私はクソビッチ
「この子こう見えて、めちゃ遊んでるんだよ。」
男性陣の前で言われるのはこれが7回目。
遠くからでもすぐに見つけられる子だった。
毛先の痛んだ明るいブロンドに、長すぎるまつエクも馴染む大きな目。
ジャージでだるそうに歩く長身の体からはCHANELの香りがする。
話しかけたいのに、目が合うと
自分の大好きな古着の重ね着がただの古ぼけた部屋着に見えて
その子の声を耳で追っていても、私から視線を向けることはなかった。
色々な学校の生徒が共同で暮らしている学生会館で私たちは出会った。
共同洗面所の床には誰かが溢して置き去りにした水溜まりが広がり
廊下のラグにはたくさんの体の匂いが染みついている。
崩壊しそうなその館を、私たちは“お化け屋敷”と呼んでいた。
ある日、館長から近くの大学でパンフレットを配って欲しいと頼まれた。
アイスをもらった手前断れず
仕方なく大学の正門前に行くとその子がいた。
「こんちは。だるいよね。てか天気いいよね。」
「ほ、ほんとだね。」
「こんな古臭い学生会館に誰が来るんだっつーの。」
「マジでね。」
いつの間にかギャル語になっていることに、気が付かないくらい私は緊張していた。
パンフレットを配ろうにも、学生は全然通らない。
暇を会話で埋めていくうちに、その日にその子のお部屋で飲むことになった。
たくさんの乾杯で就職と恋愛の話を飽きもせず繰り返した。
その子といるだけで、街を歩けばナンパされ
お店で知らない人から急に奢られる。
みんながその子を見てる。
その子が良く通る声でコールしている隙に
ハイスペ男子の隣に座り
「こういうところ得意じゃなくて。」と一瞬目を見て逸らす。
彼を下から見つめて話を聞くのに
彼がこちらに体を向けると、視線は合わせてあげない。
連絡先を交換して、すぐまた元の席に戻る。
また別の飲み会で
テーブルの隅に角の折れた文庫本を置いている男の子がいた。
それは私が好きな作家だった。
ゆっくりと話す語り口に肩は軽くなって、ほんの一瞬だけ、古着で来ればよかったと思った。
その時その子が突然言った。
「この子こう見えて、めちゃ遊んでるんだよ。」
頭が回らない。
笑えない。
なのに否定もできない。
急に距離を詰めてくる、いかつい男性をあしらう術はわからないくせに
筋肉の厚い肩に触れ、しなだれかかる。
あの男の子とは、きっともう話せない。
「遊んでるんだよって言われるの、ちょっと嫌だなぁ。」
その子と二人で飲み会前のゼロ次会。
最近やっと飲めるようになった二杯目のビールを一口飲んだ勢いで、思い切って伝えた。
「清純そうに誤解されてるのがかわいそうだから言ってあげたのに、そんなこと言われるならもう言ってあげなーい。」
お誕生日におめでとうLINEを送っても返事は来ない。
私の誕生日にも連絡はない。
もう出番がなくなったクローゼットを占拠するギャル服たち。
ギャル服と古着のどちらも捨てられない。
なのに鏡の前でギャル服を当ててもちぐはぐで
あんなに好きだった古着ではなんだか物足りない。
くたくたのスエット姿で手当たり次第漁っても
何を着たらいいのかわからない。
遊んでなさそうな顔を利用して
その子が狙っている男子にすり寄った。
私の方が魅力的なんだと見せつけたかった。
その子に、自分に。
まだ貼っていなかったその子と撮ったプリクラが
今も机に散らばっている。
きっと私はこのプリクラも捨てられない。
