『レモンキャンディー』第3話
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あの日の放課後、俺は華に、自分のシールをいろんなところに貼ってるんだ、と話した。華の中では俺のことが大人っぽく映ったようで、シール収集をしている、ということだと誤解されてしまった。シール交換とか、付き合ったらできるかなとか、考えてシール楽しいよ、と薦めてもみたけれど、
「趣味だったら、アウトドアかな。山登りとか、家族とも友達ともよく行くし。」
と言われてしまい、玉砕した。俺の運命だと思ってた恋はどうなるんだ。文化祭以来、また同じクラスになって、しかも一緒に帰ろうって声かけてきてくれたのは、偶然だったのか?と自問自答し、苦しみ続けた。
クラスで、俺たちのことが噂になっているのは知っていた。途中からだけど、なんかコソコソしてるぞと思ってイヤホン外したら、他の生徒たちが恋バナ、それも俺と華のことを言っているのが聞こえてきたのだ。華は取り乱し気味で、苦しい言い訳を続けていた。俺は、どうしたらいいのかよくわからなくなった。あの日の放課後、ラインをするのを断られたあとに、じゃあ、友達になってよ、と言うと、意外にもあっさり、華は頷いてくれた。なんだ、男女の友情も意外と言われてるより難しくないもんだな、と思っていた。しかし、違った。恋愛後の修復ってそんなに簡単じゃない。やっぱり、俺の心や頭は日に日にぐちゃぐちゃになっていった。どうして彼氏がいるのに華は俺のことを放課後誘ったのか、もしかして自分たちのしていたことは不倫だったのではないか。前者の方は色々と理由は思い浮かぶのに、本人の口からその理由が聞けないからモヤモヤが晴れることはなかった。妙な罪悪感から、これ以上華と友達でいてはいけない気がして、学校に行かれなくなった。学校へ行けば、絶対に華と仲良く振舞ってしまう自分が想像できた。日に日に積もった俺の不満やストレスは、吐き出し口が見つからないまま、家に引きこもり、時々家族と一緒に山登りへ行く、という形に落ち着いた。つまりは、不登校の始まりである。
まさか自分が不登校になるとは思ってもみなかった。近所では、引きこもりの息子と噂されているらしく、外に出るときは自分だと誰からも分からないようにひげをのばし帽子をかぶって出るようにしていた。マスクやサングラスで返送する日もあった。自分では、こんな日々が、学校に無理して行っていたときよりは随分と居心地の良いものに感じていたのだと思う。恋愛を一旦捨てて、一人の男として生きていこうと決めた。
大学は、親に言われていたが、試験会場にも行くことはなかった。それよりも働きたい、とう気持ちがあったから、と言ったら嘘になるが、勉強よりは労働を選びたかったというのは事実だ。しかし、今はどちらも選んでいない。実は、クラスでいじめられたことでうつ病にかかったらしく、メンタルクリニックに通い始めていたのだ。そこでは作業所を紹介され、高校生ながら、陸は作業所で働き始めている。そんな姿を母は惨めに感じているようだが、親の言う通りに生きられないのだから仕方がない。作業所には、恋愛対象になるような女もいない。これは陸にとっては安心材料なのであった。
山登りを始めたのは、作業所をしばらく勤め、辞めた後だった。作業所では周りの人と話すこともなく、つまらない。山へ行けば、たくさんの人が知らない人でもあいさつしてくれるんだよ、と家族から聞いていた。実際に行ってみると、とても穏やかな時間が流れていた。学校とは全然違う、自分のことを変に構ってくる人はいないし、悪口を言われることもない。アウトドアは、華に趣味として薦められたもので、家族からも勧められたもので、自分でも気に入った。次第に陸の心は解き放たれ、回復していき、2年ほど経ったころには、病気も治っていたのだ。
華のことを、忘れたことはない。しかし、もう戻りたいとも思わない、そんな恋だった。どうして華はもっと早く、彼氏の存在を教えてくれなかったのだろう。思わせぶりな態度を取られてしまったことが、遊ばれたようで、嫌いじゃないけど、なんか不信感のようなものがわだかまりとして残った。しかし、次の恋に進むことはできるのだと思う。なぜなら、自分には生きている、命があるから。生きている限り、恋をするのは自由だ。自由に、楽しく生きていいんだ。不倫のような恋に縛られる必要だってない。あのまま友達だか恋人だか分からない関係を続けるよりも、良かったのだと思うしかない。一人友達を失ってしまった陸は、そんな風に考え、前へと進み、生きていく。
