける。

ロイド
「敵兵力は推定12万。指揮官は……」

一瞬、間を置く。

ロイド
「ハリス・イルコス王太子」

その名を聞いた瞬間、六軍将の何人かの表情がわずかに変わる。
セリアも唇を噛む。

セリア
「……ハリス……」

アルトリアは静かに目を閉じる。
そして――開く。

アルトリア
「……そうですか」

その眼に浮かんでいたのは、恐怖ではなく――分析。
レオニスが言う。

レオニス
「アルトリア、そなたの知恵を借りたい」

玉座の間にいる全員の視線が、アルトリアへと集中する。
王国の命運が今、一人の若き賢者に委ねられようとしていた――

王国の中枢全員の視線が
アルトリアへと集まっている。

レオニス
「アルトリア、この戦争……どう見る」

静寂。

アルトリアは目を閉じる。
そして――開く。
その蒼い瞳には、すでに答えがあった。

アルトリア
「……陛下、この戦争は――」

一拍。

アルトリア
「止められます」

玉座の間が凍り付く。

ロバート
「な……!?」

バージル
「……何だと……?」

ロイドの眼が鋭く光る。

ロイド
「……根拠は?」

アルトリアは一歩前へ出る。

アルトリア
「まず、侵攻の規模です。敵兵力は12万。これは征服戦争としては少なすぎます」

アレスが眉をひそめる。

アレス
「少ないだと?」

アルトリア
「はい。レグナスを本気で滅ぼすなら、最低でも30万は必要です」

ガイナス
「……半分以下ということか?」

アルトリア
「はい」

アルトリアは続ける。

アルトリア
「そして侵攻地点、国境要塞アクトニア。ここは防衛が極めて強固な拠点です」

ロイドが頷く。

ロイド
「……確かに」

アルトリア
「つまり敵は勝つつもりで攻めているのではなく、見せるために攻めている」

ロウラル
「……見せる?」

アルトリア
「はい。力を。そして覚悟を」

レオニスが静かに目を細める。

アルトリア
「これは征服戦争ではありません。交渉戦争です」

ロイドがわずかに微笑む。

ロイド
「……なるほど」

アレス
「どういうことだ」

アルトリア
「イルカン王国はレグナスを完全に敵に回す覚悟があることを示している。つまり――」

アルトリアは断言する。

アルトリア
「まだ交渉の余地があります」

沈黙。

全員が理解し始める。

レオニス
「……それでどうする」

アルトリアは迷わず答える。

アルトリア
「私が――」

一歩前へ出る。

アルトリア
「イルカン王国の王都に行き、ジョルジュ王と直接交渉してまいります」

空気が凍結する。

セリア
「……え?」

ユリナ
「アルトリア様……?」

アレス
「正気か貴様!?」

ロウラル
「敵地のど真ん中だ!生きて戻れないかもしれんぞ!?」

アルトリアは微動だにしない。

アルトリア
「はい。承知しております」

セリアがアルトリアのもとへ駆け寄る。
そして――彼の胸元を掴む。

セリア
「ダメ……ダメ……」

震えている。

セリア(アルトリアを見上げながら)
「あなたは……この国の希望なのよ……?」

アルトリアは静かに彼女を見る。何も言わない。その沈黙が、決意を物語っていた。
テイラルが前に出る。

テイラル
「待て……!それなら私が行く!若いそなたが行く必要はない!」

アグニス
「テイラル殿!いけません!あなたが死ねばティアナが悲しみます!」

テイラル
「……もとはと言えば私の外交の失敗が原因。最後まで責任を取らせてくだされ」

