【ピリカ文庫】カーディガン【ショートショート】~赤いカーディガン
今日はひとりで海を見に行こう
そう決めていた。あの海で大きな波の音に私の心を洗ってもらおうって。最近もやもやしたものが振り払っても振り払っても、心の中にわいてくる。だから今日はいつもと違うことがしたかった。
凪子はカラフルできれいな色が好きだ。
それなのに、クローゼットの中は白やベージュ、グレーといった色ばかり。着心地よく大人らしいものを選び続けてこうなった。海へ向かうための服を選びながら、クローゼットの一番奥にある、きれいな赤色《カーマイン》のカーディガンにそっと触ってみる。「きっと似合うよ」といって珍しく亘が選んでくれたけれど、一度も着ていないシンプルな丸首のカーディガン。
思い切って着てみようかな。
⌘
バスに揺られて浜辺につくと、ちょっと肌寒い。バッグに仕舞い込んだカーディガンを羽織ろうかと取り出した瞬間、突風が吹いて、ふわっと飛んでいってしまって、追いかけてもなかなか捕まらない。
いやだ、このカーディガン、
まるで亘さんみたい。
振り回されてる。
カーディガンを追いかけているうちに、凪子はなんだか泣きたくなってしまう。やっと捕まえたけれど羽織る気になれず、ぐずぐずと考える。波打ち際を歩くと、小石が波にコロコロと転がされていて、それすら自分のことのように思えてくる。
最近、亘に振り回されている。多忙な彼をなるべく煩わせないようにするのがいつの間に習慣になってしまい、言葉を飲み込んだり、機嫌を伺ったりするようになって、どうしてこんな風になっちゃったんだろう、そんな小さなトゲが抜けないままじわじわと自分を侵食していく気がした。
俯いてぐるぐると考え事をしながら歩いている自分にハッとして、凪子は「暗っ」と自分に告げた。視線を上げてみると、海はどこまでも広く凪子のことなんてお構いなしだ。ずっと続いていく海と空は果てしなくつながることはないのか、と思い描いてみると、水平線でつながるこの二つはもしかしたら、いつも繋がっているのかもしれない、そんな風にも思えてくる。
その時だった。
あれ?ちょっと待って私、
彼が振り回しているんじゃない。
私が、勝手に振り回されているんだ。
そもそも自分が好きでやってるんじゃない?
クローゼットだって、無難で大人っぽい色ばかりじゃなくて、自分の着たい色で埋めたらいい。すうっと何かが凪子の中から海に溶け出していった。
*
海はいつだって助けてくれる。カーディガンを羽織ってみたら、亘の優しさが次から次へと自分を取り巻いていく。帰りのバスに揺られながら凪子は考える。
さあ、帰ろう。
今夜は私の好きなコロッケを作ろう。
そうだ、このカーディガンと同じ色の靴を探そう。
ピリカさんのピリカ文庫にご招待いただいて、書いてみました。素敵な文章にしたかったのですが、なかなかむっずかしい!ですね。
noteの世界は本当にたくさんの才能に溢れています。特に文筆。皆さん、まるでプロ✨✨
根底はみなさん、同じかなって思うんです。誰かに伝えたい思いがあるっていう、そんな風な。生きている間に一度くらい自分の思いを全て形にできた、そんな風なものをかけたらいいなって、夢をもっています。
