Technologic / Human After All -テクノロジーに翻弄される人類
ダフト・パンクが2020年代においてすっかり「懐かしのアーティスト」枠に入ってしまっているというのは悲劇なのか、それとも喜劇なのか。
二体の機械生命体に扮し、「ロボットが奏でるダンス・ミュージック」というコンセプトで世界的な大ヒット曲を多数生み出した彼らこそ、AIバブルに沸く現在のシーン全体を先取りした先駆者以外の何者でもないのではないだろうか。いや、「何物」か。
2005年にAppleのCMソングとして大ヒットしたキャッチーなダンストラック”Technologic”は、まだ普及が始まったばかりだったインターネット・テクノロジーのアルゴリズムによる人々の消費行動の支配を痛烈に皮肉る曲でありながら、それをコンピューター業界の先駆者AppleのCMで流すという、あまりにも状況主義的な方法で全世界に届けたまさにPunkなアティテュードそのものの曲だった。
同曲が収録された最もハードでアグレッシヴなアルバム”Human After All”こそ、出るのが20年早過ぎた作品だと言えるのかもしれない。
科学は常に時代に先行する。
技術はそれ自体の進歩のために開発される。
だからそれ自体が有益か/有害か、を論じるのは無意味だ。
ということを、例えば映画「オッペンハイマー」などを通して学べるのではないだろうか。
常に必要なのは、「人間がそれを制御できるかどうか」という議論ではないか?
インターネットもSNSも、今さらやめるわけにはいかない。
だから人々や環境に有害な要素を抑制して可能な限り安全にメリットを活用できるようにしていこうよ、というのが世の中の一般的な方向性ではないかと思う。
生成AIについてもその点は過去の事例と全く同じで、常に技術の進歩がすべてに先行している。これまでなかったテクノロジーなのだからそれは当たり前だ。
現実的には、上記のように「制御」していく、というのは「法整備ができるかどうか」にかかっている。
企業は利潤の追求のために開発しているし、開発者やエンジニアはさらに純粋な科学の発展の追求のために開発しているはずだから。
倫理や道徳といったものは結局のところ提供者やユーザー一人一人に求めても得られるものではなく、最終的には何らかのデメリットを被る可能性のある対象を守る義務を有する側、つまり(一般的には)国や司法機関が国民や国益を保護するための法律を整備することでしか話は進まない。
年明け以降、各国が次々とXのAI「グロック」の性的ディープフェイク加工問題に対する対応を発表した。
カリフォルニア州の司法長官は「衝撃的だ」と非難。
「AIを用いた非同意の性的画像や児童虐待コンテンツの生成・拡散に対し、断固たる態度で臨む」と強調した。
英国はオンライン安全法に基づく調査を開始。
EUのデジタル政策担当広報官は「Grokが提供する『スパイシーモード』は、子どもの画像を含む明示的な性的コンテンツを生成している。これはスパイシーなどではなく、違法。恐ろしいことだ」と述べ、「これが欧州に存在する余地はない」と続けた。
さらに強硬な姿勢を示したインドネシアとマレーシアではGrokを遮断。
これらの対応や声明は今から1週間前の時点ですでに発表されており、公式声明としては異例の強い憤りと非難の込められたコメントや処置からは、今回の問題が「各国の」政府にとって国民の安全や権利を脅かす極めて深刻な事態だと捉えられていることが伺われる。
「各国の」と括弧付きにしたのはただの皮肉だ。例外はどんなことにもある。
日本でこの問題に対する公式対応が発表されたのは1月16日金曜日。つい2日前。
その内容は、読み取れる限りではXへの「改善要請」。「AI法に基づく指導も視野に、(中略)書面での報告を求めた」というもの。
国民のために迅速な対応をありがとう、日本政府。
指導ではなく、「それを視野に入れた」先方からの報告待ち。
ちなみに現行の「AI法」に罰則規定はなく、過去に指導の実例もない。
Xからの回答もないそうだ。
厳格な対応をありがとう、日本!
