見出し画像

青森うまいもの食べ過ぎ紀行〈ディレクターズカット版〉

〈1日目〉

今日から2泊3日で青森へ。

2日目に奥入瀬渓流のガイドツアーを申し込んでいる以外、特に観光の予定はなく、唯一、食事だけは朝・昼・夜・おやつと入念に計画を立ててきた。臨時休業などの万が一に備えて、補欠リストも用意。

かつての私なら、旅行といえばアートを欠かさず、青森県立美術館やら何やらに嬉々として足を運んでいただろうに。

今やそれら全てをスルーして、ただ食べに行く私。

食事を詳細に記録するわけでも、さしたる味覚を持っているわけでもない。
そこらへんにある水たまりのような、ただの雑食系食いしん坊女の旅である。


10時18分、東京発。

青森到着まで何も口に入れまいと固く誓って乗り込んだものの、発車早々、隣の女性がカツサンドを食べ出すのを見ていきなり動揺する。

鼻にまとわりつくソースの匂い。
うめき声をあげる腹の虫。

ダメ、絶対。

ペットボトルのお茶で腹の虫をお茶責めにし、車窓から見える雲の形が何に見えるかゲームで一人、気を紛らしながら過ごす。


車内販売の誘惑を何とかかわし、13時30分、新青森駅着。

奥羽本線に乗り換え、次の青森駅で降りる。

ひとまずホテルにチェックインし、身軽になったところで、目をつけていた「大もりや」という郷土料理店へ急ぐ。

ネットには通し営業とあったものの、暖簾のかかった引き戸を開けると、店主らしき高齢の男性が奥の椅子で休んでいるのが見える。

昼時をとっくに過ぎてノコノコやって来る迷惑な客にはなりたくなかったが、ここで遠慮すれば私の腹の虫がいよいよ餓死してしまう(むしろその方がいいのかもしれないが)

やって…ますか?と恐る恐るたずねると、どうぞどうぞと快く迎え入れてもらえ、カウンターに無事着席。

記念すべき青森第1食目。
「ここは豪勢にいこうじゃないか」という腹の虫からの提案に従い、2900円のむつ湾御膳を注文 。

刺身三種に貝焼き味噌、ホタテの姿焼き、寿司2貫、水ダコ?の和え物…狭いカウンターがみるみる竜宮城のようになっていく。

ふと、斜め前のテレビに目をやると、ワイドショーがどこかの殺人事件を正義感たっぷりに取り上げていて、まるで遠い国の話を聞いているような気分になる。

ここには誰が悪いも正しいもない、あるのはただ「美味しい」だけだ。

腹の虫から「これ以上はさすがにちょっと…」という声が聞こえ始めた頃、最後の味噌汁を飲んで完食。
一体どこまでが基本セットで、どこからがサービスだったのか。
とにかく予想以上に品数が多くて、1食目から大・大・大満足。
礼を言って店を出る。

歩き始めてすぐ、スマホ片手に夕食のプランを練り直す。

この腹の膨れ具合を考えると、夕飯はかなりずれ込むことになりそうだ。
となれば計画変更。
明日の朝は早いし、今夜は部屋で食べよう。

と、補欠リストにあった、カツサンドが美味しいという精肉店に目が止まる。

カツサンド…今朝、新幹線の中で見たのは何かのお告げか?

脳内のカツサンド指数がみるみる上昇していく。

よし、売り切れないうちに今すぐ買いに行こう。


駅から少し離れたところにある「こうさかや精肉店」は、だいぶ年季の入った味わいのあるたたずまいで、店主のおじさんは七福神の8人目になれそうな素敵な笑顔でお相手してくれた。

こんな風に、旅先で交わし合う一期一会の笑顔が、私はたまらなく好きだ。
お互い、実際の顔なんてきっとすぐに忘れてしまうけど、温かなエネルギーはいつまでも心に残る。

無事にお目当てのカツサンドをゲットした後は、翌日のガイドツアーに持参する昼食用のパンを求め、再び駅前へ。

行きは「新町通り」という巨大なアーケード街を歩いてきたが、帰りはその一本隣の道を通ってみる。

県庁や警察などが建ち並ぶエリアを過ぎ、美容院や八百屋、居酒屋、コーヒーショップ、インド料理屋など新旧さまざまお店が肩を寄せ合う中、「工藤ほたて専門店」なる看板が目に入り、思わず足が止まる。

