🌱 《故郷の味を求めて、六時間の旅》
今日は、少しだけ無謀で、でも自分でも驚くほど自然なことをした。
──名古屋から神戸まで往復六時間。
たった二杯の「莢菜(しょうさい)ワンタン」を食べるために。
人に話せばきっと笑われるだろう。
「ワンタンなんてどこでも食べられるじゃない?」
「六時間も運転して? さすがにやりすぎでしょ。」
でも私にとって、あの一杯は“食べ物”なんかじゃない。故郷そのものだ。
莢菜の香りがふわっと口に広がった瞬間、遠くに置いてきた景色が一気に胸の奥に戻ってくる。
子どもの頃の冬、湯気で曇る窓、台所の温かさ、母の声。その全部が一口の中にあった。
異国で暮らすようになると、気づくことがある。
忘れられないのは味ではなく、
その味に結びついた記憶なんだ。
だから六時間なんて大したことじゃない。
だからナビの数字が減っていくのを見つめながら、心の中ではずっと“帰っている”感じがしていた。
食べ終わったあと、生のワンタンを買って持ち帰った。
冷凍庫にそっとしまったら、まるで心の一部を丁寧に保存したような気持ちになった。
誰かにとってはただのワンタンでも、
私にとっては魂をあたためてくれる小さな灯り。
ときどき、人は自分を救うために、
少しだけ遠くまで旅に出るのだ。
たとえ、それが一杯のワンタンのためだったとしても。

6丁目1-26
