たかが痴れている

親指の逆剥けを捲り、残念ながら生からの逃げ場は此処に在りはしないと再確認する。独りが滲みる週末の狭いベッドでくらいは爪を噛んでも良いんだ。草葉の陰に真紫のやまいだれが馬鹿みたいに群れているから、噛まれて血を吸われないよう気を付けて。泣きたい時にこそ道化を演る癖が完成したのは六歳の頃だった。一瞬以上の躊躇。通過する通勤特急。帰路で背中を摩ってくれたのは絶望みたいな夕焼けだけだった。

カロリー・オフの吉夢に何が救えるというのか。林檎を煮詰めたみたいな脳の形が素敵なヴィジョンを提供してくれるのだとしたら、生涯そんな物には頼りたくない、否、嘘だね。酔生夢死と云う文字を爪の先で辿り乍ら傍らの屑籠に単語を山程廃棄し、今週の睡眠時間を合せた数から健常な気分を引いた値の計算を繰り返す。

過去に入らずんば傷を得ず。都合の悪い用を直ぐ忘れる割には傷付けられた過去には人一倍敏感だ。鏡を覗いた時以上に醜く思えてならない証明写真をシンクに投げ込んで燐寸を擦った。かえりたい。どこへ? 無精卵であった時代に。或いは、父親の睾丸の中で泳いでいた時代に。出てきちまったものは戻れないのだから、仕方なく日々を食い潰し続けている。