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半神の少女 第5話「海神の子」

第5話「海神の子」

神宮寺家・リビング

夜。落ち着いた室内。佳織と康弘が向かい合って座っている。
佳織は少し真剣な表情で話している。

佳織
「――つまり、その刈谷大悟って子は、ハデスとペルセポネの息子で仲間になってくれることになったの」

康弘は腕を組み、ゆっくりとうなずく。

康弘
「なるほどな……つまりその子は、“純粋な神の子”というわけか」

佳織
「うん」

康弘
「……人間との間に生まれた半神ではないのに、人間として生まれた、か」

康弘は視線を落とす。

康弘
「不思議なこともあるものだな……」

夜の街

夜。街灯だけが照らす静かな道。大悟が一人で歩いている。
そのとき――空気が変わる。
温度が下がり、周囲が静まり返る。背後に“気配”。
大悟は立ち止まる。

大悟
「……誰だ?」

ゆっくり振り向く。

そこには黒いオーラをまとった男――ハデスが立っている。

ハデス
「久しいな、大悟」

大悟
「……あ?」

ハデス
「私は冥府の神、ハデス」

ハデスはわずかに微笑む。

ハデス
「大きくなったな。父は嬉しいぞ」

沈黙

大悟の目が見開かれる。

大悟
「……は……?あんたが、俺の親父?」

次の瞬間、大悟が地面を蹴る。

大悟
「ふざけんなああああ!!」

大悟が全力の拳を振り抜く。
しかし――ハデスの身体は黒い炎となって消え、拳は空を切る。

大悟
「……っ!?」

背後から声。

ハデス
「相変わらず、血気盛んだな」

振り返ると、ハデスはすでに後ろに立っている。

大悟
「……チッ!」

再び殴りかかる。しかしまたもすり抜ける。
大悟は叫ぶ。

大悟
「だったら答えろよ!!なんで俺を捨てた!!」

怒りと悲しみが混じる声。

大悟
「なんで俺は一人で生きてきたんだよ!!」

ハデスは静かに語る。

ハデス
「……お前は本来、神として生まれるはずだった。だが――何らかの力によって歪められ、人間としてこの世に落とされた」

大悟
「……は?」

ハデス
「我々ですら、原因は完全には把握していない」

大悟の表情が歪む。

大悟
「……だからなんだよ!人間として生まれたから捨てたってのか!?神様ってのは、ずいぶん都合いいよなぁ!!」

大悟が再び殴りかかるが、ハデスはまた消え、背後へ。

ハデス
「……捨ててはいない」

大悟
「嘘つけ!!」

ハデス
「守るために、干渉しなかったのだ。お前に手を出せば、ゼウスが気づく。そうなれば――お前は確実に消されていた」

大悟
「……だったら……」

声が少し弱くなる。

大悟
「一度くらい……顔くらい見せろよ……」

ハデスはゆっくり近づく。

ハデス
「……すまなかった」

初めての謝罪。

ハデス
「だが――これからは違う。お前はもう一人ではない。佳織と共に行け」

大悟
「……は?」

ハデス
「お前は“特異点”だ」

黒い炎が揺らぐ。

ハデス
「神でも人でもない存在」

ハデスの身体がゆっくりと炎に溶けていく。

ハデス
「……また会おう、大悟」

ハデスは消える。
大悟はその場に立ち尽くす。

大悟
「……なんなんだよ……」

大悟は空を見上げる。

大悟
「……くそが……」

拳を強く握る。

翌朝 隅田川

佳織・蓮・月菜・大悟の4人が川沿いに立っている。
少し空気は静か。

大悟がポケットに手を突っ込みながら話す。

大悟
「……昨日、親父に会った」

佳織
「えっ……そうなの?」

大悟
「ああ。いきなり現れてよ――お前と一緒に行け、だとさ」

佳織は少し驚きつつも、すぐに納得した表情になる。

佳織
「そっか……」

佳織はふっと笑う。

佳織
「それならちょうどいいかも」