ただ、回答を待つまでもないかもしれない。イーロン・マスク氏はすでにXとしての公式対応を発表しているからだ。
なお、「Grok」は発表に際し、「当該行為が違法となる地域では全ユーザーに対して地域制限を実施」したと言及。 日本では「Grok」を利用し、実在の人物を露出度の高い服装に改変することができる状態が続いている(記事執筆時点)。
「違法となる地域では全ユーザーに対して地域制限を実施」。実に明快な回答だ。
いくら常識破りの彼でも、法律違反で巨額の制裁金を課せられたり、特定の国に遮断されたりしてまで当該機能を実装させ続ける気はないみたいだ。
各国はそれを理解しているから、初動から明確に「法律」に基づいた対応や制裁の可能性を示した。一部の例外国を除いては。
「法とは民を守る盾。法とは王を穿つ矛」。
これは個人的に好きな特撮作品で使われた台詞だ。
理想論ではあると思うけれど、概ね各国の法律は「国民を保護する」目的で立法・運用されている、という前提では一致しているのではないだろうか。
よく言われるのが「法整備が追いつかないから対応できない」という説明だが、法整備が後追いになるのは当たり前のことだと思う。日々テクノロジーは進歩し続けているのだから。
既存の法律の範囲ですべて対応するというなら立法府は必要ないということになる。
問題は常にこれからどう法整備するか、そして「何を守る」ためにそれを行うのかではないだろうか。
各国も何も国民の肩だけを持っているわけではない。大企業や成長産業だって守りたいはずだ。実際に企業に有利な法律も多数ある。
しかし今回の件では、もしここで企業側を守ったら国民の信任を得られない、と各国政府は判断した。
Grokは完全に一線を越えたと彼らは即断した。
彼らは「何を守る」のかを公式声明で明確に述べた。声明とは事務的な報告ではなく、国内外へのパフォーマンス/意思表示だということを知っているからだ。
日本は「何を守る」つもりなのだろうか。何を問題と捉え、どこにその原因があると考えているのか。
各国の対応と比較して、それが全く見えてこない。
つい先日まで、この問題は明らかに「Xの責任」であり、「多くの個人が無断で性的ディープフェイク加工の被害にあった」という事実は世界共通のいわば「災害」だった。
しかしXは「各地域の法律に従う」と発表し、実際に機能を制限した。迅速な対応を示した国や地域の国民は、少なくともX上のGrok加工機能実装時よりは被害を減らすことができた。
この対応によって、「国民がGrokによる性的ディープフェイク加工から守られている地域」と「そうでない地域」が可視化された。
この線引きは何を意味するのだろうか。
先進国として、日本の法整備はどのように進んでいるのか、日本政府には自国民を守るつもりがあるのか。
もし今後、「そうでない地域」でGrokによる性的ディープフェイク加工の被害が発生し続けるとしたらそれはもう「人災」だ。
これから日本は各国の注目を浴び続けることになるのかもしれない。
日本政府の名誉のために言うと、「別に国によって対応にタイムラグはあるし、お正月もあったし、対応が早ければいいというものではない。責任は取ればいいというものではない」と僕も思っていた。
でも先日のニュースを見て、自分の中でその整合性が取れなくなった。
この問題そのものはまた別の深刻な話だが、今回のテーマから外れるので、内容については深く触れない。
ただ気になるのは、「またSNSによる人権侵害に対応し、総務省はプラットフォーム事業者に対して、動画や誹謗中傷が投稿・拡散された際に、すみやかに削除などするよう協力を要請するとしています。」という部分だ。
なぜこの問題だけは迅速に、しかも「動画や投稿の削除」という強権的とも言える対応を取るのか。
なぜGrokの性的ディープフェイク画像に対してはそれを要請しないのか。
なぜいじめ動画と関連投稿には「誹謗中傷の拡散」だと断定してSNS側に対応を求めるのに、Grok問題では悠長に「提供者側の言い分」の報告だけを他人任せに待っているのか。
誰か説明できる人がいたら教えてほしい。僕には同じ国の対応として整合性が取れているとは思えない。
この国の法は誰を守るために使われるのか。
国会を潰してまで国民に信を問う選挙の前に、政府はまず国民にそれを示してほしい、と思っている。
「怒らない」と言いつつ、カーマ・ポリス(Radiohead)的な文章になってしまった。
AI関連の話と政治の話は荒れる二大トピックス。わかっているのに書くという愚行。
「Human After All (所詮人間か)」。
Technologic はそう笑うかもしれない。
