【超短編小説】片方の赤い靴(チャレがや企画)
雨上がりの駅前で、片方だけの赤い子ども靴を拾う話を書きました。超短編小説です。読み終わるのに一分もかかりません。
読み終えたあと、この話の結末をあなたが選べるノベルゲームも用意しました。PC・スマホ両対応、無料です。
まず、本編をお楽しみください。
雨上がりの駅前、水たまりの底に赤い子ども靴が片方だけ沈んでいて、拾い上げた瞬間、履いてもいない私の左足の裏が氷のように冷たくなった。
靴底には子どもの字で「ミオ」、その下に大人の震える字で「鈴の音を追って」とあり、読んだ途端、聞いた覚えのない子守歌が勝手に喉からこぼれた。
応えるように鈴が鳴り、十年前に店主が死んで以来ずっと閉ざされていた駅裏の時計店の扉が、内側から誰かに押されたように開いた。
数十の時計はすべて六時十七分で止まっていて、それが事故の時刻ではなく、私が待つのをやめてベンチを立った時刻だと、なぜか知っていた。
床の濡れた足跡は右が靴で左が素足、それは奥の姿見の前でふつりと途切れていた。
鏡に私は映らず、代わりに黄色い雨合羽の少女が、左足だけ裸足のままベンチに座り、鈴のついた古い鞄を膝に抱えて私を見ていた。
あれは母の鞄だ、と思った瞬間、鞄の鈴が、母がいつも鳴らしていたとおりの音で鳴った。
赤い靴を差し出すと少女は首を振り、「靴を探してたんじゃないの、お母さんが帰ってこないのは私が悪い子だったからじゃないって、誰かに言ってほしかっただけ」と言った。
私はしゃがんであの子守歌を口ずさみ、冷たい左足に靴を履かせながら、「あなたのせいじゃない、帰りたくても帰れなかっただけ、だからもう待たなくていいよ、ミオ」と十年遅れで伝えた。
少女が笑い、鈴が鳴り、すべての時計が一斉に動きだして、改札を抜けた私の左足には靴がなく、裸足で濡れた街を踏む感触が十年ぶりに温かかった。
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物語の要所で、あなたが主人公として選びます。最大の分岐は、少女が泣いたあとのこの場面です。
十年ぶんの言葉が、喉まで来ている。
・「あなたのせいじゃない」
・「……私のせいだ。私が、待つのをやめたから」
・「……わからない」
三つとも、間違いではありません。どれもある種の正直さです。ただ、そのぶんだけ結末が変わります。
エンディングは全部で四つ。うちひとつは、ある人物との会話を尽くした人だけが辿り着けるものにしました。
そのある人物というのが、時計店の店主です。
そう、「十年前に死んだ」と書かれている、あの店主です。
彼には彼の十年があって、この店がなぜ十年も閉まっていたのか、靴底のあの震える字は誰が書いたのか、鈴はどこから来たのか——ぜんぶ、彼が知っています。
遊びかた
画面をクリック(またはタップ)で進みます
選択肢が出たら、選んでください
所要時間は一周およそ五分。全エンディングでも二十分ほどです
音が出ます(鈴の音だけです。オフにもできます)
▼ こちらから遊べます
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