第11回:未来を描くプレゼン 〜「圧倒的な臨床力」と「実現力」という証明〜
前回の記事で、私の最大の強みは皮肉にも「これまで教授を目指さないキャリアを歩んできたこと」であるという気づきについてお話ししました。
象牙の塔の中で論文の数を競うのではなく、大学病院だけでなく地域病院などの現場の最前線で泥臭く戦い、合理性を追求してきた経験。これを、どのように教授選のプレゼンテーションに落とし込んだのか。
プレゼンの冒頭、私は日本のすべての医療機関が直面している最大の課題、すなわち「経済的基盤の悪化」という社会問題から話を切り出しました。どれほど崇高な理念を掲げようと、優れた研究を行おうと、強固な経済的基盤がなければ組織は立ち行かず、次世代の医療を担う人材を育てることもできません。
少子高齢化による人口動態の変化がもたらすこの危機は、特定の専門分野に限った話ではなく、小さな部屋で私のプレゼンを聞いている6人の選考委員の教授陣にとっても、足元を揺るがす共通の課題です。
私は、この課題に対して明確な「抱負」を語りました。
「私は、この経営課題を打破することを目指し、私たちの医療現場に明るい未来をもたらします。私がこの課題の解決の先頭に立つことで、私の属する診療科の発展にとどまらず、大学病院全体の価値向上、そして確固たる経済的基盤の確立に貢献できると確信しています」
これが、私から教授陣へ提示した最大の「メリット」であり「ビジョン」です。
現場で戦い続けてきたからこその「臨床力」と「実現力」
確かに、純粋な基礎研究にかかりきりになって教授の椅子を目指してきた候補者と比べれば、論文の総数という点では一歩譲るかもしれません。
しかし、教授のポストを目標とせず、ただ「目の前の医療現場をどう良くするか」「どうすれば患者さんや若い医師たちのためになるか」だけを考えて走り続けてきたからこそ、私には今のこの病院の改革に最も必要とされている強固な武器がありました。
それは、思い描いたビジョンを現場で必ず形にする**「圧倒的な臨床力」と「実現力」**です。
私は、自分が単なる夢想家ではなく、確実に結果を出してきた人間であることの裏付けとして、泥臭い現場で培ってきた以下の3つの事実を突きつけました。
1)圧倒的な臨床力の証明:多数のがん手術の実績と、ロボット手術の劇的増加 これまで、数え切れないほどのがん手術の最前線に立ち、執刀や指導に携わってきました。生死を分ける過酷な現場で培ってきた確かな外科技術と経験。それが私の「圧倒的な臨床力」の強固な土台です。この基盤があったからこそ、最新の手術支援ロボットの導入においても、私が着任する前と比較して実施件数を一気に「5倍」に増加させることができました。安全性を最高レベルで担保しながら圧倒的なスピードで症例数を伸ばしたこの実績は、直接的に病院の収益向上(=経済的基盤の強化)に直結します。
2)先見性と実現力の証明:医局のDX化による環境改善 かつて医局長を務めていた際、旧態依然とした医局の連絡体制や業務環境にメスを入れました。世間がコロナ禍に見舞われるよりずっと前の段階で、いち早くオンライン会議システム(ZOOM)やビジネスチャットツール(Slack)を導入したのです。保守的な環境を変えるのは容易ではありませんが、現場の不満を汲み取り、それをやり遂げる「実現力」が私にはあります。
3)人を惹きつける力の証明:新入局員の獲得 組織の未来は「人」で決まります。私は現場の魅力を高め、実際に多くの優秀な若い医師たちを獲得することに尽力し、結果を出してきました。人が集まる活気ある現場を作れることこそが、未来を創る最大の原動力です。
もちろん、私に学術的な土台がないわけではありません。これまで国内および海外への留学を通じて確かな研究業績を積んできましたし、現在も最前線で行っているロボット手術の成果を絶えず学会等で発表しています。生きた臨床データを学術的価値へと昇華させる土台を持った上で、私はあえて「現場を変える力」を前面に押し出したのです。
「実績の比較」から「価値観の選択」へ
すべての教授に耳を傾けてもらうために課題を「自分ごと」として捉えさせ、最終的な「投票」という行動に繋げるために、確固たる「メリット」を提示する。過去の数字だけにとらわれず、これまでのすべての泥臭いキャリアを「未来を変える力」へと変換して訴えかける。
このプレゼンテーションの最大の狙いは、まさにここにありました。 それは、教授選という舞台のルールを、過去の「実績の比較」から、これからの大学病院に何を求めるかという「価値観の選択」へと変えることだったのです。
さらに、この緻密に組み上げた内容を独りよがりなものにせず、確実に6人の選考委員の「心に届かせる」ものに仕上げるため、私はプレゼンテーションのプロフェッショナルである広告代理店の友人の力を借りました。
数ヶ月間にわたり、その友人と2週間おきにミーティングを重ねました。前半は客観的な視点を交えながらプレゼンの構成と内容をとことん磨き上げ、後半は私に与えられた「25分」という持ち時間にぴったりと収まるよう、実際に声に出してのプレゼンテーションのリハーサルを繰り返し繰り返し行いました。
さらに、プレゼン本編だけでなく、その後に控える「20分の質疑応答」に向けても抜かりはありませんでした。目の前の教授陣からどのような厳しい質問が飛んでくるのかを見越し、あらゆる角度からの想定問答を徹底的に繰り返したのです。
自分のこれまでの医師人生とビジョンを徹底的に見つめ直し、伝わる言葉とパフォーマンスへと磨き上げていく。この泥臭くも濃密な過程そのものが、教授選という枠組みを超え、私の人生にとって非常に実りのある、かけがえのない時間となったのです。
