【掌編小説】『じいじ、それ飲みたいだけでしょ』〜蝉の声が、心に響くころ〜
「うるさい」から「いとしい」へ。
夏の音が、少しだけ気持ちをほどいてくれた。
【あらすじ】
真夏の昼下がり。
縁側に座る祖父と孫。ジリジリと鳴く蝉の声に、少女は「うるさい」と顔をしかめる。
けれど、祖父の語る“蝉の生き方”に、少女の心が少しずつ変わっていく――。
声にならない気持ち、誰にも言えなかった想い。
蝉の声と一緒に、小さな勇気が胸に響く——。
ジリジリジリジリジリジリ
ジリジリジリジリジリジリ
右からも、左からも、まるで目覚まし時計のアラームが鳴りっぱなしのように、蝉たちが声を重ねている。
「じいじ、うるさくない?」
そう言ったのは、小学四年生の夏帆。
麦わら帽子を押さえながら、縁側に置いた冷たい麦茶をじっと見つめている。
「うるさいかもしれんな。……でも、ええ音や」
祖父はそう言って、縁側に座ったまま、扇子でゆっくり風を仰いでいた。
「なんで? だって、テレビの音も聞こえないよ」
「うむ。聞こえんなあ」
「……でも、じいじ、笑ってる」
「そりゃあなあ。わしには、この音が“生きとる音”に聞こえるもんでな……」
夏帆は首をかしげた。
「いきとる……?」
「おう。セミの命は短い。地面の中で何年も眠っとってな、やっとこさ地上に出て、空に向かって鳴くんや。うるさいゆうより、“わしはここにおるでー!”って、一生懸命伝えとるように思えるんやな」
「……そっか」
夏帆はじいじの隣にちょこんと座る。蝉の声に、さっきよりも耳を澄ましてみた。
「ほんとだね。
……ねぇ、わたしの声も、だれかに届いてるかな?」
「届いとるとも。こうして、じいじには、ちゃんと届いとる」
「うーん……そういうのじゃなくてさ……」
夏帆は、麦茶の入ったコップを両手で包み込むようにして、ぽつりとこぼす。
「学校でね、声に出すと……なんか、変な空気になることがあるの。
だから最近、あんまり話さないの。
黙ってたほうが、いやな気持ちにならないから」
じいじはしばらく何も言わず、うなずくだけだった。
ジリジリジリジリ——。
蝉の声だけが、空の向こうまで鳴り響いている。
「けどな、夏帆」
「ん?」
「黙るんもええ。でもな、声にせんと届かんもんも、あるんや。恥ずかしくても、苦うても、せやからセミは鳴くんやで」
夏帆はじいじの横顔を見上げた。
「……じゃあ、わたしも“ここにいるよー”って、鳴いてみようかな」
「おお、ええやんか。まずは麦茶でのど潤してからやな」
「じいじ、それ飲みたいだけでしょ」
「……ばれてもうたか。
気ぃつくの早いなあ。感心やわ」
思わず、ふたりで目を見合わせて笑った。
蝉の声は変わらず、空を震わせていた。
だけどその騒がしさが、心にまでじんわり染み込んでくるようだった。
それはきっと、声にならない気持ちと、
静かに重なる何かが、そこにあったからかもしれない。
【あとがき】
子どもの頃は、蝉の声はうるさいな、とただただそう思ってました。
でもいつの間にか、その声がどこか切なくて、
耳に残るものになっていたんです。
この話は、そんな気持ちを思い出しながら書いたものです。
読んでくださって、ありがとうございました。
少しでも、なにかが響いていたら嬉しいです。
※この物語はフィクションです。空想の中で生まれた小さな物語。
制作にはOpenAIのAI「ChatGPT」を活用しています。
また、物語に添えたイラスト画像もAI技術を使用して制作しています。
もしどこかで似た表現や画像を見かけたら、どうかご無理のない範囲でそっとお知らせください。
静かに、大切に対応いたします。
