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物語のスケッチブック

「ふたりの距離が少しだけ近づいた夜」


彼女の姿が見えたので、 歩調を合わせるように足をゆるめた。

僕たちは、時計台の下で待ち合わせをした。
ビルの谷間にひっそりと佇む時計台は、 ライトアップされた白い壁が夜の空気に浮かび上がり、 ほのかな灯りがゆっくりと近づいてくるように見えた。

すれ違う人たちは、 ほろ酔いなのか楽しげに笑い声を響かせていた。

「時計台って、意外と小さいのね」

彼女は僕の顔を見て、 少し照れたようにそうつぶやいた。


■ 大通公園近くのホテル

大通公園の近くに建つリゾートホテルは、 ゆったりとした部屋と、 壁際に並んだ三つのベッドが特徴だった。

入口から狭いスペースを抜けると、 部屋の奥のバルコニーまで見渡せるほどの広さがあり、 その開放感だけで心がほぐれていくようだった。

「いい部屋だわ」

彼女がそう言うと、 僕は軽くうなずいた。

彼女はベッドを横切り、 大きな窓から外の景色を眺めた。
時計台の灯りが、 静かに夜の街を照らしている。

「素敵ね。いい感じ」

彼女はそう言って微笑み、 バルコニーへ出た。

僕もその後を追い、 肩越しに札幌の夜景を眺めた。

風が少し冷たくて、 その温度がふたりの距離を自然に近づけていく。

彼女が振り返る。
その表情は、 街の灯りに照らされて柔らかかった。

「ねぇ、どのベッドにする?」

彼女が冗談めかして言う。

「私は、あの壁ぎわ」

「じゃあ、僕はこっちにしよう」

「真ん中は?」

「真ん中は……ふたりで座る場所かな」

彼女は小さく笑った。
その笑顔が、 札幌の夜よりも少しだけ温かかった。


あとがき

この物語は、 札幌の夜をイメージして、ふっと生まれた“大人の恋の距離感”を描いた一篇です。

恋は、劇的な出来事よりも、 こうした静かな時間の中で少しずつ近づいていくものだと思います。

札幌の夜の灯り、 少し冷たい風、 ホテルの静けさ──
そのすべてが、ふたりの心をそっと照らしてくれるような気がします。

あなた自身の記憶のどこかにある “静かな恋の瞬間”と重ねながら読んでいただけたら嬉しいです。

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