創作昔話 ~お小夜キツネ・ 第二話~
「お小夜キツネと留吉」
昔、むかし——。
ベゴ森と呼ばれる深い森の奥に、 一匹の若い女キツネが住んでおった。
その可愛らしさと愛嬌から、 村人たちはそのキツネを 「お小夜キツネ」 と呼んでいた。
お小夜キツネは、たいそう好奇心が強く、負けず嫌い。
まだ小さかった頃、着物姿の娘に化けて、 キノコ採りに来た甚四朗という男を騙そうとしたが、 逆に捕まってしまい、
「二度と人を騙すんでねぇ!」
と、こっぴどく叱られ、山へ帰されたことがあった。
だが、負けず嫌いのお小夜キツネは思った。
——絶対に、村一番の化け方上手になってやる。
それからというもの、 辛い修行に励み、励み、励み……
やがて、誰もが振り返るほどの 美しい娘に化けられるキツネ へと成長したのじゃ。
さて、ここからが成長したお小夜キツネのお話のはじまり。
ある夏の夕方のこと。
馬を曳きながら、留吉という男が 新井田川の土手を上がってきた。
「さぁ〜、もう冷えでるべ。 メドツ(河童)が出ねぇうぢに帰んねばなんね」
馬に水を飲ませ、夕暮れの道を歩いていると、 前から一人の美しい娘がやって来て、声をかけてきた。
「今晩は、留吉さん。今、お帰りですか?」
「じゃー!おめぇ誰だ? オラぁ、おまえさんのごど知らねぇじゃ」
娘はにっこり笑って言った。
「私はお小夜と申します。 この近くで店をやっておりますの。 よろしければ、お立ち寄りください。 お酒をごちそうしますよ」
酒に目がない留吉は、 馬を立ち木に繋ぐと、 娘のあとをホイホイついて行った。
まもなく、立派な店が現れた。
「留吉さん、お酒の準備をしますから、 先にお風呂に入ってくださいな。 あとで背中を流しますから」
あまりに勧められるので、 留吉は裸になって湯船にドボン。
「でったらだ風呂だなぁ〜! こったら広ければ泳げるべ!」
ごきげんで鼻歌を歌っていると——
「留吉!何やってらっきゃ? おめぇ、頭いがれだのが?」
友達の庄三郎の声がした。
「なんど?」
ハッと我に返った留吉が周りを見ると、 そこは田んぼの真ん中。
泥まみれになって座り込んでいた。
庄三郎は腹を抱えて笑った。
「ハハハッ! おめぇ、お小夜キツネに騙されだな!」
「じゃー!やられだじゃ……」
「したども、お小夜キツネは 村一番の化がし上手だ。 仕方ねぇべ」
二人は暗くなった道を歩きながら帰った。
「留吉、おめぇ眉に唾つけだのが?」
「いや、やってねぇ……」
「したすけ騙されるんだ! 夕方や夜道歩ぐとぎは、 昔がら狐に騙されねぇように 眉に唾つけだもんだ」
留吉はシュンとなりながら言った。
「じゃ……わ〜馬を置いできたじゃ。戻らねば」
庄三郎は大笑いした。
「おめぇと違って、馬は利口だ。 狐になんか騙されねぇ。 先に帰ってらべ!」
家に着くと、 本当に馬は先に帰っていたんだと。
こうしてお小夜キツネは、 夕方になると里へ降りてきては、 村の男どもをちょいと騙すのだった。
だが、騙される男たちは皆、 正直で真面目な者ばかり。
それは、お小夜キツネが 気持ちの優しいキツネであり、 不器用な男たちへの“ちょっとした励まし” でもあったのじゃ。
どんとはれ。
あとがき
この物語は『お小夜キツネ』シリーズ第二弾です。
昔から「狐に騙されるのは男ばかり」と言われていますが、 特に酒好きやおっちょこちょいの人が狙われやすいとか。
また、昔は夜道を歩くとき、 狐や狸に騙されないように 眉に唾をつける“おまじない” があったそうです。
「眉唾物」という言葉は、ここから来ています。
※「メドツ」とは青森県南部地方の方言で「河童」のことです。
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