さすが青森。そんな最高すぎる専門店があるのか、と中をのぞき見ると、殻つきのホタテが山積みになっており、その隣には透明なパックに入ったむきホタテも見える。

ぅぉぉおおおお…‥
そういえば、お昼の御膳にはホタテの刺身はなかった。
食べたい…が、いかんせん今は腹が膨れ過ぎている。
後ろ髪をぐいぐい引かれながら、目的地のパン屋を目指す。

駅近くの「三ッ星製パン」にて吟味に吟味を重ね、白菜ときのこのシチューグラタンパンとクロワッサンを購入。
むふふ。
これで明日は、渓流を見ながら美味しいパンが食べられるぞ。


パンがつぶれないよう細心の注意を払いつつ、今度は海沿いにある「アスパム」という観光物産館へ。

前から食べてみたかった南部せんべい「胡麻新月」や、初対面の気になる逸品をためつすがめつカゴにイン。

カツサンドのお供にと、ノンアルコールのスパークリングアップルも買った。

買い物が終わり、館内をひと回りしていると「Sweet Factory pampam」というアップルパイ専門店が目に止まる。

旅行中、1つは食べたいと思っていたアップルパイ。

本当は近くの「林檎の木」という店でハート型のアップルパイを食べるつもりだったが、この店にも似たようなハート型がある。
これはもしや…。

いったん店を離れ、改めてスマホで検索。
やはりこの店は「林檎の木」の系列であった。

食べるなら今じゃないか?

腹の虫からの頼もしい一言に後押しされ、ハート型のパムパムアップルを購入。
施設の2階にある海の見えるベンチにて実食。
フレッシュなリンゴの食感に、本当に青森に来たんだという実感が湧き上がった。


ホテルに帰着後、今夜飲む水がないことに気付いて再び外へ。

ホテルにもペットボトルの水が用意されていたが、これは明日のツアー用にとっておきたい。

と、水を求めてスーパーを探す道すがら、ふと迷い込んだ商業施設でクレープ屋のメニューに目が釘付けになる。

生もちクレープ「とろける自家製北海道クリーム」

な、なんだ!この胸の鼓動は!
青森に来といて“北海道”にときめくなぞ不届き千万だが、“自家製”となると話は違う。
何を隠そう、私がこの世で一番好きな言葉は“自家製”なのだ。
しかも、生もちクレープにとろけるクリームだと!
言葉の色仕掛けが凄すぎて目が回りそうだ。

とはいえホタテ同様、今夜はモームリ。
明日の夜、歩き疲れた体にこのクレープを投入しよう。


水を買ってホテルに戻り、お腹が空くのを待つ。
アップルパイの追加発注があったので、これはまだ当分かかるだろう。

ベッドに寝っ転がりながらテレビをパチパチ。
が、特に観たいものもなく、青森ケーブルテレビでやっていた市内各地のライブカメラの映像をボーッと観続ける。

20時を回ったあたりで、ようやく腹5分目に。
そろそろ夕飯を食べねば、今度は明日の朝食(ホテルのビュッフェ)にさしつかえる。
冷蔵庫からスパークリングアップルを取り出し、カツサンドもオープン。
手作り感あふれる見た目にほっこりしつつ、まずは一口。

お、おいしーーー!!!

お肉もパンも柔らかさが揃ってて一体感があるし、ソースも気取らない味でいい。

お供のスパークリングアップルもなかなかの美味。

明日は何かしら飲酒がしたい。

入浴後、枕が変わると眠れないくせに無理やり目をつぶる。


(暫定的に)就寝。


〈2日目〉

6時15分起床。
胸を高鳴らせつつ早速、会場のレストランへ。

ん?ビュッフェって、こ、これだけ?

思っていたよりも種類がない。

しかも食べたいものがあんまりない。

うーん、どうしよ、青森名物のバラ焼を多めに取って、これでご飯を食べるか…。

不完全燃焼気味で席に着き、改めて店内を見渡すと、反対側の左奥にさらなるビュッフェエリアが!

しかも、その手前にはパンや飲み物、デザートコーナーまで抜かりなく用意されている。

私としたことが、こんな初歩的なミスをするなんて…!

