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第15回:「辞めない」という能力


前回の記事で、半年間にわたる教授選の軌跡が一つの区切りを迎えました。結果としてトップの座には就けませんでしたが、この経験を通じて、私は自分のキャリアや「組織との関わり方」について、改めて深く考えさせられました。

今回から2回に分けて、私が長年同じ組織に所属してきたからこそ見えてきた、「一つの組織に長く留まることの本当のメリット」についてお話ししたいと思います。

医師のキャリアパスと、大学という「片道切符」

本題に入る前に、まず前提として、我々医師が一般的にどのようなキャリアを歩むのかについて少し触れておきます。

医師になるためには、医学部を卒業し、厳しい国家試験に合格する必要があります。その後、数年間の研修医生活を経て、ようやく自分の専門とする科を決定します。その際、多くの若手医師はまず大学病院の「医局」に所属し、そこで最新の医療技術や知識の研鑽を積むことになります。

しかし、一生をそのまま大学病院で過ごす医師は決して多くありません。ある程度の経験を積んだ後、多くの医師はいろいろな理由で大学を辞め、市中病院や個人病院に就職したり、あるいは自らクリニックを開業したりと、それぞれの道を歩み始めます。

ここで重要なのは、**「一度大学を辞めて外の世界に出た後、再び大学病院に戻るということはほとんどない」**という事実です。医師にとって大学を離れるという決断は、基本的に「片道切符」なのです。

「辞めない」という隠れた能力

近年は世間一般でも「キャリアアップ=転職」といった風潮が強まっていますが、医師の世界でも同様です。

あらかじめ申し上げておきますと、私自身は今のところ大学という組織を辞めていないため、転職や独立によって得られるメリットについて、自分自身の経験に基づいて語れる立場にはありません。環境を変えることで得られる成長は間違いなく大きく、それを否定するつもりは全くありません。

事実、私自身が長く大学という組織に身を置く中で、目を見張るほど優秀な人たちが次々と「片道切符」を手にし、別の環境へ去っていく光景を幾度となく見送ってきました。人が組織を辞める理由は様々です。より高い評価や報酬を求めてのポジティブな決断もあれば、組織の理不尽さや人間関係に対する失望などもあるでしょう。優秀な人ほど見切りをつけるのも鮮やかです。

しかし、そうした有能な同僚たちの背中を見送るたびに、私はふとこう思うようになりました。「様々な理不尽や摩擦を飲み込みながら、それでも辞めずに一つの組織に残り続けること」自体が、実は一つの立派な能力なのではないか、と。

大組織ならではの「動的な安定」と刺激

大きな組織に長く留まるメリットは、単なる安定だけではありません。 例えば、私が身を置くような場では、毎年必ず新しい顔ぶれが入ってきたり、定期的な異動によってメンバーが入れ替わったりと、常に「人材の流動性」があります。

これは小さな施設や組織ではなかなか望めない特徴です。小さな場所では、良くも悪くも人間関係や空気が固定化してしまいがちですが、大きな組織には常に新しい風が吹き込みます。

私自身、若い人たちと関わり、彼らの成長をサポートすることが好きなので、この流動性は大きなメリットだと感じています。毎年入ってくる新人のフレッシュな感性に触れ、刺激を受け続けることができる。同じ場所にいながらにして、常にアップデートを繰り返していけるこの環境は、長く情熱を持って働き続ける上で、非常に恵まれたものだと言えます。

さらに、こうした組織には「国内外への留学」といった、身分を保証された状態での研鑽の機会も用意されています。こうした特権を享受できるのも、巨大な組織という基盤があってこそです。

しかし、こうした特権やチャンスは、ただ長く居座っていれば自動的に手に入るわけではありません。次回の中編では、組織の中でチャンスを掴むために絶対に欠かせない「見えない資本」についてお話しします。

(第16回・後編へ続く)

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