今度は、ガイナスが前に出る。

ガイナス
「それなら私が行きます!王国の跡継ぎとして責務を果たしたいのです!」

セリア
「兄上!?」

ロバート
「なりませぬ殿下!娘を悲しませるおつもりですか!?」

ガイナス
「ですが義父上……!」

玉座の間が混乱する。
その時――レオニスが立ち上がる。

レオニス
「静まれ!」

その一言だけで、全員が沈黙する。
王の威厳。
レオニスはアルトリアを見つめる。

レオニス
「アルトリア。なぜそなたなのだ?なぜそなたでなければならない?」

玉座の間の全員がアルトリアを見る。
アルトリアは静かに答える。

アルトリア
「理由は三つあります。第一に、私は賢者です。武人でも外交官でもない。だからこそ、敵は警戒しながらも話を聞かざるを得ない」

アルトリアは続ける。

アルトリア
「第二に、私は戦争を望んでいない。それは相手にも伝わります」

そして――

アルトリア
「そして第三に、私なら勝てるからです」

沈黙。

圧倒的な自信。
それは慢心ではなく――確信だった。

セリア
「アルトリア……」

レオニスはしばらく沈黙し――ゆっくりと玉座から立ち上がる。
その動作だけで、空気が張り詰める。
王の決断の瞬間。
レオニスはアルトリアを真っ直ぐ見つめる。

レオニス
「アルトリア・フィリア、そなたの進言――」

一拍。

レオニス
「許可する」

玉座の間がざわめく。

セリア
「父上……!」

アレス
「陛下!?」

ロウラルは目を閉じるが、反論はしない。
レオニスは続ける。

レオニス
「だが、そなたを単身で敵地へ行かせるわけにもいくまい」

視線が六軍将へ向く。

レオニス
「ロイド」

ロイドが一歩前へ出る。

ロイド
「は」

レオニス
「リーナ」

リーナもで前に出る。

リーナ
「は」

レオニス
「そなたたちはアルトリアの護衛につけ」

ロイドは冷静に一礼。

ロイド
「御意」

リーナは静かにアルトリアを見る。

リーナ
「……命に代えても守ります」

レオニス
「それと、騎士団から精鋭を数名選抜せよ」

ルークが胸に拳を当てる。

ルーク
「直ちに」

バージルも頷く。

レオニス
「これは戦ではない。外交である。だが、戦より危険だ」

ロウラルが前へ出る。

ロウラル
「兄上。もしもの場合は――」

レオニス
「承知している。イルカンが賢者を害すれば……全面戦争だ」

玉座の間に重い緊張が走る。
それは“アルトリアは王国の象徴”という暗黙の宣言。
セリアが一歩前へ出る。

セリア
「父上……」

レオニスは娘を見る。

レオニス
「セリア。お前は王女だ。感情よりも国家を見よ」

セリアの瞳が揺れる。

セリア
「……はい」

だが視線はアルトリアから離れない。
ロイドがアルトリアに近づく。

ロイド
「どうやら、国家最高難易度の任務になりましたね」

アルトリアは微笑む。

アルトリア
「頼りにしています」

リーナがアルトリアに近づいて言う。

リーナ
「死ぬ気でお守りします。あなたはまだ死ぬには早い」

アルトリア
「死ぬ予定はありませんよ」

わずかな笑いが場に生まれる。
だが緊張は消えない。

レオニスが最後に告げる。

レオニス
「アルトリア、レグナス王国の名のもとに命じる。戦争を止めてこい」

アルトリアは跪く。

アルトリア
「……御意」

セリアは小さく呟く。

セリア(心の声)
(お願い……無事に帰ってきて……)