皿を手に再び席を立ち、一つ一つの料理を品定めしながら盛っていく。

まぐろなどをのせてミニ丼にできるコーナーもあり、さっきのエリアでご飯にカレーをかけてしまった自分を悔やむ。

仕方ない、もう一杯ご飯をよそって丼にしよう…。

思わぬ展開で、皿の上がだいぶとっちらかってしまったが、食べる前に気付いたのが、せめてもの救いだ。

いざ食べ始めてみると、大量に盛ってしまったバラ焼は思っていたより薄味で油っぽくなく、リンゴの入ったカレーもフルーティで美味。
どの料理にもそれなりに青森感があり「これはこれでナイスチョイスだったよ」とさっきまでの自分をねぎらう。

最後、残しておいた丼を混ぜ混ぜ。
まぐろにとろろ、いかの塩辛、筋子…
あぁ…し・あ・わ・せ…
もう一杯いきたいところだが、これ以上食べると今度は歩けなくなりそうなので我慢する。

りんごジュースを飲んで退席。


集合時間までまだ1時間ほどあったので、ゆるゆると支度しつつ、昨日と同じライブカメラの映像を観る。

昨夜、森の黒い影しか見えなかったゴルフ場の映像には、明るくなった木々の向こうに街並みが見え、車がひっきりなしに行き交うどこかの交差点も、遠くの風景までよく見える。

新しい1日が始まっている。

さあ、そろそろ集合時間だ。


迎えの車に乗り、1時間半ほどで奥入瀬渓流のビジターセンターに到着。
そこから路線バスで少し移動した後、十和田湖に向けて約9kmを歩き始める。

足元の小さな植物も見逃さず、丁寧に説明してくれるガイドさん。
普段なら「緑」でひとまとめにしてしまう植物たちにも、それぞれの生き様や個性があることを改めて気付かされる。

私たち人間も、木々や植物たちのように共生できたらいいのにね。

半分くらいまで来たところで、待望のランチ。
渓流沿いのベンチで持参したパンを食べる。
むふふー。
正解正解、最高最高。
クロワッサンもグラタンパンも私好み。
ガイドさんからリンゴの焼き菓子ももらい、さらにテンションが上がる。

ルートの後半は、見応えのある滝が右に左に次々と現れ、奥入瀬ならではの渓谷美を堪能する。

木々の間から水面が見えてくると、徐々に視界が開け、無事に十和田湖到着。
予報では午後は雨模様だったけど、結局降られることはなかった。

帰りの車中、ガイドさんが近くのオススメのお寿司屋さんを教えてくれる。

「そうなんだーーー」

そう返した私の声は、自分でもわかるくらい空々しかった。

決死の生返事でその場を凌ぐしかなかった。

なんせ私はすでに決めていたから。今夜何を食べるかを。

ただ、この青森愛あふれるガイドさんには、それが何かを口が裂けても言えなかった。

青森来てそれ食べんの??とガッカリさせたくなかった。

なぜなら、私が今夜食べるのは“アメリカ料理”だったから…。


ホテルの前まで送ってもらい、礼を言って別れる。

部屋に戻り、街歩き用の上着に着替えていざ、今夜の目的地「Stripe's Deli」へ。

ここは自家製のパストラミビーフをはさんだ「ルーベンサンド」と、スパイスで味付けした鶏肉や野菜がご飯の上にのった「チキンオーバーライス」が人気のお店。

引き戸を開けると、ご夫婦と思われるお若い二人が笑顔で迎えてくれる。
他に客はおらず、通された2階席のテーブルで、改めてメニューを確認。

ルーベンサンドにも心惹かれるが、今日はお昼がパンだったゆえ、夜はご飯が食べたい。

ぅわあああ、シュリンプオーバーライスも気になるぅ…

どーしよどーしよ、と焦っているところにお水が運ばれてきたので、初心貫徹でチキンオーバーライスのSサイズを注文。

初めてなら、と勧められたヨーグルトソースをチョイスし、ついでにマッシュポテトもつけてもらう。

本来ならMサイズでがっつりいきたいところだが、私にはこの後、生もちクレープ「とろける自家製北海道クリーム」の予定が入っている。

ここで腹を満たしてしまったら、元も子もないのだ。

にしても、このチキンオーバーライス、食べ終わるのが惜しいくらいに旨い…。


会計を済ませ「美味しかったです!」と心の底から伝えて店を出る。

さあ、いよいよ今夜の本丸だ。

いやー、クレープなんて何年ぶりだろ?

小走りで昨日の店に向かい、注文と引き換えにブルブルマシン(あれ、なんて言うの?)をもらう。

ソワソワソワソワ。
店内を見やりながら、今はどの工程だろうかと想像しながら待つこと数分。

わっ!ブルブルした!

キャーーーーーッ!

いっっただきま〜す!!


