「社会と接続するエンタメを作りたい」振付演出家・竹中夏海がコント歌劇団を手がける理由
振付演出家の竹中夏海が企画・演出・プロデュースするコント歌劇団「紫芍薬歌劇団(むらさきしゃくやくかげきだん)」。その旗揚げ公演が、6月7日、北沢タウンホールにて開催される。
「歌って踊って、笑い飛ばす」をスローガンとする紫芍薬歌劇団は、女性の芸人、元アイドル、ミュージシャン、DIVAを中心に、公演ごとに座組が変化していく「出入り自由」なコント歌劇団。その構想は2023年末ごろから始まっていたというが、なぜ今“コント歌劇団”を立ち上げるのか。
旗揚げ公演に至るまでの過程、そしてそこに込められた思いに迫った。

振付師という仕事の葛藤から生まれた「紫芍薬歌劇団」
――「紫芍薬歌劇団」の旗揚げ公演まで、約1ヶ月。2023年末には構想していたとのことですが、なにがきっかけでコント歌劇団を作ろうと思ったのでしょうか?
私が振付師という仕事に限界を感じていて、ちゃんと自分の考えが反映された場所を作っていかないといけないな、作りたいなと思ったのが始まりでした。

――限界を感じたのはなぜなのでしょうか?
振付の仕事は、既にある楽曲に対してダンスをつけていくものですが、時には自分の考え方や価値観と距離のある曲にも向き合わなければならないことがあります。そうした場面での葛藤は、これまでずっと感じてきました。
それがより色濃くなったのが、TBSでポッドキャストを始めたことでした。自分の言葉を定期的に発信する場所ができて、近い価値観のリスナーさんが増えて。その中で、振付をした楽曲に対して、これまで私ひとりが抱いていた違和感や疑問を、いまは一緒に感じ取ってくれる人たちがいると実感したんです。それでより、「私は自分が心底良いと思えるものをゼロから作らなきゃいけないな」と思うようになりました。

――なるほど。たしかに依頼されて、作るという仕事である以上、そこに自分の信条とのギャップが生まれることってありえる話ですよね。
振付の仕事も楽しいので辞めるとか、そういう話ではないんですけどね。
「ここは宇宙です!」って言えば、宇宙になる――コントのおもしろさ
――その表現方法を、コントという形にしようと思ったのはなぜだったのでしょう?
コントってごっこ遊びに似た魅力があると思っています。たとえば映像作品だと、大掛かりなセットを組まなければ成立しないような時代設定でも、コントなら最小限の要素で成立する。

これは友人の作家が言っていたことですが、小説って「二万人の兵」と一行書けば成立するんですよね。
その面白さが、コントにもあると思っていて。表現と観客の想像力、その相互作用に惹かれたのだと思います。
ただ、私がいきなり「コントを作る」と言っても、少し唐突に聞こえてしまうと思って。外から見たときに、より多くの人が納得しやすい形は“歌劇団”なんじゃないかと考えました。コントに音楽の要素を足すことで、より見やすく、入りやすいものにしたいと思ったんです。

――脚本協力として、福田麻貴(3時のヒロイン)さんも入っていますね。竹中さんの構想に乗ってくれる仲間は、どのように見つけていったのでしょうか?
これはもう、ほぼ桃太郎と同じです。2023年末に歌劇団の構想を思いついて、2024年には一度「おもカワ~アイドルコントバトル」という舞台を企画/プロデュースさせてもらったんですが…。その時に「きちんと自分の座組を作らなきゃ」と実感して、当時友人になったばかりの大島育宙さんに相談したんですね。そしたら一言、「福田麻貴さんだと思います。」とスパッと言ってくれて、2025年の春にはご縁を繋いでくれました。そこからひとりずつ、作家の斉藤ほのかさんや制作のスラッシュパイルなど、気付けば理想的なメンバーに囲まれていました。きび団子もないのに……。

――2年かけて集まった仲間たちによって、いよいよ形作られるわけですが、竹中さんとしてはボルテージが上がっている状態ということでしょうか?
そうですね!稽古をやるのはもう少し先ということもあって、まだ全体像が見えず不安な人も多いと思うのですが(笑)、私はずっと「視えて」いるので大丈夫です。

