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創作昔話

「屁ったれ嫁っ子 はつ」

むかしむかし、ある山あいの村に、 平吉という優しくて働き者の若い男がいた。

ところがこの村、若い女っこが一人もおらず、 年寄りたちは毎日のように村はずれのお地蔵さまに手を合わせていた。

「どうか、平吉さ嫁っこ寄こしてけろ… できれば、丈夫で明るい嫁っこがええ…」

そんなある日のこと。

繁蔵(はんぞう)爺さまが、お地蔵さまの前で ひとりの女が倒れているのを見つけた。

「おいおい、どんだ〜!しっかりしろ〜!」

女は顔をゆがめて「ウ〜ウ〜」とうなっている。

繁蔵爺さまは慌てて村人を呼び、 女をおんぶして自分の家へ運んだ。


「どんだ?大丈夫だが?」

村人たちが心配そうにのぞき込むと、 女はようやく口を開いた。

「……オラ、腹が減った」

その一言に、村中がどっと笑った。

「なんだ〜腹減って倒れてたのが!」
「ほれ、飯くえ!山盛りで食え!」

女は「ムシャムシャ」と、 出されたご飯を見事な勢いで平らげた。

その食べっぷりに村人たちは感心し、 やがて誰かが言い出した。

「平吉の嫁っこに、どうだべ?」

「んだんだ、そりゃええべ!」

「こりゃきっと、お地蔵さまが寄こしてくれだ嫁っこだ!」

繁蔵爺さまが女に尋ねた。

「お前さん、平吉の嫁っこにならねが?平吉はこの村一番のイケメンでよ、気立てもええ」

女は胸を張って言った。

「オラの名前は、はつ!嫁っこになってもええよ。その代わり、ご飯十杯食ってもいいが?おかわりしてもいいが?」

「おぅ、なんぼでも食え〜!」
「好きなだけ食え〜!」

こうして村は大騒ぎになり、その夜には繁蔵爺さまの家で祝言があがった。

「はつ、飲め飲め〜!」
「平吉も飲め〜!」

はつは酒も強く、「ガバガバ」飲んでは笑い、村人たちもつられて笑い、 夜遅くまで賑やかな宴が続いた。


ところがある日、 村に流れ者がやって来て悪さを始めた。

平吉や村人たちは怒って睨み合いになる。

そこへ、はつが走って来て叫んだ。

「あんだら、その木さしっかり捕まってろ!」

そう言うなり、 はつは男どもに尻を向け、 着物の裾をまくり上げて——

「ボガン!!」

とんでもなく大きな屁をこいた。

その勢いはすさまじく、 流れ者たちは吹っ飛ばされ、 村の外まで転がっていった。

村人たちは目を丸くした。

はつは恥ずかしそうに言った。

「ご飯いっぱい食えば屁が溜まる。お前さんに嫌われたくなくて、オラ、ずっとガマンしてただよ…」

平吉は大笑いし、 村人たちも手を叩いて喜んだ。

「こんな嫁っこ、どこ探してもいねぇ!」
「はつの屁は村の宝だ!」

こうして平吉の家には、 はつが思いきり屁をこけるようにと、 特別な小部屋が作られた。

それが《屁屋(へや)》。

これが、今の「部屋(へや)」という言葉の 始まりだと言われている。

また、はつが屁をこくときに お尻を突き出す姿を《屁っぴり腰》と呼んだが、 やがて腰が抜けたような姿のことを 「へっぴり腰」と言うようになったのだとさ。

これで、この話っこは、どんとはれ。


あとがき

今回の『屁ったれ嫁っ子』は、 全国に似た話が伝わる“昔話の定番”のひとつです。

どこが発祥なのかは分からず、 東北にも、関西にも、九州にも、 似たような話が点々と残っています。

昔話とは、 語り継がれるうちに形を変え、 土地の言葉をまとい、 その土地の笑いに染まっていくもの。

今回の物語は、オリジナル版として、 青森の語り口とユーモアが とても美しく溶け合った一篇になりました。

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