………………ハッ!


いつのまにか食べ終わってる………!


プリーズ!ワンモアクレープ!と叫ぶ腹の虫を理性で黙らせ、再び青森の街を歩き出す。

よし、次は飲酒だ。
目をつけていたバーに行ってみよう!

と、店の前まで行ってはみたものの、外からのぞきこんだ店内は白を基調としたオシャレな雰囲気。
カウンター席に座る自分を想像しただけでいたたまれなくなり、そのまますごすごと退散する。

仕方ない。これから店を探すのも面倒だし、今夜は部屋でご当地ビールだな……
と、昨日水を買ったスーパーに行ってみたところ、それらしきものが見当たらない。

その時点で物産館の「アスパム」もすでに閉店しており、頼みの駅ビルには地酒ばかりでビールがなかった。

うわー、詰んだ。

まさかコンビニにはないよね、と入ってみるも、あえなく撃沈。


肩を落として部屋に戻る。

昨日、アスパムで買った「胡麻新月」をつまみに、ヤケ水を飲む。

BSで六角精児の呑み鉄本線を観るつもりでベッドに入ったが、番組が始まる前に気絶。

(強制的に)就寝。



〈3日目〉

昨日に引き続き、6時15分起床。

早いもので最終日。
今日は、今回の青森旅行のハイライト「青森魚菜センター」で朝ごはん。

色んなお店で好きな具材をのせてもらって自分好みの丼を作るという、テレビでよく見るアレである。

普段は世間のはみだし者として生きている私だが、ここはいっちょ、ミーハー心まる出しでザ・青森を堪能してみたい。

しかも、この後の予定を考えると、青森でのまともな食事はおそらくこれが最後になると思われ、腹の虫ともども気合いが入る。

さあ、はりきって行こうじゃないか。


店に着くと、どの店も準備を始めたばかりといった感じで、ネタの入った小さな容器を手際よく店頭に並べている。

ネットでは、最初に一通り見てから決めた方がいい、とあったので、中トロはこっちの店だな、とか、ここの卵焼きは外せないな、などと胃袋会議をしながらブラブラ。

気付くとチケット売り場にすでに行列が出来ており、あわてて最後尾につく。

チケットは12枚綴りで、それぞれの店舗でネタと引き換えるシステム。
まずはご飯に1枚使い、いざ出陣。
さて、残りの11枚をどう振り分けるか。

まずは目をつけていた卵焼きが有名なお店へ。

が、よくよく見ると他にも魅力的な具材が目白押しで、制御不能に。
口が勝手に動いてしまい、当初の予定にはなかった子持ちヤリイカとニシンの飯寿司がいきなり入丼する。

うわー、でっかい数の子、美味しそう…!

その後も目移りは止まらず、収拾がつかない状況に。


おいおい、卵焼きはどうした?
見るに見かねたのか、腹の虫が言う。

だよね、やっぱコレは食べておきたいよね…
何とか冷静さを取り戻し、改めて卵焼きを追加。
チケット3枚を消化する。


その後は順調にホタテ、大トロ、中トロ大盛り…と入丼させ、チケットは残り1枚に。
さーて、どうするか。
イクラもいいけど、やっぱ筋子かな。
昨日ビュッフェでも食べたけど、もう少し追加しておきたい。

完成したマイ丼を手に、空いている席に座り、ほな、いただきまっせ〜と箸を入れたところで珍しく写真に残しておきたくなり、この旅唯一の料理撮影をする。


はぁーーーーうまい…
どれもこれもいちいちうまい。
うまい、うまい、うまい。

日頃、良識ある大人として、食事中の独り言は控えているものの、ここでも口が勝手に暴走し、思わず「美味しい…」とつぶやいてしまう。

その後も次々と押し寄せる「美味しい」の処理が追いつかず、つい、斜め前に座る出張ビジネスマン風の男性を見ながら「ね?美味しいよね?」と心の中で語りかける。

これで実際に声をかけるようになったら、私もいよいよだろう。


チケット購入の列に並ぶ人々をうらやましく眺めながら、店を出る。

いいなあ…私もまた、ここから始めたい…。


引かれる後ろ髪をスッパリと切り捨て、次の目的地へ。


駅近くの「アウガ」は、上の階に図書館や市役所、地下に市場というユニークなつくり。

なかなかタイミングが合わず、足が運べずにいたが、今日ならゆっくり見て回れそうだ。

エスカレーターで地下に降りる。

さすがに時間が早すぎるのか、客らしき姿はほとんど見当たらない。
店の人たちも来たるピークタイムに備えて体力温存といった感じで、場内全体にのんびりした空気が漂っている。