大悟
「は?」

佳織がスマホを取り出す。

佳織
「実はね、もう一人“いとこ”を探してるの」

大悟
「……もう一人?」

画面を見せる。そこには――サーフィンをしている少年の写真。

大悟は目を見開く。

大悟
「……おい、こいつ噂の高校生サーファーじゃねえか。テレビでも見たことあるぞ。なんでこいつ探してんだよ?」

佳織
「彼は……海の神ポセイドンの息子」

大悟
「……は?」

佳織
「つまり、私や君のいとこだよ」

大悟
「はあああっ!!??」

大悟が思いきり叫ぶ。

大悟
「どんだけいんだよ神様の子どもは!!」

蓮がため息まじりに言う。


「……まあ、驚くのも無理はない」

月菜が静かに補足。

月菜
「母から聞いた話ですが、橋本海斗さんは現在、横浜でお母様と二人暮らしをしているそうです」

佳織
「横浜……」

佳織がまっすぐ前を見る。

佳織
「じゃあ決まりだね」

佳織
「会いに行こう」

大悟
「……はあ、また面倒なのに関わるのかよ」


「お前も来るんだろ?」

大悟
「……チッ、仕方ねえな」

月菜
「行動は早いほうがいいでしょう」

その瞬間――川の水面がわずかに揺れる。
低く、響く声が周囲に広がる。

謎の声
「――おお、私の息子と会ってくれるのか」

4人
「!?」

次の瞬間――

ドォン!!

隅田川の水が大きく割れ、巨大な水柱が立ち上がる。
その中心から現れる影。
水しぶきをまとい、三叉の矛を持つ男――ポセイドンが姿を現す。

ポセイドン
「我が名は――海の神、ポセイドン」

佳織
「……ええええええ!!??」

大悟
「……はああああ!!??」


「……こんな場所に直接……」

月菜
「……想定外です……」

ポセイドンはゆっくりと佳織を見る。

ポセイドン
「……お前が、ヘスティアの娘――佳織か」

ポセイドンが少し目を細めて優しい顔になる。

ポセイドン
「ようやく会えたな――我が姪よ」

佳織は一歩前に出るが、少し困惑気味。

佳織
「え~っと……ポセイドン叔父さん……なんで海の神様が川から出てきてるの?」

ポセイドンは腕を組み、当然のように言う。

ポセイドン
「うむ。どうしてもお前に会いたくなってな、横浜から東京湾を渡り、この隅田川まで遡ってきた」

佳織(心の声)
(さすがは海の神様……スケールが違う……)

大悟
「いやいやいや、“ちょっと来た”みたいに言うなよ……」


「……普通はやらない移動だな」

月菜
「物理法則の概念が違いますね……」

佳織は真剣な表情になる。

佳織
「叔父さん」

ぐっと拳を握る。

佳織
「私ね――ママに会いたいの!」

佳織はポセイドンをまっすぐ見つめる。

佳織
「それとオリンポスに行って……ゼウス叔父さんに一言、文句言ってやりたい!だから――そのために叔父さんの息子の力が必要なの!」

ポセイドンは静かに目を閉じる。

ポセイドン
「……母に会いたい、か」

ポセイドンはゆっくりと目を開く。

ポセイドン
「ハデスから聞いていた通りだ」

ポセイドン
「――まっすぐな子だな」

ポセイドンの口元がわずかに緩む。
ポセイドンが視線を横に移すと大悟と目が合う。

ポセイドン
「……そういえば、お前はハデスの息子だったな?」

大悟
「……それがなんだよ」

ポセイドンは興味深そうに観察する。

ポセイドン
「いい面構えだ。暴れていたと聞いたが……今はどこか、人情味がある」

大悟
「……は?んなもんねえよ」

大悟が顔を逸らす。

ポセイドンは再び佳織に向き直る。

ポセイドン
「ハデスは言っていたな。半神を集めろ、と。何人だ?」

佳織
「……ざっと10人くらいって、ざっくり言われた」

ポセイドン
「……ふむ。あのバカらしいな」


(“あのバカ”ってハデスのことか……?)