「知らない間に社会と接続してもらいたい」
――旗揚げ公演を観にきた方からは、どのような感情を抱いてほしいと思っていますか?
感情は観客の皆さんの自由なのですが、知らないうちに社会に接続できる体験をして貰えたらいいなとは思っています。
普段そこまで社会的なテーマに関心がない人でも作品を楽しんでいるうちに、この地球の平和を本気で願っていた——そんな“アハ体験”を作りたいですね。
あとは、お笑いやエンタメが好きなのに、安心して笑えないかもしれない、とどこかで身構えてしまう人たちのためのセーフティスペースにもしたいと思っています。手作りの『ウィキッド』を、やります。

――少し先の話にはなりますが、旗揚げ公演を経て、どのようなコント歌劇団になっていきたいと考えていますか?
年に2回ほど、定期的に続けていきたいと思っています。ただ、固定された座組で、お客さんも疲弊してしまうような“推し活”的なムードとは距離を置きたくて。出入り自由な、地域の公園のような場所にしたいですね。
――いわゆる推し活のようなことをしていると、当たり前のように買い続けなきゃ、行き続けなきゃ、追い続けなきゃと思ってしまいますが、出入り自由というのはそれだけで心理的安全性が高いなと感じました。
私は昔から「アイドルのプロデュースすればいいのに」と言われ続けてきたんですが、誰かの人生を長く拘束してまで、メンバーに本当に有意義な時間を提供できるのか──という葛藤がずっとありました。そんなものすごく責任が必要なこと、とてもじゃないけど私にはできない。
今回の歌劇団は、いつ出てもいいし、入ってもいいし、また戻ってきてもいい——演者にとっても“公園”のような場所でありたいと思っています。
理想としては、国際女性デーのある3月と、国際ガールズデーのある10月に、毎年定期的に公演を続けていきたいです。

【リーズンルッカ’s EYE】竹中夏海を深く知るためのQ&A
Q.最近のハマりごとは?
最近の作品ではないのですが『Younger/ライザのサバヨミ大作戦』にハマっています。『虎に翼』の脚本家の吉田恵里香さんがおすすめしてくれて見始めたのですが、すごく軽い気持ちで見やすくて。ずっと見ていますね。
Q.この夏したいことは?
今年に限らず、毎年なのですが青森のねぶた祭りを見に行きたいなと思っています。ねぶたが大好きなんです。特に女性初のねぶた師の北村麻子さんを推していて、今年も絶対に見たいなって思っています。ついでにちょっと足を伸ばして、函館にも行きたいな。いつかねぶたの仕事がしたいです!
<編集後記>
本来、楽しい気持ちになりたくて見始めていたエンタメで悲しくなった経験がある。昔大好きだったコンテンツを見返したときに「なにがおもしろかったのだろう」とすぐに停止ボタンを押してしまったこともある。それは、社会がどんどんとアップデートされてきたからだろう。そんなアップデートし続ける社会の中で、竹中さんがどんなエンタメを発信し続けるのか。そして、それがどんどんと作り手、演者、見る側の意識に何か刺激を与えるのではないかということが楽しみになった取材だった。
<マネージャー談>
本人から「紫芍薬歌劇団」の企画内容を聞いたときに、マネージャーとして、これは実現したい、実現させてたくさんの人に届けたいと思いました。最初は二人三脚で実現に向けて必死に動いておりましたが、本当にたくさんのご縁が繋がり、6/7(日)にようやく実施できるというところまで来られました。これから本番へ向けてラストスパート、当日来てくださった方々が「笑い飛ばせる」素敵な空間を竹中夏海が作っていますので、是非楽しみに待っていてほしいです!
<チェキのサインや撮影の様子はこちら!>
https://youtu.be/Q4xWnGlYhNg
【プロフィール】
竹中夏海(たけなか・なつみ)
1984年、埼玉県生まれ。様々なアーティスト、広告、テレビ番組の振付演出家として活動。Podcast番組「Y2K新書」「我々は安心してエンタメが観たい」(TBS Podcast)などのパーソナリティも務める。
「紫芍薬歌劇団」
女性の芸人、元アイドル、インフルエンサー、ミュージシャンなどが集い、公演ごとに座組が変化していく“出入り自由”なコント歌劇団。
旗揚げ公演は、6月7日(日)に北沢タウンホールにて開催。
取材・文/於ありさ
撮影/SHUN ITABA