玉座の間に響く王の声。

レオニス
「出立は三日後!準備を整えよ!」

扉の外で戦鼓が鳴る。

戦争は始まっている。
だが――若き賢者は剣ではなく言葉で戦場へ向かう。

王城 回廊

ロイドとリーナが並んで歩いている。
遠くで軍備の指示が飛び交う声が響く。

リーナがぽつりと呟く。

リーナ
「……大丈夫でしょうか?」

ロイドは視線を前に向けたまま。

リーナ
「あの若い賢者は」

ロイドはわずかに目を細める。

ロイド
「……俺が騎士になりたての頃、当時の宰相は智謀にあふれた大賢者だった」

リーナが視線を向ける。

リーナ
「……バーンズ・フィリア様」

ロイドは小さく頷く。

ロイド
「あの青年の目はその方と同じだった」

リーナは静かに息を吐く。

リーナ
「……なるほど。だから陛下は迷わなかったのですね」

ロイド
「王は見抜いている。我々は守ればいい」

リーナの瞳が静かに鋭くなる。

リーナ
「……命に代えても」

ロイド
「当然だ」

二人は歩みを止める。

ロイド
「だが覚えておけ。今回の戦場は剣ではない」

リーナ
「……言葉」

ロイド
「ああ。賢者の戦だ」

王城 執務室

アルトリアの執務室。
机の上には地図、報告書、戦況資料。

イルハレムが立ち上がる。

イルハレム
「本当なんですか!?従兄上がイルカンの王都に!?」

ダイムは落ち着いた声で答える。

ダイム
「ああ、本当だ。陛下の許可も下りた」

イルハレム
「そんな……」

ジェームズも不安そうに立っている。
その時――扉が開く。
アルトリアが入ってくる。

ジェームズ
「……アルトリア様」

アルトリアは微笑む。

アルトリア
「話は聞いたかな?」

ジェームズ
「本当にイルカンの王都まで行くのですか?」

アルトリア
「ああ。三日後に出発する」

沈黙。

イルハレムが一歩前に出る。

イルハレム
「僕も行きます」

ダイム
「私も行きます」

ジェームズ
「私もです」

アルトリアは少し困ったように笑う。

アルトリア
「ダメだ……」

三人の顔が曇る。
アルトリアは続ける。

アルトリア
「……って言いたいけど、僕がそう言っても君たちはついてくるんだろ?」

三人が顔を見合わせる。

ジェームズ
「……はい」

イルハレム
「当然です」

ダイム
「止められても行きます」

アルトリアは小さく息を吐く。

アルトリア
「はは……困った部下たちだ」

イルハレム
「従兄上を一人で行かせるわけにはいきません」

ジェームズ
「私はまだ未熟です。ですが、未熟なままではいられません」

ダイム
「それに、この目であのジョルジュ王を拝めるいい機会ですから」

アルトリアは三人を見渡す。その瞳は優しい。

アルトリア
「……今回の旅は命の保証がない。それでも行くか?」

三人は迷わない。

三人
「はい」

静かな覚悟。
アルトリアはゆっくり頷く。

アルトリア
「……分かった。ただし勝手な行動は禁止。僕の指示に絶対従うこと」

三人
「はい!」

アルトリアは地図を見る。

アルトリア
「では、イルカン王国王都への道を確認しよう」

その背中は、もう少年ではなかった。
若き賢者は、敵国の王都という戦場へ向かう。
剣ではなく言葉を武器に。

イルカン王国 国境陣営・王子の陣幕

夜。
篝火が赤く揺れる。

遠くでは兵士たちの歓声と酒宴の音。
戦場特有の、血と鉄と酒の匂い。

豪華な軍幕の中。
円卓を囲む三人の王子。

杯が打ち鳴らされる。

パトルク
「いやあ、今日も派手にやりましたね〜兄上」

笑いながら酒をあおる。

パトルク
「レグナスの連中、慌てふためいていましたよ」

ハリスは静かに杯を傾ける。

ハリス
「ああ。だが、あれは挨拶だ。明日はもっと派手にやるとしよう」

静かな笑み。

ハリス
「我々の力を思い知らせる」

戦術家の眼。計算された余裕。

グラーズは黙って酒を飲んでいる。