月菜
(神同士でも容赦ない……)

ポセイドンの表情が一瞬だけ変わる。

ポセイドン(小さく)
「……だが、数としてはあながち間違っていない」

佳織
「え?」

ポセイドン
「いや、気にするな」

東京湾の海中

静かな海。青い光が揺れる。
その中に立つのは――トリトン。
トリトンは腕を組み、上を見上げる。

トリトン
「……父上……遅いな……」

(少し苛立ち)

トリトン
「まさか……また“気まぐれ”で動いているのでは……」

トリトンは周りを見渡す。

トリトン
「……それにしても……やはりジンベエザメはいないか」

休日 横浜・みなとみらい

天気は快晴。海風が吹く。観覧車、海、近代的な街並み。
佳織たち4人が駅から歩いてくる。
佳織が目を輝かせて走り出す。

佳織
「うお~~~~っ!!」

佳織は両手を広げる。

佳織
「すご~~~~い!!!これが横浜!!」

月菜は落ち着いた様子で周囲を見る。

月菜
「東京とはまた違う華やかさがありますね」

月菜は観覧車を見上げる。

月菜
「観光地として整備されている印象です」

蓮は腕を組みながら分析的に。


「さすが日本屈指の港湾都市だな。歴史と近代がうまく融合してる」

大悟は別方向に目を輝かせる。

大悟
「なあなあ!中華街行こうぜ!!肉まんとか食いてえ!!」

佳織
「いいね!行きたい!」

月菜
「確かに気になりますね」


「……てかさ」

蓮が全員を見渡す。


「……俺たち観光に来たわけじゃなかったよな?」

一瞬、沈黙。

佳織
「……あ」

月菜
「……そうでした」

大悟
「……あー……」

佳織がスマホを取り出す。

佳織
「ポセイドン叔父さんの話だと――」

佳織が地図を見せる。

佳織
「海斗君が住んでるのは、八景島の近くらしいね」


「……海の近くだな」

月菜
「海神の息子なら当然ですが……」

大悟
「……なんか、ちょっと嫌な感じするな」

佳織が振り返る。

佳織
「よし!行こう、八景島へ!」

大悟
「その後、中華街な!!」


「行かねえよ」

月菜
「ふふ……」

4人は歩き出す。

八景島

海風が吹く。観光客で賑わう八景島を佳織たち4人が歩いている。
佳織が周囲を見渡す。

佳織
「海斗君は……どこだろう?」


「有名人だ、すぐ見つかると思ったんだがな」

月菜
「人が多いですね……少し探しづらいです」

大悟
「おい、あっちの売店気になるんだけど」


「却下だ」

4人で歩き回るが見つからない。

大悟
「……いねえな」

月菜
「海にいる可能性もありますが……」


「いや、それでも――」

佳織がふと足を止める。目の前には広がる海。

佳織
「……きれい」

少し見惚れる。
佳織はスマホを取り出す。

カシャッ――

背後から、顔がぬっと近づく。

海斗
「ねえ君」

佳織
「!?」

海斗
「海、写してるの?」

佳織
「え?あ、いや……人探ししててついでに――」

佳織が振り向き、目を見開きながら言う。

佳織
「って……いたああああっ!!」

佳織の声に3人が戻ってくる。


「どうした佳織――」

