【カグラバチ 第123話】成すべき事
※ネタバレ注意
この記事は、週刊少年ジャンプ連載中『カグラバチ』第123話「千晃」の感想・内容まとめです。未読の方はご注意ください。
前回の話
杁島会談の惨敗を受け、妖術局は今後の対応を協議する。重傷を負った柴は一命を取り留めるが、戦線復帰は困難な状態だった。一方、亜利雨は箕加星が曽我によって海へ沈められた過去を語り、最終要求が杁島、雫天石、そして“曽我の姫”であることが判明する。彼らの真の目的は、曽我の血を利用して日本の妖術社会を支配することだった。さらに千晃は「地獄が来る」と新たな予言を口にする。絶望的な戦力差が示される中、国重は事件の全容を知り、ついに「妖刀計画」が始動した。
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カグラバチ 第123話「千晃」感想
■ 妖刀計画を巡る有識者会議
第123話は、三月二十一日午前三時に開かれた「妖刀計画」に関する有識者会議から始まる。
会議では、瓜田すば流が提唱した妖刀の理論について議論が行われる。妖刀とは、刀に“脈”を作ることで玄力を蓄積し、蓄電池のように莫大なエネルギーを制御する構想だ。
理論上は成立し得るものの、最大の問題は素材である雫天石にあった。雫天石は鉄鉱石であり、製鉄の過程で制御不能な爆発を引き起こす危険性がある。
どれほど計算を重ねても犠牲者が出ることは避けられず、実現性に大きな疑問が投げかけられる。
蓮見は国重の技術力を信頼しているが、会議参加者たちは、貴重な雫天石を一介の刀鍛冶に託すことはできないと否定的な見解を示す。
■ 「餓者の炎骨」と緋雪の誕生
そんな中、香刈家から返答が届く。
箕加星への対抗策として期待されていた「餓者の炎骨」は、火の一族である香刈家が代々管理する妖術兵器である。
しかし、その力は強大すぎるため、扱える人間は極めて限られていた。
現在の当主の妻は出産を半年後に控えているが、懐妊の影響で腹部に火傷を負っているという。
火に適応した体質を持つ香刈家の人間が火傷を負うこと自体が異常事態だった。
そして、その胎児こそが後に四百年ぶりとなる炎骨の適合者――緋雪であることが明かされる。
生後三か月から調整を開始し、実戦投入まで約一年。
つまり、一年耐え抜くことができれば、日本側にも勝機が生まれるという希望が示された。
■ 千晃が背負った「姫」という役目
場面は千晃の回想へ移る。
先代の姫は、千晃が生まれる以前からその座に就いていた。
幼い頃、一度だけ茶の作法を教えてもらったことがあり、その姿は今でも鮮明に覚えている。
そして予言の力が宿った日も忘れられない。
庶流に予言の力が宿ったのは史上初の出来事であり、母親が見たこともないほど慌てていたことを覚えている。
その日、外で突然意識を失った千晃を家まで運んだのが国重だった。
国重は幼少期からの遊び仲間だった。
共に馬鹿なことをして笑い合う、ごく普通の幼なじみの一人だったのである。
しかし、姫となったことで全てが変わった。
■ 手紙に託した小さな希望
姫は秩序の象徴であり、人々の安寧を守る存在だ。
自由に外へ出ることも許されず、特定の男性と親しくすることも難しい。
それでも千晃は、柴を通じて国重と手紙のやり取りを続けていた。
この頃の千晃は、まだ漠然とした希望を抱いていたのだろう。
しかし、その関係は長く続かなかった。
身の回りの世話をしていた女中の告発によって、二人の文通が発覚してしまう。
曽我の姫は個人であってはならない。
彼女への不信は、そのまま妖術社会全体の秩序の揺らぎにつながる。
千晃自身もその理屈は理解していた。
だが、その件をきっかけに見た予言が彼女をさらに苦しめる。
自分が役目を疎かにすれば、国重に危険が及ぶ未来が見えてしまったのだ。
だからこそ千晃は、自分自身を諦めることで国重を守ろうとしてきた。
■ 「曽我の姫」は私にとって大事じゃない
時は三月二十日。
杁島会談の惨劇を受け、千晃は強い後悔に苛まれていた。
「私がもっと強く忠告していれば……」
母は「あなたに責任はない」と慰める。
しかし千晃は、敵が自分を要求していることを知っていた。
もし自分が犠牲になることで最悪の未来を回避できるのなら、それでも構わない。
そう口にする千晃に対し、母は「あなたは大事な――」と言葉をかけようとする。
しかし千晃は、その言葉を遮る。
「大事じゃない……」
脳裏に浮かぶのは国重の背中だった。
彼女が否定したのは自分自身ではない。
「曽我の姫」という役割だった。
千晃として生きられないのなら、自分には何の意味もない――そんな悲痛な叫びにも聞こえる場面だった。
■ 千晃引き渡し決定
そして3月24日。
蓮永普作による「妖刀計画」は正式に棄却される。
代わりに妖術局は、箕加星との一年間の停戦を条件に要求を受諾。
曽我千晃の引き渡しを決定する。
絶望的な戦力差を前に、日本は屈することを選ばざるを得なかった。
■ 曽我家の思惑と蓮見の疑念
その後、蓮見と壱鬼の会話から新たな事実が明かされる。
実は半年前、曽我家嫡流に新たな女子が誕生していた。
現在の予言の力は千晃に宿っているが、次代の予言は嫡流の少女へ継承されると考えられている。
そのため、一部の人間は千晃が箕加星へ渡ったとしても問題ないと考えているのだ。
しかし蓮見は疑問を抱く。
そもそも庶流に予言が宿った前例は存在しなかったはずだ。
ならば、なぜ千晃の子に予言が継承されないと断言できるのか。
その疑問の裏には、曽我家内部の権力争いも見え隠れする。
庶流へ権力が分散している現状を快く思わない者たちにとって、今回の出来事はむしろ都合が良いのかもしれない。
そして何より、千晃本人が引き渡しを受け入れてしまっていた。
蓮見は、その決断が精神的に追い詰められた末のものではないかと危惧する。
しかし壱鬼は現実を突きつける。
一年後に炎骨が使えるようになれば状況は変わる。
だが今侵攻されれば終わりだ。
「今の我々には、選択肢などない」
その言葉は、日本側が置かれている絶望的な立場を端的に表していた。
■ 国重が下した決意
物語の最後。
国重は、千晃から受け取ったであろう最後の手紙を見つめていた。
そこには、「また会いたいね」
という一文が綴られている。
その言葉を胸に、国重は静かに覚悟を決める。
妖刀計画は棄却された。
だが、それで終わる男ではない。
彼の中で何かが動き出したことを予感させながら、第123話は幕を閉じた。
■ 総括:千晃という少女の悲劇を描いた神回
第123話は、箕加星との戦争そのものではなく、その裏で犠牲になろうとしている千晃という一人の少女に焦点を当てた回だった。
秩序の象徴として生きることを強いられ、自分自身の人生を諦め続けてきた千晃。その苦悩が丁寧に描かれたことで、「曽我の姫の引き渡し」が単なる政治的判断ではなく、一人の人間の人生を差し出す決断であることが強く伝わってきた。
そして最後の「また会いたいね」という手紙。
妖刀計画が棄却された今、その言葉こそが国重を動かす原動力になるのだろう。
戦争の物語でありながら、これは紛れもなく国重と千晃の物語でもある。第123話は、そのことを改めて実感させる極めて重要な一話だった。
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