そして、低く笑う。

グラーズ
「ええ……楽しみです」

ハリス
「何がだ?」

グラーズは口元を歪める。

グラーズ
「あの女がどんな顔をするか」

パトルクがにやりと笑う。

パトルク
「グラーズ兄上は、相当セリア姫に興味がおありのようですね」

グラーズは静かに手を伸ばす。
眼帯をゆっくりと外す。
露わになる左目――傷跡が走る、閉ざされた瞼。

グラーズ
「あいつは、俺のこの左目を奪った」

炎が揺れる。
グラーズの横顔が赤く染まる。

グラーズ
「三年前のことだ。国境の丘でやつと一騎打ちになった――」

回想

若き日のセリア。
白銀の髪をなびかせ、剣を構える。
若きグラーズもまた剣を振るう。

激しい剣撃。火花。

セリアの一閃。
グラーズの悲鳴。

目から血が出る。

回想が終わる。

グラーズは低く笑う。

グラーズ
「この三年間、あの顔を忘れたことはなかった」

パトルク
「復讐、ですか?」

グラーズ
「いや……興味だ。片目を奪われてもなお、俺はあいつを斬れなかった」

ハリスが静かに口を開く。

ハリス
「お前は迷った」

グラーズ
「……ああ、美しかった」

沈黙。

ハリスは酒を置く。

ハリス
「いくらでも機会はある。この戦争が終わるまでにな」

グラーズは口角を上げる。

グラーズ
「ええ。次は……奪ってやりますよ」

パトルクが笑う。

パトルク
「兄上たちは物騒ですねえ。私はただ、強い敵と槍を交えたいだけですよ」

ハリスは静かに立ち上がる。

ハリス
「遊びは終わりだ。明日、第二陣を出す。六軍将のやつらを引きずり出す。四天王たちも戦いたがっているからな」

三人の視線が交わる。
炎が強く燃え上がる。

ハリス
「戦争は始まった」

グラーズ
「そして、まだ始まりに過ぎない」

パトルク
「さあ、兄上たち。レグナスを揺らしましょう」

軍幕の外。
遠くの夜空に赤い火の粉が舞い上がる。

王城 庭園(夜)

月明かりが静かに庭園を照らしている。
風が優しく木々を揺らす。
その中に――セリアが立っていた。
銀の長髪が夜風に揺れる。

彼女はじっと空を見ている。
だが、その瞳は何も見ていない。

セリア(心の声)
(イルカン王都……敵国のど真ん中……殺されるかもしれない……)

彼女の手が、無意識に胸元を握る。

セリア(心の声)
(どうして……どうしてあなたは……)

セリアの瞳が揺れる。

セリア
「……馬鹿」

小さな声。

セリア
「あなたが死んだら……」

言葉が止まる。言えない。
王女としてではなく、一人の女性としての想い。

セリア
「……帰ってきて」

その声は、夜風に溶けていった。

王城 回廊

エリスが歩いている。
その表情は穏やかだが、どこか落ち着かない。
その時、侍女が慌てて近づいてくる。

侍女
「姫様!」

エリス
「どうしたの?」

侍女
「その……」

侍女は言いづらそうにする。

侍女
「イルハレム様も、アルトリア様と共にイルカン王都へ向かわれるそうです」

沈黙。

一瞬、時間が止まる。

エリス
「……え?」

侍女
「同行者として……」

侍女の言葉は続くが、エリスの耳には届いていない。

エリス
「……うそ」

力が抜け、膝が崩れる。

エリス
「……っ」

その場に崩れ落ちる。

侍女
「姫様!?」

侍女が慌てて支える。
エリスの瞳が震えている。

エリス
「どうして……どうして……死ぬかもしれないのに……」

涙がこぼれる。

エリス
「どうして……」

侍女
「姫様……」

エリスは胸を押さえる。

エリス(心の声)
(嫌……嫌……失いたくない……)

初めて気づいた。彼の存在の大きさに。

エリス
「イルハレム……」

夜の王城。
その中で――賢者は敵国へ向かう準備をし、王女たちは眠れぬ夜を過ごしていた。
戦争は剣だけでなく、心も引き裂いていく。

出発前日 王城 宮廷賢者執務室(夜)

