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顧客と店の関係性から考える絶メシ現象

絶メシのつくり手(絶メシは誰が創っているのか)
 このシリーズでは、「絶メシ」という現象をサービス・マーケティングの視点から捉え直してみています。一般的に絶メシは、「なくなりそうな店」「後継者不足に悩む店」として語られます。しかし私たちが研究対象として注目しているのは、店舗の存続問題だけではありません。むしろ興味深いのは、そのような店が長年にわたり顧客から支持され続けていることです。

なぜ人は通い続けるのでしょうか。
なぜ閉店を惜しむのでしょうか。
そしてなぜ、時には顧客自身が店を支えようとするのでしょうか。
この問いを考える上で参考になるのが、サービス・ドミナント・ロジック(SDL)の考え方です。

 つまり、サービスは「提供されるもの」ではないということ。従来のマーケティングでは、企業が価値をつくり、それを顧客へ提供すると考えられてきました。飲食店であれば、
店が料理をつくり、
顧客が代金を払う。
価値は店側にあり、顧客は受け取る側でした。


東北新幹線の青森までの延伸に合わせ 青森県が県内の三代(100年)続く大衆食堂を
「津軽百年食堂」と名付け、観光の目玉とした
 2011年、弘前市に実在する「三忠食堂」をモデルに小説が映画化された
(画像:映画製作委員会HPより)

 しかしサービス・マーケティングの視点では考え方が大きく異なります。私たちの図書「すべての職種のためのサービス・マーケティング - 共鳴を生む『無形の価値』のつくり方入門 -」の中で、お伝えしているように、価値は企業が一方的につくるものではなく、顧客との相互作用の中で共創されるものだと考えます。つまり顧客は価値の受け手ではなく、価値創造の参加者なのです。

絶メシの店は、この考え方を理解する上で非常に興味深い存在です。
つまり、「常連客は消費者ではなく共同制作者である」ということ。
絶メシの店では、常連客が単なる顧客以上の存在になっています。

毎日顔を出す人。
店主と世間話をする人。
初めて来た客に話しかける人。
こうした人々は料理に代金を支払い購入しているだけではありません。
店の雰囲気そのものをつくっている存在なのです。
もし常連客が誰もいなければ、その店は同じ店ではなくなってしまうでしょう。

つまり店の価値は、
店主×料理×顧客
の相互作用によって成立しているわけです。

サービス・マーケティングの文脈で言えば、顧客は価値共創者(Co-Creator)です。
絶メシは、店主一人で創っているのではありません。
顧客もまた絶メシを創っているのです。

弘前市に四代続く三忠食堂(津軽百年食堂のモデルとなった)
冬の日照時間が短い東北地方に生まれた「焼き干し」
(天日に干す時間が短いので焼くことにより出汁の旨味を引き出す)
を使った「津軽蕎麦」が名物


読売広告社の地域創生、販促企画
全国に三代百年続く食堂、百年続いて欲しい食堂、をリストアップ
青森県には十数店舗、点在している(画像:100年食堂HPより)

店はコミュニティへ進化する
 興味深いことに、長年営業を続ける絶メシの店では、顧客同士にも関係が生まれます。店主を中心に人々がつながり、小さなコミュニティが形成されていきます。
新しい客が来れば常連が歓迎し、
店主が体調を崩せば顧客が心配し、
閉店の危機があれば応援の声が集まる。

そこには単なる取引関係を超えた関係性があります。
私たちはこの現象を、サービスを媒介として形成された共鳴コミュニティと考えています。

料理はそのきっかけに過ぎません。

「食の場」(食場)で本当に交換されているのは、
安心感
共感
居場所
承認
といった無形の価値なのです。

絶メシの価値はメニューに書かれていない
 絶メシ研究を進める中で感じるのは、店の価値の大部分はメニューに書かれていないということです。常連客が求めているのは、
ラーメン800円やカレー900円ではありません。

その店で過ごした時間。
店主との会話。
いつもの客との再会。
変わらない空気感。
つまり価値の本体は無形の存在なのです。

サービス・マーケティングでは、こうした価値を経験価値(Experience Value)として捉えます。流行りの言葉でCX(カスタマ―・エクスペリエンス)とよばれているものに他なりません、
絶メシの店は、まさに経験価値の宝庫なのです。

なぜ閉店が惜しまれるのか
 もし価値がお皿の上の有形の料理だけにあるのであれば、レシピを残せばよいことになります
しかし実際にはそうなりません。
多くの人が惜しむのは、
味そのものではなく、
その店を中心に形成されていた関係性だからです。

絶メシが失われるということは、
一つのコミュニティが失われることでもあります。
ここに私たちの研究関心があります。

次回に向けて
絶メシを支えているのは料理だけではありません。
顧客との関係性だけでもありません。
そこには長い年月をかけて蓄積された無形の価値があります。

店の雰囲気。
安心感。
思い出。
地域とのつながり。
そして共有された時間。

次回は、こうした「見えない価値」はどのように生まれるのか、そして本当に継承できるのかについて考えてみたいと思います。

青森県弘前市でGWに合わせて開催される日本最大級の桜まつり
 約50種2600本もの桜が咲き誇る
三忠食堂はじめ地元の露店が多数出店し行楽客や地元の人たちで連日賑わう 
多くの観光客を迎える地元の人たちにとっては
誇りを感じ、自分のアイデンティティを再確認するイベントに違いない(画像:弘前市HP)

「津軽塗」は、青森県を代表する伝統工藝品 完成までに40~50の工程があり、
漆を塗っては研ぐを繰り返すので「馬鹿丁寧」にもほどがある、
その「馬鹿丈夫さ」から「津軽の馬鹿塗り」とよばれている
絶メシを想う気持ちに通じるものがある気がする

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