天を繋ぐ者たち 創生の旅路 第13話
第13話 昨日の印 ― 時が生まれる場所
朝は、何事もなかったかのように始まった。
鳥は鳴き、風は草を揺らし、
焚火の跡からは細い煙が立ちのぼっている。
だが、群れの空気は、昨日と同じではなかった。

焚火の灰はまだ温かく、
地面には踏み荒らされた草と、
乾ききらぬ血の匂いが残っている。
人々は声を潜め、
子どもたちは大人の背中を見つめながら、
いつもより静かに動いていた。
イシキは、焚火のそばにしゃがみ込み、
昨夜使われた石槍の穂先を手に取った。

欠けた刃、乾いた血の跡。
それはもう、獲物を仕留めるための形ではない。
イシキは、その石を捨てなかった。
作り直しもしなかった。
ただ、焚火の脇に、そっと置く。
理由は、まだ言葉にならない。
だが、それは確かに「昨日があった」という印だった。

トヨクモノは、自分の石槍を強く握っていた。
その握り方は、昨日までとは違う。
遊びの手つきではない。
守るための重みを、腕が覚えてしまったのだ。
人々の中に、
ゆっくりと、だが確実に、
「過去」と「現在」の感覚が芽生えていく。
昨日、危険が来た。
昨日、命を守った。
では今日のこの朝は、何なのか。

今を生きていた人類に、
過去と未来が芽生え始めた。
それは突然の変化ではない。
焚火の灰のように、
静かに、確かに積もっていく感覚だった。
クニトコタチは、集落の縁に立ち、
地と風を読みながら、同じ場所を見つめていた。
そこは、通り過ぎるための場所ではない。
留まり、守り、考える場所になりつつあった。

時間は、流れるものではなく、
積み重なるものになり始めていた。
そして、誰もまだ口にしないが、
群れは感じていた。
これからは、
「次」を思い描きながら、生きていくのだと。
「未来」を感じ始めていた。
【次回予告】
「第14話:円のかたち ― 守りと始まり」