窓の外には静かな王都の灯り。
だが室内には、静かな緊張が満ちていた。

机の上には――地図、書簡、封印された王命書、そして荷物。
アルトリアが革袋に書物を入れている。
その背後で――イルハレム、ジェームズ、ダイムの三人もそれぞれ荷造りをしている。

アルトリアは荷造りを終え、三人を見る。

アルトリア
「……それじゃあ明日、出立前にここに集合だ」

イルハレム
「はい!」

ジェームズ
「はい!」

ダイム
「はい!」

三人の返事は力強い。
アルトリアは少し微笑む。

アルトリア
「明日向かう場所は王都だけど、安全な場所じゃない」

三人に近づく。

アルトリア
「戦場と似た場所に飛び込むことになる」

沈黙。

三人の表情が引き締まる。

アルトリア
「でも、六軍将のうちのお二人、ロイド将軍とリーナ将軍が護衛についてくれる」

ジェームズ
「六軍将が……」

イルハレム
「それほど危険だということですね……」

ダイム
「……望むところです」

アルトリアは三人をまっすぐ見る。

アルトリア
「改めて約束してほしい。絶対に勝手な行動はしないこと」

三人
「はい!」

アルトリアは静かに頷く。

アルトリア
「みんなで」

一拍。

アルトリア
「生きてこの国に帰ろう」

沈黙。

その言葉は命令ではなく、願いだった。

イルハレム
「もちろんです。従兄上を一人で帰すわけにはいきません」

ジェームズ
「私はアルトリア様の賢者としての戦いを、最後まで見届けます」

ダイム
「死ぬ気はありません。勝つために行きます」

アルトリアは微笑む。

アルトリア
「頼もしいね」

アルトリアは空を見る。

アルトリア(心の声)
(待っていてください。必ず――戦争を止めます)

王城 回廊(夜)

アルトリアが一人、歩いている。
足音だけが静かに響く。

アルトリア(心の声)
(明日には、この王城を離れる。戻れる保証はない。だけど――)

その時、後ろから声がする。

セリア
「アルトリア」

アルトリアが振り返る。
そこには――銀の髪を揺らすセリア。

アルトリア
「姫様」

セリアはゆっくり近づく。

セリア
「……本当に行くのね」

アルトリア
「はい」

セリア
「怖くないの?」

アルトリアは少し考え、正直に答える。

アルトリア
「……怖いです」

セリアの瞳が揺れる。

アルトリア
「死ぬかもしれない。失敗するかもしれない。何もできずに終わるかもしれない」

セリア
「それなら――」

アルトリアは続ける。

アルトリア
「でも、それ以上に戦争で人が死ぬ方が怖い」

沈黙。

セリアは俯く。

セリア
「……あなたは、どうしてそんなに優しいの?」

アルトリアは微笑む。

アルトリア
「優しくなんてありません。ただ守りたいものがあるだけです」

セリア
「守りたい……もの?」

アルトリア
「この国も、人々も」

そして――一瞬間を置く。

アルトリア
「……あなたも」

セリアの瞳が大きく揺れる。
言葉が出ない。

セリア
「……っ」

セリアは顔を背ける。
だが涙は見せない。王女の誇り。

セリア
「……絶対に帰ってきなさい」

アルトリア
「はい」

セリア
「これは王女としての命令よ」

アルトリアは微笑む。

アルトリア
「……御意」

二人はしばらく、何も言わずに立っていた。
月明かりの下で。

別の回廊(同時刻)

