愛知県陶磁美術館『茶の饗宴』展・揃い物
今回、五回にわたって記事を書いてきた企画展は、昨日(五月十七日)までで終わり。でも所蔵品中心の展示でしたので、今後も鑑賞の機会は多いかと思います。
ただ、前回の煎茶道のあつらえのような演出は、なかなか出会えないかもしれません。この企画展のオリジナルと言えば、茶席での道具立て以外にも、収納の様子など貴重な展示がありました。
大切にしまわれる茶道具たち
見出し画像は、いろいろな茶道具を収めた木箱と布の袋。木箱の表や蓋の裏などには、何焼きの何であるとか、その銘をつけたのが誰であるとか、今までの所有歴などが記されています。

詳細はよく分からなかったのだけど、コレたぶん茶入ひとつに使われる箱と、包む布。
名品の箱には、所有者の名前が入っているから、それ自体が品物の由来を証明する価値あるものなので、新しく手に入れた人は、さらにそれを入れ物にいれる。そうやって、人の手から手に渡るたびに、入れ物が一つ増える、というお話。
モノは織部茶入、と書かれているから、実物は拳ほどもあるかないかの、陶の茶入なのだろう。それが布に包まれ、漆塗の筒に納められ、さらに包まれ、箱に入れられ……
名高い品物を包むのだから、布も良い物だ。この展示には「タイ・デーン族の浮織絣」「二重蔦中牡丹唐草宝尽緞子」などと、渡来した布や、古裂と呼ばれる古い時代の布などを使っていることが示されている……こういう袋を、仕覆というらしい。後ろには「替帒」と書かれた箱もあるので、別途保管されるほどのものなのだろう。
野点の道具揃い

(奥左から)『蒔絵青貝誰が袖図茶箱』『蒔絵扇文三段重箱』
(手前左から)『蒔絵梅椿図硯箱』『「福寿」字茶碗』
『八角茶入野山走』『肩衝茶入』『菊蒔絵棗』
『蒔絵花菱七宝繋ぎ文茶杓』『茶筅・朱塗蒔絵秋草文茶筅入』
『七宝唐草文巾筒』『屈輪香合』
抹茶のお茶席に必要な道具が、この茶箱でそろうようになっています。それぞれの道具が包まれていた袋もあって、最初からセットで作られたものかと思います。
八角の茶入れに『野山走』なんて言葉が書かれているので、実際に野外で使われるものなのかな? 蓋には立ち雛の絵。桃の節句? でも棗は『菊』なので重陽の節句? 『梅椿』と『秋草』があるので、季節は問わないのかな。具体的な人物を見せない『誰が袖』に『扇文』なので、源氏絵と見てもいいし、他の物語や歌仙に思いを馳せることもできる。
どんなシチュエーションにも応用できるから、どんな場所にも持っていける……それを意図して作られたセットなのでしょうか?
野外で楽しむティーセット

紅茶の場合は、逆にシンプルにすることで、どこにでも持っていける、どんなシチュエーションにも合わせられるようしている。そう考えていいのかな?
箱の真ん中が、妙にメカっぽいけど、使い方がよくわからない……これひょっとして、アルコールランプかな? コンロになってる?
カップが、まるでキャンプ用のマグみたい。真四角なケトルや、ボトルもそれっぽい。こういう、機能オンリーなデザインって、いつ頃からあったんだろう?
煎茶も野点って言うのかな?

景徳鎮窯『青花花卉文角形巾筒』清時代
中国『七宝花文筒形巾筒』清時代
中国『錫六角風宇式茶心壺』清時代
中国『班竹茶合』清時代
景徳鎮窯『青花楼閣山水文台形巾床』清時代
景徳鎮窯『青花歳寒三友茗碗』清時代
日本『木製木瓜形托子』江戸後期~明治時代
中国『青磁湯冷』清時代
宜興窯『紫砂茶銚』清時代
不詳『陶製手鏡形銚座』
お湯は別に用意するのかな。水指も湯沸も炉もない。その代わりに、手巾を入れる筒だの台だのが三つもある。湯冷もこれまで出てこなかった……「銚座」も他には無かったかな? この茶銚、よっぽど熱くなるのかしら。だから手巾もたくさん必要だったりするのかな?

福建省『白泥湯罐』清時代後期
景徳鎮窯『青花人物文茶心壺』清時代末期
中国『班竹茶合』清~中華民国時代
日本『青貝牡丹文器局』明治時代
初代三浦竹泉『染付桃樹文水注』明治時代
(手前左から)中国『錫双龍文茶托』清時代
亀井半二『赤絵金彩龍鳳文煎茶碗』江戸時代後期
十二代永楽和全『金襴手茶銚』江戸時代後期
茶席には、絢爛たる金襴手茶銚、龍と鳳凰が舞う茗碗を用い、神仙世界を構築しています。「染付桃樹文水注」を桃源郷に、茶心壺に描かれた女性を不老不死の仙桃を持つ女神「西王母」に、そして二千年前の漢代に作られた「緑褐釉温酒尊」を火炉、蓋を西王母が住む崑崙山に見立てました。
煎茶の醍醐味である「見立て」と「古器愛玩」に焦点を当てた席です。
「尊」は、漢代の酒を温める容器。炉として火を焚いて、湯罐でお湯を沸かすような使い方ができるかどうかは、ちょっと分からない。尊の横に描かれているのは、山並みの上を飛ぶ龍。横に置かれたその蓋は、切り立った山の形。
崑崙山には「瑶池」という池があり、そこには玉が水になって満ちている、という伝説があるそうです。この湯罐に満ちる水は、そんな神仙の泉に見立てられているのでしょうか。
水注は桃の樹の文様。桃は仙境に実る果実というのは、古事記でも西遊記でもおなじみの話。茗碗も茶托も、龍尽くし。茶銚の金襴手も、まるで霊芝雲のようです。全てが仙境を思わせる道具立て。
煎茶道について思うこと
お茶の道具が、すべて物語に因んだものになっているだけでなく、そこに掛け軸が加わります。周辺のアイテムで強化するのは、お抹茶と同じですね。

山本梅逸の『通天紅葉図』は、煎茶中興の祖・売茶翁がかつて茶を振る舞った京都・東福寺通天橋の秋景であり、煎茶の原点への敬意を示しています。
煎茶道については、今までほとんど知りませんでした。前回、漢詩との関りを色々と思いめぐらしていましたが、このお軸のように、絵画との関りも調べていくと、色々と面白そうです。
江戸末期の旦那衆が担い手だったようなので、落語などの芸能や、浮世絵などとも、調べれば色々出てきそう……楽しみだなあ。