蓮が海斗を見て固まる。


「……は……橋本……海斗……」

海斗は軽く手を振る。

海斗
「ん?お~俺のこと知ってんのか~」

佳織が少し慌てながら前に出る。

佳織
「えっと……!私、東京都から来た神宮寺佳織です!」

海斗は一瞬きょとんとする。
そして――ハッとする。

海斗
「……あー」

海斗が指を鳴らす。

海斗
「その名前、聞き覚えあるわ」

そしてニヤッと笑う。

海斗
「父さんが言ってた“半神のいとこ”って君だったのか~!」

海斗がぐっと顔を近づける。

佳織
「え、えっ……!?」

海斗はじーっと見つめる。

海斗
「へえ~よく見ると君、かわいいね~」

佳織
「ええっ!?」

佳織の顔が赤くなる。
蓮の額に青筋。


「……あいつ……いきなり佳織を口説きやがって……!」

月菜がなだめる。

月菜
「蓮君、落ち着いてください……まだ何も始まっていません」

大悟はニヤニヤしながら腕を組む。

大悟
「お~お~面白くなってきたじゃねえか」

海斗は気にせず続ける。

海斗
「で?わざわざ東京から来たってことはさ、俺に用事があるんだろ?」

海斗が楽しそうに笑う。

佳織と海斗が向かい合う。
少し距離は近い。

佳織は真剣な表情になる。

佳織
「あのね――私、ママに会いたいの」

海斗は軽く首を傾げる。

海斗
「ふーん」

佳織(強い目)
「それと――オリンポスに行ってゼウス叔父さんに文句を言ってやりたい」

海斗は少し笑う。

海斗
「へえ~ずいぶんデカいこと言うじゃん」

佳織
「ハデス叔父さんに、ママに会う方法は教えてもらった。でもその前に半神を集めろって言われてるの」

佳織はまっすぐ海斗を見つめる。

佳織
「だから……海斗君の力、貸してほしい」

風が吹く。波の音だけが響く。
蓮・月菜・大悟が後ろで見守る。

蓮(小声)
「……どう出る」

月菜
「性格的には……読めませんね」

大悟
「断るタイプじゃねえ気はするけどな」

海斗
「いいよ」

佳織
「……え?」


「……は?」

月菜
「……え?」

大悟
「……はやっ!?」

海斗は笑いながら肩をすくめる。

海斗
「面白そうじゃん、それ」

海斗
「神様に文句言いに行くとかさ」

海斗がニヤッとする。

海斗
「退屈しなさそうだし」

海斗が佳織の目を見て言う。

海斗
「それに――君、嘘ついてないし」

佳織
「……!」

海斗
「そういうの、嫌いじゃない」

海斗が手を差し出す。

海斗
「よろしくな、佳織ちゃん」

佳織
「……うん!」

2人は手を取る。


「……軽すぎるだろ……」

月菜
「ですが……戦力としては大きいですね」

大悟
「いいじゃねえか、ノリいいやつは嫌いじゃねえ」

少し離れた高所でレムスが腕を組み、静かに見ている。

レムス
「……へえ~」

レムスの口元が歪む。

レムス
「面白くなりそうじゃん」

蓮も月菜も大悟も海斗に自己紹介を済ませる。
そのとき――

謎の声
「……ふむ。無事に会えたようだな」

海の中から声が聞こえる。

佳織
「……え?」

次の瞬間――

ドォン!!

