この話はフィクションです。
仕事が休みの日というのは大抵気持ちが良い。
ましてや平日、晴れの日なら尚良い。
その日、私は娘を自転車に乗っけて幼稚園へ送り「いってらっしゃい」と園門で手を振り別れたすぐからこの何の予定もない自由な平日の休日をどう過ごそうか考え、自転車に跨った。
天神にお買い物にでも行こうか、それともお豆腐屋さんから貰って冷凍したままの生おからで、いよいよおからパンなるものを作ってみようか。
でもまぁまずは、帰り道にある薬局にトイレットペーパーとキッチンペーパーを買いに寄らなければならない。
夫の尻のお眼鏡にかなったトイレットペーパーはその薬局にしか売っていないのだ。
そうやって軽いが嵩張るペーパー類を手に取りお菓子コーナーやお酒コーナーをフラフラした割に何も手に取らず会計を済ませ駐輪場で待っている愛車へ向かった。
そこで!
信じられないものを!
目にすることに!
自転車の後ろには子どもが座る用の椅子が備え付けてあるのだが、そこに置いていた子ども用ヘルメットの中になんと!
ゴミが投げ捨てられていたのだ。

私だって長年生きているので悲しいけれど、自転車のカゴやらにゴミを投げ入れられたこともある。
しかし、今回は私のビーマイベイビーのヘルメットにゴミを投げ入れられたのだ。
ただサワっと投げ入れるでなくご丁寧にヘルメットに入れているところがもう…もう……私の怒髪が天。
絶対に許せない。
この極悪非道のIQ3人間を、なんか、こう、どうにかしてやる。
怒りの気持ちでまずはゴミを手に取った。
幸い、というかゴミはビニールフィルムと紙である。
紙ゴミの方はレシートである。これは情報の宝庫であるから、しかと目を通す。
レジ通過の日時、9時31分。
今から7分ほど前である。
購入品、白岳 カップ 25° 200ml。
のみ。
そうビニールフィルムはこのカップ酒の封を開けた時のものだ。
つまりIQ3は、カップ酒のみを購入したあと、店を出ると間髪入れず封を開け、そのゴミをご丁寧に私のビーマイベイビーのヘルメットに突っ込み、歩き去ったのだ。
これは十中八九、歩きながら飲んどるな。
ここのドラッグストアは東西に出入り口があり、駐輪場に近いここは西出口。
そして通り沿いにあるこの駐輪場を抜けていく先は、駅。
普通の人間なら駅で飲酒はせんだろうが、自分の欲求を抑えきれないIQ3人間は構内のベンチでグビグビやってても不思議なし。
よし、行ってみっか。
そうして勢いよくペダルを踏み出したのに道中もベンチにもカップ酒を煽る者など居やしない。
おっかしいな。
全然怒りが収まらないので、その辺の通りを自転車で走る。
私は何をしているのか。
普通に買い物を終えて家に帰っていれば、丁度よいタイミングで終わるように回してきた洗濯機がピーピー音を鳴らし終わりましよ、と告げている頃である。
一刻も早く帰り、生乾き臭を発する前に洗濯物を干さなければならないのに。くそ、IQ3のせいで。
と、駅を少し通り過ぎちょっと古目の住宅が並ぶ通りを漕いでいると前方に飲み物らしき物を持ち歩く男性が見えた。
すいっとさり気なさを装い横を通り、抜かす時に私は確かに手中にあるカップ酒を見た。
ちょっとメーカーまでは確定出来なかったが、この気持ちの良い平日の朝にカップ酒を歩き飲む大人がそう居てたまるか。
私は司法を司っているわけではないので、疑わしきはさっさと罰していくスタイルでこいつを犯人と断定した。
見失っていた時間の割にドラッグストアからそう離れていない場所で見つけたので途中どっかに勝手に座り込んで飲んでいたのかもしれない。IQ3に「ベンチで座ってるかも」なんて常識お行儀は通用しないのだ。IQ3の行動を推理しなければならないというのに、私はまだまだ常識の殻を破れていない。
意外というか、IQ3人間はスーツを着ていた。凄くだらしない着こなしだけど、足取りはしっかりしている。あと結構でかく太い。体が。
本来ならば「忘れ物ですよ」と追いかけ直接あの手にゴミカスを握らせればスッキリもしようが、あいつに体当たりでもされたら歩道を突き抜け車道にまで飛ばされかねない。ちょっと怖ろしい。
通りをぐるっと戻って再びIQ3の後方に付き、どうしようか迷ってそこのローソンに乗っている自転車を停めた。特に嵩張るトイレットペーパーは後ろの子ども用椅子に入れ込み盗難防止の気持ちでカバーで隠し、収納しきれないキッチンペーパーだけを手に取り後をつける。
自転車にはマンション名の入った駐輪ステッカーが貼ってあるので万が一にも敵に私の情報が知られるのを防ぐ為と徒歩のIQ3を自転車でノロノロ追うのは怪しすぎるので。
暫くもしないうちにIQ3は薄ピンク色をした屋根を持つ白壁のアパートの2階、階段を上がりきった右から2番目の部屋へと入っていった。
オートロック等付いていないアパートなので一階の部屋に付けてあるナンバープレートを見て確認すると並び的にIQ3の部屋は202だろう。
スマホでIQ3の入っていった建物の物件名を検索して間取りや家賃等を検索しようとしたが、空きがない為か情報は出てこなかった。
何の為、ということはないがまぁ、何となく。家族構成や大体の収入が分かるかな、と。重ねるが知ることに何の為、ということはないがまぁ、何となく。
と、ここまで来たらなんだかもうする事もなくなったので集合ポストの202号室の所に握ってきたカップ酒のビニールフィルムのゴミを突っ込んで帰った。
IQ3がもし警察関係者で指紋採取とか出来たなら、何年か前に落としたスマホの受け取りに交番で押した私の拇印と照合して身元が割れるかもしれないが、その確率は少ないと思う。
ちょっと考えてレシートの方は持ち帰った。
もしどうしてもまだ怒りが収まらなかった場合あのドラッグストアにパートで入って不正に顧客情報にアクセスしてIQ3の氏名等をあぶり出そうと思うから。
IQ3が捨てたと思っているレシートには奴の会員番号もちゃんと記録されてあるので、知れることは沢山ある。

クーポンを使っている。
ここのドラッグストアはよく買うものにクーポンが出るのでIQ3はよくカップ酒を買っているのだろう。
ゴミのポイ捨ても歩き飲みも常習かもしれない。
私もまたよくあのドラッグストアを自転車で利用する。
次、またこの会員ナンバーのレシートが私の自転車に投げ込まれた時は、そうその時は。
私は奴の家までは知っている。
この話はフィクションです。
いいなと思ったら応援しよう!
気に掛けてもらって、ありがとうございます。
たぶん、面白そうな本か美味しいお酒になります。