イルハレムが歩いている。
その表情はいつもと同じように明るい。
だが、どこか緊張している。

後ろから声。

エリス
「イルハレム」

イルハレムが振り返る。

イルハレム
「姫様」

エリスはゆっくり近づく。

エリス
「……本当に行くの?」

イルハレム
「はい」

迷いのない答え。
エリスの手がわずかに震える。

エリス
「どうしてあなたまで?」

イルハレムは優しく微笑む。

イルハレム
「従兄上は一人で全部背負おうとする人です。だから僕が支えたい」

エリス
「でも、死ぬかもしれないのよ……?」

イルハレムは少し驚いたような顔をする。
そして、優しく答える。

イルハレム
「死にませんよ」

エリス
「どうして」

イルハレム
「帰ってこないと」

一拍。

イルハレム
「また姫様に会えませんから」

エリスの瞳が揺れる。

エリス
「……イルハレム」

イルハレムは頭を下げる。

イルハレム
「必ず帰ってきます。約束します」

エリスは何かを言おうとして――言えない。
代わりに小さく言う。

エリス
「……待ってる」

イルハレムは微笑む。

イルハレム
「はい」

二人は見つめ合う。

王城正門(翌朝)

空は重く曇っている。
戦争の緊張が、王都全体を包んでいる。
城壁の上では兵が行き交い、遠くでは軍鼓が鳴っている。

王城正門前。
アルトリア、イルハレム、ジェームズ、ダイムが旅装束で登場する。
だがその目は、覚悟を宿している。

その前に――王族総出。

レオニス
フリア
ガイナス
マリエル
アグニス
セリア
エリス
ドルゴン
ユリナ

そして六軍将の――

ロイド
リーナ

王城門前に、重々しい空気が流れる。

レオニスが前に出る。

レオニス
「アルトリア、無事に任務を果たせ」

アルトリアは深く一礼。

アルトリア
「はい」

アグニスが腕を組み、豪快に笑う。

アグニス
「向こうで怖くなって泣くんじゃねえぞ〜」

ガイナス
「おい」

アグニス
「冗談だよ、冗談」

だがその目には心配がある。
ガイナスが静かに言う。

ガイナス
「必ず戻れ。国家の宝だ」

アルトリア
「ありがとうございます」

ドルゴンが拳を握る。

ドルゴン
「アルトリア殿の知略、必ず通じます」

ユリナは祈るように胸元を握っている。

ユリナ
「どうか……ご無事で」

その時、セリアがアルトリアの前へ出る。
二人の距離が近い。
セリアは小さな布袋を差し出す。

セリア
「これ」

アルトリア
「……?」

セリア
「守り石よ。王家に代々伝わるもの」

アルトリアは受け取る。

セリア
「必ず帰ってくると誓いなさい」

アルトリアは静かに頷く。

アルトリア
「誓います」

二人の視線が絡む。
言葉以上の想い。

エリスがイルハレムの前へ出る。
少し震えた手で、小さな銀のブローチを差し出す。

エリス
「これを」

イルハレム
「これは……?」

エリス
「王家の紋章……お守りよ」

イルハレムは驚く。

イルハレム
「こんな大事なものを……失くしたら許さないわ」

イルハレムは微笑む。

イルハレム
「失くしません。必ず持って帰ります」

エリスの瞳が揺れる。

エリス
「……待ってる」

イルハレム
「はい」

静かな誓い。
その時――リーナが前へ出る。

リーナ
「そろそろ出発のお時間です」

ロイドも頷く。

ロイド
「行きましょう」

アルトリアは最後に王城を見る。この国を、守るべきものを。
そして馬車に乗る。イルハレム、ジェームズ、ダイムも続く。
ロイドとリーナは馬車の前に位置する。

レオニスが声を上げる。

レオニス
「行け!」

門が開く。
若き賢者とその仲間たちが、王城を出る。
セリアはその背を見つめる。

セリア(心の声)
(帰ってきて)

エリスも同じく見つめる。

エリス(心の声)
(お願い……)

馬の蹄の音が遠ざかる。戦争の中敵国へ。
だが、その背中には王国の希望があった。

第7話 完

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