海が割れ、巨大な水柱が立ち上がる。
その中心から現れる――ポセイドン。

佳織
「うわっ!!ポセイドン叔父さん!?」

海斗が呆れた顔で前に出る。

海斗
「いや父さん。毎回その登場の仕方ビビるからやめてくれよ……」

ポセイドンは腕を組み、堂々と答える。

ポセイドン
「何を言う。こちらのほうが神の威厳が出るだろう?」

佳織が小声で言う。

佳織
「……まあハデス叔父さんに比べれば、まだ分かりやすいかも……」

月菜
「影から顔の上半分だけ出ていた時のことがトラウマです……」

ポセイドンは海斗を見る。

ポセイドン
「どうだ?その娘と行く気になったか?」

海斗は軽く笑う。

海斗
「うん、もう決めた。面白そうだしな」

ポセイドンは満足そうに頷く。

ポセイドン
「そうか。ならば好きに生きよ。それがお前の中の“海”だ」

海底都市アトランティス ポセイドンの宮殿

アムピトリテが静かに水鏡を見つめている。
そこには先ほどの光景が映っている。

アムピトリテ
「……あの人はいつもいつも……」

小さくため息をつくも少し微笑む。

アムピトリテ
「自由すぎるのだから」

八景島

海辺にはポセイドンと海斗、佳織たちがいる。
そのとき――背後から柔らかい女性の声。

亜香里
「あらあなた?来てたの?」

全員が振り返る。

そこに立っていたのは――海斗の母の橋本亜香里。
落ち着いた雰囲気と、圧倒的な美しさ。

海斗が少し驚きつつも笑う。

海斗
「母さん!」

ポセイドンが一歩前に出る。

ポセイドン
「おお、亜香里!会えて嬉しいぞ!」

満面の笑みを浮かべるポセイドン。

ポセイドン
「君は相変わらず美しい。出会った頃と何一つ変わらない」

亜香里は微笑む。

亜香里
「ふふ……ありがとう」

月菜がポセイドンを見て、少しだけ目を細める。

月菜
(……うちのお母さんと一緒ね。褒め方がストレートすぎる……)

佳織が一歩前に出る。

佳織
「あ、あの!」

少し緊張しながらも挨拶をする。

佳織
「はじめまして!神宮寺佳織です!」

亜香里は優しく佳織を見る。

亜香里
「まあ……あなたが、佳織ちゃん?」

亜香里が少し目を細める。

亜香里
「優しそうな子ね」

亜香里がポセイドンに視線を向ける。

亜香里
「この子が……例の、あなたの姪っ子さん?」

ポセイドンは頷く。

ポセイドン
「そうだ。ヘスティアの娘だ」

亜香里の表情が少しだけ真剣になる。

亜香里
「……そう」

亜香里が佳織をまっすぐ見る。

亜香里
「大変な立場にいるのね、あなた」

佳織
「え……?」

亜香里はやわらかく微笑む。

亜香里
「でも安心して。海斗は強いわ」

海斗を見る。

亜香里
「そして――優しい子でもある」

海斗
「ちょ、母さんそれ言うなって」

亜香里が4人を見る。

亜香里
「あなたたちもこの子と一緒に行くのね?」


「……はい」

月菜
「そのつもりです」

大悟
「まあな」

亜香里は小さく頷く。

亜香里
「そう。なら止めはしないわ」

少しだけ寂しげに言う。

亜香里
「この子は昔から、じっとしていられない子だから」

監視をしていたレムスが背を向ける。

レムス
「……一応父上に報告しとくか」

そのまま風とともに姿を消す。

海斗が気楽に手を振る。

海斗
「ってわけで、改めてよろしくな」

佳織
「うん、よろしく!」

蓮が無言で海斗に歩み寄る。
空気が少し張り詰める。

月菜
「……蓮君?」

大悟
「お、来たな」

蓮は海斗の目をまっすぐ見る。

蓮(低い声)
「……一つ言っとく。佳織にちょっかいかけんなよ?」

海斗は一瞬だけ驚いたように見えるが――すぐにニヤッと笑う。

海斗
「……そりゃあできねえな~」

一瞬、沈黙。

蓮の目が鋭くなる。


「……こいつ」

海斗
「だってさ~、面白そうな子、放っとく理由ないじゃん?」

佳織はきょとんとする。

佳織
「……?え、何の話?」

月菜が小さくため息。

月菜
「……佳織さんは自覚がありませんね」

大悟はニヤニヤ。

大悟
「いいねえ、この空気。青春ってやつか?」


「違う」

ポセイドンが腕を組み、静かに2人を見る。

ポセイドン(心の声)
(……懐かしいな。昔、私もアポロンも……ヘスティアに求婚したことがあったな……)

