夏の森が教えてくれた「人生は、急がなくてもちゃんと前に進んでいる。」
朝5時。
窓を開けると、ひんやりとした風が部屋に入ってきます。
蝉の声は、まだ遠く。
夜露に濡れた草の匂いと、森の静けさが、少しずつ目を覚まさせてくれます。
夏なのに、この時間だけは別世界です。
私はこの時間が好きです。
誰かと競う必要もなく、
何かを証明する必要もない。
ただ、朝を迎える。
それだけで心が整っていきます。
50代になると、不思議なことがあります。
若い頃のように「もっと、もっと」と走れなくなります。
体力だけではありません。
心が「本当にそれが欲しいの?」と問いかけてくるようになるのです。
以前の私は、立ち止まることを恐れていました。
止まったら負ける。
頑張り続ける人が正しい。
そう信じていました。
でも今は違います。
森を歩いていると、木は誰一人として急いでいません。
昨日より少しだけ枝を伸ばし、
昨日より少しだけ葉を広げる。
それだけです。
それでも何十年もかけて、大きな木になります。
ある夏の日、愛犬と散歩をしていました。
木漏れ日の中を、ゆっくり歩いていると、小さな一本の木が目に入りました。
去年は気にも留めなかった木です。
でも今年は、しっかり葉を広げていました。
一年でこんなに変わるんだ。
そう思った瞬間、こんな考えが浮かびました。
「人は、自分の成長だけは見えなくなるんだな。」
毎日鏡を見ていると、髪が少し伸びても気づきません。
でも久しぶりに会う人は、その変化に気づきます。
人生も同じなのかもしれません。
毎日頑張っている人ほど、自分の変化を見失ってしまう。
50代になると、
「まだ何も成し遂げていない。」
そんな気持ちになることがあります。
でも、本当にそうでしょうか。
家族を支えてきた。
仕事を続けてきた。
苦しい日も、逃げ出さずに朝を迎えてきた。
それだけでも、十分に積み重ねてきた人生です。
私たちは、「できなかったこと」ばかり数えて、
「できてきたこと」を忘れてしまいます。
夏の森には、派手な花ばかりではありません。
誰にも気づかれない場所で、小さな花が咲いています。
目立たなくても、
その花は、自分の季節をちゃんと生きています。
その姿を見るたびに思います。
人生も同じじゃないか、と。
誰かと比べなくていい。
自分の季節を生きればいい。
最近、夕暮れになると縁側に座って空を眺めます。
昼間の暑さが少し和らぎ、
ヒグラシの鳴き声が聞こえてくる。
そんな時間が増えました。
昔なら、
「何もしない時間はもったいない。」
そう思っていたでしょう。
でも今は違います。
何もしない時間があるから、
家族との会話を味わえる。
季節の変化に気づける。
心の中に余白が生まれる。
余白があるから、人にも優しくなれる。
人生は、何かを増やすことだけが豊かさではありません。
急ぐことをやめる。
比べることをやめる。
焦ることをやめる。
そうして手放した先に、本当に大切なものが残る。
私は、この夏も森からそれを教わっています。
もし今、あなたが50代で、
「このままでいいのだろうか。」
そんな思いを抱えているなら、一度だけ早起きしてみてください。
近くの公園でも構いません。
木陰に立って、風の音を聞いてみてください。
自然は、あなたにこう語りかけてくれるはずです。
「急がなくても、大丈夫。」
「ちゃんと育っているよ。」
その言葉を信じられた朝は、
昨日までと同じ景色なのに、
少しだけ世界が優しく見えるかもしれません。
私はそんな夏の朝が、好きです。
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