そんな中、珍味や乾物を扱う店員のおばちゃんから「ほら、食べてって」と呼び止められ、えーなになに?と、しっぽを振りながら近寄っていく。

オリジナルだという“ホタテチーズ”を皮切りに、次々と差し出されるおすすめ珍味の数々。

おいしいねぇ…うん、これもいい…うんまーい…


「青森はホタテがいなくなっちゃってねぇ…」
おばちゃんが残念そうに言う。
「え?なんで?」
「去年さ、みんな、病気で死んじゃったの、原因不明。」
「えーーっ⁉︎ じゃあ、今売ってるホタテって…」
「北海道産じゃないかな」

そうだったのかぁ…
でも、まあ、鈍感な食いしん坊の私からしたら、青森産でも北海道産でも、正直ありがたみは変わらないかなぁ…とも思ったが、もちろん言わずにおいた。

お相手してくれたお礼も兼ねて、最初に食べて美味しかった「ホタテチーズ」を購入。

地上に戻り、再び歩き出す。

さて…まだ他のお店は開いてないし、よし、行くか。

と、向かったのは1200年以上の歴史があるという青森総鎮守「善知鳥(うとう)神社」。

市街地のど真ん中にある境内には、パワースポットだという湧き水“龍神之水”や、弁財天が祀られた浮き島のある池があり、いかにも神域らしい静けさが満ちている。

挨拶が遅れたことへのお詫びと、いい旅をさせてもらったことへの感謝を述べ、俗世に帰る。


いやー、それにしても丼のホタテ、うまかったなー。
ホタテが一番うまかった。
次が卵焼き。

ホタテ、もっと食べたいな……

ん?ホタテ?

脳内に突如、一昨日見た「工藤ほたて専門店」が浮かぶ。

こんな時間にやってるかなー?

Googleマップで確認すると、一応“営業中”になっている。

よし、行くだけ行ってみよ。
ホタテ🎵ホタテ🎵ホタテ🎵ホタテ🎵


到着すると、シャッターはすでに開いており、ホテルで食べたいとの旨を伝えるとその場で洗い、しょうゆをかけ、爪楊枝も1本付けてくれた。

いやー、最高、最高、最高。
ホテルに帰って早速ホタテ祭りだ。

こぼれる笑みをおさえながら、いそいそと部屋に戻り、ドアを閉める。

わーい!わーい!わーい!

ここなら誰にも聞こえないぞ。

わーい!わーい!わーい!


ヒモはこりこり、身はぷりぷり。
ぅうううう…これ、今回の旅で一番美味しいかも…
やはりこれが青森産だろうと北海道産だろうと、私にはどっちも最高に美味しいホタテだ…

空になったパックを始末すると、一気に現実が戻ってくる。

荷物をまとめなければ。

お土産用に半分空けてきたスーツケースも、1日目の「アスパム」での戦利品で埋まり始めている。

今日はこれから新青森でスーパーを2軒はしごする予定なのだが、はたしてどうなるか。

チェックアウト後、スーツケースをフロントに預け「小一時間ほどで戻る」と伝える。

時刻は10時を回ったあたり。

実はこの時間帯から開く店が何軒かあり、最後にそちらを攻めてから新青森に向かうつもりでいた。

まずは「ジェラート・ナチュレ」にて、青森のブランドとうもろこし“嶽きみ”と、青森県産くるみのダブルを購入。

向かいの、先ほど行った「アウガ」の地下の休憩スペースでひとなめし、次の「シュトラウス」というウィーン菓子専門店へ向かう。

ん?どこだ?