ポセイドンは小さく笑う。

佳織
「……?なんか、変な空気じゃない?」

蓮&海斗
「「別に」」

大悟
「いや完全にだろ」

月菜
「……賑やかになりそうですね」

ポセイドンが静かに前へ出る。

ポセイドン
「佳織」

佳織
「うん?」

ポセイドン
「前に、ハデスに言われたのだったな?半神を“10人ほど”集めろ、と」

佳織
「うん」

ポセイドンは一瞬だけ間を置く。

ポセイドン
「……実はな、正確な数は――12人だ」


「……増えた?」

月菜
「……いえ、“10人ほど”という表現なら、誤差の範囲ですね」

佳織は考え込む。

佳織
「ハデス叔父さん……あながち間違ってはなかったんだ……」

佳織が顔を上げる。

佳織
「でも、なんで12人なの?」

ポセイドンは海の方を向く。
波がゆっくりとうねる。

ポセイドン
「“12”という数はな……ただの数ではない」

ポセイドンが説明する。

ポセイドン
「オリンポスの玉座に座る神も“十二神”。星の運行もまた、十二の周期で巡る。世界の均衡も……すべて“12”を軸として成り立っている」

ポセイドンが佳織をまっすぐ見る。

ポセイドン
「ゆえに半神が“12人”揃わなければ、神の領域へ踏み入ることは……決して叶わぬ」

一瞬、全員が言葉を失う。

波の音だけが響く。

佳織
「……じゃあ……まだ半分にも届いてないんだね……」


「今で5人……」

月菜
「残り、7人……」

大悟
「……めんどくせえな」

しかしニヤッとする。

大悟
「でもまあ、やるしかねえか」

海斗は楽しそうに笑う。

海斗
「いいじゃん!仲間集めとか、冒険っぽくてさ!」

佳織が一歩前に出る。

佳織
「……うん」

拳を握る。

佳織
「絶対に集める。12人全員。それで――ママに会う」

ポセイドンは静かに頷く。

ポセイドン
「その意志……まさに、ヘスティアの血だ」

神宮寺家・リビング

夜。落ち着いたリビング。
康弘がソファに座り、佳織が向かいにいる。テーブルにはスマホとメモ。

佳織
「――ってことがあってね。ポセイドン叔父さんに教えてもらったの。半神が神の領域に入るには――12人必要なんだって」

康弘は腕を組み、ゆっくり頷く。

康弘
「……12人か」

康弘が静かに考え込む。

佳織
「今は5人だから……あと7人必要」

康弘
「……簡単な数ではないな」

康弘が佳織をまっすぐ見る。

康弘
「佳織、ハデスに言われたヘスティアの宮殿に行く方法は覚えているな?」

佳織
「うん」

康弘
「ギリシャ各地に存在するヘスティアの“聖火”を3つ、それをお前の神気に取り込む」

佳織
「……それで、道が開くんだったよね?」

康弘
「そうだ。それが“扉”になる」

康弘は腕を組む

康弘
「だが……ギリシャだ。日本からだと渡航費も日数もかかる」

佳織は迷わず言う。

佳織
「……行くよ。絶対にママに会うために」

康弘はその表情をじっと見る。

康弘
「……そうか」

小さく息を吐く。

康弘
「ならば止めはしない。だが――無茶はするな」

佳織
「うん!」

佳織が少し笑う。

佳織
「ちゃんと帰ってくるから」

ヘスティアの宮殿

巨大な石柱。
中央には絶えず燃え続ける“炉の炎”。
その前に――ヘスティアが立っている。

背後に立つのはアポロンとアルテミス。
神々しい光が差し込む。

ヘスティアは振り返らず、静かに口を開く。

ヘスティア
「……あなたの息子がうちの娘を助けてくれているみたいね」

わずかに柔らかい声で言う。

ヘスティア
「アポロン」

アポロンは一歩前に出て、穏やかに答える。

アポロン
「はい。蓮は彼女と共に行動しています」

ヘスティアがアルテミスに視線を向ける。

ヘスティア