Googleマップで見ると“さくら野百貨店”というデパートの中、といった感じなのだが、フロアマップにはそれらしき店がない。

焦りながら店内をウロウロ。
しかもこんな時に限って、昨日買えなかったご当地ビールを地下の食品売り場で見つけてしまい、あわてて購入する。

心を落ち着け、今一度、店の場所をスマホで確認。

すると、来る途中に通り過ぎた「甘精堂本店」という和菓子店に隣接していることが判明。

すぐさま百貨店を出て、回り込むように道を曲がると、目当てのシュトラウスがヨーロッパの街角を思わせる重厚な存在感を放っていた。

こ、これは凄い…

いつになく背筋を伸ばして入店。
青森りんごを使ったウィーン菓子をいくつか求める。
2階のカフェスペースも気になるが、残念無念、これは次回に持ち越しだ…。


時間がおしてきたので、急ぎ足で次へ。

予定では、近くのおにぎり屋で新幹線用に筋子のおにぎりを買うつもりだったが、先ほどの丼で思いのほか筋子を満喫してしまったため行き先変更。

腹の虫からのリクエストもあり、補欠リストにあった「モンドール」というパン屋でサンドイッチを買うことにする。

ガラスケースに鎮座する見目麗しいハード系パンの数々。
迷うなあ…
カンパーニュも気になるけど、これを買ったらスーツケースが完全に埋まってしまう。
いかん、いかん。
ここはサンドイッチだけにしておこう。
と、生ハムとモッツァレラチーズのバゲットサンドをチョイス。

時計を見て、あわててホテルに戻る。

スーツケースを受け取り、次の電車を待つ間、駅近くの「A-FACTORY」というオシャレ物産店でりんごの焼き菓子をいくつか買い、新青森に向かう。

到着後、コインロッカーにスーツケースを入れ、まずは駅ビルを探索。

ここには私が数年来、食べてみたいと熱望していた「小山せんべい」の数少ない支店があり、ついに念願の「アーモンドせんべい」と「ピスタチオせんべい」を入手する。

興奮冷めやらぬまま、次は地元の有名スーパー「カブセンター」へ。

新青森駅から徒歩15分くらいだろうか。
当然ながら私以外、歩いている人は誰もいない。
地元の人や、車で旅行する人からしたら、スーパーに歩いていくなんざ狂気の沙汰だろう。

でも私はきっと、いくつになっても一人、こんな非効率な旅をするんだろうな、と思う。
え!歩いていくの?と驚かれながら、呆れられながら。
いつものように道端の花を撮り、空を見上げ、家並みを眺めるのだろう。


迷いながらも無事にカブセンター到着。
バカでかい店内をじっくり見て回る。

まずは、特売になっていた工藤パンの「イギリストースト」をカゴにイン。

続けて「なかむらのしょうゆ昆布」という何やら美味しそうな昆布の煮物を見つけてイン。

さらにアルコールコーナーを歩いていると、これまた前から目をつけていた「キモリシードル」を発見。
これは東京でも売ってはいるがフルボトルしかなく、なかなか手が出せずにいた。
ここにはちゃんとハーフがある。
イェイ!


来た道を戻り、今度は駅の反対側にある「青森県民生協」へ。
こちらは駅から徒歩10分。

カブセンターと比べて年齢層高めのお客さんが多く、保守的な品揃えがいかにも生協らしい。

目ぼしいものは特にな、い、か、な…
と、油断した矢先、地元の生産者さんたちのコーナーが目に止まる。

ん?なんだコレ?

一番上の段にあった、りんごジャムらしき瓶が妙なオーラを放っている。
前面のシールにはりんごの絵のみ、後ろには原材料や賞味期限などが記され、最下部にはこうあった。

製造者 なるみ ◯◯◯◯◯←住所

なるみ?
下の名前?

とにかく買おう。

近くにあった長芋と一緒に購入する。


駅に戻り、スーツケースを出して、買ったものを詰めていく。
多少はみ出してしまったが、これなら何とか許容範囲だ。

15時36分、新青森駅発。

発車後すぐに、朝買ったバゲットサンドを取り出し、持っていた割り箸で、引っ張られてしまう生ハムを調整しながら慎重に食べ進める。

うわ、レベル高っ!
この鼻に抜ける小麦の風味、ただものじゃない。
東京のパン屋にも同じようなものはあるけれど、このクオリティでたしか600円台だったろうか。
無理してでも他のパンも買うべきだったな…

感動と共にかみしめながら30分ほどかけて完食。


19時30分過ぎ、架線トラブルにより、だいぶ遅れて東京駅に到着。

何か夕飯を、と思ったものの、先ほどのバゲットサンドの余韻で見るもの全てがかすんでしまい、何も買わずに帰宅。

むずかる腹の虫を「胡麻新月」でなだめすかせながら、買ってきた戦利品をテーブルに並べ、しばし悦に入る。

ああ、我が人生に悔いなし。

布団に入り、次はシュリンプオーバーライスを食べて、ガイドさんおすすめの寿司屋に行って、シュトラウスのカフェにも入って、モンドールで…と、あてのない計画を立てながら気絶。

就寝。






いいなと思ったら応援しよう!