「あなたの娘も一緒のようね。アルテミス」

アルテミスは冷静に言う。

アルテミス
「はい。ですが……油断できる状況ではありません」

ヘスティアはゆっくりと炉の炎へ目を向ける。
炎が静かに揺れる。

ヘスティア
「……ええ、その通りね。半神を“12人”集めなければ――我々の領域に足を踏み入れることはできない」

一瞬、空気が張り詰める。
炎の音だけが響く。

アポロン
「……蓮は、まだその重みを知りません。ですが……あの子なら乗り越えるでしょう」

アルテミス
「私は……娘を危険に晒したくはない……でも……止められない」

ヘスティアは炎を見つめたまま語る。

ヘスティア
「……子どもというものはいつか、自分の道を選ぶものよ」

炎が一瞬だけ強く揺れる。

ヘスティア
「佳織……」

ヘスティアは小さく呟く。

ヘスティア
「あなたは……もう、歩き出しているのね」

炉の中の炎が大きく揺れる。

病院 診察室

白衣の医師が診断票を書いている。
ペンの音だけが響く。

突然――頭の中に声が響く。

アポロン(テレパシー)
「アスクレピオスよ……聞こえるか?」

白衣の医師、アスクレピオスは手を止める。

アスクレピオス
「……?この声は……父上か?」

アポロン(テレパシー)
「ヘスティアの娘が動き出した。半神を集め、神の領域へ向かう……蓮も、その中にいる」

アスクレピオスの目がわずかに揺れる。

アスクレピオス
「……弟もそこに飛び込むというのですね?」

アポロン(テレパシー)
「お前の判断に任せる」

アスクレピオスはペンを置く。

アスクレピオス
「……なるほど。ならば答えは一つですね」

アスクレピオスは立ち上がる。
白衣を整え、部屋を出る。

看護師
「あら先生?もうお帰りですか?」

アスクレピオスは穏やかに微笑む。

アスクレピオス
「ええ。少し急用ができまして。後の患者さんは、別の先生に引き継いでください」

看護師
「わかりました」

病院の外――夜

街の灯り。

アスクレピオスは歩きながら空を見上げる。
足を止める。

次の瞬間――光に包まれる。
白衣が消え、神の衣へと変わる。
手には蛇の巻き付いた杖。

アスクレピオス
「助けが必要ならば、救うだけだ」

彼の足元から淡い光が広がる。

アスクレピオス
「医術とは、命を繋ぐもの。神であろうと、人であろうと例外はない」

光が消え――姿が消える。

オリンポス ― 神殿・玉座の間

雲の上――オリンポス。

巨大な神殿。
玉座に座るゼウス。その隣にヘラ。

ヘラ
「ヘスティアの娘が――半神を12人集めるために動き出したわ」

ゼウスは目を閉じる。

ゼウス
「……ポセイドンとハデスの入れ知恵だな」

ヘラ
「あの2人の息子も協力するそうよ」

ゼウスは静かに目を開く。
神殿に重い空気が流れる。

ゼウス
「……アレスからは?」

ヘラ
「引き続き、息子達を使って監視しているわ」

ゼウス
「……そうか」

ゼウスは玉座に深く腰掛ける。

ゼウス
「……オリンポス内でも今回の一件に反対する神は多い。母も……私に反対している」

ヘラは冷静に言い放つ。

ヘラ
「当然ね」

わずかにため息が漏れる。

ヘラ
「……あの母だもの」

レアの宮殿

レアが一人、椅子に座っている。目の前には――水晶玉。
そこにゼウスたちの様子が映る。
レアは静かに呟く。

レア
「……哀れな息子よ。確かにヘスティアは処女神としての誓いは破ったかもしれない」

レアの目が静かに鋭くなる。

レア
「でも――子をなすことが罪と誰が決めたの?」

神々の思惑が交錯する中――半神たちは、運命の道を進み始める。

第5話 完

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